~卑劣! 黄金城地下ダンジョン6階・第1探索~ 2

 オーガ種を倒し、後に残された金をルビーは拾いあげる。

 地下四階層からいきなり2ランクアップしたように、金の大きさもかなりの物。


「なるほど。地下街に滞在する意味は充分にありそうですわね」


 親指の爪ほどはありそうかという金を見て、ルビーは納得する。

 このあたりが実力者の良い稼ぎ場になるのかも知れないが……油断すると一瞬で終わってしまう可能性もあるモンスターの強さ。

 不意打ちなど喰らってしまっては、ひとたまりもない。

 もっとも。

 それは相手がゴブリンやコボルトであっても同じだとは言えるが。まぁ、不意打ち後の対応の難しさということもあって、ひとたまりもないのだが。

 それにしても――投擲がまったく効かなかったのはツライな。


「……」


 俺は七星護剣・火を見る。


「エラント、おまえそれを投げるつもりか」


 セツナにヤブ睨みされた。


「いやいやいや、投げん投げん。他人の貴重品を遠慮なく投げられるほど、俺は卑劣な盗賊じゃない」

「ならば安心だ」


 冗談半分という感じだが、気をつけろ、という警告でもある。

 間違っても投げないようにしないとな。


「それにしても恐ろしい強さだな。シャイン・ダガーもそれなりに強いと思っていたが、それ以上の物があるとは驚きだ」

「なに。世の中にはこれ以上の剣もある。ここからはエラントがメインで使ってくれ」

「いいのか?」

「役立たずになるより、よっぽどいいだろ」


 その『役立たず』は俺のことを言っているのか、それとも使われない武器のことを言っているのか。

 おぉ、こわいこわい。

 お手伝いとして呼ばれた限りは、しっかりきっちりかっちり仕事をしよう。

 なにより、油断すると死ぬしなぁ……

 盗賊として、戦闘では中衛ポジション。今までは後衛よりの仕事をしていたが、ここからは前衛よりの仕事が増えてくるようだ。

 危険な事この上ないが、仕方あるまい。


「ありがたく貸してもらうが……鞘が欲しいところだな」


 抜き身のまま持ち歩くのは、なんかちょっと事故が怖い。

 シャイン・ダガーと違って、常に輝いているわけじゃないので大丈夫と言えば大丈夫なのだが……


「ベルトにでも挟んでおけば良い」


 相変わらず貴重品というか、探している大事な物のはずなのに扱いが雑でもいい、と。

 なんというか、不思議な話だ。

 追い求めているはずなのに、それが壊れてても良いような印象を受ける。


「……」


 ま、考えても分かるはずがない。

 俺はベルトに火剣を挟む――のは怖いので、魔力糸で巻き付けるように固定しておいた。

 必要な時は魔力糸を解除すれば良い。

 場合によっては、鞘に納めているよりも早く抜けるだろう。


「おぉ~。んふふ~」


 パルが俺を見て、なぜかにっこにこ。


「なんだ?」

「おそろい」


 シャイン・ダガーのことを言っているのか、ちょこんと腰を突き出して見せる。

 かわいい。

 シャイン・ダガーと七星護剣・火とではまったく大きさも形状も違うので、おそろいには見えないのだが……まぁ、パルが嬉しそうなのでいっか。


「では進もう」


 セツナの言葉に俺たちは返事をして、部屋の奥にある扉か、それとも右手にある扉か、どっちを選ぶことになった。

 せーの、で指差した結果、ルビー意外は右。


「ふふふふ」


 セツナ殿が満足そうに笑うのはまぁ分かるけど、ルビーも同じように満足そうに笑っているのはなんでなんだろうな?

 まぁいっか。

 とりあえず俺は右側の扉へと近づく。

 罠は――無し。

 次いで、扉の向こう側の気配を読む。

 動く者の気配も足音もない。何もいないかもしれないし、何かいるかもしれない。


「不意打ち注意」


 それだけ告げて、扉を開いた。

 全員で入ると、そこは先ほどと同じくらいの大きさの部屋。

 扉は他に無く行き止まり。ハズレの部屋だ。

 そして――


「敵。人型、数3」


 セツナの的確な言葉。

 俺たちは身構え、たいまつとランタンの明かりが敵の姿を照らす。


「チッ」


 ナユタが舌打ちした。

 鱗のある青い体に、長いしっぽ。顎が突き出した特徴的な顔立ち。

 なにより分厚い肉体は先ほどのオーガとそう変わらない筋肉質さを見せつけてくる。

 トカゲ人間。

 リザードマン。

 二足歩行するトカゲの戦士たちが、のっそりと立ち上がった。


「おらぁ!」


 ルビーよりも早くナユタが突撃する。

 その身体的特徴からリザードマンと揶揄されてきたナユタだ。

 思うところがあるのだろうが……ちょっと前のめり過ぎな突撃だった。

 直情的な槍の一撃はリザードマンの持つ丸盾に防がれる。

 ちろり、と顎から覗く分厚い紫色の舌。

 そのおぞましさは笑ったからか、それとも呼吸のためか。

 振り上げる剣は武骨で大きい。

 その一撃は力任せなものだが、速さも充分にある。


「くっ」


 槍を横にして受け止めたナユタは後ろへ下がった。

 俺はそれを援護するようにナイフを投擲し、牽制する。


「落ち着きなさいませ、ナユタ」

「分かってるよ」


 冷静と激情の合間にいるような感じだな、ナユタは。

 俺は火剣の柄を持つと魔力糸を解除。途端に刀身が赤く輝き、魔力的な炎が灯る。


「厄介だな、これ」


 シャイン・ダガーもそうだったんだけど、目立つのでイヤだ。

 こっそり後ろに回り込んでバックスタブとかしようと思ったら、直前まで腰にぶら下げたままでないといけない。

 やれないことはないが、一手遅れるのはちょっとイヤだなぁ。

 練習が必要になるやもしれん。

 なんて思ってるとナユタが切り込まれてる。

 おいおい。


「落ち着け」


 俺は前へと出てナユタと入れ替わるようにリザードマンへと斬りかかる。ワザとらしく大振りをして、リザードマンに防御させた。

 ガン、と火花が散るように火剣の炎が弾ける。

 陰影の濃くなったリザードマン。その瞳に反射する影を見て、俺は素早く後方へと下がった。


「おおっ!」


 入れ替わるようにナユタの槍が盾と鎧の隙間を縫って、リザードマンの腹に突き刺さる。


「ぐぎゃ!」


 そう叫び声があがるが、リザードマンは止まらない。

 腹に槍が刺さったままで、尚、ナユタに剣を振り下ろす。


「嫌いじゃないよ、そういうの!」


 ナユタは叫びつつ、槍を持ち上げるようにしてリザードマンを串刺しにしたまま投げ飛ばした。

 いわゆる背負い投げのような感じで、俺の目の前に叩き落されるリザードマン。

 頭から落ちて無事でいられるはずもなく、そのまま絶命する。


「おっしゃぁ! 援護感謝するよ、エラント!」

「どういたしまして」


 早めに片付いたので、俺とナユタはルビーとセツナがそれぞれ相手をしているリザードマンへ向かう。

 防具もしっかりしているためか、はたまたタフなのか。

 やはり一筋縄ではいかなくなってきたようだ。

 というか――


「ルビーはもう少し頑張ってくれてもいいと思うんだが?」

「あら。昼間のわたしに何を期待しますの?」

「じゃぁダンジョン内でずっと待機しててくれ」

「嘘です嘘です、がんばりますので!」


 ルビーは慌ててアンブレランスを振り回す。重量級の攻撃にガンガン攻められてリザードマンは目を白黒とさせた。

 その隙を狙って、俺の火剣とパルの光剣で両サイドから切り裂いた。

 火属性と光属性の同時攻撃。

 リザードマンからしてみればたまったもんじゃなく、悶絶するように身体を折った。


「ちゃーんす、ですわっ!」


 隙だらけになったリザードマンをアンブレランスで叩き潰すルビー。

 同時にセツナ組も残り一体を倒したようで、戦闘終了。


「ふぅ~。手応えありましたわね」


 ルビーと同じく、全員で息を吐く。

 しっかりと対応すると問題なく倒すことができる。

 ナユタとの連携も上手くいったし、そこそこチームワークもできあがってきた。きっちり地上階から攻略していった甲斐があるというもの。

 あせって進んでいたら、この階層でアウトだったかもしれないな。


「宝箱があるでござる」


 一息ついていると、シュユが部屋の隅にある宝箱を発見した。

 鉄の箱だが、そこまで大きくはない。


「パル、やってみるか?」

「はーい、やりますやります!」


 地下六階の地図はほぼ完成している状態なので余裕がある。

 というわけで、パルに任せてみた。

 危なかったらちゃんと助けよう。


「離れたところから確認……問題なし。ゆっくり近づく……問題なし」


 ちゃんと声に出してくれるので、分かりやすい。

 えらいえらい、と頭を撫でそうになるのを我慢する。

 邪魔しちゃいけない。

 宝箱に近づいたところで周囲を確認するパル。俺もいっしょに確認するが、罠らしき物は見当たらない。

 きっちりと後ろに回り込んでも確認して、問題ないことを確かめた。


「まわりにも罠は無し……ですね師匠?」

「うむ」

「次は、っと」


 パルは投げナイフを取り出して、箱に向かって投げた。

 衝撃を与えての罠確認。

 すると――


「へあ!?」


 宝箱がブルブルと震えだす。鉄の箱なのでガタガタと床を鳴らすように震えた。

 なんか発動した……あ、いやいや、そんなこと言ってる場合じゃない。


「逃げろ!」

「ひゃい!」


 俺とパルは慌てて宝箱から逃げる。

 すると、後ろでパーンと鉄の箱が弾ける音がした。


「ひあー!?」


 びっくりしたパルはその場でスコーンと転ぶ。俺も身を屈めて、何が起こったのか確認する前にパルの安全を確保した。


「あわわわ……」


 とりあえずそれ以上何か起こる様子はなく、転んだパルを抱き起こす。

 パルに怪我は無いようで一安心だ。

 それで――


「いったい何が起こったんだ……?」

「宝箱が爆発したでござる……うはぁ~……」


 シュユが見事にひしゃげた鉄の箱を持ち上げた。中で何らかの魔法が発動したらしく、無理やり開封したような感じになっていた。

 運が悪いと弾け飛んだ宝箱が当たったかもしれない。

 凶悪な罠だなぁ……


「し、師匠~……あたし、失敗しちゃった?」

「いや、むしろ成功だ」

「成功ですの、あれが?」


 ルビーが怪訝な顔をする。


「恐らく、振動によって発動する仕組みがあったんだろう。フタが開かないからと持ち上げたり揺すったりすると、即座に爆発する罠だ。事前に振動を与えて発動させるしか解除方法がない可能性もある。言ってしまえば、絶対解除不可能の罠だな」

「なるほど。ところで中身はどこへ飛んでいったのでしょう?」


 さぁ、と俺は肩をすくめるしかない。

 中身が入ってようと、入って無かろうと、こんなふうに爆発してしまったのであれば無事ではあるまい。むしろ瓶系のアイテムが入っていなくて感謝だ。


「ここからは宝箱にも注意せねばならんのか」


 呆れるようにセツナが言った。

 はてさて。

 まだ部屋を2つだけ移動しただけというのに。

 地下六階。

 なかなかハードなのは、間違いない。

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