~流麗! どきどき鑑定タイム~
師匠さんとパル、そしてサムライとハーフ・ドラゴンが倒れてしまいました。
「黄金城、それはそれは恐ろしい場所ですわ。まさかこの四人がこんなにも簡単に倒されてしまうなんて。でも安心なさってください。あなた達の意思はわたしが引き受けますわ」
「……死んだみたいに言わないでくれ」
青白い顔で師匠さんが反論しました。
打てば響くとはこの事でしょうか!
だから師匠さんは好きなのです。血の味だけではない、ということを証明してくださるようで、わたしはとても嬉しく思いますわ!
「うぅ……」
「その点でいうとおパルはダメですわね」
「なんか酷いこと言われてるのは分かる……でも気持ち悪い……」
「それだとわたしが気持ち悪いみたいじゃないですか」
「うん」
この小娘!
わざと言いましたわね!
「頭をシェイクしてあげようかと思いましたが……さすがに可哀想なのでやめておきます。良かったですわね、小娘。相手が慈悲深いわたしで。魔王さまだったら殺されてましてよ」
「そんな当たり前のこと言われても困る……」
確かに。
魔王さまでしたら、二日酔いした人間種など、侮蔑の表情を浮かべる前に殺してしまっているでしょうね。
「では、皆さまは休んでいてください。わたしはこの時間を利用して鑑定をして参りますわ。そろそろネックレスの鑑定結果も出ていますでしょうし、新しく指輪も鑑定してもらわないといけません。たぶんですけど、この指輪も売ってしまうことになりますが、よろしいですわね?」
「……あぁ。好きにしてくれ」
サムライが倒れながらもヒラヒラと手を振った。
物に執着が無い、というよりも興味がない感じでしょうか。
有益な効果があればどうするつもりでしょう?
宝物庫に直接転移できる指輪、とか。
もっとも。
有益なマジックアイテムであればあるほど、手持ちのお金で払えなくなるのですが。どうにかしてお金をかき集めるにせよ、黄金城は資金調達には向いていますのでやることは変わらなさそうですが。
「さて、あとは頼みますよシュユっち」
「シュユっち頑張るっち」
むふっ、と鼻息荒くニンジャ娘が答えました。
「……あなたもだいぶ面白いですわね。悔しいですわ」
「あはは」
サムライにたっぷりとスキンシップしてもらってご機嫌な上に、サムライをたっぷりお世話できるので、相当に舞い上がってるみたいですわね。ナユタんも忘れないでね。
ホント。
良かったですわ、みんな二日酔いで。
この状態で探索をしていれば、ニンジャ娘がやらかしそうでした。
しばらくお世話を任せておけば、そのうち冷静になるでしょう。時間が解決してくれる、というやつですわね。
もっとも。
「痛い目を見る、というのも良い薬ですが」
「何の話でござる?」
「趣味の話でござるよ、うふふ」
きっと、ニンジャ娘のミスはサムライがカバーしますでしょうから。片腕くらいは失ってしまうのではないでしょうか。
それを見たニンジャ娘の絶望顔を見てみたいという欲求はありますが……やめておきましょう。それは愚劣のストルティーチァが好きなタイプの人間種の表情です。
わたしはやっぱり、楽しそうな笑顔がいいですわ。その楽しそうな環の中にわたしが入れば、尚のこと良いですが……外からそれを眺めているのも楽しいものです。
嬉しそうな人を見ると、わたしも嬉しい。
そういうもの、ですわよね。
まぁ、絶望の表情を見たあとでも、いざとなれば時間遡行薬がありますからね。
即死以外なら問題ありません。
致命傷ならオッケーです。
ただし、若返りますが。
上手くいけば、ニンジャ娘よりもサムライの方が若返ったりして、逆転する主従関係が見れるかもしれませんわね。
「……たぎる!」
「な、なにがでござるか……?」
「何でもありませんわ。では、ごきげんよう」
「ごきげんようでござる」
見送るニンジャ娘に満足して、わたしは神殿から外に出ました。
ちなみにここ、酒を司る神の神殿ですので。
二日酔いの人間種を担ぎ込むのは、これほど皮肉なことがないと思います。しかも、普通の怪我人の治療で忙しいので、二日酔いの治療まで手がまわっていないことが更に面白いです。
「おらぁ、飲め飲めぇ! こんなめでたいこと、俺たちは二度と無いかもしれないからなぁ!」
お祭はまだまだ続いているようで、日が昇った今でもへべれけは量産され続けております。
へべれけ。
誰が名付けたんでしょうね、へべれけ。
もうその名称からして、へべれけですものね。
きっと天才ですわ、へべれけ状態の者にへべれけと名付けた者は。きっとへべれけだったに違いありません。
「へけっ!」
こほん。
失礼。
思わず愉快な笑い方をしてしまいました。
さてさて。
泥酔状態の人間種がそこら中に転がっている神殿区を歩きますと、鑑定をしてくれる知識神殿に到着しました。
さすがに、ここでは泥酔患者が運び込まれることはなく、鑑定をしてもらう人間種が多いようですわね。
中には、何か祈るような感じで鑑定をしてもらっている者もいますが……
何を狙っているのでしょうか?
そんな良い物がでるのでしょうか?
「ねぇねぇ、そこの冒険者さん」
「ん? なんだ――って、ディスペクトゥスのプルクラさん!?」
「はい、そのプルクラさんですよ。お名前を覚えて頂けて恐悦ですわ。サインしましょうか?」
「婚姻の誓約書に?」
「あなた最高ですわね。ちょっと結婚して離婚してみます?」
たまたま声をかけた人間が素晴らしい人間種でしたので、思わず結婚してしまいそうになりました。十秒で離婚していいですか? 誓いのチューはスキップしますので。
「離婚しなくていいなら喜んで承諾するんだけどなぁ」
「ステキな申し出ですけど、わたしには心に誓った人はいますので」
残念、と冒険者はがっくりと肩を落としました。
「で、なんの御用時ですか? デートの下見なら引き受けますよ」
「いちいち面白い返しをしないでくださいまし。あれですよ、あれ。どうしてあの人は祈っているのです?」
あぁ、と冒険者はうなづきながら教えてくださいました。
「黄金城のダンジョンから出てくるアイテムで、ときどき鑑定料を大きく上回った値段で売れるマジックアイテムが出るんですよ。あの人はお金が欲しいんでしょうね」
「なるほど、そういうことですか」
ついつい莫大な鑑定料が発生するものだけが価値あるアイテム類かと思いましたが。
そうでない場合もあるんですね。
まぁ、だからといって『あの鎧』の鑑定料を払ってまで売ろうとは思えませんが。ところで何という名前の鎧でしたっけ? 忘れてしまいましたわね。
「ところでプルクラさん。ここに来たってことは、また鑑定ですか?」
「えぇ、そのとおりですわ」
「鑑定する前に物を見せてもらうことは……」
「いいですわよ」
やった、と冒険者は喜ぶ。
未鑑定品という代物がワクワクしてしまうのは、冒険者でなくとも分かります。もしかしたら凄い物では、という期待と得体の知れない物へのドキドキといいますか。
そういう未知の物への興奮があってこそ『冒険』というのかもしれません。
「こちらですわ」
というわけで、冒険者に一組の指輪を見せる。
青と赤の宝石が付いた指輪。
ペアになっているのは明白なデザインです。
「こ、これは――!」
「あら。知っていますの?」
「婚約指輪ってことですよね!? やっぱり結婚します!」
「面白解答は充分だと言いましたわよ!」
抱き付いてこようとする冒険者の足を払って地面へ転ばすと、わたしはその背中に足を乗せました。
「この身は師匠さんに捧げる予定ですの。おいそれと抱けると思わないことね、人間種」
いつの間にやら見物人が増えていたらしく。
おぉ~、という声があがる。
注目されてしまいましたわね……う~ん……気持ちいい!
「す、すいませんでした」
「分かればよろしい。それから――」
お立ちなさいな、とわたしは冒険者の手を取って立たせたあげました。
「わたし、やっぱり結婚するなら同性よりも異性の方が良いですわ。ごめんなさいね、女性冒険者さん」
「いえいえ、あたしも男が好きです」
「面白過ぎでしてよ、あなた!」
もう一度転ばせてあげました。
転んだ状態でゲラゲラ笑ってる変人でした。
「はぁ~。今度はひとりで立ちなさい」
「はーい」
なんか、パルに似てますわね、この子。
いえ、容姿ではなく性格が。
ま、情報を教えて頂けたのでこれくらい遊んであげたら対価は充分でしょう。
さてさて、さっそく鑑定に参りましょうか。
「よっ、と」
女性冒険者も勝手に起きて、勝手に付いてくるようですし……と、思ったら他にもゾロゾロと付いて来ますわね。
まぁ、鎧の時のように期待してらっしゃるのでしょう。
というわけで、再び大勢の冒険者といっしょに知識神の神殿に入ると――
「またきたー!?」
と、神官に叫ばれてしまいました。
「失礼な。いくらでも来ますわよ。黄金城の攻略中なのですから。って、おーい、聞いてくださいましー!?」
神官は叫んだあと、そのまま逃げて帰ってきませんでした。
いえ、本気で逃げられるとは思いませんでしたが?
「え、え、え? わたし、本気で嫌われてまして?」
だったら本気で泣きますけど?
なんて思っていたら、おずおずと別の神官がやってきました。
ぐったりとした雰囲気。
およそ神官とは思えない雰囲気をまとっていますわね。
「なんだか顔色が悪いですわよ。どうしました?」
「あなたの持ち込んだネックレスを鑑定した者ですぅ。まだ魔力が戻りません……」
どれだけひどいのよ、知識神。
信者の魔力でしょうに、戻してあげなさい!
「マインド・ポーションです。お飲みなさい」
「いえ、これを飲んだところで戻りは……」
「顔色が悪いのですから、飲みなさい」
「あ、はい。ありがとうございます」
んくんくんく、と神官は一気飲みしました。ノドが乾いていたかのようにマインド・ポーションを飲むなんて、そうとうに魔力が枯渇しているじゃないですか。
やっぱり可哀想ですわよ、知識神!
なんとかしてあげなさい!
「神も酷いですわね。ちょっと文句を言っておきました」
「あはは……ありがとうございま――じゃないや。いえいえ、知識神の導きあっての私たちなのですから」
いまちょっぴり本音が漏れましたわよ。やっぱり神に思うところがあるではありませんか。
聞いてました、知識神?
あなた、そのうち嫌われましてよ!
まぁ、いいですけど。
「それで、ネックレスの効果は分かりましたの?」
「はい。説明してもよろしいでしょうか」
もちろん、とわたしは返事をしました。
「ネックレスの名称は『モニーレ・イムモニタリタス』です」
「モニ……はい?」
一発で覚えられない名前でした。
こういう時、おパルの瞬間記憶が役に立つのですが……今は二日酔いですので、その効果も発揮できないでしょうから、いなくても問題ありませんわね。
「えっと、旧き言葉で『不死のネックレス』という意味の言葉ですね」
なるほど。
分かりやすく現代の共通語にして頂ければ分かりやすいのに。
って――
「不死?」
「はい。このネックレスを装備していた者は、一度だけ死を回避できます。残念ながら、一度その効果を発揮するとネックレスは破壊されてしまいますが、身代わりになってくれます」
おぉー!
と、周囲の冒険者が声をあげました。
もともと不死みたいな私にとってはそこまで魅力的なネックレスではありませんが。
頭を打てば一撃で死んでしまうような種族が多いのが人間種。
このネックレスは恐ろしいほど魅力的に見えるでしょう。
もっとも。
裏を返せば、二度死ねる、という意味になります。
例えば、落とし穴に落ちてしまって、ネックレスによって死を回避できたとしても。
待っているのは脱出不能の穴の底での餓死ですからね。
使いどころを間違えば、悲惨な結果になります。
「で、お値段は?」
わたしの質問に、後ろに控える冒険者たちが固唾を飲むのが分かりました。
ごっくん。
わたしもマネしておきましょう。
でもごっくんしたいのは、生唾ではなく師匠さんの――あ、いま、師匠さんが『言わせねーよ!?』と、叫んだ気がしました。
アレではなく血をごっくんしたいと言おうとしただけですのに。
師匠さんのド・ス・ケ・ベ!
うふっ。
「鑑定料は――」
神官は指を一本立てました。
「金一万枚で」
「売ります」
即決でした。
誰が金一万も払えますか、誰が。
というわけで、鎧の時のように後ろで冒険者が大騒ぎする中、わたしは鑑定してもらうために指輪を取り出しました。
もちろん。
神官の女性がめちゃくちゃ嫌そうな顔をしたのは。
言うまでもありません。
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