~卑劣! 3人寄ればドスケベの知恵~
全員での大規模転移が無事に成功したのを確かめて、ホッと息を吐いた。
一度成功しているので大丈夫だとは思うのだが、やはり人数が人数なだけに少々の不安がある。
転移場所がズレたり、全員がバラバラの場所に転移されたり、そもそも失敗して発動しない……なんていうことが起こることがなく、きっちりと前回と同じ遺跡前へと転移できた。
本来なら、連絡を受けてかなりの日数を開けてから転移するべきなのだが……
『お主ならすぐじゃろ』
という女王陛下の言葉。
それはつまり、転移の腕輪の情報を握っていることを表している。
あの場でそれを指摘すると、かなりややこしいことになるので黙っていたが……恐らくだが学園都市から情報は漏れたと推測できた。
ヴェルス姫やマトリチブス・ホックから漏れたとも考えられるが、物理的な距離がある。
パーロナ国から伝わるか学園都市から伝わるか。
それを考えると、この時期に女王陛下が知っていたのは学園都市から漏れたと考える方が分かりやすい。
なによりマトリチブス・ホックやメイドさん達にはヴェルス姫への忠誠があるからなぁ。加えて、それなりにお給金をもらっているはず。
わざわざ俺の情報を売って小金を稼ぐ危険を犯すのは、割に合わない。
「相変わらず日差しが酷いこと。何を考えているんでしょうね、夏の神は」
他国は真冬だというのに真夏と変わらない熱さ。
アンブレランスを花のように開き、日傘として使用しながらルビーは文句を言った。ちなみに砂漠国の女王陛下との話はバッチリ盗み聞きしていたので説明の必要はなかったので、便利なような恐ろしいような……
ひとりで風呂に入ってても覗かれてるんだろうか。
う~む……
「わぁ、見てくださいパルちゃん。鎧がどんどん濡れていきます」
「おぉ~、ホントだ。なんでだろ?」
さっきまで震えるような冷たい空気の中にいたのに、今は息苦しいほどの熱さ。
その気温差は物凄いようで、見た目にも変化が起こっている。
転移で尻もちを付いたヴェルス姫はマルカさんに起こしてもらうと、鎧の変化にキャッキャと声をあげた。
「冷たい精霊は熱いのが苦手で涙を流すそうです。いっしょに付いてきてしまったのかもしれませんわね。ほら、皆さま濡れています」
マトリチブス・ホックたちの鎧に水滴が浮かび上がり、そこに砂漠国の象徴とも言える砂が付着していく。
「これは……鎧の手入れが大変そうですね」
マルカさんが肩をすくめて辟易とした様子で言った。
全身甲冑の手入れは大変そうだもんな。
まぁ、なんにしても――
「まずは拠点を作らないと」
あまり長居するつもりはないが、それでもこの大人数だ。全員で街に移動すれば、大事になってしまうし、宿を確保するのも一苦労だろう。
というわけで、前回と同じく遺跡を拠点にすることにした。
「デザェルトゥムへ行く者は先に向かえ。その他の者は遺跡を攻略する。メイドたちに危険が無いようにしっかりと守るぞ」
マルカの合図に、おー、とみんなが声をあげる。
ヴェルス姫もメイドさんを守るつもりなのか、右手を振り上げていた。微笑ましいものだが、しっかりマルカさんに拳を下げおろされている。
「姫はメイド隊の中です。ルゥブルム殿は前回のようなマネをされないように」
「わたし、何かしました?」
「姫様を盾代わりにして魔物に突っ込んでいったこと、忘れたとは言わせませんからね!」
マルカさんは、ガシィ、とルビーの両肩を掴む。
かなり力が込められていそうだが……残念ながらルビーには効かないので、なんというか、申し訳ない気分になってくる。
「あぁ、そんな面白いこともありましたわね。ご安心を。次はちゃんとアンブレランスを盾にして突撃します。ラークスくんが完成させてくださいましたの」
これです、と嬉しそうにルビーは日傘を見せる。
話がまったく通じていそうにないので、マルカさんがガックリと肩を落としたのは言うまでもない。
というわけで、近衛騎士が先行する形で遺跡攻略となった。前回と違い厄介なゴブリン・アーチャーもおらず、すんなりと攻略完了。
水場のある半球状の空間に到着した。
「よくやった、ルーラン。先鋒の任、この先も頼む」
「ハッ! 了解しました!」
ぶっかぶかの全身甲冑なのに戦闘を任されているルーランは、拠点設営ではなく遺跡攻略の任をまかされているらしい。
荷物運びより戦闘を優先させられるとは、どれだけ戦闘特化なんだ、あの子。
ちょっと心配になる。
というか、戦闘任務だったら鎧を脱がせてあげればいいのに。
なんて思いつつ、遺跡奥までモンスターが発生していないか討伐に移動する騎士たちを見送った。
「あら、あの子が気になりますの?」
特に視線を隠してもいなかったのでルビーが俺の横にスススと移動してきた。
それを見て、パルとヴェルス姫もスススと移動してくる。
「浮気だ、浮気。師匠の浮気者~」
「なんてことでしょう。師匠さまの捜索にルーランを任命したのが間違いでした。いえ、任命したのはマルカですけど」
浮気じゃありません。
というか姫様まで俺を責めてくるのは何なんですか。
「ヴェルス姫、鎧が砂まみれです。綺麗にしないと女王陛下に嫌味を言われますよ」
「言わせておけばいいのです。砂にまみれるのと師匠さまの浮気、どっちが深刻か考えるまでもありません」
「もちろん〝砂〟ですよね。姫」
「あ~れ~」
ヴェルス姫はマルカさんに連れ去られてしまいました。
「ほれ、パル。おまえもだ」
「あたし鎧なんか着てませんよ」
「投げナイフの手入れ。ちょっとでも濡れていて手が滑った、なんて許さないからな」
「は、はい! 気をつけます!」
パルがいそいそと装備していた投げナイフを外してチェックしていくのを見守る。そういう俺もチェックしないといけないので、パルの隣でいっしょにやった。
「で、浮気ですの?」
座りながら投げナイフを地面に置いていってると後ろからルビーがくっ付いてくる。
やわらか――いやいや、熱いので離れて欲しい。
「では、ひんやりと」
「うわっ……なんだそれ」
ルビーの感触が無くなったと思ったら背中がひんやりとしてくる。
どうなってんだ?
「ちょっと師匠さんの背中を影の中に飲み込んでおります」
「怖いです、やめてください」
うふふ、と笑ったルビーは俺の背中を影から出してくれたのか、再びやわらかい感触が戻った。
「で、師匠。浮気なんですか? ルーランって子、めっちゃ強いですよね」
「浮気じゃない浮気じゃない。もしも浮気するんだったら、バレないようにやるよ」
確かに、とパルとルビー。
「師匠さんなら本当にバレないようにやりそうですわね」
「あたし、もっともっと修行しないと」
「頑張りましょう、パル。わたしも協力しますわ」
「ありがとう」
女同士の友情というのだろうか、これ。
勇者を狙って争いまくっている賢者と神官に見せてやりたいくらいだ。
「そういう意味では、勇者は浮気をしたほうがいいんだろうか?」
案外、それで賢者と神官が仲良く結託してくれないかなぁ。
なんて思う。
どちらにしろ、今度は第一夫人がどちらになるかでモメてると思うので、第三婦人が現れたところでもう気にしないのかもしれないが。
世界を救う男と結婚するのがひとりやふたりで納まるはずがないだろう。
まぁ、何人と結婚しようとかまわないが。
お嫁さんたちで酷い争いは起きないように頑張って欲しい。
ウチはルビーが一歩引いてくれてるみたいなので、パルが怒らなくて済んでる感じはある。
「ありがとう、ルビー」
「どういたしまして。お礼として婚約指輪をくださいな」
「あっ、あたしも欲しいです師匠」
適当な話をしたら、適当な話で返答された。
しかし、結婚指輪か。
「そういえば贈ってもいいよな。どんなのが欲しい?」
贈り相手に聞いてしまうのはダメな気がしたが。
気に入らない物を贈られてしまっては、台無しになってしまうわけで。
素直に聞いてみる。
「いつでも師匠さんと繋がっている感覚が分かるのがいいです。たとえばですけど、師匠さんの髪や爪を溶かし込んだ金属――」
「却下だ!」
なにその恐ろしいアイデア。
呪いのアイテムができそうで怖い。
「では、師匠さんの指を切断して、こう輪っか状に……」
それはもう呪いを越えた別物だよ。
「だからなんでそんな怖いアイデアなんだよ」
「冗談ですわ。師匠さんから贈られた指輪ならどんなものでもかまいません。鉄のリングでも嬉しいですが、せっかくなら綺麗な指輪が欲しいです」
「了解。パルは?」
ふざけていた割りにあっさりと意見を言ったルビーとは違って、パルは真剣に考えている。
「なんか憧れでもあるのか?」
絵本や英雄譚でそういう場面はしばしば出てくる。女の子の憧れる指輪のデザインとか宝石の種類があるのかもしれない。
「いえ、せっかくだったらマグがいいな~って」
「婚約指輪にマグか」
それはなんというか――
「情緒が足りませんわね、パル。ステキな思い出と指輪になるんですのよ?」
「う~ん。たとえばだけど、同じ指輪をしている人じゃないとえっちできない、みたいなマグが欲しい」
「前言を撤回します。なんてステキな指輪でしょうか。パル、あなた天才って言われません!?」
「ルビーに良く言ってもらえる」
んへへ、とパルが笑った。
情緒どこへいった?
思い出とか、そのあたりとか、どうでも良くなってません?
嫌ですよ、俺。
そんな即物的な指輪。
「浮気防止にも良さそうだよね」
「そうですわね。では、指輪はそう簡単に外せないような能力を付与しないといけませんわね。お互いが認めた時のみ外せる、とかでしょうか」
「あ、いいかも。あとあと、手を繋いでいたら能力向上とかあったらステキ」
「それだと戦闘に支障がありますわ。お互いの距離が近ければ近いほど能力向上というのが無難です」
「なるほど!」
美少女たちがあーだこーだとアイデアを楽しそうに話し始めた。
いや、もうそれ婚約指輪じゃないですよね?
単なる呪いの指輪と化してきてる気がしますけど?
「盛り上がっていますね。何の話です?」
漆黒の影鎧を脱いだお姫様がトテトテと走ってきて合流した。下着姿ではないけど、ちょっぴり身体のラインが分かる服装。かわいい。
「いいところに来ましたわね、ドスケベ姫」
「はい、ドスケベです」
否定してください、ヴェルス姫。というか、お姫様を普通にドスケベとか呼ばないでください、ルビー。
ちゃんと護衛の人が付いてるんですからね。
そう思っていたけど、ルビーとヴェルス姫のやり取りを聞いて、ぶふっ、と兜の中で吹き出している人だったので大丈夫か。マルカさんだったら激怒しているに違いない。
ちなみにマルカさんはお姫様の鎧を丁寧に拭いていた。
ルビーが作り出した鎧なので、たぶんやろうと思えば水滴とか砂とか一切付かないんだろうけど、それはそれで怪しくなってしまうので、まぁ面倒でも普通っぽいのがいいのかもしれない。
「なるほど、でしたらこういうのがいいのではないでしょうか」
そうこうしている間にもヴェルス姫はパル達から婚約指輪の話を聞いてしまったらしい。
すかさずアイデアを出す。
「自分の身体と相手の身体の感覚を同調させるのです。自分でほっぺたを触ると、相手にもほっぺたを触った感覚が手に伝わります」
ほほぅ、とルビー。
「つまりそれって、アレですわね」
「アレですわ、ルビーちゃん」
ふたりはニヤニヤと笑っている。
ひとり笑っていないパルはどうやら理解できていないらしい。
「どういうこと?」
「あら、分かりませんかパルちゃん」
「簡単ですわよ。自分の手で胸を揉みますの。すると、師匠さんの手にわたしの胸の感触が伝わるんですわ!」
「あ~! で、でも、じゃぁ、師匠がおち……」
三人のドスケベが俺を見た。
いや。
俺の下半身を見た。
「絶対にそんな指輪贈らんぞ」
あ~ん、と俺は美少女たちに追いかけられる。
というかそんな指輪付けてられるか。
盗賊に大事な指先の感覚が狂いまくってしまう。
死活問題!
付けられるわけないだろ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます