~卑劣! バーサス・ナイトゴーレム~
守護騎士甲冑改め。
ナイト・ゴーレムの弱点看破をするために攻撃を続けてきた。
ふむふむ。
俺の予測は立てられたが。
「パル」
「はい、師匠」
大振りの槍を屈んで避けて、パルが後退する。追撃しようとナイト・ゴーレムが足を踏み出すが、それを阻害するようにルビーが間に入った。
バサリ、とアンブレランスを開き、視界をふせぐ。そのままアンブレランスを突き出し、カツンとナイト・ゴーレムを後退させた。
ルビーはアンブレランスをそれなりに使いこなせるようになってきたようだ。ラークスくんも満足していることだろう。
「お待たせしました、師匠」
「待ってないぞ。上出来じょうでき」
ふぅ、と息を吐くパルにポーションを渡す。グビグビと一気飲みしたパルはお礼と共に瓶を返してくれた。半分ほど残ってる。
「関節キスしてください」
「言葉が間違ってるぞ」
「ワザとです。師匠も半分飲んでください」
「ありがとう」
というわけで、関節キスした。なんかめっちゃ回復した気がする。神の奇跡ではなくパルの奇跡。これ売れるね。いや、絶対に売らないけどな。全部俺の物だ。
「さて我が愛すべき弟子よ。弱点看破できたかな?」
ふぅ、と精神を落ち着かせつつパルに質問する。
ちょっとした講義の終わりが近づいてきた気分だ。
「はい、分かりました」
ふふん、と腰に手を当ててパルが自信満々に答える。
「ではパルヴァスくん、説明を」
「はいっ」
元気良くうなづくパルと俺だが――ルビーが下がってきたのと同時に動いた。素早い刺突がルビーを襲い、範囲攻撃のように振り回される槍を後ろへ下がって避ける。
どうやらのんびり講義をしているヒマすら許してくれないらしい。
「もう! ルビーはもうちょっと抑えててよ」
「なんでもかんでもやってもらえると思ったら大間違いですわ」
たぶん、戦闘中に俺がパルに付きっ切りになっているのが不満なんだろう。嫉妬か。かわいいなぁ、もう。
なんて思っていられるのも、ルビーの力量ゆえ。ルビーはルビーでしっかりとパルを守ってくれているので、安心できる。
隙は自分で作りなさい、とパルに道を空けた。
「ようし!」
パルは最終確認とばかりに突撃する。低い姿勢のままナイト・ゴーレムに肉薄し、シャイン・ダガーを軽く当てる程度の乱撃を繰り返した。
トントントン、という音の軽さが響く。
「援護するぞ」
パルに合わせて、俺は強めに七星護剣・火を押し当てるようにして攻撃した。
槍の一撃を避けながら接近し、魔力を込めて文字通りの火力をあげる。刃ではなく鈍器のようなイメージで七星護剣を叩きつけた。
火花が散るように、七星護剣の魔力が残滓のように飛び散る。
しかし、明確なダメージはなく、ナイト・ゴーレムの甲冑に傷をひとつ付けるのがやっとだ。
切断なんて、夢のまた夢。
神話級や伝説級と思われる七星護剣でさえ、この程度なのだと考えれば……このナイト・ゴーレムの身体となっている甲冑もまた、神話級の鎧と言えるだろう。
アーティファクトの鎧がそのまま動いている。
そんなナイト・ゴーレムの弱点看破はできたのか。
教授である俺の質問に、生徒であるパルは攻撃をしながら回答した。
「防御力の高さから弱点を守る必要なんて無いんじゃないか、と思いましたっ。けど違います。弱点は表面にはありません。いろいろと攻撃したけど、どこを攻撃しても、たとえ関節部分を狙ったとしても、行動に変化はありませんでした」
うむ、と返答しながらも俺は攻撃を繰り出す槍の間合いの内側に入り込む。槍というものは、攻撃距離が長いものの、接近されると途端に取りまわしが難しくなる。
もちろん、マスタークラスの槍捌きにそのようなことは通用しないとは重々承知しているが、それでも超接近状態での攻撃は、槍とって不利なのには違いない。
無論、本物のマスターであれば槍を捨てて徒手空拳に以降するのだが……そこまでの動きを見せないところ、『槍のナイト・ゴーレム』という存在なのだろう。
「くっ」
怖気がするほどの攻撃。
心臓に穴が空いてしまいそうなほどの凶悪な突きを屈んで避け、そのまま真正面へと飛び込む。
一撃死の刺突攻撃を避け、甲冑の胸部分にガツンと刃を差し込むようにして突き立てた。もちろん刺さらないし切断もできないが、それを起点として素早く甲冑の太もも部分に魔力糸を巻き付ける。そのまま槍の柄の回転を避けるようにして素早く後ろへ回り込むと、糸を握り込んで自分の体を引き留める。ブレーキの役目となってもらった。
「ふっ!」
短く息を吐き、スキルを発動させる。
盗賊スキル『無音』。
集中力を高め、世界から音を消し、知覚できる速度を上げた。
圧迫されるような無音の世界で、背後を取った勢いのまま頭が無くなってがらんどうとなっている鎧の首部分に手をかける。
ぐいっと引っ張り、引き倒すように後ろへと引っ張った。
このまま引きずり倒せればいいが――そこまで上手くはいかないらしい。
ナイト・ゴーレムは槍の柄を地面に付けて、体を支えた。
しかも、それを支えにするように支点にして宙がえり。そこから曲芸染みたバク転蹴りを繰り出してきた。
「っ!?」
俺は慌てて七星護剣の刃で防御したが……まぁ不意打ちにも似た攻撃に威力を殺せるわけもなく、無様に後退させられてしまう。
転んでしまわなかったのが幸いだ。
「師匠!?」
パルが驚いて声をかけてくるが、手をヒラヒラとさせる。
危うく弟子に笑われるところだった。
いや。
心配させてしまうか。
パルのためにもノーダメージで敵を倒す必要があるみたいだ。
もっとも。
今までもこれからも、盗賊にとっては一撃死の戦いばかりだ。簡単に攻撃を喰らう訳にもいくまい。
「問題ない。で、答えは得たのか?」
はいっ、と元気良く返事をしたパル。
イタズラっ子のようにニヤリと笑った。
「鎧に弱点が無いのなら、中身が弱点です!」
「正解」
当たり前のようでいて、当たり前じゃないこと。
でもそれが『答え』だ。
「じゃぁ、証明しまーす」
息をつかせぬナイト・ゴーレムの連続突きをルビーが的確に防御してくれている間に、パルはまたしてもナイト・ゴーレムの甲冑の中に投げナイフを放り込んだ。途端に嫌がるような素振りを見せる騎士甲冑。その動きの隙を付いて、俺も空っぽになったポーション瓶を投げ込む。
攻撃の手をやめたナイト・ゴーレムは後ろへと下がり、ぽいぽいと鎧の中からナイフとポーション瓶が飛び出してきた。
この行動から分かるように、触れられたくない物が甲冑の中にあると予想できる。
「では、その場所は?」
パルの隣に移動し、講義の続きをはじめる。
「胸とお腹の間くらい……ですか?」
「この根拠は?」
「音です」
トントントン、と軽く刃を当ててたのは音の違いを確かめるため、とパルは答えた。
「正解。素晴らしい。合格だ。良く分かったな」
「えへへ~、ありがとうございます」
音の細かい違いを聞き分けて正解を得るとは、素晴らしい。特に騎士甲冑は動くだけでも金属の音があちこちから響く。的確に自分の斬撃での衝撃音だけを寄り分けて判断できるのは、かなりの能力じゃないかな。
もっとも。
ルビーの援護があった上での話だけど。
「師匠はどうやってみやぶったんです?」
「さっき見た」
引きずり倒そうとして、宙がえりキックを喰らった時に、中身が見えた。
前後左右に繋がるような、四方向への糸のような物が見えた。太い蜘蛛の糸とも言えるが、魔力糸に似てる気がする。
それに繋がっている菱形の宝石が見えた。
恐らくそれがゴーレムの核だろう。
あれを何とかするには……ふむ。
「ルビー。作戦を伝える」
「よろしくてよ」
というわけで、防御してくれる後ろから説明する。モンスターとかゴーレムが相手の場合、こうやって堂々と作戦を説明しても大丈夫なのが都合良くて助かる。
人間種相手だとこうはいかないからな。
「セツナ、これ返すぞ」
お隣で戦ってるセツナに向かって俺は床を滑らせるように七星護剣・火を返却した。仕込み杖ですくい上げるようにして浮かせてから受け取るセツナ。カッコいい。
「もういいのか」
「おう。そっちで使ってくれ」
分かった、という返事を聞きながら俺は息を吐き、集中する。
右手をグッと握りしめ、その中に亜空間への入口を開いた。
深淵世界と繋がる右手の中。
「いけるぞ」
俺がそう言うと、パルとルビーの準備も整う。
アンブレランスを大きく振ってナイト・ゴーレムを後退させると、ルビーも下がってくる。
その後ろにパルも控えるように立ち、シャイン・ダガーをかまえた。
「では、参りましょう」
騎士甲冑をガチャリと鳴らすようにこちらへ向かってくるナイト・ゴーレム。足を踏み鳴らすようにダンと大きく踏み込むと、まばたきすら許されないほどの鋭い刺突の一撃がルビーへと向かった。
対して――閉じたままのアンブレランスを同じように突き出すルビー。傘の側面を滑るようにして反れた槍は火花を散らしながら、槍は後方へと流れる。
同時にパルが人差し指と中指を立てるようにして、ナイト・ゴーレムを指した。
「アクティヴァーテ」
マグ『ポンデラーティ』の加重効果が発動し、ナイト・ゴーレムの槍を引く腕が、一瞬だけ鈍る。
だが、俺たち盗賊にとっての『一瞬』は。
あくびをする余裕ができるほどの、好奇だ。
「――!」
隙を突くように、ルビーの後ろから飛び出す。地面を這うように走った俺は、ナイト・ゴーレムが槍を引き切るよりも早く肉薄し、通り過ぎた。
走り抜け、振り返る。
手の中に確かな硬い感触に満足しつつ、作戦が成ったことを示し、つぶやいた。
「完璧強奪(ペルフェクトス・ラピーナム)」
騎士甲冑の腹部分を根こそぎ『盗』んだ。
魔力糸のような甲冑と繋がっている四つの部位のひとつを鎧ごと破壊し、少しだけ鈍くなった騎士甲冑がこちらを振り向く。
おっと、これは予想外の行動だ。
どうやら俺を最大の障害と認めたらしい。一番に排除すべき存在へと向き直るのはいいが、その鈍い動きを盗賊の前でさらしてしまうとは失敗だったな。
おまえの負けは確定した。
「うりゃ」
ひょこっと後ろから近づいたパルは、ナイト・ゴーレムの背中にジャンプした。首部分に手をかけるようにしてしがみ付くと、中を覗き込むようにしてシャイン・ダガーを投擲する。
何か砕けるような音がしたが、まだ騎士甲冑は動いている。
暴れるようにして背中のパルを振り落とそうとしているが、動きは余計に鈍くなった。
なるほど。
あの鎧に繋がってる魔力糸みたいなのが減ると、動きが悪くなるらしい。
「では、これでトドメです」
パルを振り落としたところで、ルビーが俺の開けた穴へアンブレランスを突き入れた。
バギッという小気味良い音が聞こえたかと思うと、ナイト・ゴーレムの動きが完全に止まる。
そのまま一呼吸を置き――騎士甲冑がバラバラに崩れるように地面に倒れた。
「ふぅ」
なんとかなった。
よし、後は倭国組を手伝おう。とそちらを見たら――あっちはあっちで物凄い強引な手段を取っていた。
ふたりのシュユちゃんが剣と盾を持つナイト・ゴーレムの腕にしがみ付くようにして抑えていて、ナユタが槍でもって盾を叩き落とし、兜を跳ね上げた。
その間にもうひとりのシュユちゃんが仙術で水を発生させて鎧の中に水を注ぐ。
なんだそりゃ、と驚いている間にセツナが大きく剣をかまえる。
七星護剣・木の鍔の中に七星護剣・火を組み込んだ――火属性で燃え上がる超大剣を横にかまえ、刃の先を背中側にしてぎりりと身体を引き絞る。
セツナが床を踏み抜く勢いで踏み込んだ。
「おおおおおおおおおおお!」
渾身の一撃。
それは横薙ぎに水の重さで動けなくなったナイト・ゴーレムを切り裂く。切断ではなく、強引にねじ切るような圧倒的な質量と剛剣による攻撃だった。
その一撃は両腕ごと、核のあるはずの胸の下あたりを切断し、火属性で赤く輝く軌跡が後を追いかけるように光った。
バシャリ、と水がこぼれる。
そのまま上下に分かれるように、騎士甲冑は倒れた。
無理やりだ。
強引だった。
でも。
「かっこいい……」
思わず俺はつぶやいてしまった。
セツナもカッコいいのだが、合体した七星護剣・火木がかっこいい……!
「そちらも終わったようだな」
ばしゅぅ、と音がして七星護剣・木から火短剣が排出される。水を斬ったためか、蒸気が漂っているのが、尚の事かっこいい。
「わー、セツナさんカッコ良かった~!」
「わたしも、わたしも持たせてくださいませ~!」
あぁ!
パルとルビーまでセツナのカッコ良さに瞳をキラキラさせちゃってる。
男の子だけじゃなくて、女の子も夢中になっちゃう攻撃だったの!?
ちくしょう!
「も、もちろんシュユもご主人さまがカッコ良かったと思ってるでござる! ホントでござるよ!」
分身の術のまま三人のシュユちゃんも慌ててセツナに駆け寄っている。
合計5人の美少女に囲まれて、まんざらでもないように笑っているセツナ。
ちくしょう!
ふんだ。
どうせ俺の必殺技は地味ですよぅ。ちょっと物を盗むだけで、今回は鎧が強力過ぎて、中身まで盗めませんでしたもん。もん。もん。
そりゃ合体する剣の方がカッコいいですよね。
うわん。
「なに落ち込んでんだい、エラント」
「なゆたーん。俺も頑張ったんだよ、なゆたーん」
「なゆたん言うな」
槍の腹で叩かれた。
痛い。
けど、かまってくれるの嬉しい。
好きになりそ……いや、やっぱりいいや。うん。
「なんか今、めっちゃ失礼なこと思わなかったかい? ああん?」
ハーフ・ドラゴンの美女に睨まれた。
迫力あるので怖い。
「お互いにとって利益のある話だと俺は思う」
「は?」
「いや、別に。さて、迷宮のゴールだぞ」
わいわいやってるセツナたちを置いて、俺とナユタは奥の扉へとやってきた。
紋章付きのご立派な扉。
どうみても、宝物庫という雰囲気。
「どんなお宝があるか、楽しみじゃないか」
さみしい心は仕事で埋めるしかない。
なゆたんが俺にかまってくれている間に、俺の有益さを証明しておこう。
さっそく俺は。
宝物庫と思われる扉を罠感知をして、安全を確かめるのだった。
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