~卑劣! 黄金城地下ダンジョン8階・その1~ 5
前回の探索で引き返した場所。
そこを越えた先は――残念ながら行き止まりの部屋だった。
しかも待っていたのは、またもやミノタウルス。
「うるああああああああ!」
と、全員で飛び掛かって倒したのは言うまでもない。
いきなり全力攻撃である。
俺の攻撃が当たらずとも、誰かの攻撃が当たるはず。今までの戦闘経験がこれでもかと活きている方法ではあるが、あまり推奨はされないな。
と言っても。
戦士2、サムライ1、盗賊2、ニンジャ1、なんていうパーティはそもそも有り得ないので。
全員で全力攻撃なんていうパターンは俺たちにしか無理な芸当か。
「はぁはぁはぁはぁ……ふぅ~」
パルやルビーに指一本触れさせてたまるか、と思うとついつい気合いが入ってしまう。
「むしろ、気合いが入り過ぎでは? 皆さま冷静に対処しないと、いつか指一本どころかおちんち――」
「言わせねーよ!?」
ルビーがお下品な冗談を言おうとしたので、絶叫ツッコミをしてしまった。
げほげほ、と咳き込んでしまう。
息切れ時に全力でツッコミを入れさせるのはやめて欲しい……
「せめて指の数を増やせよ、吸血鬼」
呆れた感じでナユタが苦笑している。
「それはそれで、えっちですわよナユタん」
「なんで!?」
ナユタんはびっくりしてるけど……ナユタん以外の全員で、うんうん、とうなづいた。
「え、えぇ~……そうなの? え、どういう意味? ちょっと後で意味を教えてくれ須臾」
「分かったでござる」
そんな様子を見て、ウブですわね~、とルビーが喜んでいた。
吸血鬼に餌を与えないでください。
まぁ、それはさておき――
「地図は描けたか?」
「はい、師匠」
パルが描いていた物を見せてもらう。どうやら分かれ道、というか、別れ扉というか、その部屋を中心として、部屋の配置は対称になっているようだ。
「ドラゴンズ・フューリーが正解ルートだったみたいだな」
俺のつぶやきにセツナは肩をすくめて苦笑する。
もっとも――
「こちらにも踏破に必要な何かがあるかもしれない」
7階層では大掛かりな仕掛けを解いて進まないといけなかった。それが更にパワーアップしているのが8階層、と考えられなくもない。
行き止まりのフロア、と言えどもしっかりとチェックしておくべきことは確か。
「地図が描けたら、くまなくチェックだ」
「はい!」
「了解でござる」
盗賊ニンジャ組で部屋の中を罠感知する。
幸いにも罠の類は無く、危険は無い様子。そこまで確認できたら、今度は全員で部屋の中を探索した。
丸いフロアに隙間なくピッタリと白いタイルが貼られている。
それらは完全に同一で、ランタンとたいまつの明かりを個体差なく反射していた。
つまり――
「何も無い、か」
今のところ、得られる物は無し。
もしかしたら見落としがあるかもしれないが……全てのタイルを押していくわけにもいくまい。
「わたしなら出来ますが?」
なんでこういう時だけ協力的なんだろうな、ルビーは。
まぁ、罠が発動するのが面白いと思っているんだろうけどさ。
「……じゃぁ、やってもらえるか」
セツナのお願いに、えぇ、とうなづいたルビーはフロアの中央に立つ。そのまま両手を広げるようにして自分の影を無数に伸ばして、タイルにタッチしていった。
「きもちわるっ!」
「聞こえていますわよ、おパル!」
「だって、ホントに気持ち悪いんだもん!」
うん。
分かる。
俺も思ってしまった。
気持ち悪い、と。
無数のうにょうにょがルビーの影から飛び出してきている感じ。せめてウニみたいにトゲトゲであってほしい。
なんでわざわざ柔らかそうなのにしたのさ……
「思ってても本当のことは言わないものですわ。それが大人というものです!」
「あたし、子どもだもん」
「そうでした」
納得しちゃった吸血鬼。
それでいいんだ……チョロ過ぎない……?
お菓子だけで誘拐できそうな勢いだ。
「とりあえず、全てにタッチしましたが。ホントに何も無かったみたいですね。残念ですわ~、はぁ~。ふぅ」
ルビーはそう結果報告してくれた。
しかし――
「いや、疲れてるじゃないか!」
ナユタがスパーンとルビーの頭を叩いた。
「ふぅふぅ、問題ありません。い、今まで使ったことのないくらいに細かく影を分断しましたので疲労しただけです。しかし、経験が活きましたわ」
「経験?」
俺が聞き返すと、ルビーは嬉しそうに答えてくれる。
「魔導書『マニピュレート・アクアム』で水を雨のように操ってぶっ倒れましたが。あれが無ければ今回も危なかったです」
「無茶をするな、無茶を」
「吸血鬼も成長する、というところを見せなければなりませんので!」
いや。
成長されても困るんですけど。
あ、いえ、肉体的な意味ではなく、魔王直属の四天王『知恵のサピエンチェ』的な意味で。
つまり、他の四天王も成長するっていうことですよね?
ノンキに十数年をかけて旅をしている場合じゃなかったってことか、勇者パーティ!?
「う~ん」
微妙なところ。
先代勇者は闇の精霊女王の加護を受けていた。
つまり、闇における加護がより強く発揮されるということで、魔王領に必要最低限の状態で送り込まれたということになる。
もちろん、これは闇の精霊女王の怠慢ではなく、それなりに理由があってのことなんだろうけど……結果として、俺の友人が勇者となっているわけで、失敗だったと言わざるを得ない。
しかし、だからといって光の精霊女王の加護のもとに、ねっちりもっちりかっちりしっかりと修行の旅を続けた結果、俺たちは年を取り過ぎたわけで。
残念ながらエルフでもドワーフでも妖精種でもない俺たちの肉体ピークはすっかり過ぎてしまっている。
勇者がエルフであれば問題なかったんだけど。
残念ながら、投擲と持久力が秀でているだけの普通の人間種。
いわゆる定命の者だ。
結果として、時間遡行薬のおかげでそれをカバーできたのだが。
あれは偶然だったはず。
もしも、時間遡行薬が光の精霊女王ラビアンさまが仕組んだ『運命』だとするのならば。
それはあまりにも荒唐無稽だろう。
運命を自由に操るのは神さまにすら不可能なこと。それこそ『運命を司る神』ですら、成し遂げていない、世界改変だ。
そんなことができるのであれば、とっくの昔に魔王は倒せている。
いや。
魔王すら生まれていないはず。
今代の勇者の失敗は、偶然にも帳消しになったので。
そのあたりは、ラビアンさまに褒めてもらいたいものだ。
「――!?」
「どうした、エラント殿? なにか罠でもあったか?」
「いや、なんでもない」
ホントに褒められたのでびっくりしただけです。
うわぁ。
マジでこんな地下ダンジョンの奥深くからでも声が届いてるんですね……そういえば神さまにも声が聞こえてるんだっけ。あんまり文句とか言えないなぁ。
いや、ラビアンさまに文句なんてひとつもないけどね。
きっとアウダが勇者に任命されていなかったら、俺たちは今でもジックス街の片隅でつまんない人生を送っていたはずだ。
冒険者になっていればまだいい。
俺なんて、ひっどい盗賊になっていそうだ。いや、盗賊以下のチンピラになっている気がする。きっと盗みやスリなんかで日銭を稼いでいるに違いない。
なんて考えていると気分が落ち込みそうだ。
やめておこう。
うん。
いやぁ~、パルはカワイイな~。
好き。
「なんですか、師匠?」
「好き」
「えへへ~、あたしも」
お互いに視線を合わせて、にっこりと笑った。
しあわせ。
ここで死んでもいい。
ありがとう、勇者アウダ。今までの人生、とっても楽しかったです。先にラビアンさまの元へ行きますので、世界を救って、おまえがしあわせなお爺ちゃんになってみんなに見守られながら老衰で死んだあと、いっしょに向こうで酒を飲もう。
「ほら、置いていきますわよボケ師弟」
「おっと」
「あ~ん、待って待って」
師弟の愛を確かめ合っていたら置いていかれそうになった。
いや、転移の腕輪を持っているのが俺だけなんで置いていかれないだろうけど。でも、置いていかれたら泣いちゃうので、やめて。
パーティを追放されるのは一度で充分です。
「とりあえず中央の部屋まで戻るか」
地図を見てセツナが言う。
今のところ、分かれ道はひとつだけ。
部屋の中にふたつの扉があった場所まで戻ることにした。
もちろん、引き返すにしてもまたモンスターが現れる可能性がある。これに関しては、ルビーが以前に言ってた『並行世界』の話で納得できるものであるが。
「通った道は、世界が固定されていて欲しいものだ」
その文句を誰に言えばいいのやら。
今となっては、管理者すらいなくなった地下迷宮。誰一人として踏破できていないのだから、仕方がない。
幸いなことにモンスターと出会うことなく分かれ道ならぬ『分かれ扉』のある部屋まで戻ってきた。
もしかしたら、ある程度は世界が固定されるのかもしれないな。
と、思いつつもドラゴンズ・フューリー達が向かった扉をチェックする。
「罠無し」
一応はチェックしておかないとね。
加えて、気配察知。
俺とパルとシュユの三人で、扉にピトっと耳を当てる。
扉の向こう側に気配は――感じらない。
こうなってくると、もう祈るのみでしかないんじゃないか。なんて思いつつも、カウントダウン。
更に連携に磨きがかかってきた感じがある。
前衛と後衛がよどみなく部屋の中に入り、最後に俺が部屋へと入った。
報告がない。
ということは――敵はいないのか。
そう思ったが、違う。
「厄介だな」
部屋の中には無数の柱が立っていた。
今までは多くても部屋の壁に沿って立っている程度だったのだが、この部屋は違う。丸いフロアの中に、等間隔と言えるほどにびっしりと柱が並んでいた。
思わず何か重い物でも支えているのか、と天井を見上げるが……特に変わった様子はない。
ただただ単純に物陰が多く、死角だらけの部屋になっていた。
むしろ、部屋の大きさに対して柱が多すぎるので、狭くも感じる。オーガ種やミノタウルスなんて、ぜったいにこの部屋にはいられないだろう。
「絶対になんかいそうだねぇ」
ナユタが嘆息混じりに言う。
俺も同意見だ。
これほど不意打ちがしやすい場所は無い。
おあつらえ向け、というわけだ。
ただし――
「盗賊にとっても好都合だ」
「何か対処法でもあるのかい?」
もちろんだ、と俺はうなづく。
「ちょっとそれを貸してくれ」
俺は仲間からそれを借りると。
アレをよく見といてくれ、と声をかけて――実行に移すのだった。
俺とセツナは視線を合わせ、肩をすくめるしかないのだった。
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