~卑劣! 黄金城地下ダンジョン6階・第2探索~ 2

 次の行き先はふたつの扉のどちらか。

 入口から見て、左と真正面に扉はある。

 さて、どっちへ進むか。

 多数決の結果――


「左ですわね」


 左側に進むことになった。

 また多数決からあぶれてしまったセツナが悔しそうだ。


「ご主人さま、シュユもまっすぐがいいと思ったでござる」

「シュユは優しいな」

「撫でてくれてもいいんでござるよ?」

「む、むぅ……あとで、な」

「むふふ~」


 イチャイチャしてるので、むしろオッケーです。

 うんうん。

 シュユちゃんもパルに毒され――いや、影響されて積極的になったものだ。

 奥ゆかしいニンジャもいいものだが、積極的なニンジャも良い。

 まぁ、ロリっ子はすべて良いんだけどな!

 メスガキだろうとなんだろうと、俺は愛す自信がある!

 断言しよう。

 少女はすべてカワイイ!

 カワイイは正義!


「師匠~、罠とか無いっぽいですよ~」

「あ、うん、はい」


 思考が暴走してたのをパルが引き戻してくれた。

 ありがとう。

 好き!


「ん~? 何か考えてたんですか、師匠。あ、もしかして罠とかあった?」

「いや、問題ない。パルがカワイイなぁ~って思ってただけだ」


 こほん、と咳払いしつつそう答えておく。


「ふ~ん……なんか浮気を隠す人みたい。師匠、浮気したでしょ!」

「なんで!?」


 突然意味もなく褒めるというか、感情を吐露するのは怪しく思われてしまうのか……

 え~、女の子を褒めるって、実はとってもタイミングが重要だったりする?

 難しい……!


「ハイハイ、イチャコラ忙しいパーティですこと。扉の先は通路っぽいので開けますわよ」

「なんで分かんだよ」


 ナユタのツッコミに、ふふん、とルビーは得意げに答える。


「影で見てきました」

「ズルじゃねーか……というか、そんなのできるんなら最初からやれよ……あたいの怪我は何だったんだ……」


 ガックリとナユタは肩を落とす。


「やりませんわよ。イチャイチャして先に進まないので気がはやっただけです。ナユタんもわたしとイチャイチャしてくださいますのなら、守ってあげなくもないですわよ?」

「いらねーよ。ほれ、さっさと進め」

「いやん」


 ナユタにお尻を蹴られてルビーは嬉しそうに扉を開けた。

 その先は本当に通路になっていて、先へと続いている。

 マジでカンニングしてんじゃねーか。

 チートだ、チート。

 これができるんだなら、せめて何階層がゴールなのか見てきて欲しい。

 ……絶対に断られるから言わないけど。

 で、その通路だが。

 ぐるっと迂回するようになっているだけで、結局は元の部屋に戻ってきてしまった。

 まっすぐが正解の道順だったらしい。


「どうりでドラゴンズフューリーの地図が描いてなかったわけだ」


 効率重視だったのか、それとも無駄を省いたのか。

 ドラゴンズフューリーの地図に記されていない理由が分かった。


「後から混乱しないように、必要な部分だけを描いていたのかもしれぬな」

「ちゃんと聞いておけば良かったでござる」


 嘆いても仕方がない。


「どうしますの? 答えだけをたどる作業にします?」

「いや、戦闘に慣れる意味でも全体を見ておいた方がいいと思う」


 ただでさえ五階層をカットしたせいで、敵の強さが段階飛ばしで強くなってしまっている。

 しっかりと戦闘経験を積みたいところ。

 セツナもうなづいた。


「不思議なダンジョンの例もある。まだ何か隠されたものがあるやもしれん」


 地下七階層で足止めをくらっている理由が、この地下六階に無いとも言い切れない。

 踏破済みなのか、それとも未踏破なのかは分からないが、地図の空白は埋めておいた方が良いと思われる。

 もっとも――

 そんなことは攻略組は百も承知だろうが。

 どちらかというと、パルに戦闘経験を積ませたいという理由が大きい。

 ホイホイと地下七階に進んでしまっては、マジでいきなり手も足も出なくなる、なんて事態が待っているかもしれない。

 加えて、勇者パーティに合流するためには、まだまだ経験値が足りていないのは明白だ。どれだけ装備品を整えたとしても、やはり経験が物を言う世界。

 そういう意味を含めて、地下六階ではしっかりと戦闘をしつつ探索していきたい。

 というわけで、まっすぐの扉へと向かう。

 しっかりとチェックして、合図を送って次の部屋へと乗り込んだ。


「敵、クモ5体!」


 セツナの報告に俺は問答無用で七星護剣・火を抜いた。

 クモの敵ということはジャイアント・スパイダーの可能性が高い。というか、それ以外のモンスターであっても、クモの形をしているのなら十中八九、糸を使った攻撃をしてくるはず。

 ならば、火属性は有効に働くはず。


「パル、シャイン・ダガーを抜け」

「は、はいっ」


 カサカサと動く巨大な物体が明かりで見え隠れするが、こっちに迫りつつあるのが分かった。

 というか、5匹って言ったよなセツナ。

 前衛で止められるのは3匹。どうあがいても2匹はこっちで引き受けなきゃならん。


「パル、シュユに付け」

「分かりました!」

「いい返事だ!」


 パルの頼もしい返事を聞きつつ、俺は上を見上げる。

 そりゃクモだもんな、巣を作ってるに決まっている。あまり高くない天井付近に、それこそ敷き詰めるようにして白い粘性の糸が張り巡らされていた。

 そこを逆さになって移動する2匹のクモ。

 複眼でこちらを確認すると、落下するように飛びかかってくる。

 1匹をパルとシュユに任せて、もう1匹を俺が引き受けた。というか、引き受けるしかない。


「やはりジャイアント・スパイダーか」


 クモのモンスターはいくつか知っているが、こいつの種類は目算通りジャイアント・スパイダーのようだ。

 足が長く、動きもそこそこ速い。粘性の糸で攻撃をしかけてくるクモ型のモンスターであり、アグレッシブに襲ってくるタイプだ。

 本物のクモのように巣は作るものの、罠のように使用するわけではない。自らの肉体で獲物を捉え、巣に持ち帰り、拘束してジワジワとゆっくり食べるのが特徴。

 つまり粘性の糸は罠ではなく、檻ということだ。

 是非とも、そんな最期は迎えたくない。


「ふっ!」


 八本の足を器用に動かして近づいてくるクモに投げナイフを投擲する。

 牽制の意味もあるが、皮膚は柔らかいので刺さるはず。

 投げナイフは予想通り刺さるが――この程度で止まるクモではない。

 そのまま俺へと近づいてきて、両の前足を持ち上げた。


「くっ」


 振り下ろされる足を後退して避ける。

 いくら七星護剣が優れた武器でも、防御する力は俺の腕に依存されるわけで。

 戦士ヴェラじゃねーんだ。

 盗賊の俺に受け止められる攻撃なわけがない。

 凶悪な一撃が床に叩きつけられたところで俺はクモの前へステップイン。近づいたところで七星護剣を振り下ろす。

 赤の軌跡を描くように刃が輝き、クモの顔を切り裂いた。

 ごう、と燃え上がるが――それでもクモはまだ死なない。


「っ!」


 振り払われる足を屈んで避ける。

 まったくもって肝が冷えるとはこのことだ。

 俺はそのまま這うようにして前へと飛び込み、クモの真下に滑り込むと素早く体を起こす。


「ふ!」


 そのまま息を吐き、七星護剣を腹の下から刺し込んでやった。

 再び燃え上がるジャイアント・スパイダー。

 さすがに体全体が燃え上がれば平気ではいられまい。

 俺は七星護剣を引き抜き、すばやく離れつつも、ついでに足を切り裂きながら距離を取った。

 そのままジタバタと暴れるようにクモは手足をわちゃわちゃと動かすが、そのまま動かなくなった。

 どうやら無事に倒せたようだ。


「うりゃああああ!」


 一息、呼吸をしたところでパルの声。

 何がどうなったのか見る余裕がなかったんだが――クモの上に乗ったパルがシャイン・ダガーを振り下ろしていた。

 暴れるクモはパルを振り払うように体を揺するので、パルは慌てて跳び逃げる。


「とーりゃぁ!」


 そこへシュユが七星護剣・木を振り下ろした。

 木製の単なる巨大剣のようだが――その一撃でクモは叩き潰されるように床へと沈む。

 剣技でもなんでもない、力任せの攻撃だ。

 ……まぁ、シュユはニンジャなので剣を使いこなしているとは言えないのだが。

 しかし、ニンジャって怖いなぁ。あんな攻撃力あるんだ。すごい。

 とりあえず、後衛は無事。

 あとは前衛の援護を――


「あ~れ~」


 ルビーのマヌケな声が響いた。

 うん、知ってた。

 なんとなく分かってた。

 どうせルビーのことだろうから、やるだろうなぁ、と思っていたので何にも驚かない。


「たーすーけーてー」


 ルビーがクモの糸を受けて、べったりと地面に縫い止められていた。

 このまま放っておけば、ジャイアント・スパイダーにぐるぐる巻きにされて、巣に持ち帰られてしまう。

 ちなみにセツナとナユタはすでに追い詰めている。あと一撃か二撃で倒せるんじゃないかな。


「なにを遊んでいるんだ、ルビー」

「あ~ん、助けてくださいまし師匠さん」

「イヤだ」

「えー」

「行くぞ、パル、シュユ」

「はい!」

「分かったでござる!」


 というわけで、三人で強力してクモを追い詰める。


「トドメは任せてくださいまし! えーい」


 いやいや、平気な顔をして混ざらないでくださいます、吸血鬼さま? いつの間に糸から脱出したんですか?

 なにがトドメは任せろだ。

 最初からやってください、最初っから!


「ふぅ。なんて卑劣で凶悪な手を使うモンスターだったのでしょうか。ギリギリの戦いでしたわね」

「……頼むから真面目にやってください」

「あ、はい」

「あはははは、怒られてやんの!」


 パルがケラケラと笑う。


「すいませんでした」

「あ、はい」


 そんなパルにルビーが素直に謝ると、パルも受け入れるしかなかった。

 なにやってんの、この子たち……


「前衛の戦士ではなく『遊び人』と捉えたほうが安全か」

「むしろ敵と思っといたほうがいいんじゃないか」


 セツナとナユタが真面目に議論している。

 とうとうそんな扱いになってきたぞ、ルビー。


「真面目に、真面目にやりますので敵はやめてくださいまし!」


 ホント。

 そろそろ真面目にやってください。

 じゃないと、ホントに死人が出るので!

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