~卑劣! 黄金城地下ダンジョン7階・その1~ 5
水分消失の罠を見極め。
罠感知のレベルアップを果たした俺たちは。
俺たちは、地下ダンジョン7階の探索を再開した。
「ふぅ~」
ゆっくりと深呼吸してから、俺は次の部屋へ向かう扉をチェックした。
罠は無い。
たぶん。
レベルアップした、なんて言葉で表現したとしても。
きっちり数字で現れるわけではない。
仮に数字で表せたとしてレベル99と100の差は何なのだ、という話になる。100に限りなく近い99の人間に、どうして100のことができないのか。その小数点以下の数字を読み取ってくれない世界など、まさに机上の空論。
学園都市のハイエルフならば――
「人の価値は数字で表せはしない。金額では表せるけどね」
と、のたまうに違いない。
きっと、嬉しそうに俺の値段を見積もるんだろうな。
「不当に高くしそうでイヤだ」
「罠のレベルですか?」
隣で扉を凝視していたパルが聞いてきた。
「うむ。無駄に高度な罠を想定していると、時に単純な罠を見過ごすことがある。初心忘れるべからずだ」
「勉強になるでござる」
シュユちゃんも納得してくれたようで嬉しい。
このパーティではシュユが一番、お金の価値が高そうに思える。
可愛いし、忍者だし。
ちなみに一番安いのは俺だろうなぁ。
才能なんて無く、ひたすら勇者パーティに齧りついてでも付いていっただけの盗賊。
経験だけが無駄に高くて、結局のところ実力はこんな物。
せいぜい『一流の盗賊』であり。
スペシャルな盗賊ではない。
おっと。
いかんいかん。
アホなことを考えてないで罠感知に集中しないとな。
「――とは言うものの、やっぱり分からんな」
タイルの反射で見極める。
そんな高度な判断を覚えた、と言っても。
やはり分からないものは分からない。
「罠は無いと思うでござる」
「あたしもそう思う」
「俺もそう思う」
そうとしか言えないのが、俺の実力不足か、はたまた神レベルの罠なのか。
なんにしても、罠があるようには見えないのだから、仕方がない。
もっとも。
触れただけで発動するような罠は、もともとの管理者でさえ発動させてしまうので、そこまで凶悪な物はないと信じたい。
あくまで希望だけど。
とある部分だけ触れて良くて、他の部分は触ってはいけない――なんて罠は、もうそれは「解除不可能で判断不可能の無慈悲なわけで。
どうしようもないものは、どうしようもない。
なんて思いつつ、扉に近づいてみる。
罠が発動する気配は、無い。
よし。
「ルビー、触れてくれ」
「分かりましたわ。罠にハマったら助けてくださいまし」
もちろんだ、と返事をしてから扉に触れるルビーを見守る。
まぁ、なんの罠も発動することんなく扉に触れることができたのを見るに、罠は本当に無いのだろう。
ふへ~、と後衛一同で息を吐いた。
これから毎回『これ』か~。
尚更、人間種が地下七階から先へ進めていない理由が分かるというもの。
さて、罠の有無も確認できたし。
扉の先、その気配をうかがう。
「む」
何かいるな。
動く気配がするが――息遣いなどは分からないので数も不明。足音も聞こえてこないが、なにか擦れるような音はする。
衣擦れ、ではないな。
何かは分からないが、敵であることは間違いなさそうだ。
俺はいつもの合図を送る。
指を立てて――3、2、1――ゼロのタイミングで扉を蹴り開けた。
突入する前衛だが――
「なっ!?」
「なんだいこりゃぁ!?」
セツナとナユタの声が聞こえた。
不測の事態か!?
と、思って俺も中へと入ると――
「どうなってんだ!?」
俺も思わずそう声をあげてしまう。
フロアの中は、植物で覆われていた。
ジャングルのような状態ではなく、植物が一種類だけ。それもツタのような植物が、タイルも見えない程に張り巡らされており、まるで植物の檻の中に入れられたかのような雰囲気だ。
そんな部屋の真ん中には人がいた。
いや、正確には『人型』か。
ツタが集まるようにして人間のような形を取っている。うじゅるうじゅる、とうごめくように人型にツタが集まっていた。
「なんだこのモンス――うわぁ!?」
見たこともなかったモンスターを警戒するあまり、足元に絡みつくツタに気付くのが遅れた。
絡みつくツタは俺たちの体に巻きつき、縛り上げるように自由を奪われる。
アホみたいに力が強い。
クソ、このままじゃ絞め殺されてしまう……!
「ひ~え~~~、助けて師匠~!」
あぁ~!
パルが!
パルがなんかいい感じに!
あ、違う! そうじゃくって、拘束されてしまっている!
助けないと!
「くっ、油断した」
「なんだいこりゃぁ!? 気持ち悪い!」
「あわわわわ、捕まったでござる!?」
セツナとナユタも拘束されてるし、シュユちゃんも丸見え――じゃなくて、持ち上げられちゃってる!
というか、また部屋全体がモンスターパターンかよ!
ワンパターンでネタ切れか?
「ルビー!」
唯一、無事だったのはルビー。
その足元にはツタが千切れてビクビクと、のたうちまわっていた。
「師匠さん、わたしったら無意識にツタを引きちぎってしまいました……すいません、パルやシュユのようなステキな姿を期待されていたのでは?」
「あとで魔力糸で縛ってやるから、今は助けてくれ!」
「おっほ!」
なにその喜色満面の笑み。
「ルビー殿、須臾を先に!」
「あら。分かりましたわ」
珍しくセツナが声を荒げるように言った。
それに答えたルビーが爪で切り裂くように腕を振るう。
バツン、とバラバラに切断されるツタ。シュユを拘束していたツタはバラバラにちぎれ、その場に落ちた。
着地した彼女を更にツタが襲いかかるが、その前にシュユの仙術が行使される。
「以火行為爆炎・滅(火行をもって爆炎と為す・滅せよ)!」
指で印を結び、呪文のように口訣を唱える。
瞬間――
渦巻くように炎がツタのモンスターを飲み込み、部屋の中を埋め尽くした。
一瞬にして燃え上がる炎に俺たちも飲み込まれる。
ごう、と目の前が火で埋め尽くされた。
焼けるような痛みや、皮膚がこげるような事は無かったが……胸の奥深くまで熱気が入り込み、思わずむせかえってしまった。
「げほっ、げほっ……あぁ、助かった」
全てが一瞬で燃え尽きるほどの、文字通り爆炎。
仙術の炎が消えた後には、モンスターの姿はどこにも残っていなかった。
そのすさまじい威力に、仙術の凄さと忍者の凄さを感じる。
「――ひはー、ひはー、ひはー! ひくっ、ひっ、ひはー!」
「落ち着け、須臾。大丈夫だ、拙者はここにいるからな」
ただ、その代償は大きく。
まるで過呼吸のようにシュユは荒く、ひどく不器用な息を繰り返している。
便利な術、というわけではなさそうだ。
恐らく『奥の手』と呼ばれる類の物だろう。
そうそう連発できそうにもない。
「今のモンスターは何だったんだ? アンブラ・プレントに似ていたが……」
一瞬にして倒せはしたが。
初見のモンスターにしては凶悪過ぎるように感じた。
ルビーの支配領で、勇者と戦士といっしょに対処したアンブラ・プレントに似ているが……また違った魔物であることは間違いない
「魔王領で見たことあります。名前は――忘れました」
「適当だなぁ、知恵のサピエンチェさま」
「モンスターの名前など覚えていても利益はでません。住民の新しく生まれた赤ちゃんの名前を覚えるほうがよっぽど大切です」
「それはその通りなので、文句が言えなくなってしまう」
「さぁ、そんなことより師匠さん! は、はやくはやく、縛ってくださいまし!」
「パル~」
「はぁ~い」
「今から捕縛術の練習をする。俺もスキルレベルまで昇華できているわけではないが、一応は見本を見せられるので参考にしてくれ。もしも本格的に習得したいのであれば盗賊ギルドに行くといい」
「はい、分かりました師匠!」
「ただし男とかえっちそうなおじさんを講師に選ぶな」
「なんか理由が分かります」
だよな~、とパルとふたりで笑った。
「あれ~……なんか違うぅ~……」
そんな俺たちをルビーが首を傾げて見てくる。
さてさて。
シュユが落ち着くまでの間。
ルビーを使って、捕縛の練習をする俺とパルでした。
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