~可憐! シュユちゃん出番なし!~
「いっせーの、せ!」
と、かけ声をあげて。
「勝ちましたわー!」
「負けました……」
ルビーとメイドさんがカードを出し合って勝敗を決める。
5のカードを出したルビーに対して、メイドさんは4のカード。ギリギリでルビーの勝ち。
続けて、いっせーのせ、と声を出して連続的に勝負が決まっていく。
「あわわわわ」
後ろで見てるあたしは、うろたえるような声を出しながら勝負の行方を見守るしかない。
というか……!
普通、ギャンブルって! もっとこう、読み合いとか、テーブルにカードを置いてブラフとかして、相手の表情とかも見たりして、なんかこう、イカサマとか仕掛け合ったりするんじゃないの!?
「あーん、負けましたわ」
「次、行きます」
「いっせーの、せ。よし、勝ちました」
「負けませんよぉ。いっせーの、っせ」
「おーっほっほっほっほ、いい感じですわ!」
なんか次々に勝負が決まっていくんですけどぉ……!
せっかく後ろに回り込んでもらったシュユちゃんの努力とか苦労とかぁ!
台無しじゃん!
「ふぅ。終わりましたわね。カードを数えましょう」
というわけで。
何か考えたりするヒマもなく、あっという間に終わってしまった。
「こんなのギャンブルじゃなぁ~い~ぃ~」
カードを数えるルビーに後ろから訴える。
「あら、何を言っていますのサティス。命もお金もベットしていないのですから、遊びに決まっていますわ。負けたところで失うものはありません。ナライア女史に、それはそれは楽しい冒険譚を聞いてもらうだけです。本気で思考したところで頭がもったいないですわ」
「むぅ~……そうだけどさぁ……」
じゃぁさっき金を使ってカードを切り直して再配布したのは何だったのか。
そう思ってしまう。
まぁ、ルビーのことだからそれも含めて楽しんだってことなんだろうけど。
なんか納得いかないなぁ。
「あら、負けましたわね」
メイドさんの持ってるカードより、ルビーのゲットしたカードの枚数が少なかった。
ルビーの負けが確定。
「適当にやるからだよぉ」
「でも楽しかったのでわたしの勝ちですわ」
人生楽しんだ者勝ちです。
と、それっぽいことを言ってるけど。
ルビーは人間種じゃなくて魔物種だから、人生じゃなくて魔生だと思う。
「では、わたしは貴族さまに冒険譚をお話しましょう。その間に、サティスが勝負していてくださいまし」
席を立ったルビーと代わって、あたしは座る。
よろしいでしょうか、とメイドさんが確認している間に、ザっとカードの特徴と数字を記憶していく。
文字列とか情報に置き換えるんじゃなくって、そのまま光景を絵のようにして覚えていった。
頭の中で、同じ光景を見ながら特徴を引っ張り出せば、数字も思い出せる。たぶん。
よし。
できるだけカードを覚えたぞーぅ。
「では、サティスさま。勝負といきましょう」
メイドさんはカードを集めてひとつの山にすると、トントントンと形を整えて、後ろにあった机の棚の中にしまった。
「あれ?」
そして机の引き出しから別のカードの山を取り出すメイドさん。
「サティスさまがカードを記憶されたようなので、別のカードでやらさせて頂きます」
「ぐぅ……!」
バレてた!
グゥの音も出ないって言うけど、ぐぅって言っちゃった。
「せめて……せめてあたしにカードをシャッフルさせてください~ぃ~」
「イカサマは禁止ですよ」
「そんな凄いことできないです」
カードを隠し持ったり、とか色々あるみたいだけど、あたしにはできない。というか、練習もしたことないし、カードを持つのも初めて。
孤児院にいた時は、遊んでいるのを遠くから見ているだけだった。あたしがいっしょに遊んでいると……巻き込まれちゃうから。
あたしはひとりじゃないとダメだったから。
カードなんて触ったこともなかった。
路地裏で生きてたころは、同じ路地裏で生きている大人たちがボロボロのカードでギャンブルをしてた。盗んできた食べ物を賭け合ったりしてたのを遠くから見てた。
もちろんあたしは参加していない。
負けるに決まってる。
何も知らないあたしが勝てるようなところじゃない。
食べ物を取られる程度だったらいいけど、それ以上のことをされたかもしれない。
路地裏では、大人も子どもも無い。
だから、あたしみたいな子どもでも、その対象になっていた。
「……」
シャッフルし終わったら、カードをメイドさんに渡す。メイドさんはさっきとは違って、シャッフルの仕方を変更した。
カードの束を右手と左手に持って、テーブルの上で親指で反らせるようにもった。そこから一枚ずつ混ざるように、親指から外していく。右、左、右、左、とカードが重なっていって、全部のカードが親指から外れたら、カードの山を整えた。
「お~、すごい! かっこいい」
「カードが痛むので、あまり推奨されたシャッフルではございません。ですので、こんなシャッフルもありますよ」
メイドさんは同じようにカードを2つにわけて、左右の手に持つ。
ふわり、とカードを柔らかく持つようにカード同士の隙間を明けて、合体させるように左右のカードを組み合わせた。
がしゅぅ、って感じ。
「無理やりだ」
あはは、と笑いながらあたしもやらせてもらった。
「えい」
カードをふたつにわけて、無理やり捻じ込む感じ。
「あれ、難しい……」
カード同士がぶつかって上手く間に入り込まない。これ、もしかして相当な技術なのでは?
「では、サティスさまがカードをふたつの山に分けてください」
「はーい」
テーブルの上にルビーがやったように左右ふたつにカードを一枚ずつ順番に置いていく。
右、左、右、左……っと、できた。
「メイドさんから選んでください」
「分かりました。では、私はこちらを」
メイドさんは右側のカードを取った。
じゃぁ、あたしは左側だ。
カードを持ち上げて、数字を確認する。
「……」
む、と思わず視線をあげるとメイドさんと同じタイミングだった。
ワザとか、みたいな視線を向けられるけど、あたしは違うよという視線を返す。
ちょっとだけカードの数字が片寄ってた。
あたしの持ってるカードが、それなりに良い物ばっかり。イカサマじゃなくって、普通に運が良い結果だ。
「ならば仕方がありませんね」
メイドさんが苦笑しつつ、ゲームが始まった。
こうなってしまったら、本当にシュユちゃんの出番が無い。そう思ってたら肩にトンと誰かが触れるような気配がした。
たぶんシュユちゃんが戻ってきた……の、かも?
「ではいきます」
いっせーの、せ。で、あたしは数字の1を出した。
メイドさんも1。
「引き分けだ。どうなるんですか?」
「次に勝った人が総取りになります」
なるほど。
じゃぁ、次は勝つとお得だ。なにせ、一番弱い1のカードを捨てたかっただけだもん。
これで勝てば、捨てたカードがポイントとなる。
じゃぁ一番強いカードを出しちゃおう。メイドさんも同じ考えのはずなので、そこそこ強いカードを出してくるはず。それを最強カードで潰してしまおう。
「いっせーの、せ。あれ!?」
あたしとメイドさんが出したカードは同じ10の数字。
引き分けが続いた。
「待って待って! 作戦タイム!」
「認めます」
ふぅふぅ、と息を吐いた。
なぜか緊張してる。
メイドさんも自分のカードをじっくりと見て作戦を立てている様子だ。
「……」
10のカードは確実に勝てるカードだから、超貴重。でも、あたしの手持ちにはまだ10のカードは有る。それをここで使ってしまっていいのかどうか。
悩む。
う~ん、10を使って勝てなかったってすっごくもったいないよね。
あと10を使い切っちゃうと9が最強になる。
だから、遠慮なく使ってしまっても、大丈夫な気がする。
よし!
「決まりました。いっせーの、せ!」
あたしは10のカードを出した。
メイドさんは……1のカード。
最弱のカードに最強のカードを出しちゃった!?
「ぎゃああ! もったいない!」
勝ったけどぉ! 勝ったけど、すっごくもったいないよぉ~!
「そっかぁ、そんなパターンもあるのかぁ~……」
つぶやいてしょんぼりしてると、メイドさんが我慢できなくなったようにクスクスと笑って、そのあと本気で笑い始めた。
「あはは、あははははははは……すいま、すいません……ふふ、うふふふ……サ、サティスさまがあまりにもギャンブルに向いてらっしゃらないもので、ふふ、あはははははは」
「え~、そんな笑わなくてもぉ」
ゲラゲラエルフのルクスさんみたい。
そんな面白かった?
「面白かったでござる」
こっそりシュユちゃんの声が聞こえた。
面白かったのかぁ……
「も~! 続きやるよ~」
「はい、がんばります」
その後は、まぁ、カードの片寄りもあったので、最初に数字の小さいのを出したりしていって、後は大きい数字しか残っていないので――普通に勝利した。
あっけなく勝負がついた。
「う~ん……勝った気がしない……」
「片寄ってましたものね。ですが、自分の持っていないカードから相手の手持ちカードを予想することができます。使い終わったカードを伏せておくのは大事ですよ」
メイドさんが手に入れたカードの山を示す。
そっか。
できるだけ情報は伏せておく方がいいもんね。
「盗賊の修行にもなりそう。ギャンブルっていいですね」
「サティスさまには向いてなさそうですよ。お遊び程度にしておかないと、大変な目に合います」
「お金なくなっちゃう?」
「その程度で済めば優しいですね。酷い場合は、そのまま娼婦として娼館に売られます。借金を返すという名目ですが、逃げないように娼館に住み込みという形になりますので、宿代と食事代が売り上げから引かれてしまい、なかなか抜け出せなくなるのです」
「それは怖い……」
師匠に初めてをあげられなくなっちゃうし、師匠が泣いちゃう。
「――というわけで、無事にわたし達はワイン樽を運ぶことができたのですわ。ちゃんちゃん」
「すーばらしい! なんという初体験! なんという初々しさ! 是非ともその騎士の女の子を紹介してくれたまえ!」
ワイン樽と騎士って……ベルちゃんのことじゃん!
なんて話をしてるのさ、ルビー!
「残念ながら、すでに分かれてしまっておりますので。次に会った時に話を通してみましょう」
「いつごろ会えそうかな?」
「さぁ、どうでしょう。夢の中で聞いてみたいと思いますわ」
夢?
なんて思っていると、こっちの勝負が終わったことにナライアさんは気付いたらしい。
「申し訳ありませんご主人さま。負けてしまいました」
「なんと! それは残念だ」
あぁ、と大げさなほどの動きでナライアさんは顔を手で覆う。大げさに見えたのは、片腕だからなのかもしれない。
「それでは仕方がない。君たちが知りたかったことを語ろうではないか。教えるのは……私の初めての冒険失敗譚だったかな。いやはや、語るも恥ずかしい話なのだが――」
「ドアマナーですわよ、貴族女史。約束を破るとは貴族の風上どころか冒険者の風上にすら置けませんわよ」
「おっとそうだった。すまない。片腕と片足といっしょに、私の記憶も食べられてしまったかのような失態だったね」
笑えない状態なので、どういう返事をしたらいいのか分かりません。
えぇ~、とごまかすように苦笑するしかなかった。
やっぱり貴族さまって難しい……
「ではドアマナーだったかな。これは恐ろしく簡単な話だ。貴族は何もしてはいけない」
「ほへ?」
意味が分からなかったので、あたしは首を傾げてマヌケな声を出した。
「ふふ。貴族にはメイドや執事、護衛の騎士たちが今でも付いているのは知っているとは思うが、過去にはそれらに加えて『側仕え』という者がいてね。主人の着替えが食事の用意をするのが彼らの仕事だったのさ。メイドと執事を掛け合わせたような存在だったね。そして、扉に関してもそうだ。主人の意を汲んで彼らがドアを開けるんだよ。あと、ノックもしてはならない」
「え、そうなんですか?」
「ドアを開ける時などはベルを鳴らす。そうすると、扉の向こう側に控えていた側仕えがドアを開けてくれるんだ。そういう意味では、ベルを鳴らす、というのがドアマナーかもしれないね。まぁ、その文化が今でも魔法学院に残っているかどうかは分からないが」
「ほへ~。ありがとうございます」
「いや、大した情報ではないよ。プルクラが語ってくれた冒険譚の方が百万倍の価値がある。足りない分はいつでも返すので、遠慮なく遊びに来たまえ」
つまり、冒険譚を聞かせに来い、という意味だと思う。
「はーい」
一応、そう返事をして。
あたし達はナライアさんとメイドさんに挨拶をしてから。
冒険者の宿を後にしたのだった。
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