~流麗! 吸血鬼、ナンパされる~

「それではわたしは鑑定に行ってきますので。ごきげんよう」


 ごきげんよう、と挨拶を返してくれるルーキー少女たちと別れて。

 わたしは知識神の神殿を目指して歩きました。

 他の神殿では治療やポーションの販売がメインとなっていますが、知識神だけは別。なにせ『鑑定』という素晴らしい答え合わせをしてくださる場所なので。

 これは毒かしら?

 これはもしかしたら素晴らしい薬かも。

 こっちはマジックアイテムだったりして!

 なんていう期待がイヤでもありますからねぇ、ダンジョン内の宝箱からゲットしたものは。


「うふふ」


 徐々に鑑定をするために集まってきた冒険者の姿が目立ってきました。

 とは言っても。


「大物って少ないんですのね」


 ダンジョンの中に出てくる宝箱は、大抵は普通の箱サイズでした。

 フルプレートの鎧なんかを持っている人間種はおらず……むしろわたしだけっぽいですわね。

 ただでさえ仮面で目立っているというのに。

 余計に目立ってしまっているようです。


「ふふ」


 でも、その視線が不快かと言われれば、否です。

 注目されているっていうのは、なんとも嬉しいものですわ。

 この世で一番ひどい行為は『無視』なんじゃないか。

 そう思えてくるほどに、みんながわたしに注目しております。

 あぁ。

 半分だけでも仮面を付けていて良かったですわ~。

 だって、ニヤニヤしているのがバレてしまいますもの。

 うひひ。


「なぁ、あんた」

「はい?」


 なにやら声をかけられましたので、振り返りました。

 そこにはひとりの青年。

 冒険者らしい装備品といいますか、前衛の戦士っぽいですわね。簡易的な胸当てにロングソード。

 今日はダンジョン攻略をお休みして、休日の散歩中という感じでしょうかね。

 見た目はそこまで悪くありませんが。

 ん~。

 血の味も普通っぽいですわね。

 師匠さんには遠く及びませんわ。


「なんの御用でしょうか?」


 いわゆるナンパ?

 それだったら大歓迎ですわー!


「すまないが、その鎧を見せてくれないか」

「あ、そっち」

「え?」

「いえ、なんでもありません。鑑定する前の品なのですが、よろしいでしょうか」

「それでかまわないので、ぜひ!」


 何やら訳あり……ではなく、単純に興味がある感じですわね。

 というか、周囲にも同じように視線を向けてくる冒険者がいますが……もしかして、わたしを見てたんじゃなくて、鎧を見てたんですか!?

 えー!


「こ、これはどこで手に入れたんだ?」

「もちろんダンジョンですわ。7階層でしたでしょうか」


 それとも6階でしたっけ?

 興味ないので忘れてしまいましたわね。


「7階から出たのか」


 おぉ~、と周囲でざわめきが起こる。

 いよいよわたしの周囲に人垣が出来てしまい、円形に取り囲まれてしまいました。

 あぁ。

 その視線のすべてを受けるのがわたしではなくこの鎧だなんて!

 嫉妬してしまいますわね。


「それほど良い物なんですの?」

「いや、どちらかというと珍しいんだ」

「鎧が?」


 レアではあるでしょうけど、それなりの数は出そうな気がするんですけど。

 迷宮ってケチなんですか?

 というか、そもそもどこから武器や防具を生み出しているのでしょうか?

 それを考えると怖いんですけど。


「鎧も珍しいんだが、全身鎧……フルプレートなんて滅多に見れないんだ。だから、少し見てみたくなってね」


 なるほど。

 つまり彼らは『冒険者らしい冒険者』というわけですわね。

 それなら納得。

 師匠さんやセツナは冒険者らしくはありませんので、あまり武器や防具に執着や憧れが無い様子です。まぁ、セツナの目的は七星護剣という物なので、剣に執着はあるかもしれませんが。

 それでも、この鎧に何ら反応を示しませんでしたし。

 なんなら装備できない物は無価値みたいな扱いでしたからね~。

 こんな感じで、レア装備品に一喜一憂する可愛らしい姿は、冒険者特有の物です。


「どうぞどうぞ自由に見ていってくださいな。あ、でも鑑定前なので何が起こるのか分かりませんので、身につけるのは注意してくださいね。責任は取りませんから」

「いいのか、ありがとう!」


 わ~、と群がる冒険者。

 なんでしょう。

 それくらいわたしに興味を持ってもらってもいいんじゃないのでしょうか?

 う~ん?


「ねぇねぇ、あなたディスペクトゥス・ラルヴァのプルクラよね?」


 おっと。

 ついには名指しで呼ばれてしまいましたわね。


「はい、そのとおりですわ。気軽にプルクラちゃんと呼んでください」


 と、振り返れば女性冒険者。


「いえ、そんな攻略組の人を気軽に呼ぶわけには……」

「気にしなくてもいいですわよ。明日には死んでるかもしれませんし」

「そ、そんな縁起でもない」


 ろくでもない冗談でしょうけど。

 それが事実なのだから仕方がありません。

 まぁ、わたしは死にませんけどね。


「それで、あなたも鎧を見に?」

「いえ、少し話を聞きたくて……同じ前衛の戦士だと聞いたので」


 なるほど。

 向上心を持った女の子は良いものですわね。

 わたしの支配領にいたのでしたら、是非とも雇ってお城で働かせたいところ。アンドロちゃんも喜んでくれるでしょう。


「ど、どういった訓練を積んだのでしょうか? その……ちょっと、伸び悩んでいて。教えてもらうことは可能ですか?」

「ん~。難しい質問ですわね」


 なにせわたし、ダンジョンでは死ぬ程ダメージを喰らいまくってますので。

 むしろ馬鹿みたいに突っ込んでいますので、ぜんぜん参考にならないと思いますわよ?

 と、答えるわけにも行きません。

 ので。


「特別なアイテムのおかげです」


 わたしは背中から魔導書を取り出しました。

 ぎょ、と驚く女の子。


「このように魔導書を持っています。他にも、この腕輪や指輪など、マジックアイテムの類ですわ。いわゆるチート……ズルをしておりますの」


 もっとも。

 本当の本当にズルい部分は、わたしが吸血鬼というところでしょうけど。

 でもまぁ、種族特性をズルいと言われてもどうしようもないんですけどね。ハーフリングみたいに大人になっても小さくて可愛いのはズルい、と怒ったところでどうしようもないですし。

 なんならあなたも吸血鬼に生まれてみるといいですよ。

 日光に当たると燃え上がって、とても苦しいですけど。

 と。

 そんな嫌味を言うしかないですわよね~。


「……謙遜です。強いからこそ、マジックアイテムを手に入れられたと考えられます」

「ふーん。あなた賢明ですわね。聡明とも言いましょうか」


 ふたつの言葉の違いがどれほどのものか、ハイ・エルフに質問したいところですが。


「わたしに言えることは、その観察眼があれば大丈夫です。あなたは思考をする力がありますので、あとは『視る事』と『観る事』を鍛えれば問題ないかと。そうすれば、おのずと経験を積むことができ、その経験は実力となるでしょう。もちろん、無理は禁物ですわよ。死んだ者より、逃げた者のほうが素晴らしいのですから」


 これは――嘘なんでしょうか。

 それとも普通のアドバイスたり得るのでしょうか。

 微妙なところですわね。


「ありがとうございます!」


 でも、女の子は納得してくれたようです。

 師匠さんなら、もっともっと素晴らしいアドバイスができたでしょうが。

 わたしにはこの程度が限界ですわね。


「さて、そろそろ鑑定に行ってもいいでしょうか……って、ちょっとちょっと盗まないでくださいまし?」


 鎧に向き直ったら、バラバラに見物されていました。

 足だけ無くなってる、とかだったら困りますので全部ちゃんと返してくださいまし。


「な、なぁ、鑑定にいっしょに付いていってもいいか?」

「別にかまいませんよ。止めたとしても、付いてくるでしょ?」


 うへへ、と冒険者たちは笑う。

 まったくまったく。

 かわいい人間種たちですわね~。

 というわけで、わたしを先頭にしてゾロゾロと移動することになりました。ついでですので、鎧を持ってもらい、楽ちんですわ。


「楽ちんのチンって何なんでしょうね?」

「そりゃもうアレに決まってるじゃないですか、プルクラさん」

「ですわよね~」


 げっへっへっへ、とみんなで笑いました。

 心の中の師匠さんとハイ・エルフが、ぜったいに違う、と言ってますが無視です無視。

 馬鹿じゃねーの、と心の中のパルが言ったので、心の中で裸にひん剥いてハズカシメを受けてもらいました。

 げっへっへっへ。

 なんて思っている間に知識神の神殿に到着しました。

 知識神の名前はなんでしたっけ?

 シュレなんとか。

 ま、なんでもいっか。


「こんにちは、鑑定……ですか?」


 神官の獣耳種少女がわたしを見て首を傾げました。


「なんで疑問符が付いていますの?」

「なんだかちょっと、冒険者の姫っぽい雰囲気がしましたので?」


 わたしの後ろを見る獣耳種神官。

 まぁ、後ろにいるのはほとんど男性ですからね。わたしがお姫様扱いに見えても仕方がありませんが……彼らがお姫様扱いしているのはわたしではなく鎧の方なので、なんとも奇妙な状況です。

 たまらなく面白いので、むしろオッケーですけど。


「いろいろと鑑定して頂けます?」

「もちろんです。どうぞこちらへ」


 鑑定品がひとつではないということで、神殿の中へと通される。

 神殿の中は机が並べられており、そこで鑑定をするようですわね。

 ちゃんと奥には知識神の像が立っているので、神殿らしさは感じられます。

 わたしは机の上に瓶やネックレスを並べ、最後に冒険者たちが鎧を丁寧に机の上に置いた。

 お姫様扱いというよりも赤ん坊扱いになった気がしますが。

 これ、結果次第ではガッカリ案件ではありません?

 どうしますの、なんの意味もない普通の鎧でしたら。

 皆さんのため息が怖いんですけど。

 アレですか?

 脱ぎましょうか?

 わたしの裸程度で釣り合うかどうかは分かりませんが、脱いだら許してもらえます?


「では、鑑定していきますね」


 獣耳種少女は祈るようにユニーク神官魔法を起動させました。


「アエスティマテオネ」


 聞きなれない言葉と共に鑑定結果はすぐに出ていく。


「毒ですね。こっちは麻痺毒です」

「予想通りですわねぇ」


 宝箱の罠から外した物ですから、当たり前と言えば当たり前。特に面白味のない結果が続いていきますが、冒険者の皆さんは飽きていない様子。

 むしろ前座のような扱いでしょうか。

 そして、次はネックレスの番になった。


「7階層で出た物です。期待できますわよ」

「それはすごそうですね。では、気合いを入れて鑑定魔法を使います」


 気合いと鑑定に何の関係があるかは分かりませんが。

 その意気込みや良し、という感じです。


「アエスティマテオネ!」


 と、獣耳種神官が魔法を起動したところ――


「――きゅ~……」


 と言って倒れました。

 後ろに、ばったーん、と。


「は?」


 何が起こったのか意味が分からず。

 思わずみんなで倒れた神官を見下ろしてしまいましたが……


「た、たいへんですわー!」


 慌てて救護に入るわたし達でした。

 冒険者の皆さんといっしょで良かった。

 なにせ、応急処置にはなれておられる方々です。

 ひとりじゃなくて良かった~。

 そう思いました。

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