~流麗! 吸血鬼、褒めてあげる~
ネックレスをユニーク魔法で『鑑定』した結果。
ぶっ倒れてしまった獣耳種の神官ちゃん。ワンちゃんの耳が垂れ下がっているような感じのまま、運ばれていきました。どことなく、しっぽも元気がないようでした。
気絶しているので当たり前ですけど。
「マインド・ダウンですね……しかも重度の」
鑑定魔法『アエスティマテオネ』。
複雑な物ほど消費魔力が多くなる魔法らしく、物によっては数日間は魔力が回復しなくなる。
その消費に合わせて鑑定値段も上がるのですが……
一瞬で意識を失わせる程度の魔力消費だった、と。
皆さまがフルプレートの鎧に期待しているので、そっちばかりに意識がいってしまい。
ネックレスは、完全に装飾品扱いでしたわね。
「お待たせしました。先ほどの神官と代わり、私が対応しますね」
どうやら神官長と思わしき初老の女性がやってきました。
ちょっと、おっかなびっくりという感じでネックレスを持ち上げています。
呪いの類では無さそうですが。
どう考えても呪いのアイテムを持ち上げる仕草です。
仕方ないですよね、それも。
「神官がぶっ倒れてしまった場合、おいくらになるのでしょう? と言いますか、むしろお見舞い金を払うべきですか?」
その質問に神官長は渋い顔をする。
「今まで前例がありませんので、予想も付きませんね。ごめんなさいね、プルクラさん」
「あら、わたしの事をご存知なんですのね」
もちろん、と神官長は苦笑しました。
「有能な冒険者の噂は自然と流れてきます。駆け足でダンジョンを攻略する凄いパーティだと聞いておりますが……まさか、こんな一品を持ち込まれるとは、夢にも思っていませんでした」
「わたしもここまでの物だとは。夢で予行演習しておきたかった気分です。ところで、鑑定結果は分かる物なんでしょうか?」
気絶させておいて、鑑定結果は分かりませんでした。
なんて言おうものなら、わたしが知識神をぶっ倒しに行きますので。
えぇ。
いっしょに殴りに行ってくださるのであれば、止めはしません。
ヤーヤーヤー、と叫びつつ天界へ行こうではありませんか。
「倒れたあの子が認識していると思いますが……目覚めてからでないと聞けそうにもありませんね……」
申し訳ありません、と神官長はあやまる。
「いえいえ、あなたが謝る必要はありませんわ。すべて、こんな物を迷宮に置いていったダンジョンの主が悪いのです。もしくは、宝物庫に仕舞い込んでいた大昔の王族の仕業でしょうか」
鑑定結果が遅くなったせいで迷惑を受けることはありませんし。
この程度で怒るほど、冒険者の心は狭くありません……と、願いたいですわね。
おうおうおう、鑑定結果がすぐに出ないとはどういうことだ、ああん?
あの姉ちゃんがワザと倒れたわけじゃねぇだろうな。
ふん、ちょっと調べさせてもらうぜ。
ぐへへへへ、身体の隅々まで、きっちりチェックしねぇとなぁ~。
「――なんて展開はありそうですが」
「はい?」
「いえ、なんでもないです」
仮面で覆われていない方のほっぺたを、わたしはムニムニと触った。
ゆるんだ顔を見られるのは大丈夫ですけど。
勝手な妄想でニチャニチャ笑いだす顔を見られるのは、ちょっと恥ずかしいです。
「どうしましょうか。あの子が目覚めるまで、こちらで預かっておきましょうか。それとも、プルクラさんが持っています?」
「呪われているかどうかも分からないんですのよね」
「はい」
神官長は申し訳なさそうにうなづく。
なんでも、この世には一度装備すると外せなくなる装備品があると言われております。
一般的にそれを『呪い』と表現したそうですが……実際に本当の『呪い』かどうかは微妙なところらしいですのよね。
なにせ、呪術は存在しているのかいないのか、微妙なところ。
ときどき魔物が使う魔法を呪術と言っていることもあるのですが、実際には違いますし。
むしろ、そういう魔法的なことは専門外なんですのよねぇ。
ですが。
呪いの存在は知っておりますので、装備品に呪いがかけられているかどうか、は微妙なところだと思います。
考えてもみてください。
それが本当に『呪い』であった場合、装備どころか所有しているだけでアウトだと思いません?
わざわざ装備しないと悪影響を及ぼせないのであれば、その呪いは弱い、と言えてしまいます。
つまり、呪いのアイテムとはマジックアイテムのマイナス効果だと考えるべきでしょう。
簡単に言えば、失敗作です。
強い防御力や使いやすさを考えて、身体にフィットするマジックアイテムを作ろうとしたら、身体にフィットし過ぎて外せなくなった……と、考えてみれば分かりやすいでしょうか。
ネックレスも激しい動きで外れそうになることは多々ありますので。
それを考慮しようとしたら、強力過ぎて外せないようになった、という感じ。
まったくもって、加減をしなさい加減を、と叱りつけてやりたいところです。
製作者どこですか?
失敗した物は、きっちりしっかり最後まで見届けて処分しておきなさい!
じゃないと、こんな風に後の世で『呪い』なんて言葉にされてしまうのです。あなたの恥が一生残り続けるんですのよ。
もっとも。
とっくに製作者が死んでいるからこそ、呪いなんて言われているんでしょうけど。
「それでは預かっておいてくださいな。装備したくても、できそうにありませんしね」
もしも太陽神の加護とか、そういう効果があった場合。
わたしだったら、燃えます。
やる気が出る、とかそういう意味じゃなく、物理的に燃えます。
熱くて痛くて全身がバラバラになりそうなほど苦しくつらいので、あんまり燃えたくないんですのよねぇ。
それは人間種も同じでしょうけど。
燃えたくないですもの、誰だって。
でも、どう考えてもこのネックレスは、闇系統の効果があるようには思えないデザインですのよねぇ。明るい感じの、オシャレ感があります。
きっと陽気な人のために作られたネックレスですわ。
そんな気がします。
というわけで、預かってもらっていても問題ないでしょう。というか、神官さんがぶっ倒れてしまうような物ですから、普通に鑑定料は払えないと思えますし。
「いっそのこと売ってもらってもいいかもですわね。恐ろしく値段が高くなりそうですし」
「そう……ですよね」
神官長も否定しようと思ったけど材料がないので仕方がなくうなづく。
苦笑してらっしゃるし、相当な値段になってしまうのは間違いなさそう。
まぁ、よっぽど有用な効果があるのでしたら、みんなで一生懸命にお金を稼ぎましょう。
ふむふむ。
手っ取り早くお金を稼ぐのでしたら……娼婦――いえ、ギャンブルでしょうか。
わたしだったらイカサマし放題なんですのよねぇ。
影を利用すれば、覗き見できますし。何なら、カードをこっそりキープしたり、いろいろできます。
もっとも。
そんなつまらないことはしたくありませんが。
女ならば、真正面から勝負です。
そして、身ぐるみ剥がされて裸にされて、ぐへへへへ、と男たちに慰み物にされているところを師匠さんに助けてもらって――
「お願いします、悪い思い出を上書きしてください。どうか、師匠さんの手で、いえ、師匠さんの身体で!」
「……分かった。全部、俺の色に染めてやる」
「あぁ! 師匠さん! 怖かった、怖かったです~……!」
「大丈夫だ、ルビー……いや、ルゥブルム。愛してるよ、ルゥブルム!」
「エラント! あぁ~、エラント!」
なんちゃって!
えへへへへへへへへへへへ!
「どうしました、プルクラさん。何かお悩みでも……?」
「なんでもありませんわ、ぐふふふ」
「は、はぁ……」
おっといけない。顔を戻さないと。
お顔をムニムニ。
よし、大丈夫ですわ。いつもの完璧でカワイイ美少女、ルビーちゃんです。
「それで、どうしましょうか。もうひとつ、鑑定して欲しいものがあるんですの」
「はい。そちらの鎧ですよね」
神官長ともども、周囲の冒険者のたちもゴクリと生唾を嚥下します。
先ほどのネックレスでさえ、神官が気絶してしまったのです。
それ以上の、大物であることが予想されるフルプレートの鎧。
いったいどうなってしまうのか、想像もできないのでしょう。
「こちら、単なる鎧という可能性はないのですか?」
わたしの言葉に、まさか、と周囲の反応。今まで全身鎧がダンジョンから見つかっていないことあり、普通の鎧だと思うのは、なかなか難しい感じでしょうか。
安易に鑑定魔法を使うわけにもいきませんしね。
「ですが、どうすれば……?」
「魔力の多い者を呼んで参ります。それに加えて、魔力の大幅に貸与できる準備をして――少々時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、もちろんですわ。何か手伝えることがあれば、なんでも仰ってください」
ありがとうございます、と返事をして神官長はイソイソと準備に取り掛かるようでした。
ひとまず、わたしに出来ることはありませんし。
素直に待っていましょう。
ワイワイガヤガガとしているはずの神殿が、なぜかシーンと静まり返ってます。
厳かな雰囲気とは、このことでしょうか。
見てらっしゃいますか、知識神シュレント・カンラ。
ちょっと信者の皆さんが大変そうなので、手伝ってあげてくださいまし。
「なんて言葉は――届いているのか、いないのか」
奥にある彫像は、立派なものですけど。
祈るには、遠すぎますわね。
そんなことを考えている間に、神官長はふたりの人物を連れてきました。
ひとりは男性、もうひとりは女性のようです。
「お待たせしました、プルクラさん」
「いいえ、待っている間も楽しませて頂きました。良い雰囲気の神殿ですね」
「ありがとうございます。今から、鎧の鑑定を始めますが……もしも、同じように気絶した場合は、保護をお願いしますね」
どうやら、それほどの覚悟があるようですね。
「どうなさるおつもりですか?」
「今から三人分の魔力で鑑定魔法を使います。神官魔法『マジカエポテンシエ・トランスレイショ』を使用します」
「マジカエ……なんです、その魔法?」
聞き馴染みの無い魔法ですわね。
「魔力貸与です。対象に自分の魔力を与える神官魔法です。あまり使用の機会がありませんので、知らなくても無理はないですよ」
そんな魔法があるんですのね。
勇者パーティの神官が使っていたかしら? 気のせい? ちょっと覚えてませんわ。
「分かりました。もしもの時は三人が倒れてしまう、と」
申し訳ない、と男性が苦笑する。
しかし、良い覚悟ですわ。
今から気絶するかもしれないことを率先してやってくださるとは。
その心意気や素晴らしい。
これだから人間種は大好きなんです。
「では、始めます」
神官長と視線を合わせて、女性がうなづく。神官魔法『マジカエポテンシエ・トランスレイショ』を起動させました。
一時的に対象に自分の魔力を与える。
そうなると、過剰な魔力が自分の中で暴れまわることになりそうですが――男性はそれを必死で抑え込んでいるようですわね。
素晴らしい。
ですが、長くはもたないでしょう。
合図をするヒマもなく、男性は鎧に向き直ります。
「アエスティマテオネ」
鑑定魔法を起動させました。
どうなります――!?
と、身構えた瞬間に、男性の溢れそうになる魔力がごっそりと消失したのか、楽な表情になりましたが……次の瞬間にはくらりと足元がふらつく。
「またですの!?」
慌ててわたし達は男性を支えますが、その後ろで神官長と女性もフラフラでした。女性というわけで見学していた女性冒険者が支えます。
三人はフラフラになったようですが……気絶するまではいっていません。
通常のマインド・ダウン一歩手前という感じですね。
いえ、通常のマインド・ダウン一歩手前っていう言葉がおかしいんですけどね!?
それはともかく。
なんとか鑑定は成功したようです。
「や、やりました! やってやりましたよ!」
グッと親指を立てる男性神官。
おつかれさまです。
でも、そのポーズは神官らしくないので、ちょっと面白かったです。
花丸をあげたい気分です。
よくできました!
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