~卑劣! 黄金城地下ダンジョン8階・その1~ 4
卑劣で外道で強姦魔なモンスター、ミノタウルスを倒した俺たちは、先へと進む。
しかし、気になることがあったのでルビーに聞いてみた。
「さっきのミノタウルス、強くなかったか?」
「それは下半身的な意味でしょうか?」
「……本当にそういう意味で俺が聞いたと思うか?」
「すいません、真面目な話でしたか。強く、とはどういう意味ですの?」
あぁ、こっちの話が通じていなかったのか。
「すまん。何度かミノと戦ったことはあるんだが、さっき戦ったヤツは体力が多かったというか、防御力が高かったような気がするんだ。力量や技というより、単純にタフだった印象がある」
魔王領でもミノタウルスがいるみたいなので、どれくらい強いのか聞いてみたかったのだが。
「単純に個体差ではないでしょうか?」
「いや、それにしては過剰な気がする」
思ったより弱い、のならば色々と説明がつくかもしれないが。
思った以上に強い、というのは中々に稀有と言える。
なにせ、人間種と違ってモンスターが訓練をしているとは思えない。修行を経て、レベルアップしているモンスターなど聞いたことがない。
むしろ『魔物種』という存在を認識した今でこそ、魔物が強くなっていても不思議ではないとは思うが。
逆に、モンスターが強くなっているのは、どこか違和感がある。
「これも迷宮のせいかもしれぬぞ」
セツナが言う。
「外の魔物……いや、モンスターと違って、迷宮のモンスターは金を落とす。外と迷宮内には、明確な違いがある。つまり、エラントと戦ってきたミノタウルスと先ほど戦ったミノタウルスは完全な別物と考えられないだろうか」
「なるほど、確かに」
同じモンスターでも強さが違うのは、どこか納得のできる話だ。
金を落とすモンスターと、魔物の石を落とすモンスター。
同じ条件で発生しているのだろうが、そこに個体差以上の違いがあっても不思議ではない。
「なんにせよ、答えの出ない問題だろ? 考えても無駄じゃないかねぇ」
ナユタの乱暴な話に苦笑しておく。
答えは出ないのは分かっている。
しかし、答えを放棄するわけにもいくまい。
「すまんな。魔王を倒すヒントが得られるかもしれないと思って」
「あぁ、そうか。おまえさんの目的はそっちだったか」
ナユタに納得はしてもらえたが、やっぱり答えが得られるわけではない。
迷宮と魔王。
そこにまったく関連が無いのかもしれないが。
やはり、同種のモンスターが『違う』という事実がどうしても気になった。
いや、考え方が違う気がするな。
どうして魔物種と同じ姿のモンスターが発生するのか?
それが、正しい疑問の形……
なのかもしれない。
「それこそ悩んでいても答えは出ませんわ、師匠さん。ですが、ダンジョンを踏破すれば何か分かるかもしれませんよ?」
「それもそうだな。では、協力してくれるかルビー?」
「む」
俺の言葉にルビーは少しだけ言葉を詰まらせる。
「その言い方は卑怯ですわ。わたしの楽しみが減ってしまいます。面白おかしくダンジョン攻略をしたかったのですが」
「少しだけ『遊び』を減らしてくれ」
はぁ~、とルビーは肩をすくめて息を吐いた。
ごめんね。
でも、協力して欲しい。
「分かりました。サムライのためではなく師匠さんのためであれば、やぶさかではありません。お手伝いしますわ」
「ありがとう」
と、俺はルビーの頭を撫でた。
「子ども扱いされているように見えるのだが、おまえさんはそれで満足なのかい? あたい達より遥かに年上なんだろ?」
「年齢は関係ありません。女の子は一億年生きようとも乙女なのです。ナユタんも師匠さんに撫でてもらえば分かりま――今の発言は撤回します。師匠さんに惚れてしまっては一大事ですわ。これ以上ライバルを増やしてたまるもんですか」
「惚れん惚れん。あたいは簡単に人に惚れんよ」
今……変なところでフラれなかった、俺?
いや、別にナユタんに好きになってもらえなくてもマジで全然大丈夫なんだけど。
それでも何というか、魅力がない、と言われているような気がして、ヤダ。
やっぱり純真無垢な少女がいい。
12歳以上はダメだな、ダメだめ。
爆ぜろリア充、弾けろババァ。
世界はかわいい少女のためにある。
うむ。
「なんか師匠が満足そうにうなづいてるよ」
「きっと良いことでもあったのでしょう。そっとしておきなさいな、正妻さん」
「はーい、愛人1号さん」
という会話を聞きつつ、先へと進む。
次の扉の先に、カウントダウンと同時に突撃した。
「敵、2」
セツナの報告を耳にしつつ、中へ入る。
そこには人型の敵――オーガ種が待ちかまえていた。
オーガ種というくらいなので、オーガにも様々な種族がいる。一本角や二本角、額に生えていたり、頭の上に生えていたり。
そんなふうに、オーガと一言でいっても様々な姿がある。
加えて、肌の色も千差万別。
人間種でも色白の者から色黒の者がいるが、オーガ種はそれを遥かに越える様々な肌の色をしており、緑や青、赤、黒、などなど。この世に存在するあらゆる色の肌をしている。
なので。
もしもオーガ種が2体いたとしたら、大抵は角も肌の色も違うことが多い。
しかし、目の前にモンスターとして立ちはだかったふたりのオーガ種は、まったくの同一の容姿をしていた。
額に突き出た真っ赤な角は大きく、肌の色は深い青。
部屋を埋め尽くすような錯覚に陥りそうなほどに大きな肉体を誇示するように、2体の敵は拳を振り上げ、同時に振り下ろしてきた。
息の合った攻撃。
まるで――
「ふたごですわね」
というわけで、識別する方法が不可能。暫定的にオーガAとオーガBと呼ぶことにするが、Bの攻撃をルビーがアンブレランスで受け止めた。
いや、傘の角度を使って、攻撃を上手く反らしている。
本来の使い方だ。
逆にいうと、それをやらなければアンブレランスが破壊されていた可能性がある、ということだろうか。
一撃でも喰らってしまうとヤバそうな攻撃。
それを避けつつ、前衛組のセツナとナユタがバラける。同時に、俺とパルは床に叩きつけられた拳に向かって短剣を振りぬいた。
「くっ」
「かた!?」
まるで『柔らかい金属』に刃を当てたような手応え。七星護剣やシャイン・ダガーであっても、簡単には攻撃が通らないらしい。
「ルビー、Bは任せた!」
「了解ですわ! ……B?」
あ、ごめん。
俺の中で勝手にBって呼んでただけで、共通概念じゃなかったですよね。でもまぁ、空気を読んでください、頼みます。
というわけでルビー以外のメンバーでオーガAを相手にする。
剛腕を振り回すように、横薙ぎに振るわれた腕を避けて、俺とパルは後退した。その間に両サイドに移動していたセツナとナユタが攻撃を仕掛ける。
「はっ!」
「そらよ!」
仕込み杖と赤の槍。斬撃と突きを喰らっても、オーガは怯むことはない。ダメージは受けているが、致命傷には程遠いようだ。
なにより、安易な攻撃をすると手痛いしっぺ返しを喰らう可能性がある。
つまり、隙が無い。
そう。
単純に――強い!
「ふぅ」
息を吐き、集中力を高める。
盗賊スキル『無音』に至る前の段階に留めておく。過集中の『無音』では、音が聞こえなくなるので命令や連携に齟齬が発生してしまう可能性があった。
「パル、柔らかい部分を狙え」
「はい」
相変わらず、愛すべき弟子が優秀だ。
俺が十歳のころ、こんなオーガに出会ってみろ。全力で逃げる算段を整えるところだ。
勇気がある。
まるで勇者だな、パルは。
「隙を作る」
魔力糸を顕現させると同時に投げナイフに通す。それを投擲してオーガの気を、俺へと引きつけておいた。
だが、その攻撃はフェイント。
相手に届く寸前にナイフに繋がる糸を引いて停止させた。
不可解な一手。
それは混乱を招く。
思考できる知能があるのなら、尚の事。
だからこそ、俺の攻撃は賢者や神官にこう言われたのだ。
「卑怯」
と。
想定の範囲外に、身体は瞬時にも硬直してしまう物だ。
そして、その隙を逃さないのが倭国組でもある。
セツナとナユタ、前衛組の攻撃。
杖の刃は脇腹を切り裂き、槍の一撃は太ももを穿つ。かなりのダメージが入ったが、それでもオーガは倒れない。
「アクティヴァーテ」
反撃してこようとしたオーガの動きをパルが止めた。
マグ『ポンデラーティ』の効果で、オーガの動きが鈍くなる。
「素晴らしい一手だ」
俺はほんの少しだけ遅くなったオーガの腕をかいくぐり、懐に侵入する。必死の距離の内側は、必殺の距離となる。
七星護剣・火。
最短距離でそれを振るい、オーガの喉を切り裂いた。
「がふ」
血と息を漏らすオーガ。
思わず呻く巨体の動きが止まったところを、ニンジャが動いた。
「トドメでござる」
七星護剣・木。
武骨なまでの超大剣を軽々と振り下ろし、オーガごと地面へ叩きつけた。ヅダン、という衝撃がフロアの空気を揺らし、オーガAを倒したことを伝える。
「よし!」
Bはどうなった、とルビーを見れば。
「楽勝ですわ」
倒れ伏したオーガの上に優雅に座ってこちらを見学していた吸血鬼さまがいた。
どうやら影で拘束しているらしい。指先が動いているだけで、あとはピクリとも影を動かせていなかった。
こちらのオーガを倒したのを確認すると、ベキベキと音がなる。まるで無理やり影の中に引きずりこむような感じで、オーガの姿が消えていった。
えぐいトドメだなぁ。
「わたしが本気を出さずとも、まだ大丈夫のようですわね」
「それを確認していたのか」
「まだまだ遊び盛りですもの。飽きるまでは楽しみますわ」
ふふん、とルビーは笑う。
あくまでも、飽くまでも、悪魔でも、最後まで楽しみたい。
ということか。
さすが、退屈に殺されただけはある。
「次はどんな楽しみをくださるのでしょうか。見たことがない相手だと、更に楽しいのですが」
オーガの残した金を拾い上げ、うふふ、とルビーが笑う。
俺とセツナは視線を合わせ、肩をすくめるしかないのだった。
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