~卑劣! 黄金城・地上最上階~ 1
俺とセツナ殿は、非常にしょうもない理由でケンカをしてしまいました。
反省しております。
と、弟子とニンジャ娘に謝っているのを少女パーティに見られてしまったので……俺たちの威厳というか、尊厳というか、何か大事なものは粉々に粉砕されました。
「ロリコンなので、もとから尊厳は無いか」
「拙者も持っていないなぁ、そんなもの」
世間体とか、尊厳とか。
そんなものを気にしていては、ロリコンなどやってられない。
うん。
少女を愛でることを是としているのだ。
自分の存在など小石ほどで充分である。
むしろ路傍の石になりたい。
石になって、通り過ぎていく少女たちを見守りたい。
「分かる」
セツナ殿に分かってもらえて、俺はしあわせだった。
うん。
というわけで、なんか若干引き気味の少女パーティを見送る。
大丈夫。
君たちに手は出さない。
というか、イエス・ロリィ、ノータッチの原則は必ず守る。
それがロリコンの正しい生き方である。
「帰りも油断するな。これはポーションだ、持っていけ。礼はいらない。いいか、周囲の観察を怠るなよ。あと、他のパーティにも気を付けろ。いいヤツばかりじゃないからな」
とりあえず今できるアドバイスをして、少女パーティに別れた。
まぁ、無事に帰れるだろう。
それに――
「リリアちゃん達のパーティが倒したモンスターですけど……」
シュユが隣の部屋で拾ってきた金。
見つけられた数でも6つ。この部屋で倒したモンスターの数が3であり、最低でも9体を同時に相手していたことになる。
6人で9体のモンスターを相手に、致命傷はなんとか避けてたわけだ。リーダーの指示が優秀だったのか、それとも騎士役の女の子が優れているのか。
はたまた、全員がそれなりの実力を持っているのか。
逃げ出したものの、こっちの部屋で体勢を整えてから再戦するつもりだったのかもしれない。
悪くない判断だ。
恐らく、ひとりでも崩れればあのパーティは終わってしまう。それが騎士であろうと、神官であろうと盗賊であろうと、関係ない。
バランスが完全に取れているだけに、そのひとつを補うには至らない。そんなイメージだろうか。
なんにせよ――
「優秀だったようだな」
セツナの言葉に俺はうなづく。
「ま、それでも訓練してやる意味はある。せめて地下にもぐれる程度には」
俺はナユタを見た。
「まかせとけ。死なない程度の実力はつけてやるさ」
それが一番難しい話だと思うけど。
ナユタがやる気なので、茶化す必要はあるまい。
死なない程度の実力とは、それすなわち『ベテランの冒険者』ということであって。レベルにして20。そこまでの実力と経験を与えるのは、ちょっとやそっとじゃ身に付かない。
なにより強いばかりで生き残れないのが迷宮というものだ。
あらゆる経験が必要となってくる。
そういう意味では、パルもレベル20には到達していなさそうだよなぁ。戦闘経験は、なんか変に積んでるんだけど。
その相手がバラバラというか、なんというか。
順々に強いモンスターと戦うんじゃなくて、魔王サマと相対したり、ウォーター・ゴーレムとかいう未知の存在と戦ったり、巨大な亀とタコと戦ったり、挙句の果ては勇者パーティの賢者と神官と戦ったりしてる。
まったくもって、ちぐはぐ。
育て方、間違えたかなぁ~。
先に黄金城に来たほうが良かった気もする。
弟子を育てるって難しいですね……
「師匠」
「なんだ?」
「他の女の子に手を出したらダメなんですからね! 得にシュユちゃんは絶対ダメです」
「分かってる分かってる。人の恋路を邪魔するつもりなんて、まったくない。俺にはパルがいれば充分だ」
「んふふ~」
抱き付いてくるパルを甘んじて受け入れた。
これ、断れる人間っているの?
いいや、いないね!
「……いま、ひどいこと言ってませんでした? まるでわたしの存在を無視した言い分に聞こえましたが」
「気のせいだ、ルビー」
「では、わたしも。ぎゅ~」
ぎゅ~って言われながら抱き付かれてしまった。
「ご、ご主人様ご主人様! シュユも、シュユも!」
「ダメです」
「なぜ!?」
「我慢できなくなりそうなので……」
「いいんですよ、我慢しなくても! シュユのこと、めちゃくちゃにしてください!」
「いや、いやいやいや、いやいやいやいやいや」
セツナ殿とシュユっちも盛り上がっていた。
なんとうらやましいセリフ……しかし、それをも我慢できるセツナ殿の胆力たるや、驚愕に値する。
人間種の鑑のような存在だ。
俺はあなたを尊敬する。
「はぁ~ぁ~、なんだこいつら。ヘンタイだらけのパーティじゃねーか」
ナユタさんが呆れて肩をすくめたところで、俺たちは再び探索を開始した。
といっても、すでに二階の探索は終わったようなもの。丸い部屋の反対側の扉の先に階段があり、俺たちは最上階である地上三階へと到達した。
「なんにもいません」
「こっちも確認したでござる。安全でござるよ」
階段の先は直接部屋になっているようで、パルとシュユに先行してもらった。長方形の部屋になっており、奥に扉がひとつだけある。
「では、進みましょう」
隊列を組み、前衛と後衛に別れて部屋の中を進む。
「えっと……こう? こんな感じ?」
「そうそう、そうでござる。これくらいの空間だと幅はそれくらいでござるな」
三階の地図はパルにも描いてもらうことになったので、ちょっと時間を置いておく。
まず階段の場所を描いて、それに合わせて長方形の四角で部屋を描いていくパル。
ふむふむ。
問題は無さそうかな。
「扉は線を二本、壁にちょんちょんとすると表現できるでござるよ」
「なるほど~」
描き上がる地図を見せっこしながら楽しそうなパルとシュユ。
素晴らしく可愛い。
なんて思いつつも、俺もしっかりと仕事をしないといけない。
俺は奥の扉で聞き耳を立てた。
気配を読んで……ふむ。
「何もいそうにないな」
「よし。開けるぞ」
扉を推し開けると、その先は二階にあった丸い部屋と同じような空間だった。ただし、部屋の中には六本のそこそこ大きな柱があり、見通しは悪い。
「警戒」
俺はそう声をかけ、再び気配を探る。
動く者や息遣い、ちょっとした空気の振動を探るが……柱の陰に潜む者はいないようだ。
「大丈夫そうだな」
一応、パルとシュユを見ると――ふたりもうなづいている。
「何か落ちてますわね」
ルビーは紅い瞳をこらすように目を細めた。
その視線の先にあった物を照らすようにセツナがランタンを掲げると、反射した光が返ってくる。どうやら金属っぽい物が柱の根本に落ちているようだ。
「なんでしょうか」
みんなで近づいてみると……金貨が落ちていた。
「えぇ!?」
パルが驚いて声をあげた。
無理もない。
いくら黄金城だと言っても、金貨一枚の価値は金貨一枚だ。おいそれとこんなところに金貨を落としていけるわけもなく、しかもそれが五枚程度もかたまって落ちている。
財布が落ちているのならまだしも、金貨が生身で落ちているとは考えにくい。
よって――
「クリーピングコインだ」
モンスター確定。
金貨に擬態した虫のようなモンスターだ。
背中部分が金貨のような姿をしており、なんとコインが割れ、羽が出てきて空を飛ぶ。高温のブレスを吐き出してくるので、それなりに注意が必要なモンスターではある。
「あんなのに騙されるヤツはいないでござるよね」
「あはは、こんなところに金貨なんて落ちてるわけないし」
と、パルとシュユが笑う。
「そ、そそそ、そうですわね。わたしは最初から分かってましたよ」
「お、おう。そ、そうだよな。常識だよな」
なぜかルビっちとナユっちがうろたえていた。
ちょっとでも騙されちゃったんだろうなぁ……言わないでおくけど。
「対処法は?」
セツナ殿の質問に俺は肩をすくめて答える。
「近づいて斬ればいい」
「なるほど、簡単だ」
トン、とセツナは部屋の中を滑るように一足飛び。地面に転がっている金貨の一枚を、仕込み杖からの抜刀で斬り裂いた。
「見事」
と、思わず声を出してしまう。
地面に落ちている金貨一枚。その薄い対象を斬るのならまだできるかもしれないが、それに加えて柱もあったわけで。
ひとつ間違えれば刀の刃は床か柱に当たっていた。
見事に刃を振り抜けたのは、間合いをしっかりと把握できている技量の高さ。それが良く分かる一撃だった。
金貨はやはりクリーピングコインだったようで、セツナの一撃を受けて真っ二つに切り裂かれる。
仲間が一体倒されたと分かるや、クリーピングコインたちは一斉に羽を広げて飛びあがった。
コインの裏側にあった六本の脚をギチギチと動かしながら、迫ってくる。
「えいっ!」
ルビーがアンブレランスを振り下ろすが、残念ながら避けられた。
「あら?」
それと同時に高温のブレスを吹きかけられる。
「あちゃちゃちゃちゃ!?」
逃げ出すルビーのかわりにナユタが赤槍で貫く。
正確無比な一撃は、確実にクリーピングコインの真ん中を貫いた。
「小さくて厄介だな」
大柄なナユタにとっては小さなクリーピングコインは厄介といえる。それでもきっちり槍を当てているのはさすがだ。
「ほっ」
「やっ」
後衛にも迫るクリーピングコイン。
パルとシュユは協力して対応している。まずパルが牽制するようにナイフを振り、避けた先をシュユが仕留めた。
美しい連携だ。
「ふっ」
あとは俺が投げナイフの投擲で一匹を仕留め、残りの一匹をセツナが両断する。
戦闘終了だ。
「おぉ~、さすが師匠です」
「おぉ~、さすがご主人様です」
えへへ。
弟子に褒められた。
セツナもシュユっちに褒められて嬉しそうだった。
「凄いです師匠! あんなふうに素早く飛んでる相手に当てられるなんて!」
「動きを読め、と言ってもこれは経験だからな。何度かクリーピングコインと戦闘経験があるからこそできるのであって、最初からは俺もできないよ。この先、何度も戦うことになるからそのうち当てられるさ」
「はい、頑張ります」
よろしい、と俺はパルの頭を撫でた。
「ルビーは大丈夫か?」
クリーピングコインのブレスをもろに顔に受けてたみたいだけど。
「美少女が台無しですわ。見てください、この顔」
「……美少女のままだぞ」
「本当ですか? もっと良くみてくださいまし。ほら、ほら」
「見えてる見えてる。カワイイからそれ以上顔を近づけるな」
「うふふ」
そんなルビーを見てナユタは呆れて肩をすくめた。
「すぐイチャつくなぁ、おまえら。ウチの須臾に悪影響だ。情操教育に悪い」
「あら。お堅いのですわね、倭国って。こっちでは当たり前ですわよ?」
「ウチの国じゃ、結婚前に手を出すのって割りと禁忌なんだがなぁ……」
あぁ。
そういう理由もあってセツナ殿はシュユっちにあんまり触れないっていうのもあるのかもしれないなぁ。
いや、どっちにしろ鋼の意思なんだろうけど。
見ろよ、あのシュユっちの可愛さ。自分の剣の腕前をあんなぴょんぴょんと小さくジャンプしてるニンジャ娘に褒められてみろよ。
一撃だろ?
俺だったらたぶん逃げてる。逃げ出してる。だって直視できないもん!
「他の女を見てますわね」
「師匠、やっぱり浮気者だ……」
「うっ」
ごめんなさい。
「ほれ、パル。クリーピングコインの金を探すぞ。ゴブリンよりも大きいはずだから見つけやすいはず。あ、ほら、そこ。落ちてる落ちてる。あとで美味しい物食べような」
「わ~い」
よし、愛すべき弟子はごまかせたぞ。
「さて、わたしにはどんな餌を与えてくれるのかしら? 楽しみですわ、師匠さん」
「なんもない」
「えぇ!?」
いや、ルビーは放っておいても機嫌を直してくれますので。
「ナユっち~、師匠さんがひどいので慰めてくださいまし」
「ナユっちっていうな! イチャコラしやがって、まったくもう!」
なんて言いつつルビーから逃げるナユっち。
いやぁ……ここがダンジョンの中っていうのを忘れそうになってしまうほど、ノンキな状況だった。
まぁ、本番前のお試しみたいなものだけど。
あと連携もそこそこ上手くいっているし、この分だと大丈夫だろう。
「うへへへ。結構大きいですよ、師匠」
クリーピングコインが落とした金はそこそこ大きい。這いつくばって探すゴブリンの物とは違って、歩きながらでも発見できる。
このくらいの大きさの金が五個もあれば、充分に宿代と食事代はまかなえるだろう。
一安心だ。
「地図は描けたか?」
「ハッ……忘れてました!」
「待っててやるから、さっさと描け」
「はいっ」
というわけで、パルが地図を描き終わるのを待って。
俺たちは最上階の探索を続けるのだった。
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