~卑劣! 逆!~

 デレガーザから聞き出した情報。

 地下6階層の、謎の罠。

 その解除方法の別解だった。

 部屋の中には複数の柱にボタンがある。その中から正解のボタンを押せば、進む先の扉が開くというもの。

 正解ではないボタンを押すと天井が下がってきて、いずれ押し潰されるのではないか。

 そんな罠のような、罠じゃないような、奇妙な場所だった。


「あの部屋の先って坂道でしたよね、師匠」

「あぁ、確かに。罠も奇妙なら通路も奇妙だったな」

「何か意味があったってことですか?」

「ふむ」


 普通に考えれば、下り坂になっているということは地下6階だと思っているその深度は地下7階層になっている……ということになるが。


「そこまで深い坂道じゃなかったよな」


 俺の言葉にパルだけではなく、ドラゴンズ・フューリーの皆さんもうなづく。


「なんにせよ、再調査する必要があるみたいだ。情報を横取りしたみたいになってしまうが、先に調査に行っても良いだろうか。何か分かれば必ず報告する」

「なに、攻略したいのはこちらも同じ。気づかいは無用。遠慮なく進んでもらいたい」


 別に競争している訳ではないが。

 しかし、宝物庫に納められているという七星護剣だけは回収したいのがセツナの思いだろう。

 真っ先に持ち帰るのが金の壺だと思われるので、宝物庫に辿り着くのが2番でも問題ないわけだ。

 むしろ、安全に進める二番手を目指す方が良いのかもしれない。

 卑怯だけど。

 先に調査に行くドラゴンズ・フューリーを見送り、俺たちはその場に残った。


「で、どうすんだこいつら」


 ナユタの視線の先にはダイス・グロリオスのメンバー。

 膝をついてルビーに頭を下げた状態で微動だにしていない。恐ろしいほどの忠誠心に見えるが、単なる人形のような物。

 むしろ、意識が消されてるのかもしれない。

 おぉ、こわいこわい。

 俺も一歩間違えればこの状態にされてしまうわけだ。

 なんというか、綱渡り状態だなぁ。

 と、思う。

 いや、ルビーは裏表無く生きている感じがあるので、騙されているとか遊ばれているとか、思ってないけど。

 ひとつ機嫌を損ねただけで殺されるような付き合い方はしていないのだが。

 どうにも、危うい場所に立っている感は否めない。

 俺の血が美味しくて助かった。

 そう思っておこう。


「ん~、ゾロゾロと付いてこられても面倒ですし。わたし達の姿を認識できなくしておきましょう」


 パチン、と指を鳴らすルビー。

 その必要はないのだろうが、その音をキッカケのようにしてデレガーザたちは立ち上がった。


「ん? なんでこんな所にいるんだ?」


 目の前に俺たちがいるのに、まったく見えていない様子。

 いや、見えてはいるんだけど認識できていないのか。


「こんなこともできるのか、ルビー」

「ちょっとした暗示ですわね。自由に命令できるのですから、可能ですわ」


 暗示か。

 どうやら声も聞こえていないようだ。


「それは俺たちにも可能……だよな」

「もちろんですが。師匠さんやパルにはやりませんわよ。こんなことで信頼を失いたくはありません。わたし、これでも師匠さんのことが大好きなので」

「いや、逆だ。ちょっと暗示をかけてくれ」

「はぁ……どんな暗示ですの?」

「全員が幼女に見える暗示」

「却下ですわ」


 なんで!?


「そんなことをしたらわたしやパルだけでなく、ナユタんまで師匠さんが好きになるということでしょ? 冗談じゃありませんわ!」


 俺たちの会話を聞いていたナユタが、ナユタん言うな、と呆れながらツッコミを入れた。


「なんならセツナも幼女に見えますわよ。それでも良いというのですか、師匠さん!」

「むしろ問題ない」


 俺はキッパリとうなづいた。


「男らしい答え! 好き!」


 ルビーに惚れられた。

 やったぜ。


「――ですが、却下です。このサムライをえっちな目で見る師匠さんの姿に、わたしが耐えられませんわ」

「拙者もイヤだなぁ、それ」


 え~。

 いいじゃないかセツナ。

 ちょっとくらい幼女に見えても困ることはないだろうに。


「では、パルに暗示をかけます」

「ふぇ!?」


 ケラケラと笑っていたパルが当事者となったので、びっくりしてる。そんなパルを待つことなく、ルビーは容赦なく指をパチンと鳴らした。


「ふお、ふおおおおおお!?」


 何が見えているのやら。

 パルはちょっと興奮してる様子できょろきょろと周囲を見渡した。


「どんな暗示をかけたんでござる?」


 パルにペタペタと触られながらシュユちゃんが聞く。


「人間種全員、師匠さんに見えるように暗示をかけました」


 あぁ、それでシュユちゃんを触りまくってるのね。


「しかも全裸」


 ガタッ、と俺は立ち上がった。

 いや、ガタッという音なんかしなかったけど。でも、慌てて椅子から立ち上がるイメージで、とにかく俺は立ち上がった。


「つまり、俺にも幼女全裸チャンスが!?」

「そんなに見たいんですの?」


 仕方がありませんわね、とルビーが指を鳴らした。

 すると――


「あれ?」


 何の変化もないぞ、と思ったら……


「ふふ、どうですか師匠さん」

「……ルビーだけ全裸に見える」

「そうでしょうそうでしょう。これで充分ではないですか?」

「……なんか申し訳なく見えるので、服を着てください。風邪を引きそうで見てて怖いです」

「なんでそんな他人行儀ですの!?」


 いや、お願いした手前、なんかこう、申し訳なくて。


「ほら触ってみてください。服を着てますので」

「あ、実際に脱いでるわけじゃなかったな。でもアレだ。まったく集中できなくなるので、やっぱり無しで」

「ワガママですわね師匠さん」

「ワガママじゃのぅ、人間種。妾だから付き合ってやるんじゃぞ、と言ってくれ」

「ワガママじゃのぅ、人間種。妾だから付き合ってやるんじゃぞ、ありがたく思え。久しぶりですわね、これ。あと砂漠の女王に会った後だと、のじゃ言葉がカスミますわね」

「あれとこれは別」

「力強い否定ですわ。どうしたんです、師匠さん。テンションおかしいですわよ」

「……疲れてるのかも?」


 そのようですわね、とルビーは笑った。

 まぁ、そんな感じで中央広場でしばらく休憩する。

 食事を取り、しっかり休憩したところで俺たちも地下6階の罠を確かめることにした。

 ドラゴンズ・フューリーはまだ戻ってきていない。

 もしかしたら迷宮内で会えるか――と、思ったが。


「いないな」


 件の罠の部屋。

 柱が並ぶ部屋に到着しても、ドラゴンズ・フューリーの姿は見当たらなかった。

 それなりの時間が経過しているので、何か新事実を掴んで奥にもぐった可能性もある。

 心配したところで、どうしようもないので、気にしない方向でいよう。


「さて、どうする?」


 俺の質問にセツナは、ふむ、と腕を組んだ。


「危険な行為、ではあるよな」


 間違ったボタンを連打。

 普通に考えれば自殺行為なわけで。

 天井に押し潰されてぺったんこになってしまう可能性が高い。

 というわけで、俺たちの視線は自然とルビーへ集まった。


「なんです? もしかしてわたし、まだ全裸に見えてるのでしょうか? だったら最初から脱いでおけば良かったです」

「脱いだらいいじゃん」

「冷たいですわね、パル。あなたも脱がせますわよ」


 きゃー、とハシャぐ美少女たちの首根っこをつかみ、戻す。


「迷宮内でふざけない」

「「はーい」」


 よろしい、とうなづいてから、正式にルビーに頼む。


「ちょっと実験台になってくれ」

「もちろんです。ぺったんこに潰れたら空気を入れてくださいね」

「どこから入れる?」


 また余計なことをパルが言った。


「下からで!」


 喜々として答える吸血鬼。


「前と後ろがあるでござるが」


 シュユちゃんも余計なこと言った。


「是非、前からで!」


 喜々として答えるアホ吸血鬼。

 俺はパルを、セツナはシュユを、ナユタはルビーを――各々、美少女の頭をペシンと叩いた。


「「「すいませんでした」」」


 可愛いので許す。


「旦那たちがそんな態度だからダメなんだよ」


 何故かナユタんに俺たちまで怒られた。

 すいませんでした。


「では、実験してまいります。あの、実はドッキリでわたしを置いて先に帰る、とかはマジでやめてくださいませね?」

「そんなエゲつないことしない」


 それ、俺でも絶対に泣いちゃうヤツだから。

 パーティを追放されるより酷くない?

 パーティに撒いて置いていかれた、って。


「扉を開けたままで実験しちゃいけないの?」

「……できるのか?」


 パルの一言でとりあえず実験してみたが――


「扉もスイッチのようになっているのでしょうか。何にも起こらないようです」

「そのようだ」


 残念。

 というわけで、ルビーひとりを部屋の中に残し、俺たちは外へ出た。


「いきまーす」


 中から律儀に声が聞こえる。

 しばらく待ってみると――


「成功しましたわ!」


 どうやら無事に潰されることなく罠が解除できたようだ。

 合流するために扉を開けると――


「ん!?」


 目の前が壁になっていた。

 扉の先に部屋が無くなっている。


「なんだこれ!?」


 壁というか、真っ黒な岩が見えている状態。まるで部屋がまるごと消失して岩の中に埋まってしまったような状況だった。


「師匠さん? あれ!? みなさん!? 扉、扉が開きませんわ!」


 ルビーの声は聞こえてくる。

 それは、岩の中からではなく……上方向からだ。


「ルビー! こっちだ! 俺たちはここにいるぞ!」


 大声で呼びかけてみる。


「下から……こっちですの? 床下!?」

「そうだ! 床下なのか……部屋の中はどうなってる?」

「どうと言われましても、え~っと……天井がそれなりに下がってきた状態ですわね。で、進む方向の扉は開いている状態だと思われます。皆さまの扉は開かなくなってしまっていますわ」

「俺たちは扉を開けた状態だぞ?」


 ん~? どういうことだ、これ?


「とりあえず、そっちに行きますわね」


 ルビーは影の中に沈み、岩壁から顔を出した。


「うわ、こうなってますのね」

「ホントに上にいたのか?」

「はい。いつの間にか床が上がっていたようですわ」


 上がっていた……?


「そうか。天井が下がっているのではなく、床が上がっていたのか」


 セツナの言葉に、なるほど、と納得できた。

 天井が落ちてくる罠ではなく。

 床がせり上がる罠だったんだ。

 逆!

 逆だったんだよ!


「……で、それだとどう違うんですの?」

「……どう違うんだろうな?」


 はーい。

 それを今から考えま~す。

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