~卑劣! 黄金城ダンジョン・地上1F~
黄金城の地下ダンジョン。
そこはモンスターが跋扈し、リドルが待ちかまえ、数々の罠が張り巡らされている。多くの冒険者が挑戦し、幾人もの命を奪って来た迷宮。
そんな地下ダンジョンのある黄金城だが、城というだけにその形は残っており……今や王族という主を失った建物でもある。
つまり、地下ダンジョンの他にも『昔のお城探検』もできたりするわけで――
「実はこれ、推奨されている行為だ」
地下迷宮に挑戦するものと意気込んでいたパルは肩透かしをくらったかのようになっていたので、俺は説明してやる。
「そうなんですか?」
「どうもこの城という空間が特殊なようでな。地下だけでなく地上階にもモンスターが発生する。まぁ、人気の無い闇という条件がそろっているからこそ、なんだろうけどな。黄金城のダンジョンは地上三階までを含んでいる。まぁ、残念ながら地上階には何も残ってないけど」
「今さら家捜しでもないのに、どうして地上階へ? 推奨されているのはどういう意味合いでしょうか?」
ルビーの言葉に俺は苦笑した。
お城を実家扱いするルビーにしてみれば、他人の城をあさることは『家捜し』になるらしい。
つくづくスケールダウンしてしまうな。
「腕試しだ。トラップやリドルがない、純粋な戦闘だけが発生するダンジョンといったところか。規模も限られているしな。ルーキーや新しくパーティを組んだ際に使用される。もちろん、地上階で倒したモンスターからも金は取れるぞ」
なるほど~、とパルとルビーは納得した。
「では参ろうか」
セツナの言葉に俺たちはうなづく。
黄金城からモンスターが出てこないようにと見張っている衛兵のラインを越えた。この先はすでにダンジョンだと言わんばかりの雰囲気に、パルは少しだけ深呼吸をして踏み越える。
そこそこ緊張しているようだ。
やはり地上階から『お試し』をするほうが良さそうだな。
ダンジョンから戻ってきた冒険者とすれ違う。ヘトヘトに疲れ切っている様子を見送りながらも、俺たちは入口たる大きな門を開いた。
モンスターが出てくることを封じる扉でもあるので、さすがに開けっ放しにはできない。なので、モンスターに追われながらこの扉を開ける事態にはなりたくないものだ。
「いよいよですわね」
「おぉ~」
門をくぐり、中に入る。
扉が完全に閉まると……何も見えない真っ暗な闇になった。
「うわぁ、ほんとにダンジョンっぽい」
パルの声が響く中で、ランタンとたいまつに火を付ける。
光源は二種類あると良い。
ダンジョン攻略の基本である。
たいまつはとっさの時に投げて使ったり、そのまま殴りつける武器にもなる。ランタンは風や水の影響を受けず、また投げつければ油のおかげでしばらく燃え続けるので時間稼ぎができる。
理想を言えば、ここに魔法使いの光源魔法もあればいいのだが……
いかんせん、パーティ構成が偏りまくっているのでどうしようもない。
「師匠、これでもいいですか?」
「シャイン・ダガーか。アホみたいに目立ってるので、真っ先に狙われる可能性があるけど、いいか?」
「……ルビー持ってて」
「わたしに死ねと」
「うん」
いつものケンカが始まる前に、そこまでにしとけ、と止めておいた。
「仲良しでござるな」
「シュユちゃんはナユタさんとケンカしないの?」
「しないでござるなぁ。那由多姐さまは優しいでござる」
「ケンカする理由なんて無いからなぁ。須臾はイイ子だし。もしも、あたいが旦那のことを狙ってたら、ケンカしたかもな」
「か、からかわないでください姐さま!」
シュユっちが照れてる。
かわいい。
「イイな、セツナ殿」
「分かるか、エラント殿」
うんうん、とふたりでうなづきあった。
「ほら、ロリコンのおふたり。進みますわよ、案内してくださいまし」
ルビーがさっさとひとりで進もうとしているので、俺たちは慌てて追いついた。
「待て待て待て、隊列だ、隊列を組め。先行するな、ルビー」
「分かってますわ、冗談です。わたしが真ん中、右がロリコンサムライで、左がハーフドラゴン。これでよろしくて?」
「異議あり。ロリコンサムライはやめてもらいたい……」
「ふふ。小心者ですわね、セツナ。ウチの師匠さんなんか堂々とロリコンをしています。あなたも見習ってはいかが?」
「ど、努力しよう」
その努力はあまりしないほうがいいのでは?
と、思ったが――
「是非!」
シュユっちが推奨しているので、まぁいいか。
「では準備はできましたか? 覚悟はいいでしょうか? 光源はオッケー? おトイレに行くなら今ですわよ。わたしが後ろから見守ってさしあげます」
各々、問題なし、と答えていよいよダンジョンの中を歩き始めた。
ちなみに後衛の並びは中央に俺、左にパルで、右がシュユ。
両手に美少女。
最高だな。
「ねぇねぇ師匠。なんか……なんか変な感じ?」
建物の内部を見渡しながらパルがつぶやくように聞いてきた。
その感覚は理解できる。
黄金城は、どうにも外から見るのと内部で感じる広さに差異があるような気がするのだ。
いや、気のせいではなく実際に『違う』。
今も見上げれば天井は高い。しかし、こんなにも天井が高いのだったら、二階くらいしかなさそうに思えるのだが、実際には三階まである。
加えて内部の広さもそう。
精巧な地図にしてみれば分かるのだが、各階の広さがまるで違う。
一階よりも二階が大きくなっており、三階は一番小さい。
外から見れば真ん中だけが膨らんだような城になっていないと辻褄が合わないはずなのだが、そんなことは無い。
「恐らく迷宮化の影響が地上階にも出てるんだろう、というふうに言われているな。実際のところ確かめる術は無いが」
「どういうことですか?」
「地下迷宮を作ったのは人力ではなくアーティファクトで作ったのではないか、と言われている。自動的に閉まるドアや回転する床、壊したのに復活している扉なんかもアーティファクトが直している、という話だ」
「そんなアーティファクトがあるんですか?」
「分からん。全ては地下の最奥にある宝物庫に行ってみないことには」
ほへ~、とパルは感心したような声を漏らした。
「なるほど、それで他の冒険者の姿が見当たらないのですわね」
そういえば、とパルは再びキョロキョロと周囲を見渡した。
「ホントだ! 誰もいない……」
「シュユも初めての時はビビったでござる。あんなに人がいたのに何も感じない。感覚がおかしくなったかと思ってヒヤヒヤしたでござるよ」
「気付くのに遅れたので減点だな」
「あう……」
修行が足りません、とパルの頭を撫でた。
「……げ、減点されても頭は撫でてもらえるんでござるね」
「えへへ~」
「うらやましいでござる……」
後ろからビシビシとセツナ殿にシュユっちの視線が刺さっている。
「む、むぅ」
前を歩くセツナが苦しそうに声を漏らした。
頑張れセツナ殿!
分かる、分かるぞ。一度触れてしまうと、もう歯止めは効かない。その先、自分がどうなってしまうのか、それが怖くなってしまうのは理解できる!
しかしそこを踏みとどまる勇気と胆力。
それこそがロリコンの生きる道ィ!
「しょうもないことやってないで、集中してくれ旦那方」
「「あ、はい」」
ナユタにセツナ共々おこられてしまった。
「ねぇねぇ師匠。ダンジョンの中では誰にも出会うことはないの?」
「そんなことはない。出会う時には出会うものだ。ほれ」
俺が指差す先には冒険者の姿があった。
見たところルーキーのようで、鎧が新品である。武器も刃こぼれひとつ無さそうな新しい物ばかりで……なんというか、非常に心配なパーティだった。
「どうします?」
様子見で助けるべきか、と俺はセツナに聞いてみたが――
「冒険は自己責任。縁が合えば、その時に出会えましょう」
非常なれど、常識的な答えが返ってきた。
それもまた仕方がない。
助けることによって、得られたはずの経験が得られない、ということもある。
彼らが地上2階へ向かうのか、それとも地下一階へ向かうのか。それは彼らの選択であり、それを俺たちがとやかく言うことはできない。
縁が合ったら、また会うこともあるだろう。
死は、ダンジョンでは日常茶飯事。
ルーキーの死は、それこそ掃いて捨てるほどある。いちいち関わっていたのでは、それこそダンジョン攻略の前に人生が終わる。『冒険者学校』でも作ったほうがよっぽどマシだ。
「こっちへ行くと地下ダンジョンへの入口だ」
ランタンを掲げたセツナが照らすのは、一見するとただの壁。城の入口から進み、二つ目の区画とも言える部屋。その部屋の右側にある扉の先にある廊下だった。
「これですか? もしかして隠し扉になっていると?」
ルビーが近づいてコンコンと叩くと……簡単に扉が開いた。
「ガバガバですわね。入れすぎたのではなくって?」
「ひでぇ言い方だな黒女」
ケラケラと笑うナユタにルビーはくすくすと笑った。
「下ネタだと気付けるなんて、やりますわね赤銅女。それともトカゲ女と呼んでさしあげましょうか?」
「ああん? なんだと非人間種が」
「その言葉、そっくりそのままお返ししましょうか? それとも口から文句を吐き出す前に祝福(ブレス)でも吐き出していただけます?」
ケンカするなよぉ、と俺とセツナは悲しい顔で言った。
「師匠さんが言うのなら、やめておきましょう。ただし、これからはルビーと呼んでくださらないかしら。嫌ならばプルクラでもかまいません。師匠さんが付けてくださった大切な名前ですので」
「……悪かったよ、ルビー。あたいも那由多で頼む」
「了解ですわ、ナユタん」
「ナユタん言うな」
ケンカするなよぉ~、と再び俺とセツナは言ったところで地下へ向かう隠し部屋をスルーして先へと進む。
二階へと上がる階段はまだ先だ。
そちらへ向かって歩いていると――前方からギャギャギャと特徴的な笑い声がした。
「前方警戒! 推定ゴブリン! 数1」
暗闇の中で、子ども程の大きさの人影が見える。
弛緩していた空気を一気に引き締め――戦闘開始となった。
「まずは様子見でしょうか。盾役はわたしが引き受け……あら?」
ルビーがそう言った時には、ゴブリンにナイフが数本刺さっていた。
「グ、グギ……ァ……」
そしてパッタリと倒れる。
「すまん」
「つい隙だらけだったので」
「先制で攻撃してしまったでござる」
ゴブリンに刺さったナイフは、もちろん俺とパルが投擲したもの。そして、クナイと呼ばれるニンジャ専用の投げナイフはシュユが投擲したものだ。
「……盗賊2、忍者1とは、もしかして強いのでは?」
カカカカ、とご機嫌に笑うセツナ殿。
連携もなんにもあったもんじゃない……なんというか、ゴリ押しみたいな方法であっという間に戦闘終了でした。
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