~卑劣! 黄金城地下ダンジョン8階・その2~ 2
オークキングのいた部屋を探索したが、罠やスイッチの類は無し。
まだ転移の腕輪のチャージが終わっていないので、もう少し先へ進んでみることになった。
扉はまっすぐの方向にひとつ。
相変わらず丸い部屋なので、本当にまっすぐかどうかはしっかりと見極めないと大変なことになるかもしれない。
徐々に右か左に扉がズレていて、まっすぐ進んでいると思いきやカーブしていた、なんてことになりかねない。無限回廊かと思われたが、実は部屋がぐるっと円になっていたりしてね。
「問題ないか?」
「大丈夫です、師匠」
「描けたでござる」
地図担当のパルとシュユに任せるしかないが、一応は俺も注意して見ておきたい。
さてさて。
先へ進む扉の罠感知をして、気配を読む。
何も無し。
ドラゴンの気配も無くて、逆に安心だ。いや、不意打ちじゃないだけで扉の先にいてもおかしくはないんだけどね。
未だ、あのドラゴンの謎は解けていない。
気をつけながらも、カウントダウンをして扉を蹴り開けた。
ルビーを先頭にして突入する前衛から報告は――無い。
次いでパルとシュユが入り、最後に俺も中へと入る。
次のフロアも相変わらず円形をしており、特にこれといった特徴のある部屋ではなかったのだが……
「嘘だろ」
ナユタが声をあげた。
俺も同じ気分だ。
なにせ――
「階段ですわね」
地下9階へと続くであろう階段が、早くも発見された。
それとは別に、まっすぐ進む方向に扉もある。
「罠か?」
セツナが警戒するように声をあげ、モンスターがいないことを確認してから盗賊ニンジャ組の俺たちが前へと出た。
階段に気を取られて罠に落とす。
そんな可能性は充分にあるので、敵がいなかったことに感謝したい。
ひとまず俺たちは階段までの足元を罠感知することにした。
結果――
「罠があるでござる」
違和感のある光の反射。
「ほんとだ」
パルも発見した。
「あるな」
なんなら、俺も発見した。
俺たちは同じ場所を見ていたのではなく、同じ列を見ている。つまり、タイルの一列分がまるまる違和感のある反射の仕方をしていた。
つまり、この一列すべてが罠を作動させるタイルということになる。
念のため、他にも罠が無いか確認したあと、前衛組に報告した。
階段から先へ進まないように、と注意したあとにみんなに罠タイル列を見てもらう。
「これは、階段へ進む者を狙った罠か」
違和感のあるタイル列は、それこそ階段の手前にある。階段の先を覗き込もうとするのなら、確実に踏まなければならない絶妙な位置だ。
「それにしては長過ぎないかい? 部屋の端から端までなんだろ」
ナユタの言葉に俺たちは、う~ん、と曖昧にうなづいた。
確かに階段へ降りる者を狙っているのなら、階段部分だけに罠をしかければいい。しかし、罠タイルは部屋の端から端まで縦断するように続いていた。
「戦闘を見越しての設置じゃありませんこと? どさくさにまぎれて踏まさせるのが目的かもしれませんわよ」
ルビーの言うとおりかもしれないが……
「あくまで迷宮にモンスターが発生するのは、後からの話だ。その線は無い」
「おっと、そうでした」
もちろん、昔はここにゴーレムでもいたのかもしれないが。古代遺産的な存在であるゴーレムならば、この迷宮にいたとしても不思議ではない。ストーン・ゴーレムならぬタイル・ゴーレム。あまり強そうな感じではないが。
しかし、そういった守護者的な存在がいる雰囲気はない。
もしかしたら、先に進んだドラゴンズ・フューリーが倒してしまったとか?
う~む?
「なんにせよ、須臾たちは残りの罠感知を進めてもらえるか。拙者らは階段を見ておく」
「待て待て、そっちも危ない可能性があるから、あ~、シュユは階段を罠感知してもらえるか。俺とパルは部屋のもう半分をチェックする」
「分かったでござる」
というわけで、手分けして罠感知をしていくことになった。
「いけるかパル?」
「お任せください、師匠。師匠の秘密もバッチリです!」
「おまえが俺の何を知っている」
「師匠はロリコンです」
「あ、はい」
そうですね、普通は秘密ですものね。初手で見破られた俺が未熟なだけでした。
立派な弟子を頼もしく思いつつ、部屋の中を続けて罠感知していった。
結果。
やはり、それ以上の罠は無く、また他に仕掛けやスイッチなどは見つからなかった。壁や天井もしっかりチェックしたので大丈夫だろう。
「階段はどうだ?」
「少しだけ降りてみたんでござるが……」
シュユちゃんの声は聞こえるが、姿は見えない。
というのも、どうやら階段は螺旋階段のようにカーブしているらしい。そして何より、白いタイルで覆われていた壁は、階段を降り始めてすぐに真っ黒になっていた。光源の明かりはひとつも反射せず、全ての光を吸収しているかのような恐ろしいほどの黒い壁と天井と床。
まるで暗闇の中のようで――ダークゾーンとでも言おうか。
人の姿以外はまったく見えないほど、深い黒色で覆われていた。
「これは……厄介だな」
階段の中腹にいるセツナが苦々しい表情を浮かべる。
壁と階段の継ぎ目が分からないし、ランタンの明かりも反射していない。
こちらから見れば、暗闇にみんなが浮いているようにも見えた。
「そっちの罠感知は終わったのか?」
「あぁ、他に問題はなかった。あの一列の罠だけだ」
なるほど、とセツナは腕を組むようなポーズを取り、口元に手を添える。
考えるべきことはたくさんある。
このまま地下9階へ降りても良いのか、それともこれは罠か。先へ進む扉はあるにしても、火の精霊女王のシンボルが浮かび上がるスイッチは何だったのか。
いよいよもって、迷宮の謎が奇怪になってきた気がする。
何から解けばいいのやら。どの謎を進めればいいのか。
それとも、放置しても問題ないのか。
まったく判断ができん。
「師匠~、ししょ~!」
「どうした、パル!?」
パルが呼ぶので慌ててパルの元へ向かうと、罠のあるタイル列の場所でしゃがみこんでいた。
「そ、そんな慌てなくても」
「あぁ、すまん」
何かパルに問題でも起こってしまったのかと思って、慌ててしまっただけ。
師匠として、ちょっと恥ずかしかったかもしれない。
それはともかく。
「何があった?」
「罠のある列で、この一枚だけ違うんです。ほら」
パルがシャイン・ダガーでタイルの反射を見せてくれる。タイルは一律に同一の物であり、安全な物と罠の物が完全に別物として分かるのだが……
罠のタイルが一列に並んでいる中、一枚だけ安全なタイルが混ざっていた。
「ホントだ」
危険な物の中で、ひとつだけ安全な物が混じっている。
それはどう考えても、『安全』ではなく……何か『意味』がある物ではあるはず。
「何がありましたの?」
「ルビー、押してくれ」
「それは応援という意味の推すでしょうか? それとも物理的な話でしょうか。わたし的にはすでに師匠さんは推していますので、存分に押したい……いえ、お慕いいたしますわ~ん!」
と、飛び掛かってくるルビーを避けた。
避けたはいいが、ルビーがそのまま罠のあるタイル列にダイブしようとしたので、慌ててパルといっしょにルビーを掴んで、思いっきり後ろへと投げ捨てた。
「痛い」
「当たり前でしょ、馬鹿吸血鬼」
「はい、すいませんでした」
素直に謝れるのが偉いと思いますが、こうやって魔王領でもアンドロさんに叱られていたかと思うと、アンドロさんの苦労が如実に伝わってくる。
「いえ、まさかわたしも師匠さんに避けられるとは思いませんでしたので。罠があるので受け止めてもらえるとばかり」
「……はい、すいませんでした」
俺も悪かったです。
止まるものとばっかり思っていたので、マジで突っ込んでくるとは思いませんでした。
反省します。
「それで、どこを押せばいいのですか?」
「これこれ、ここここ」
「新しいニワトリのマネですか、パル。笑ってさし上げればよろしいの?」
「もう~! 真面目にやってよぉ~!」
「あぁ、ごめんなさい! 分かりました、分かりましたからぁ、叩かないでくださいまし」
ムードメーカーが悪ふざけが多いのも問題だなぁ。
暗くなるよりかはいいけど。
「これ、ですのね? 間違いないですわよね? わたし盗賊ではありませんので、あまり違いが分かっていませんが、ホントですわよね? ね? イジメじゃないですわよね? ね?」
大丈夫だいじょうぶ、と声をかけてルビーに謎のタイルを押してもらう。もちろん、みんなで退避済み。
「押しますわよ~。3、2、1、ゼロ」
今回はゆっくりカウントダウンして押してくれたルビー。
「あら。あら?」
なぜか2種類の『あら』という声をあげた。
「どうしたんだ?」
「前の透明タイルを押した時と同じようになりましたが、すぐにシンボルが消えたましたの」
どういうことだ?
とりあえず安全は確かめられたのでルビーの元に集合する。
「こう、押しますわよね」
ルビーがタイルを押すと、すぅ~っとタイルが透明になり、シンボルが表れた。
「闇の精霊女王のシンボルだ」
だが、それはすぐに消えてしまって、元の白いタイルに戻ってしまった。
「火の精霊女王の時は押したら表示されて、もう一度押したら消えたな。今回との違いはなんだ?」
セツナがまたしても口元に手をやる。
更に謎が増えてしまった気分だ。
「火の精霊女王と闇の精霊女王か」
こうなってくるとやはり……
「他の精霊女王のシンボルもありそうだよね」
パルの言うとおりだと思う。
なによりそれは、学園長の言葉にもあった。
「順番でござるね」
そう、それ。
火があり、闇があるのならば。
その間があるのは、当然とも思われたのだ。
「なるほど、順番か」
セツナも分かったようで、うなづいている。
唯一、分かっていないのが――
「なになに、何の話ですの? え、分かってないのわたしだけ? え、え、順番って何の話ですの!?」
学園長の話を聞いてなかったルビーだけが、ひとりで不安になっているのだった。
分かる。
みんな分かってるのに、自分だけ分からなかったら怖いよねぇ。
もしかして、世界で一番頭が悪いのは自分なんじゃないかって。
そう思ってしまう。
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