~卑劣! 黄金城地下ダンジョン8階・その2~ 7
探索を進めた結果――
下り階段のあるフロアから3つ進んだ先が四角い部屋となっており、そこから左右に扉が分かれていた。
「ひうー」
「パル、ちょっと休んでろ」
「はい~」
弟子を一端休ませておく。
というのも、フロアを移動するごとにそれなりに厳しい戦闘が続くからだ。一応、無傷で倒せてはいるのだが……常に全滅の危機がチラつく戦いとなっている。
一手遅れればフライトカゲのブレスが炸裂するのが良い例だろうか。ひとつひとつが間違えてはならない行動選択の連続となってきている。
気が休まらないというか、なんというか。
隣り合わせの灰と青春とは、良く言ったものだ。
「須臾は大丈夫か? パル殿といっしょに休んでもいいぞ」
「だいじょうぶでござる、ご主人さま。シュユは立派な忍者でござるので」
厳しい修行でこれくらい慣れっこでござる、とシュユは語る。
実際、平気そうなのでシュユの言う厳しい修行が、本当の意味で厳しかったのだと理解できた。
もっとも。
盗賊の上位互換と言われるニンジャが、果たしてどんな厳しい修行をしているのか。
さっぱり想像もつかないけどね。
パルもそれくらい経験した方がいいのか、とも思うが。俺には厳しく訓練する方法が思いつかないし、言ってしまえば現在進行形で厳しい修行中とも言える。
なにせ俺たちが今いるのは、人類未踏の場所をガンガン切り拓いている最中だ。何せ、見たこともないモンスターばかり。魔王領よりも厳しい環境とも言える。
しかし、修行とか訓練ではなく、いきなりの実戦ではあるのでちょっとニュアンスが違うかもしれないけど。実戦に勝るものは無いので、いいだろう。
未知の敵、既知の敵との戦闘経験値も積んでいけるし、罠解除の実績も貯まっている。
盗賊としてのレベルはかなり上がっているはずだ。
充分、一人前と言っても過言ではないだろう。
そもそも盗賊になって一年も経ってないっていうのに。
才能有り過ぎだろ、ウチの愛すべき弟子は。
いいなぁ。
俺も甘やかしてくれる師匠が欲しかった。
できれば年下のカワイイ師匠。
うん。
完璧だ。
やる気が恐ろしいほどに湧いてくる。
どんな修行や訓練でも、平気へっちゃら!
「エラント殿、どうした?」
「いや。俺も少し疲れていたみたいでな。心の休息を取っていたところだ」
「無理はするな。休んでもらっても全然かまわないぞ」
「あぁ、その時は言うよ」
パルが師匠になって、俺にいっぱい優しく盗賊のスキルを教えてくれる妄想をしていました。
なんて言えるはずもなく。
上手くごまかせた。
やったぜ。
尚、こちらをジ~っと見てくる吸血鬼の視線には気付かなかったものとする。
「よし」
と、気合いを入れてシュユと罠感知をしていく。パルはナユタに膝まくらをしてもらっていた。なんかちょっとうらやましい。パルがうらやましいんじゃなくて、ナユタがうらやましい。
「罠は無いな。さて、セツナ殿のお待ちかね、多数決の時間だ」
「ふむ。右か左か二択か……拙者、放棄する。偶数の選択肢に対して、偶数での多数決は同数になってしまう可能性があるからな。リーダーとして甘んじて選択しないという選択を受け入れよう」
ひとりあぶれるのが嫌だから、という理由をもっともらしい言葉で表すセツナっち。
君、盗賊の才能あるよ。
いっしょに勇者を支援しない?
「せーのっ」
というわけで、セツナの合図で指をさす俺たち。
結果、俺とパルとナユタが右、ルビーとシュユが左の扉を示した。
「右でござるね。では、気配察知をするでござる」
特に揉める要素もないので、俺とシュユで気配察知をする。特に物音も何も感じられず、気配は無し。
「パル、いけるか」
「充分に休めましたっ」
「よろしい」
では、と扉に近づきカウントダウン。
ゼロと同時に扉を蹴り破――れなかった。
「なっ!?」
「ふぎゃ!」
そのまま突撃する気まんまんだったルビーが思いっきり扉にぶつかって、悲鳴をあげる。
「なにするんですの、師匠さん! あんまりですわ!」
鼻を思い切りぶつけたらしく、くにくにと指で揉むようにしている。
大丈夫、安心してくれ。
可愛らしい美人のままだ。
「まったくもう。意地悪にもほどがあります」
「違うちがう、開かなかったんだ」
「どういうことですの?」
ルビーが扉を押すが……ビクともしなかった。
「あら、ホントに開きませんわね」
「鍵でも閉まっているのか」
セツナも扉を押してみるが、やはり開く様子はない。
押すのではなくスライドか、はたまた上へ上がるのか、それとも下へと下がるのか。
いろいろやってみたが、開く様子はなかった。
「実は扉じゃないとか?」
パルがそう言って、扉の隣を押してみるが……やっぱり、そんなところに扉があるはずもなく、どうやら完全に鍵がかかっている状態のようだ。
「先に反対側へ進め、ということかねぇ?」
「そうかもしれんな」
ナユタの言葉に肩をすくめる。
仕方がないので、多数決で負けた方の左側の扉へ進むことにした。
もしもこっちの扉も鍵が閉まっているのなら厄介なことになる。
そう思いながら扉を蹴ると――無事に開いた。
いつもどおりルビーが突撃して、前衛組が入り、俺たちも部屋の中に入った。報告が無い、ということは敵の姿は無し、ということ。
「ふぅ」
警戒を解き、一呼吸。
なんだかんだ言って、敵がいなくとも精神的には疲労してしまうな。未だにドラゴンブレスの謎が解けていないのがその最たる原因ではあるが……やはり、召喚士的なモンスターだった可能性が高くなってきた気がする。
いずれ遭遇することを思えば、この緊張感を持続させるのも悪くはない。
酷く疲れるのは、仕方がないし……受け入れるしかないか。
「何も無い部屋だね。スイッチはあるのかい?」
「罠感知するので待ってください、那由多姐さま」
「はいよ。よろしく頼むぜ」
ナユタに応援されて、中衛組は罠感知に入る。今度はパルもいっしょなので、少しは時間短縮ができるだろう。
この部屋もまた四角であり、柱やその他の物は何も無いシンプルなフロアだ。
慎重に罠感知を終わらせると同時に、発見できたのは2つの透明スイッチ。
そして――
「ここ、開きそうでござる」
「あ、ホントだ。シュユちゃんすごい、良く見つけたね」
「えっへん。忍者でござるからな。でもでも、パルちゃんも言われて分かるなんて凄いでござるよ」
「えへへ~」
と、美少女たちが話しているのは部屋の最奥。
わずかながらタイルに切れ目というか、他よりもほんのわずかに隙間がある。それはちょうど扉と同じ大きさをしている長方形であり、開くようになっているのは明白だった。
もっとも。
どうやって開けるのかは、要調査だが。
「ひとまずルビー。スイッチを頼めるか」
「お任せくださいな」
というわけで、透明スイッチを押してもらった結果――
「右の壁にあるのが土の精霊女王ローアランのシンボルで、左にあったのが日の精霊女王フィーリのシンボル……っと」
パルとシュユは地図に書き記す。
予想通りではあるが、やはりシンボルは維持されずにすぐに消えてしまう。順番通りに押していかないと、無意味なのだろう。
「と、なると――この隠し扉が反対側の扉を開く鍵となっているのか」
セツナがつぶやく。
地図を見るに、他に繋がっているような道はなく、未踏破部分で行ける場所はここしかない。
まぁ、他に隠し扉があって見逃しているのなら仕方がないが。
「さてどうやって開けるか、だな」
ひとまず隠し扉部分をコツコツと叩いてみる。その次に壁部分も叩いてみて、音の違いを確かめてみた。
「ふむ。空間があるのは確かなようだ」
あとは開く方法だが……
「ルビー。魔力の流れはあるか?」
「お待ちください。え~っと……ありますわね。わずかですが、流れています。それこそ、髪の毛一本のレベルですわ」
う~む。
これは俺たち中衛ではなく、魔法使いである後衛職の出番となるところだ。
しかし、残念ながら恐ろしいほど片寄っているパーティ構成。
魔法のエキスパートがいない。
「すまん、ルビー。全力を出してくれ」
「師匠じゃ無理なんですか? あと、シュユちゃんとか」
「残念ながら髪の毛一本レベルの魔力を追うのは、俺には無理だ。パルも魔力の流れは見えないだろ? シュユちゃんは見えるか?」
「申し訳ないでござるが、仙術は魔法じゃないでござる。自然現象を利用した、気と神通力とも言われているものでござるよ。シュユも魔力の流れを追うのは難しいでござるな」
つまり。
やっぱりルビーに頼るしかないようだ。
「進むためですので喜んで協力しますが、何かお礼が欲しいですわね」
「いいぞ。なんでもやってやる」
「セック――」
「ごめん、今の無しで」
「チッ」
明らかに舌打ちされた。
怖いです、ルゥブルムさま。
「師匠さんの意気地なし、へたれ、弱虫」
「ごめんて」
「仕方ありません。キスで許してあげますわ」
「う。ま、まぁ……うん、ハイ。がんばります」
「ふひひ。頑張ってください、師匠さん」
ルビーが嬉しそうなので、なによりです。
「笑い方がキモい」
「あなたに言われたくありませんわね、小娘。あなたこそ、しょっちゅうこんな笑い方してますわよ」
「ルビーよりカワイイもん」
「む。いけしゃぁしゃぁと良く言えたものですわ。その口、切り裂いてさしあげます!」
「ふぎゃぁ!? いはいおぉ!」
ほっぺたを両側へと引っ張られるパル。
あぁ~ぁ~、余計なこと言うから。
まぁ、アレだ。
かわいいので、オッケーです。
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