~可憐! 何度聞いても絶対に分からない答え~
ナライアさんから聞いた貴族のドア開けマナーを試すため。
あたしとルビーは、そのあたりにあった適当な雑貨屋さんに入った。
ちなみにシュユちゃんは先に帰った。出番が無かった、とちょっとイジけてたシュユちゃん。かわいい。セツナさんにいっぱい慰めてもらうといいなぁ~って思いました。
雑貨屋さん入ったのはベルを購入するためだけど、売ってるのかな~ってお店の中を見てたら上手い具合に売ってあってた。
あたしってば運がいい。
幸運を司る神さまに、ありがとう、と心の中で祈っておく。
金色のベルで棚に飾ってあるのをあたしは指差して、店員のおじさんを呼んだ。
「ねぇねぇおじさん、これください」
「あいよ。金貨1枚だよ、お嬢ちゃん」
「たっか!?」
値札に1って書いてあったんだけど、金貨1枚って意味だったんだ……
「なんでこんなに高いんですの?」
ルビーも眉根を寄せてる。
金貨1枚もあれば、ジックス街だと余裕で1年暮らせちゃいそう。
「そりゃ嬢ちゃん。ここが黄金城で、そのベルにも金が使われてるからだ」
ピカピカな金色だとは思ったけど……ホントに金だとは思わなかった。
おじさんに聞いてみてベルを持ってみると、確かに重い。
ホントに金で作られてるベルだ。
なんかもったいない気がする……
「もっと普通のベルはない?」
「小さいのだったらあるよ。それだったら上級銀貨5枚……いや、3枚でどうだい?」
「じゃ、それで」
ちょっと待っててくれ、とおじさんは店の奥から小さいベルを取り出した。同じような金色のベルだけど、小さい。
冒険に持って行くって考えたら、ちょうど良い大きさかも。
「こんなのどうするんだい、ディスペクトゥスのお嬢ちゃんたち」
おっと。
雑貨屋さんのおじさんでさえ、あたし達のことを知ってるみたい。
「記念品ですわ。おみやげでもいいですわね」
「おや、帰ってしまうのか。踏破できそうなのかい?」
あたしとルビーは顔を見合わせてから、肩をすくめた。
「まだまだ難しそうだな」
おじさんは苦笑した。
このベルを鳴らしたところでホントに上手くいくとも思えないので、本当にまだまだ難しそう。
「ありがと、おじさん」
「また買っていってくれよ。気をつけてな」
はーい、とお礼を言ってあたしとルビーは倭国区へと戻る。
途中で通りかかった訓練所ではナユタさんがルーキー相手に戦闘訓練をしてた。今日はホントにホントのルーキーらしく、みんな腰が引けてる。木で作られた模擬剣を握る手も、どこか力が入ってなくて、弱々しい。
「あたしもあんなだったな~」
「師匠さんに付きっ切りで教えてもらえたんですの? 手を取り、足を撫で、腰を触り」
「そんなえっちな練習だったら良かった……あ、でも最初の最初にそんなことされたら逃げてたかも」
あはは、と笑う。
「まぁ、教えてくれる者が真面目ではなかったら死が待ってますものね。さすが師匠さんです。童貞の鑑……いえ、盗賊の鑑ですわ」
いま、すっごく酷いことをルビーが言った気がするけど、聞かなかったことにする。
あたしは師匠の味方です。
「ナユタさーん、ただいま~」
「キリが良いところで切り上げてくださいまし~」
「おー」
そんなやり取りをしてから宿に戻る。看板娘のマイちゃんと挨拶してから、部屋に戻ると師匠とセツナさんが変な訓練をしていた。
「ごっこ遊び?」
ゆっくりゆっくり動きながら戦闘してる感じ?
めちゃくちゃ動きが遅いのに、ふたりの額には汗が浮いてる。
どういうことなんだろう?
「シュユちゃんただいま。なにやってるの?」
「おかえりでござる。忍者の訓練のひとつでござる。こんな風にゆっくりゆっくり動いて、戦闘訓練をすると、いろいろ思考することができていいでござるよ」
たとえば、とシュユちゃんはクナイを逆手にかまえて、ゆっくり殴りかかってきた。
「シュユがこんな感じで殴りかかってきた。パルちゃんならどうするでござる?」
「え~っと、避ける? でも本当の早さだったら間に合わないかもだから、防御? でもそのあとが怖いから後ろに下がった方がいいかな?」
「なるほど、そういうことですのね」
あたしもこの訓練の意味が理解できた。
いつもなら、とっさに判断してることをじっくりと考えることができる。たぶんだけど、選択を間違えると普通に負けちゃうよね、これ。
まぁ、防御の反動とかそういうのはリアルじゃないから、完璧に正しい行動になる、とは言えないけど。
でも戦闘訓練になるのは分かる。もしかしたら、戦闘訓練っていうより思考訓練に近いのかもしれない。
お互いに視線で終了の合図を送り合ったみたいで、師匠とセツナさんが構えを解いた。
途端に、ぷはぁ、と息を吐いて、まるで水の中で戦ってたみたいに呼吸をする。
「良い訓練になった」
「こちらこそ、新しい訓練方法を教えてくれて感謝する」
どっかりと腰を下ろした師匠とセツナさん。少しだけ休憩したあとに、どうだった、と聞かれたので、あたしとルビーは報告する。
「カードゲームになって、ルビーは負けたけどあたしは勝ちました」
「ベルは購入してきましたわ。これです」
ちりんちりーん、とルビーはベルを鳴らす。
小さいので音色は甲高い。あと、お値段も高かったことを師匠に報告すると、苦笑していた。
ナユタさんが戻ってくるまで師匠とセツナさんは休憩して、ナユタさんが合流するとすぐに黄金城へ向かって出発した。
相変わらずジロジロと見られて、後ろへゾロゾロと付いてくる冒険者たち。途中で絶対にはぐれるって分かってるのに、どうして付いてくるんだろう?
「記念なんでしょう。ほら、魔王さまが歩いていたら、触りたくなるじゃないですか。あれといっしょですわ」
「なにが、ほら、なのかさっぱり分かんないし、魔王サマに触りたくないよぅ」
全力で逃げる!
とかなんとか会話しつつ、黄金城の地上階をぐるぐるまわってから、穴の底へ転移した。
「ふぅ」
無事に転移したあと、モンスターがいないことを確かめてから息を吐く。
もう何度も通ってきた通路を歩き、豪華な扉の前へと立った。
「貴族は何もしてはいけない、か」
どうにも慣れない感覚なのは、俺たちが平民のせいか。と、師匠は苦笑している。
セツナさんも同じ気分らしい。
ちなみに倭国では座った状態で扉を開けるマナーがあるので、試してみた。もちろんダメだったけどね。
「わたしは慣れていますわよ。これでも魔王四天王のひとりですので」
「ルビーは本当に何もしないだけじゃないの」
「そうとも言いますわね」
自分で認めてるのだから、仕方がない。
「では、鳴らしますわよ」
ドアの前に立ったら、ルビーがベルを鳴らす。
ちりんちりーん、と甲高い音が響いた。
すると――
「グラータ」
という低い声が聞こえた。
どこから聞こえてきたのか判別できない。まるで頭の中に直接聞こえてくるみたいに、男の人の低い声が聞こえた。
一気に警戒を高めたあたし達は武器をかまえる。でも、そんなことおかまいなしに、低い声は続けて何かを言ってくる。
「オステンデ・ミィヒ・スペクルトゥム」
まるで魔法の呪文みたいな言葉が聞こえてきた。
なんだなんだ、と思っている間にガコンと音が響き、ドアがひとりでに開く。ギギギ、と音を立てながらゆっくりと扉は開こうとしていた。
「おー!」
ベルを鳴らすで合ってたんだ、すごいすごい!
「やりましたわね。では進みましょ――」
意気揚々とルビーが先頭で扉が開くのを待っていると……
「うぎゃ!?」
またしても、あの光がビカビカーって照らしてきて、目の前が真っ白になった。
しばらくまぶしさに耐えて、目を開ければ……
「あれー?」
やっぱり地下1階の隠し部屋の中だった。
「上手くいったと思ったのだがな……」
師匠が、はぁ、と息を吐いて腕を組む。セツナさんも同じ感じ。
「やっぱりあの光をなんとかしないといけないんじゃないかい」
ナユタさんの言葉に、あたしはうなづく。
扉の開け方はあれで良かったんだけど、その後にも何かしないとダメっぽい。
「あの言葉は何と言ってたのでござろうか?」
低い男の人の声だった。
まるで魔法の呪文みたいに聞こえたんだけど、あたし達の中に魔法使いはいないので、呪文だったのかどうかは分からない。
でも。
「旧き言葉ですわね」
ルビーがちょっとだけ分かったようだ。
と言っても――
「最初の『グラータ』という言葉だけですが」
「どういう意味なんだ?」
師匠さんの質問にルビーは肩をすくめるようにして答えた。
「ようこそ、や、いらっしゃいませ、という言葉ですわ。拒絶の意味はありません。とりあえず、歓迎されているのは確かです」
「その後の言葉は分からないの?」
ルビーは、残念ながら、と肩をすくめた。
「旧き言葉なのは確かなのか、ルビー殿」
「わたし、エルフ語も妖精語も知りませんので。共通語と旧き言葉しか知らない状況で聞き取れたのであれば、それは旧き言葉なのでしょう。きっと、たぶん、おそらく、知りませんが」
めちゃくちゃ責任逃れしようとしてる。
「曖昧だねぇ。すっぱり言い切れないのかい?」
「そうは言っても聞き取れなかったのですもの、仕方ありませんわナユタん」
「ナユタん言うな」
そんないつもどおりなやり取りを見つつ、師匠は肩をすくめる。
「とりあえず、何と言ったか聞き直してメモを取りつつ、学園長に相談か」
本当なら自分たちで調べないといけないんだろうけど。
でも、もともと転移の腕輪でズルしてるんだから、今さら学園長の知識を使ってもそう変わりない感じ。
冒険大好きナライアさんが聞いたら、めっちゃ怒りそうな気がした。
「転移の腕輪がチャージできるまで待機か?」
師匠がそう聞いたけど、セツナさんは首を横に振った。
「いや。すまんが手持ちのお金が無限にあるわけではないからな。資金稼ぎといこう。このまま地下街までモンスターを倒して進みたいが、いいだろうか」
宿代だけでも稼いでおかないと、とセツナさん。
他にやることないので、あたし達はそのまま地下1階から真っ直ぐに地下5階までを目指した。
モンスターを倒しつつ、宝箱を開けつつ、攻略していると……
リンゴーン、リンゴーンと大きな鐘の鳴る音が聞こえた。
「学園長かな」
大穴で聞いた時と同じ音だ。
そう思ってると、魔力の光が集まって半透明の学園長の姿になった。
『おはよう、それともこんばんは。君たちを愛して止まない私だよ。しかし愛を病んでも良いとも思っている私でもあるのだよ。ごきげんいかがかな?』
「元気だよー」
それはなによりだ、と学園長はケラケラと笑った。
「連絡してきたということは答えは分かったのか」
『そうともサムライくん。あの暗号の答えが分かったからこそ、連絡をしてきたんだ。君の推測は正しい。もっとも、これは推測の内にも入らないか。ごくごく当たり前の思考とも言えるね』
相変わらず回りくどくて、すぐにでも話が脱線してしまいそうな学園長の話。
『おや、今はダンジョンの中かな? 安全に配慮はできているかい? 今すぐモンスターが私をゴーストの仲間だと思って慣れ慣れしく話しかけてくることは有り得ないかな』
なんでそんなことを期待するのは分かんないけど、学園長はキョロキョロと周囲を見渡した。
残念ながら、ダンジョンの部屋の中で、モンスターはいない。
ときどきドアを開けてモンスターが入り込んでくるみたいだけど、その心配も無さそう。
「それで、暗号はどんな内容でしたの?」
『え~、もう答えを語り合うのかい? 私としては、もっと挨拶を交わして楽しみたいところなのだが……』
「ダンジョンの中だ。勘弁しておくれよ」
『ハーフ・ドラゴンくんに言われてしまっては、仕方がない。では、暗号の答えを語ろう』
学園長はなにやら紙の束を後ろから取ってきた。
乱雑な感じで分厚く重ねられているそれを読むようにして、答えを言う。
『いいかな、語るよ。〝ソウオウルリトルエクスアールアリチェアダイレクトロ・カウザムエテフェクトゥムセクエレコロムナルム・ヴィアクアイノネスト・パルジェニインフィニィトゥム、パラヴェ〟だ』
「……なんて?」
『聞き逃したのかい? 仕方がないね。もう一度、言うから良く聞いてくれよ。〝ソウオウルリトルエクスアールアリチェアダイレクトロ・カウザムエテフェクトゥムセクエレコロムナルム・ヴィアクアイノネスト・パルジェニインフィニィトゥム、パラヴェ〟だ』
うん。
もう一度聞いても――
「分かんないよぉ!」
学園長のバカ!
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