~卑劣! 黄金城地下ダンジョン8階・その2~ 8
フロアの最奥にある隠し扉。
隠し扉を発見した際、確認してもらわないといけないのが魔力の流れ。こればっかりは俺たち盗賊は専門外となるので、どうにもならない。
なのでルビーに確認してもらったところ、どうやら魔力によって制御されている仕組みのようだ。
魔力の流れ。
それを辿るように読んでもらう。
「さて、全力を出しますわよ」
普段は赤いルビーの瞳が、黄金に変わった。
魅了の魔眼が発動している状態なのだが、どうにも本気を出すとどうしても魔眼状態になってしまうらしい。
「それどうにかならないの?」
パルが自分の手で自分の眼を隠しながらルビーに言った。
言っちゃぁなんだが、ルビーの魅了の魔眼はそこまで効果が高くない。せいぜい集中力を乱される程度なので、目が合ったとしてもすぐさま傀儡化されるわけではない。
ので、そんなに警戒しなくても大丈夫だぞ。
「いえ、もしもの時に備えるのは大事です師匠」
「どういうことだ?」
「ルビーの魔眼が暴走しちゃうような罠が仕掛けられていたら大変です。目玉をくりぬかれて、そのまま敵になっちゃうような罠」
なにそれ怖い。
「恐ろしいことを言わないでくださいまし!?」
ルビーもさすがに目玉をくり抜かれるのは恐ろしいらしい。
まぁ、誰だって見えている『眼』を攻撃されるのは怖いか。というか、眼球に触るだけでもなんかこう目を閉じたくなるもんな。きゅ~っと。
「ふ~ん、ふんふんふん、分かりましたわ」
そうこうしている間にもルビーが魔力を読み取ってくれた。
「魔力はこのふたつのタイルに集中しているようです。もしくは、このふたつのタイルから魔力の流れが始まっています」
隠し扉と思われる場所の左右、すこし腕を開く程度に離れたタイルを二枚。それを指し示したルビー。
「流れる方向が読めなかったのか?」
魔力には流れる方向がある……らしい。
水と同じように高いところから低いところへ流れる性質があるそうなのだが……魔力の高いところってなんだよ? というのが正直な感想。
高いも低いも、俺にはサッパリ分からない。
残念ながら魔力の扱いに優れた魔法使いではなく、せいぜい魔力糸が使える程度の盗賊では、それを読み解けるレベルではないようだ。
俺のイメージだと、それこそ魔力は『線』なんだよなぁ。
そこに、右も左も上も下も高いも低いもない。
まっすぐな線が、身体の中を巡って繋がっている感じか。それがそのまま体外に放出されると糸となって具現化する。あとは太いか細いか、どの程度丈夫か。その差でしかない。
「もっと大きい物でしたら私にも分かるんでしょうけど。専門家ではないのでこれが精一杯です」
まぁ、起点か終点なのか、それだけでも分かれば上等だ。
「じゃぁ吸血鬼って何の専門家なんだい?」
ナユタの茶化すような質問にルビーは、決まっていますわ、と答える。
「血ですわ。舐める前からその人間種の血が美味しそうなのか不味そうなのか分かります。精度は百パーセントを誇りますわよ。マジで外したことがありません」
ふふん、と誇るようにルビーは胸を反らした。
薄い胸が素晴らしい。
お腹まで一直線……いや、わずかに膨らみを感じさせる。
パーフェクトだ!
「役に立たない専門家でござるな」
「何を言いますか、ニンジャ娘。これでも支配者ですから、民からの上納品があります。ですが、味が分からなければ無駄に献上させることになってしまいますからね。美味しい人間種にお願いして血をもらうほうが、お互い気持ちよく過ごせるというもの。大事ですわよ」
「……ホントに支配者なんでござるか?」
「なんでそこを疑うんですの!?」
シュユちゃんの気持ちは痛いほど分かる。
というか、魔物種のイメージを思いっきり裏切るというかひっくり返すというか、無茶苦茶にしてくれるのがこの吸血鬼さまだ。
なんだよ人間種が大好きな魔物種って。
じゃぁ今まで俺たちが倒すべきだ、と思って戦ってきたのは何だったんだよ。
と、なってしまう。
だからと言って、他の四天王もそうなのかと思ってると全然違うので、例外中の例外と思っておきたい。
もっとも。
例外中の例外だから、ここにいるんだろうけど。
「それで、どうやって開くんだ」
セツナが話題を切るようにして聞いてきた。
はいはい、そろそろ進みましょう。
「予想でしかないが、このふたつのタイルを同時に押せばいいんだろう。たぶん」
「たぶん、か」
というわけでみんなの視線はひとつに集中した。
もちろん――
「責任は取りますわよ」
ルビーに、である。
というわけで、いつもどおりルビーを残して部屋の反対側まで避難した。
「押しますわよ~。ごー、よーん、さーん、にぃ~、い~ち……ぜろ!」
今回はやけにゆっくりカウントダウンして、ルビーは隠し扉のタイルをふたつ押した。
すると――
「おぉ~」
ルビーが感嘆の声を漏らす。
「どうなった?」
「タイルが沈み込みました。あ、なんか動いてますね」
無事に何かが作動しているようで、すぐさま罠が発動する様子もなく、俺たちはルビーの元へと移動する。
見れば、確かに二枚のタイルが奥へと沈むようになっており、わずかな駆動音が響いている。
さて、どうなるか。
と、思った次の瞬間には隠し扉のタイル全体が動き始めた。
ガコン、という音と共に左右へと分かれるようにタイルが動き――開いていく。
そのまま次々とタイルが左右に移動して、隠し通路が出現した。
「おぉ~!」
すごいすごい、とみんなで声をあげる。
ちょっとこういう仕掛けはワクワクしてしまうよね。
なにより、勇者はこういうの大好きだったので、同じ扉を何度も開閉して遊んでいたのを思い出す。
扉が完全に開くと、通路を覗き込んだ。そこは同じように白いタイルで覆われており、まるで真っ白な狭く長細い空間が奥へと続いているようだった。
大人ひとりが通るほどの幅しかなく、パルとシュユが並んでギリギリといった具合か。
身長が高いナユタは天井がギリギリかもしれない。
「すぐ行き止まりに見えるが?」
通路を覗きながらセツナが言う。
フロアに続いているわけではなく、行き止まりになっているように見えた。
が、しかし――
「恐らく右に曲がっている」
「ほう、良く分かるな。拙者にはサッパリだ」
「専門家なのでな。罠感知しながら進む」
「うむ。先頭は任せた」
狭い空間なので、俺がひとりで担当するしかないだろう。
ランタンの明かりを掲げながら通路へと足を踏み入れた。やはり狭い空間で、まったく同じようにタイルが反射をしているのは、ちょっとした気持ち悪さを感じる。
それでも慎重に進んで行くと、やはり通路は右に折れていた。
「む」
「どうしました、師匠?」
「この角にあるタイルは触らないように。罠がある」
ちょうど曲がり角の、肩から少し下の当たりに罠が仕掛けられていた。通路の先を覗き込むのに手を添えたくなる場所だ。
それを丁寧に説明して、無事に全員で曲がる。
「うわぁ」
その先は、すぐにまた右側へと折れていた。
「引き返すような形か?」
二回目の角を曲がると――その先はかなり長い通路になっていた。先がどうなっているのかも、ここからでは判断できないほどの長さ。真っ白でランタンを反射するタイルが永遠に続くようで、少し眩暈がした。
「ふぅ」
途中で休憩するわけにもいかないので、ここで一息入れておく。水分補給を兼ねてマインド・ポーションを一口だけ含み、俺は罠感知をしながら進んだ。
「ここ、足元が罠だ」
ひとつ。
「ここ、左のタイルに触れないように」
ふたつ。
「ここは左右の壁と右側の床に罠がある。まっすぐ飛び越えるつもりで渡ってくれ」
みっつ。
「はぁ~……疲れたぁ……」
合計3つの罠があり、俺たちはようやく長い通路の終わりまで来た。またしても右側へと折れている曲がり角。そこを曲がると、すぐにまた右側へと折れている。
「元の向きに戻っちゃいますよね」
「そうなるよな」
パルの言葉にうなづく。
地図から考えてみるに、歩いた分をおよそで計算すると……もしかしたら、開かなかった扉の部屋へと続いているような気がした。
そう思いながら角を曲がると……
「扉だ」
通路にぴったりとハマるような形で扉があった。とりあえず、これで狭い通路が終わりかと思うと安心する。
が、しかし、こういう時こそ危ないのでしっかりと気合いを入れなおして、扉までの通路と扉そのものを罠感知していく。
「さて、問題は――部屋に入る順番だが……」
このまま行くと、俺を先頭にして部屋に入ることになり、陣形がバラバラになってしまう。
「私が先陣いたしましょう」
後ろでルビーが声をあげる。タワーシールドは邪魔になるので影の中に収納しているようだ。
便利だなぁ、影。
だからといって荷物持ちをお願いしたらルビーは絶対に嫌がる。便利に使おうという魂胆には、協力してくれない。なんともワガママなお姫様を相手してるような気分にもなる。
なんて思いつつ、ルビーに突撃役をお願いした。
「できれば完封していてもらいたいのだが?」
「約束はできませんが、努力はしましょう」
この状況では、戦闘準備が整うまで普段の数倍は必要となる。たとえそれが3秒だとしても、致命的になる秒数と言えるので仕方がない。
できればルビーに抑えておいてもらいたいのは、セツナだけが思うことではなかった。
「私、大活躍ですわね」
そう言いながら、モゾモゾと床を這ってくるルビー。どうして足の間から通ってくる。横を通りなさい、横を。
「乙女のたしなみですわ。床を這いずると共に床掃除ができます」
「アンドロさんが泣くようなことを言わんでくれ」
自分の主がゾロゾロと床を這いずりながら掃除をしていたら、たぶんきっと泣く。やめてくださいと、俺でも泣く。
「それでは皆さま、覚悟はよろしくて。もちろん私はよろしくてよ!」
楽しそうに笑いながらルビーはカウントダウン。笑いながら部屋の中に吶喊していった。もう気配察知とか不意打ちとか、そういうのどうでもいい感じですね。
「御覚悟なさいませえええええぇぇ……って、誰もいませんわ」
がっかり、と部屋の真ん中で肩を落とすルビーさん。
「すいません。罠感知するんで、そこから動かないでもらえます?」
「あ、はい」
というわけで、ルビーを部屋の真ん中に残して罠感知。
ようやく広い場所へ出れたらので、みんな大きく息を吐いている。特にナユタは肩がこったようで、腕をぐるんぐるんと回していた。
で、罠感知の結果――
「罠は無し。そして、スイッチが左右の壁にあった」
「また私の出番ですわね!」
というわけで、いつもどおりにルビーに押してもらう。
「左側のスイッチが月の精霊女王ピュリア、右側のスイッチが光の精霊女王ラビアン、っと」
「書けたでござる」
パルとシュユが地図に記した。
シュユの感覚でも、やはりこの部屋が開かなかった扉の先の部屋ということで、間違いないだろう。
「ふむ、これで全てのスイッチが判明したわけだな」
「あぁ。火から順番に押していき、階段前にあった闇のスイッチを押せば、何かがどうにかなる、はず」
はてさて、何が起こるのやら。
とりあえず押してみて損は無いだろう。
「押して廻るだけでも一苦労だね」
「そうだな。一端地上に戻るのも考えた方がいいな」
確かに。
隠し通路でかなり疲弊してしまったので、できれば充分に休みたいところ。
無理して良いことなんて、今のところひとつも無い。
「転移で戻るか」
「あぁ。でも、その前にその扉は開けておかないか? 確認しておくのも大事だろう」
「おっと、そうだった。鍵でも掛かっているのかねぇ」
みんなで扉を見てみるが、鍵など掛かっている様子はない。
試しに押してみると――
「開くぞ?」
どうなってるんだ?
そう思いつつ、扉を開けると――
「あっ」
扉の奥を見たパルが声をあげる。
そこには……真っ黒なローブを目深にかぶった何かがいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます