~卑劣! ラストフロアへ~
不思議なダンジョンから無事に戻ってきたパル達から報告を受ける。シュユからは持ち帰ってきた騎士の盾や剣、槍を見せてもらい、ルビーからは鏡の盾を見せてもらった。
ひとまず騎士の武器は売り払うとして――鏡の盾か。
「これが鍵ということか」
魔法の鍵はエルフを助ける鍵ではなく、このアイテムを手に入れる鍵だったということらしい。
まったくもって嘘を付くヒント係というのは厄介だな、と苦笑する。
その正体がエルフではなくハーフリングだった、というのなら仕方がないとも言えるが。
「やっぱりハーフリングに関連したのでしょうか。本来は子どもが向かう場所ではなく、ハーフリングに任せられた仕事だったとか?」
ルビーの疑問に明確に答えることは出来なかったが……
「関連していない、というには無理があるよな。黄金城の王族にとってハーフリングは特別だったのかもしれん」
「師匠みたいに小さい子が好きだったとか?」
失礼なことを言う弟子のほっぺたをむにむにとつまむ。
「それは違うぞ、我が愛すべき弟子よ」
「ほへ。ひはふふんへふは」
違うんですか、と聞いてくるパルに、違う、と答える。
「俺は小さい子が好きなんじゃない。幼い子が好きなんだ」
セツナ殿も、うむ、とうなづいてくれる。
そう!
小さいと幼いは全然違う!
身長が低かったり、小さかったりするのが良いでのあれば、それこそハーフリングだけでなくドワーフの女性も当てはまる。
でも違うんだよなぁ。
目を見れば分かる。
幼女の純粋でどこまでも澄んで綺麗な瞳は、直視できないほどにまぶしいのだから。
そう!
やはり幼女こそ、この世で一番可愛くて美しい愛すべき存在なのだ!
「本物の変態発言ですわよ、師匠さん。あまり大声で言わないほうがいいです」
「あ、はい」
「ご主人さま」
「……気をつけます」
セツナもシュユちゃんに怒られてる。
ま、まぁ、これが正しい反応なんだよな。
一般的な性癖ではなく、ましてや対象が傷つく場合が多々あるものだ。忌諱されるというか、禁忌というか、本来なら有り得ないものなので。
パルがいてくれるから、許されてる感があるのだが。
本来なら、投獄されてもおかしくはない。
気をつけよう。
「あたしがいれば、師匠は満足でしょ? それとも、もっともっと女の子が欲しいですか?」
「満足です」
全てを受け止めてくれるパルが好き!
うん。
さすが我が愛すべき弟子。
というわけで、膝の上にパルを乗せる。マグ付きのズッシリとした重さを感じながらルビーの取り出した鏡の盾を検分していった。
「品質の良い鏡だな。歪みが一切ない。さすが王族の所有している物だ」
触るのも申し訳ないくらいに鏡面はピカピカだ。
そこに映る俺たちの顔は、まったく歪むことなく綺麗に反射している。安物ではこうはいかない。
「不思議なのは、表面が湾曲しているはずなのに水面のように綺麗に反射していることだな」
セツナがそう言ったので、確かに、と俺もうなづく。
鏡の盾は、表面が少し丸みを帯びている。
正面からではそれが分かりにくいのだが、側面から見ると確かになだらかな曲面となっているのが分かった。
それにも関わらず、真正面から見ると綺麗に世界を反射した姿になっている。本来なら、曲面に合わせて間延びしたような姿になって反射するはずだ。
「マジックアイテム……いえ、アーティファクトなのでしょうね」
ルビーはコツコツと鏡を爪で叩いた。
「……今、音がおかしくなかったか?」
ナユタが眉をひそめた。
どういうことだ、とみんながナユタを見る。ナユタは俺たちの視線を受けながら、指を弾くようにして鏡の盾に爪を叩きつけた。
カツン、という音が二重に聞こえたような気がする。
「確かに音がおかしいでござる。なんかふたつ聞こえた気がするでござるよ」
「あたしも。反響してるってこと?」
良く分からないな、とみんなして鏡の盾を覗き込んだ。
「もうひとつ疑問がありますわ」
鏡の盾の中で反射した姿のルビーが手をあげたので、みんなの視線は鏡の中のルビーに集中する。
「このアーティファクトがダンジョン攻略の鍵だとすると。わたし達が持って行ってしまうと他の冒険者は二度とクリアできなくなるのでしょうか?」
確かに、と俺は腕を組んだ。
「使った後は返却した方がいいのか? 防御に使うには、少々怖い代物だし」
鏡の盾で物理攻撃を防げるとは思えない。
絶対割れてしまうよなぁ、という見た目をしている。ゴブリンの振り下ろす棍棒であろうとも、耐えられそうにない。
それとは逆に魔法などは跳ね返せそうな雰囲気はあった。
試して割れてしまっては困るので、実験は止めておいた方がいいだろうけど。
「持って行っていいのか、ハーフエルフさんに聞いてみる?」
「迷宮を踏破した後でいいだろう。しばらく追いついてくる者はいないはず」
セツナの言葉に同意する。
なにせ、こっちは転移の腕輪でズルをしている状態だ。これがなかったと思うと、俺たちはまだまだ地下6階あたりで苦労していたのではないだろうか。
それほどまでに黄金城の地下ダンジョンは厳しい。
もちろん転移の腕輪だけでなく、環境に適応できるマグのおかげも充分にある。寒さや冷たさを防ぐ術がないと、ダンジョン内ではまともに休憩もできなかったからな。
なんにせよ、これらのマグの助けがない他の冒険者が早々と地下9階の大穴に到達できるとは思えない。
加えて、あの人類最古のハイ・エルフである学園都市の学園長ですらそこそこ苦労した旧き言葉の暗号がある。
これを解読するのにも、かなりの時間が必要なはずだ。
パルたちが先に不思議なダンジョンに迷い込んでいたのは運が良かったとも言える状況ではあるので。
しばらく鏡の盾を持っていたとしても、問題はあるまい。
「ではさっそく試してみよう」
セツナの指示に従い、俺たちは装備点検をしっかりしてから宿を出る。
「お気をつけていってらっしゃいませ」
いつものように笑顔で見送ってくる看板娘のマイちゃんに挨拶してから外に出ると、相変わらず注目が集まる。
いろいろな視線を受けつつ、ゾロゾロと付いてくる冒険者たちに辟易としながら黄金城に到着すると、そのまま飛び込むようにダンジョンに入った。
地上一階をグルグルとまわって他のパーティの姿が見えなくなったことを確認すると、大穴へと転移。全員が無事に転移できたことを確認すると、改めて装備点検する。
「よし」
パルの背中をトントンと叩き、問題無しの合図を送った。
「ではルビー殿、頼む」
「お任せを」
影の中からズズズと鏡の盾を取り出すルビー。
真っ黒な床や壁のせいで、ほとんど鏡の盾が見えなくなってしまっている。不思議なことに壁に灯された紫のラインは二重にブレたような感じで見え、ランタンやたいまつの明かりは普通に反射していた。
それに何かしらの意味が見い出せたわけではないが。
何にしても、ダンジョンにとって重要なアイテムであることは間違いなさそうだ。
「わたしは鏡の盾を持ちますので、パルはベルを鳴らしてくださいな。名付けて、パルベルです」
「パルヴァスだよぅ」
くちびるを尖らせながらもルビーからベルを受け取るパル。それを確認して、しっかりと隊列を組んでから、移動を開始した。
大穴から続く通路を通り、すっかり見慣れてしまった扉の前へと到着する。
「鳴らしまーす」
パルはそう言って、みんなが準備と警戒するのを確かめてからベルを鳴らした。
「グラータ」
前にも聞いた低い男の声が聞こえる。
「オステンデ・ミィヒ・スペクルトゥム」
一呼吸置くようにして声が続くと、ガコン、と音が響き扉が自動で開き始めた。
「ルビー」
「お任せを!」
わずかに開いた扉の前に立つルビー。
胸の前へ掲げるようにして鏡の盾を持った。
次の瞬間――いつもならば目も開けていられないほどの光で視界が真っ白に塗りつぶされていたのだが、その光が収束するように鏡の盾に吸い込まれていくのが見えた。
「反射しないの!?」
パルがびっくりした声をあげるが、俺も同じ思いだ。
明らかに真っ白な光が屈折して一筋の光として鏡の中に向かっているのが奇妙な光景に思えた。
その間、扉は自動で開き続け――やがて完全に開き切る。
転移されることなく扉が開くのを乗り切った。
ホッと胸を撫でおろしていると、今まで光を吸収するばかりだった鏡の盾が思い出したかのように真っ白な光を反射した。
「きゃ!?」
可愛らしい悲鳴をあげるルビー。
なにせ彼女は吸血鬼だ。
殊更に光を恐れたとしても、誰も笑いはしない。
鏡の盾から照射された光は放射状に広がった。真っ白な光は床や天井に当たると、黒かった謎の素材が熱を持つように明るく乳白色に染まる。その場所から更に反射するように光が放たれ、扉の先は次々に明るく染まっていった。
ようやくまぶしい光が収まると、部屋の全貌が分かる。
広い正方形の部屋。
奥には豪奢な紋章付きの扉があり、その扉を守るように騎士甲冑が立っていた。
天井には巨大な絵画が描かれており、数々の少女たちと共に神と思われる姿がある。
「これって……」
「さっき見た場所でござる……」
パルとルビーが部屋の中を見渡しながらつぶやいた。
不思議なダンジョンの黄金城――その魔法の鍵があった場所こそ、このようなところだったらしい。
壮大で荘厳な雰囲気の漂う部屋が、光の反射によって明るく照らし出された。
「大丈夫か、ルビー」
「問題ありませんわ、師匠さん。ちょっぴりビビってしまっただけです」
なら良かった、と俺は肩をすくめておく。
ひとまず安全を確かめたあと、俺たちはゆっくりとそのフロアへ足を踏み入れた。
こつん、とブーツの音が響く。
まるでお城の中でピカピカに磨かれた床を歩いているような気分だが……あながち間違いではないか、と苦笑した。
なにせ、本当にお城の中だ。
地下奥深くのダンジョンの中、という注意書きは添えられているけどな
「ランタンもたいまつも必要なさそうだな」
床や天井や壁は、いい感じに光っていて部屋の中を充分に照らしてくれている。
むしろ、たいまつの明かりが邪魔のようにも思えた。
「パル、ここは不思議なダンジョンとまったく同じなのか?」
俺の質問にパルはうなづく。
「部屋の大きさも天井の絵も、あの甲冑も、全部ぜんぶ同じです」
なるほど。
だとしたら――
「あの扉の先が宝物庫か」
不思議なダンジョンの魔法の鍵があった場所。
まったく同じだというのなら……そこは地下ダンジョンでも目的地となるはず。
つまり、ゴール。
つまり、宝物庫。
黄金の壺が隠すように保存されたという宝物庫。
その入口がいま、ようやく見えたというわけだ。
「だとすれば……」
俺は言葉を濁す。
不思議なダンジョンでは動かなかったというアレ。
これみよがしに置いてある、アレだ。
「だろうな」
苦笑気味に俺が言いたいことを先回りするようにセツナが同意してくれた。
騎士甲冑。
剣と盾を持つ騎士と、槍を持つ騎士。
「では役割分担といこう。拙者たち倭国組は右側の剣と盾の騎士を担当する」
「分かった。じゃぁ俺たち盗賊組は槍の騎士を担当しよう」
前衛後衛として戦うのではなく。
相手を分断した方が良い、という判断だ。
変則的なパーティ構成だからこその判断とも言えるので、例外中の例外だろう。
「では、難攻不落の黄金城。最終試練に挑もうじゃないか」
「はい師匠!」
ダンジョン最後の講義にパルはしっかりとうなづく。
「ちょっとした試験だな」
そう言ってパルの頭をぐりぐりと撫でた後に告げる。
「では、最終試験だ。俺とルビーも手伝うので、存分に戦いなさい」
「はいっ!」
よろしい。
俺がうなづいたところで、各々武器をかまえる。
倭国組も準備が整ったようだ。
「では参ろう」
「了解だ」
セツナの合図に。
俺たちは騎士甲冑へ向かって、疾走した。
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