~卑劣! 黄金城地下ダンジョン6階・第1探索~ 3
扉を開けると円形の部屋。
部屋の中には――柱が八本、等間隔で円形に並んでいた。
「警戒」
「はいっ」
魔物の気配は……無い。しかし、無いからと言って油断するのも危ない。
なにより、そろそろモンスターのレベルも上がってるし、俺の気配察知以上の気配遮断スキルを持っている敵も現れるかもしれない。
なにより、気配察知など『勘』みたいなものだ。
音や空気の流れなど、経験から推測できるもの。スキルのように鍛えることはできるが、それがちゃんとした技と言えるものではない。
そのあたり、狩人の方が優れていたりする。
なにせ、山や森はモンスターと野生動物がウヨウヨしている世界だ。
オオカミに囲まれても一発アウトな世界で生き残るには、それこそ気配察知が完璧でないと不可能と言える。
俺の気配察知能力など、所詮は盗賊レベルなわけで。
そろそろ読み切れなくなってくる可能性は多いにあった。
もっとも。
そうなってくると本格的に俺は役立たずになるので、頑張りたい所存。
「ふぅ」
柱の死角を確認する。すべての柱にモンスターはいない。
問題無いことを確かめた。
「わたしに任せてくださればいいのに。一言、突っ込め、と仰っていただければオトリになりますわ」
ルビーの言葉に俺は苦笑する。
「非人道的な探索だなぁ」
「人ではありませんので」
なぜか自慢気にルビーは答えた。
「おまえはハーフリングの血でも入ってるのか」
ナユタが呆れている。
「失礼な。あなたこそドラゴンの血という血統に甘えているのではなくて? ちょっと吸わせてくださる? むふ。めっちゃ興味あります。どんな味なんでしょう? ちょっと、ほんのちょっと、先っちょだけでいいので是非!」
「うわぁ、来るな来るなっ!」
さすがのナユタも血は吸われたくないらしい。
いや、当たり前か。
誰も好き好んで眷属にならないだろうし……いや、ウチの愛すべき弟子は自分から望んで眷属になったか。
「ほえ? あ、地図の確認できましたよ師匠」
「よしよし」
なんかこう、愛しくなったのでパルの頭を撫でておく。
「んあ。んふふ~、えへへ~」
「……いいでござるなぁ、パルちゃん」
「うへへへへ~」
顔が緩みまくったパルのほっぺをむにむにと指先でつまんでから、俺は次の扉へと向かう。
が、しかし――
「ん?」
どうにも違和感を覚える扉。
「どうした?」
セツナが近づいてくるのを俺は、待て、と手で制す。
「罠があるかもしれん……何か違和感がある。ドラゴンズフューリーから聞いてないか?」
「危険な罠の情報は聞いていたが。この部屋の情報は聞いていないな」
「逆に考えると、『危険な罠』ではない、ということか」
伝え忘れた、というのは考えにくい。
なにせ、恐ろしい罠というものは印象が強く残っているものだ。加えて、扉に仕掛けがあるのならば、毎回それを解除しないといけない。
それを伝え忘れた、というのであれば――それはもう故意のレベルになってしまうわけで。
逆に俺たちがドラゴンズフューリーの面々に罠にハメられたことになる。
助けた俺たちを罠にハメるメリットなど、どこにも無い。
さすがにそんな意味不明なことはしないだろう。
それを考えるに……この扉の仕掛けに危険は少ない、と考えられるか。
ならば――
「パル」
「はい、罠チェックと解除ですか」
「おう。いっしょにやっていくぞ」
「分かりました!」
危険がない、ということであればパルの訓練に使わない手はない。
俺とパルは違和感のある扉へと近づく。
その周辺に罠などは無い。
ゆっくりと近づいていくと、違和感の正体が分かった。
「これ、扉が開かない……」
パルの言うとおり、扉の隙間が埋められているように見えた。まるで壁に描かれた絵のように、扉がハメ込まれているだけ。
「ふむ」
試しに投げナイフで触れてみるが――まるで開く気配がない。ナイフ越しに押してみても、動く気配がなかった。
「触れても大丈夫そうだ」
安全を確認できたので、扉に触れてみる。
材質は今までの扉と同じもので、やはり押しても開く気配が無かった。
「引いてみるとか?」
扉に爪を引っかけるようにしてパルが扉を引く。取っ手も何も無い扉なので、ムリやりそうやるしかない。
俺も手伝ってみるが……扉はビクともしない。
強固に固定されている感じがある。
むしろ、爪が剥がれそうだ。
危ない。
「と、なると……」
俺は部屋の中を見渡した。
八本ある柱――が、怪しい気がするな。
「みんな柱を調べてくれ。何か扉を開けるギミックがあるかもしれん。見つけても触らないでくれよ」
はーい、と楽しそうに返事をするルビーを筆頭に、みんなでそれぞれの柱を調べてみる。
すると――
「スイッチみたいなのがありましたわ」
「こっちにもあったでござる」
「あたいも見つけたよ」
「こちらにもあったぞ」
「師匠、ありました~」
「俺も見つけた」
どうやら八本の柱にそれぞれスイッチらしきボタンがあるらしい。俺たちは六人なので、調べていない残り二本の柱にもあるはず。
「パルはそっちを」
「はいっ」
残り二本の柱にも、やはりスイッチはあった。
柱と同じ色をした四角いボタンであり、大きさは指の先端ほど。隠すつもりはあまり無いみたいで、盗賊じゃなくても見つけられるような感じだ。
そんなボタンが、頭より少し高い位置に隠されていた。
いや。
むしろ、あからさまに発見させようとしている。
隠しているような雰囲気ではないな……
「……さりとて、危険は無い」
「さりとて?」
「さりとて?」
パルとルビーが妙なところに反応した。
「さりとてって使い方が間違ってたか?」
なんかちょっと不安になったのでセツナ殿に聞いてみる。
「いや、間違ってないな」
セツナ殿のお墨付き。ふふん。
「って、いやいや、そんな場合じゃない。どうにも奇妙な罠というか、ただの開閉スイッチのように思える」
「それこそ、そうなのではないのか?」
「つまり?」
「ただの開閉装置、という意味でしかない」
それに意味はあるのか?
という疑問はさておき、そうであるのならば、そうなのだから、仕方がない。
「製作者の考えは嫌いではありませんわ。ここはわたしの出番のようですわね」
「実験台にするようで申し訳ない」
「構いませんわ。もしもここで命を落としたのならば、わたしの亡骸を故郷の棺の中に眠らせて住民を集めて盛大なパーティを開催してください」
「嫌な遺言だなぁ、それ」
「しかもめんどくさいし」
「ちょっと、おパル。人の最期の願いくらい聞き入れてくださいまし!」
人じゃないくせにぃ、と言いながらパルは俺の後ろへ隠れた。
「まったく。無敵の壁に隠れるのもいい加減にしてくださいまし。あとでお仕置きです。で、どの柱のスイッチを押しましょうか?」
「人柱になるんだ、ルビーが決めてくれ」
「まさに生贄という意味ですわね。では、これで」
ルビーは一番近くの柱を選んだ。
命が軽いというよりも、命が丈夫過ぎて選択が軽い。
これはこれで問題だなぁ。
「では押します。さーん、にぃ、いーち」
カウントダウンにも緊張感が無い。
それでも身構える必要があるので、俺たちは警戒をしつつルビーを見守った。
「ぜーろっ」
ルビーが柱のボタンを押す。
すると――ガコン、と音がして――天井が下がった。
「釣り天井の罠か!?」
やばい、早く逃げないと――!
「え?」
しかし、すぐに天井はストップした。
天井が少し低くなっただけで、後は何も起こらない。
もちろん扉も開いていない。
「……なんでしょうか。もしかしてこれ、正解を当てるまで天井が低くなっていくのでしょうか?」
「試しにもうひとつ押してもらえるか?」
「分かりました」
ルビーは隣の柱に移動してカウントダウン。
すると……またしてもガコンという大きな音がして天井が下がった。
圧迫感は増すが、やはり扉は開かなかった。
「間違えるごとに天井は低くなる、ということか。ん~?」
俺はどうにも納得ができず、腕を組んで眉根を寄せた。
「どうしたんですか、師匠」
「いや、たとえばだが……ひたすら間違ってボタンを押し続けたとして……天井がこれくらいまで下がるとするとしよう」
俺は自分の腰あたりを手で示した。
「こうなりますよ」
パルがちょこんとしゃがむ。
「そしたらスイッチが押せなくなるよな」
「あ、ホントだ」
柱より低くなってしまっては、スイッチは押せない。そうなると、天井に押し潰されるようなことは起こり得ない。
「それこそ罠なんじゃないのかい? 一回や二回の間違いで天井が下がるだけと油断しておいて、実は三回目にミスをすると一気に天井が落ちてくる、とか」
ナユタの言葉に、なるほど、と俺は納得するが……
「それだと『危険な罠』になるのでドラゴンズフューリーが注意してくるはずだ。あくまでドラゴンズフューリーを信用した場合、あまり危険な罠ではない、ということになると……やはり、これは死んでしまうような罠ではないのでは?」
「それもそうか」
と、ナユタも納得してしまう。
「つべこべ言わず、あたりを引けばいいんですのよ。はい、次を押しますわよ~」
「あ、ちょ、待っ――」
容赦なくルビーは次の柱のボタンを押す。
すると、ガチャリ、と今までとは別の音がした。
そして自然と扉が開く。
どうやら正解のボタンだったらしい。
なんというか……拍子抜けというか……悩んだのがバカらしいというか……
「とりあえずパル、シュユ、地図に正解の柱を記載しておいてくれ」
「分かりました~」
「了解でござる」
まったくもって意味不明な罠。
変な部屋。
なんだこれ?
何か意味があるのか?
まぁ、とりあえず先に進もう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます