~卑劣! 黄金城地下ダンジョン8階・その1~ 7
次はどちらへ向かうか。
みんなで指をさす多数決の結果――
「右だな」
「右ですわね」
「右のようだ」
「右でござるな」
「右だね」
右の扉へ進むことが決定した。
「うへへへ」
ちなみに、ひとりでニヤニヤ笑ってるのが俺の愛すべき弟子、パルである。
ちなみのちなみに内訳は、倭国組の三人が右を示し、ルビーが真ん中、俺とパルが左の扉を選んだ。
どうやら俺と同じ結果になったのが嬉しいらしい。
愛いヤツめ。ほっぺをムニムニしてやる。
「きゃぅ。んも~、師匠ったら~」
「うへへへへ」
あ、しまった。
思わずキモい笑いが漏れてしまった。
「これが魔族の定めなのでしょうか。あぁ、ひとり寂しく生きていけと迷宮の神が言っています。あとでぶっ飛ばしてさしあげないといけませんわね」
ルビーはルビーで、ひとりでウフフフフと不気味に笑っている。愛いヤツ……とは言えない怖さがあるので、なんとも残念だ。残念な美少女だ。正確には残念なロリババァか。もうそれは単なるババァなんじゃないか、とも思えてきた。
「さぁ師匠さん。わたしもツンツンしたり撫でたりしてくださいまし」
「なんで?」
「個性的、オンリーワンというところは美的ですわ。他者にはない要素です」
「多数決であぶれただけで個性的とは甘い裁定だなぁ」
まぁ、撫でるけど。
ルビーのサラサラな黒髪を撫でると、なぜかセツナが満足そうにうなづいていた。
多数決であぶれる人生を肯定されて嬉しかったらしい。
苦労してるんですね、セツナ殿。
俺も追放されたのでちょっと分かります。多数決じゃなかったけど。女性陣の独断と偏見で追い出されたんだけど。
あとで一緒にお酒を飲もう。
そう思いました。
さて、いつもの罠チェックを終えて気配を読む。足音も聞こえないし、息遣いも感じない。ましてや衣擦れ音も無い。
もう気配察知をする意味ないのでは、と思ってしまうけど。
やらない時に限って、ということが怖いので永遠にやり続けるしかあるまい。
カウントダウンして扉を蹴破る。
慣れたパターンで突入する前衛組。
報告は――無い。
だが油断することなく俺も次の部屋へと入る。
そこは、四角い部屋だった。丸い部屋ばかりが続いたので、どこか安堵感がある。扉は無く、どうやら行き止まりのようだ。
ただし――
「柱が二本……」
奥に丸い柱が左右に分かれて立っていた。同じような柱は良く見かけるものなのだが、位置が最奥に近いというか、片寄った配置になっているのが、どうにも違和感がある。
普通に考えると柱は天井を支えるものであって、等間隔というか均一というか、なんかそういう感じで立っているはず。そうでなくとも、見栄え良く配置されているのが常だ。
こうもあからさまに奥にズレて設置してある柱があるのが……どこか異様な部屋だった。
「罠か、仕掛けか」
警戒は解かないままセツナがつぶやく。
「確認しないわけにはいかないな」
俺は苦笑するようにつぶやくと、パルとシュユに目配せした。
「はい」
「了解でござる」
いっしょに罠感知してね、というお願い。素直にうなづいてくれる美少女たちの心強さよ。ありがとう、ありがとう。
「いざとなったらわたしが犠牲になる番ですわね」
嬉しそうに吸血鬼が言った。
「うむ。その覚悟や良し」
そんなルビーをセツナが褒めた。
ちょっとびっくりしてるルビーが面白かったです。
いやいや。
そんな感想をのたまう前に、しっかりと罠感知をしていこう。
「柱に気を取られるなよ、パル。足元、天井、すべてチェックだ」
「あ、そっか」
明らかに怪しい柱――に、注目させておいて足元に罠を設置する。今さらそんな罠に引っかかるかよ的な典型的なパターンだが……パルには有効だったみたいだ。
加速的にレベルアップさせた弊害か。
危ないあぶない。
弟子が一気に人類の最先端まで降りてきたので、経験不足が露呈しているような気分だ。
しっかりとサポートしていこう。
いざとなったら頼むぞ、と視線でルビーに訴えておく。
「……!」
何かを理解したルビーは、こくこく、とうなづき投げキッスをくれた。
どうやら全然分かってないようだ。
ちくしょう!
「……よし」
とりあえず床と天井、それから壁を確認しつつ柱へ向かって一歩ずつ確実に進んで行く。違和感を察知できるように、ぼんやりと見てから丁寧さを増していく。
そうやって進んで行くと――柱まで無事に辿り着いた。
と、同時にパルが声をあげる。
「有った」
なにが?
「何でしょう?」
分かんないのか。
とりあえず自分たちのチェックを終わらせてからパルの発見した物を見てみる。それは、柱と柱の中間にある一枚のタイル。
今までは反射の角度が違う物が罠だったのだが……今回のそれは反射ではなく、そもそも材質が違うようだ。
白いタイルではない――冷たい陶器のような物ではなく、ガラスのように透けているような材質に思えた。
遠くから見ると同じ白いタイルで、光の反射すらも模倣されているようだが。
近づいて確認すると、透明なタイルになっている。
「ガラスか……それとも別の素材か。透けている先に何もあるわけではないのか」
透明なタイルの下に見えているのは、白い床……だろうか。特に何か、透けている意味があるようには思えなかった。
だとすると――
罠というよりもスイッチ、か?
「ふむ」
「なんだろ」
「なんでござろうね」
とりあえず、ここまでは安心ということで前衛組を呼ぶ。全員で集まったところで、スイッチらしき物を確認した。
「罠にしてはあからさま過ぎますわよね。むしろ発見してくれ、と言わんばかりです」
「あたいでも見つけられるところを見るに、罠じゃないんじゃないかねぇ」
「そう思わせておいて、罠。という可能性は無いのか?」
セツナの言葉に、それ、と俺は答えた。
「時々、そういうのがある。扉を開くレバーと思って引くと、足元に落とし穴が開いたりな」
もっとも。
それは先に足元を確認しなかったヤツが悪い。
具体的に言うと、レバーに気を取られて足元を確認しなかった俺が悪い。更に言うのなら、俺が足元を確認する前に意気揚々とレバーを引きに行った勇者が悪い。
つまり。
俺は悪くない。
うん。
「とりあえず保留にしておいて、柱をチェックするか」
前衛組に考えるのを任せておいて、俺たち中衛組は左右の柱を調べることにした。
フロアの左右に分かれる感じで立っている柱。デザインは他の部屋にある柱と変わらない。太さも同じくらいで、怪しい部分は無かった。
根本や天井を確認するが、動きそうな気配もない。
柱事態に、何か仕掛けがあるようには思えなかった。
「ということは、柱はこの謎のスイッチの目印……ということか?」
透明タイルは柱と柱の間にある。
その目印になっている、ということは有り得なくは無い。
「天井罠の時も、スイッチはあからさまだったし」
ただし、攻略法が変だったわけで。
しかも天井が下がったのではなく、床が持ち上がっていた、という奇妙な罠。いや、罠ではなく、先へ進むためのスイッチか。
あれほど大掛かりだったのでスイッチが分かりやすかったのかもしれない。
それを考えると、この透明タイルも先へ進むためのスイッチと考えられる……かもしれない。
「ここはわたしの出番のようですね」
ルビーが宣言してくれる。
自分から言ってくれるのはありがたいが……どっちかというと、自己犠牲の精神というより好奇心が勝っているだけのような気がしないでもないが。
いつか身を亡ぼすぞ、吸血鬼。
「その時は一緒に死んでくださいまし、師匠さん」
「断る」
「いやーん」
なんで嬉しそうなんだよ。
はぁ~、と息を吐いてからルビーの頭を撫でる。
「気をつけろよ。危なかったら逃げていいんだからな」
「では、無事に戻ったら血を吸わせてくださいまし」
「それぐらいならいいぞ」
「……もっと過激なお願いをしておくんでしたわ」
残念。
もうお願いは決定されました。
「たとえばどんなの?」
「よくぞ聞いてくださいましたパル。そうですわね、血を吸う位置を肩や指ではなく……あそこ?」
ひぃ!?
なんて恐ろしいことを提案するんだ、この悪魔め!
俺とセツナが悲鳴をあげて内股になり、股間を手でおさえました。
「……冗談ですわよ?」
「マ、マジで頼むからやめてください」
「そんなに?」
セツナ殿といっしょに、俺は全力でぶんぶんぶんぶんと首を縦に振りました。
恐ろしい。
これほど恐ろしい吸血方法があっただろうか。
改めて吸血鬼の恐ろしさを再認識したのだった。
「加減してやれよ、吸血鬼」
「いや、まさかそこまでとは……ナユタんはしっぽから血を吸われても平気でしょ?」
「ナユタん言うな。怪我をすることなんてしょっちゅうあるからなぁ。おまえさんに血を吸われるのはイヤだが、あそこまでの拒絶な無いな」
「ですわよね。おっぱいから吸うようなイメージと言いますか……それと同じような感じと思いましたが。違うんですねぇ~」
女性陣が、ほへ~ん、という感じでこっちを見てる。
いや、俺たちの下半身を見てる。
ちょっと興奮するので、やめてもらっていいですか?
「師匠は見られると興奮する」
「ご主人さまもそのようでござる」
パルとシュユが、うへへ、ふひひ、と笑った。
何するつもりですか、やめてください。
「と、ともかく。血を吸うなら上半身にしてくれ」
「足の指はダメですの」
想像した。
えっちだった。
「ダメ」
「ふふ。いつか許してくれる日を心待ちにしておりますわ」
想像したのがバレたらしい。
ぐぬぬ。
「それでは押しますわよ」
ルビーをひとり残して、俺たちは部屋の入口付近まで下がった。それを確認してからルビーが合図を送る。
「頼む」
警戒をしつつ、ルビーにカウントダウンしてもらった。
「321――」
はやいはやいはやいはやい!
ちょっとは間を取りなさいよ!
と、そんなツッコミを入れるヒマもなく――
「ゼロ!」
ルビーは高らかに掲げた右手の人差し指を床にある透明タイルに叩きつけた。突き指しかねない勢いに見てるこっちが怖い。
カチリ、というわずかな音が響く。
どうやら本当にスイッチだったようで、何かが駆動する音が聞こえた。
何が起こっている?
少なくとも部屋の中に変化は見られない。
だが、ズシーン! と、大きめの音が遠くから聞こえた。
方角的に――左手側。つまり、さっきの扉が3つあった部屋のまっすぐへ向かう方角か。そちらの方から大きな音が聞こえた気がする。
他に何か変化は見られない。
罠ではなく、やはりスイッチだったようだ。
「ちょっと来てくださいまし」
ほう、と胸を撫でおろした時、ルビーが呼ぶ。
「どうした?」
「スイッチを見てください」
どうやらスイッチ側にも何か仕掛けがあったらしい。
俺たちはルビーの頭の上から、スイッチを覗き込むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます