~卑劣! ご褒美タイムは倒れた勇者の隣で~

「――というわけで、俺は勇者パーティから追放された」

「はぁ……え?」


 全てを語り終えた後。

 愛すべき弟子はポカーンと口を開けたままで、微妙な返事をした。

 理解しているのかしていないのか。

 この俺が長年積み重ねてきた盗賊的視線でパルの感情を読み取ろうとしたが……無理だった。

 アホの子にしか見えん。


「師匠」

「なんだ?」

「もう一回、説明してください」

「おう。何度だって説明してやる」


 というわけで、俺は隣で寝かされている勇者アウダクスを親指で指差しながら簡潔に分かりやすく説明した。


「こいつが勇者だ」

「勇者」

「で、こいつの友達が俺だ」

「友達」

「孤児院で遊んでいた俺たちは、ある日突然、光の精霊女王ラビアンさまから声をかけられて勇者になった」

「ある日突然」


 いや、そこはどうでもいい。


「で、ラビアンさまの声に従って強くなるための旅に出た。で、そこに転がっている戦士ヴェラトルを仲間にした」

「戦士」

「次に神官ウィンレィ・インシディオシスが仲間になって」

「神官」

「学園都市で賢者の弟子とも呼ばれていたシャシール・アロガンティアが仲間になった」

「学園長?」

「そう。学園長の弟子だった」


 さすがに女性を同じ部屋に寝かせる訳にはいかないので、神官と賢者は隣の部屋で寝てもらっている。


「で、長年旅を続けている内に、あいつら勇者に惚れやがった」

「師匠がフラれたと」

「あ?」

「ごめんなさい! 冗談です!」


 しまった。

 マジでパルがおびえてしまった。

 俺は顔を手で覆って、ふぅふぅ、と荒くなった息を吐く。

 胸の中に巣食った悪いモノを一気に追い出すことに成功した。

 俺えらい。


「ごめんなさい師匠ぉ」

「問題ない」


 パルの頭を無駄になでなでして気を落ちつけせておく。

 いやダメだな、これ。

 逆に興奮して――いえ、なんでもないです。

 とりあえず落ち着いた。

 大丈夫。


「まぁ、あいつらのせいでロリコンが加速したとも言える。良かったなぁ、パル。あとでお礼を言っとけよ」

「ごめんなさいってばぁ」

「可愛いので許す」

「えへへ~」

「で、俺は勇者パーティの裏方に徹してたわけだが……女性陣はそんな俺が邪魔だったらしい」

「邪魔してたんですか?」

「いや、勇者の安全を確保するために常に周辺を監視してた。影から物理的に見守ってただけだ」

「うわぁ……」


 うわぁってなんだよ、うわぁって。


「じゃぁずっと覗いてたんですか、師匠?」

「言い方」

「それだと賢者さんも神官さんも勇者さん? 勇者さま? に告白するチャンスとか無かったってことですよね」

「いや、俺だって四六時中監視してる訳じゃないぞ? チャンスはあった」

「いつですか?」

「トイレとか」

「実質ゼロじゃないですかー、やだー」


 なぜか弟子に批判された。

 あれ~?


「まぁ、なんでもいいや。そういうわけで俺は賢者と神官に嫌われて、勇者に足手まといって言われて、パーティを追放されました」


 理解できましたか?

 という質問に、パルはようやくハイと答えてくれた。


「ということは、師匠って勇者パーティの盗賊だったってことですか?」

「おう。凄いだろ」

「うんうん、凄いです!」


 あはは、とパルは笑っている。

 ……う~む。

 これ、どう考えても理解が及んでないな。

 まぁそりゃそうか。

 だってついさっき、自分たちで勇者パーティを『全滅』させたところだもんな。しかも自分が倒した相手が賢者と神官だ。実感が湧かないのも無理はない。

 パルも自分の実力は把握している。

 まだまだ未熟なことを自覚している上で、ルビーに手伝ってもらったとはいえ、勇者パーティの賢者と神官に勝利した。なんていう話は、到底信じられるものではない。

 せいぜいニセ勇者パーティに勝利した、くらいの感覚なのかもしれない。

 それだと、俺が自分を勇者パーティの一員だったと思い込んでるやべぇヤツになってしまうけどな。

 まぁ、そのうち理解が追いつくだろう。

 ゆっくり待ってりゃいいか。


「エクス・ポーションとか時間遡行薬とかを作ったりしてたのは、このためだったんですか?」

「いや、まったくの偶然だ」


 そもそも開発しているのはミーニャ教授であるし。彼女に出会えたのはサチのおかげでもあるんだけど、そもそもの出会いは俺ではなくパルなわけで。


「むしろパルに出会えたからこそ、今、ここで勇者に再会しているのかもな」


 俺は意識を失った状態のまま眠っているアウダの顔を見た。

 もともと年齢の割りには若く見える顔つきだったのだが……こうやって時間遡行薬を使用したところを見ると、アウダもそれなりに年を取ってたんだなぁ~、というのが分かる。

 しかしアレだな……

 俺は二歳程度しか若返らなかったのに、アウダはもっと若返っている雰囲気がある。二十代前半くらいか? もしかしたら二十歳程度まで若返っているのかもしれん。

 時間遡行薬の副作用というか、危険なところが如実に露見しているな、これ。

 俺の場合と状況が違うから一概には言えないが、怪我を負ってからの時間やダメージの程度で若返る年齢は変化すると見て間違いない。

 実験するにしても……残念ながらマトモな実験ができないのがネックだ。双子の極悪な罪人でもいればいいのだが……ちょっと倫理観が狂ってくるな。

 まぁ、俺が考えてもどうしようもないので学園長に丸投げしよう。

 それにしても――逆に笑えるのが戦士ヴェラトルだ。

 ぜんぜん変わらない。

 いや、若返っているのは確かなんだが……昔から老けてたというか、ゴツイ身体つきにゴツイ顔だったから、ほとんど年齢を重ねたように見えなかった。

 いわゆる老け顔というやつだ。

 ようやく年相応の顔つきになってきた、というか、年齢が顔に追いついたというべきか。まぁまぁ、年齢を経た良い顔だったのになぁ。

 それなのに、またリセットされてしまった。

 若くはなっているのは確かで、肌艶はとてもいいのが逆に不自然というか、笑えてくるというか。

 またヴェラが老け顔と言われるかと思うと、妙におかしくなってしまう。


「くくく」


 そうやって忍び笑いをしているとパルが話しかけてくる。


「師匠、なんだか楽しそう」

「……まぁな。もともと勇者とは孤児院でいっしょに育った友達だったんだ。こっちの戦士ヴェラも孤児だったし、まぁ……仲良く冒険者みたいなことをしてて、楽しかった」

「あたしとサチみたいな?」

「キスする関係じゃないけどな」

「すればいいのに」

「俺が? アウダと?」


 うんうん、とパルはうなづいてケラケラと笑った。


「男とキスするのは嫌だなぁ……」

「じゃぁ、あたしと! 約束もありますし、してください」

「はいはい」


 というわけで、俺の膝の上にずっと座っていたパルは、くるりと反転した。

 説明している間、なぜか甘えるように俺にくっ付いていたパル。どうにも不安にさせていたというか、俺が離れていってしまうかのような恐れを抱いていたようだ。

 そんなこと絶対にしないのにな。


「ん~」


 パルが目を閉じて、ちょっとだけ顔をあげる。

 どうしよう。

 めちゃくちゃ可愛いんですけど?

 このまま押し倒してしまいたい衝動に駆られてしまう。幼馴染の友達が眠っている横で、美少女とえっちなことをしてしまうなんて……

 めっちゃ興奮する。

 けど。

 俺は大人なので、我慢できます。

 興奮を抑えることができます。

 少女の身体を守る義務があります。

 その場の勢いやノリで行動を移しません。

 イエス・ロリィ、ノー・タッチだ。

 触れないけどキスはオーケーなのか? いや、くちびるだからオッケーだ。そりゃ言い訳だ。でもこれくらいはしてやらないとパルにご褒美にならないから、やっぱりキスは問題ない。

 そう思おう。

 というわけで、ゆっくりと顔を近づけてパルにキスをした。

 柔らかい感触がくちびるに伝わってくる。


「あ……んっ」


 ちょっと驚くような小さな声をあげたパルは、そのまま俺に首の後ろに手をまわした。ぎゅ~っと抱き付く感じでキスを重ねる。

 と――勢いよく、バーン! と扉が開いた。


「わたしもよろしくお願いします!」

「ふひゃぁ!?」


 ルビーが興奮した表情で部屋の中に飛び込んできて、驚いたパルは俺から顔を離す。

 う~む、名残惜しい……じゃない。


「おいおいルビー。勇者と戦士が寝てるんだ。静かにしてやってくれ」

「その隣でキスをしている人間に言われたくありませんわ」

「というか、なんでキスしてたって分かるんだよ」

「覗いてました」


 ルビーはそう言って天井を指差す。

 思わずパルといっしょに天井を見上げると……そこには目玉だけがギョロリとこちらを向いていた。


「うわぁ!?」


 パルが二度目の悲鳴をあげた。いや、俺も同じくらいにビビったけどさ。

 なにあれ怖い……


「今回、新しく習得しました。吸血鬼スキル『覗き魔』とでも名付けましょうか」

「怖いのでやめてください」

「えー」


 使い続けるつもりかよ。

 家に帰っても天井に目が無いかどうか気になってしまうので止めて欲しい……


「向こうのふたりは問題なさそうか?」

「えぇ、ぐっすり眠っています。ですが、ちょっと問題がありますね」

「どうした?」


 時間遡行薬に問題でもあったか?

 まさか、若返り過ぎたか!?


「えぇ、そのまさかです。師匠さんは二歳程度でしたわね。で、こちらの勇者サマと戦士サマはどれくらいでしょうか?」

「俺の見立てだと、だいたい六年から八年くらい。二十代前半になったと思われる」

「なるほど。やはりバラつきがあるみたいですわね。向こうのふたりはそれ以上に若返っているみたいです」


 むぅ。

 そういえば……

 アウダには俺が刺していた傷があり、ヴェラはルビーに蹴り飛ばされていた。ふたりとも相当なダメージと言える状況でルビーによる『仕上げ』を受けた。

 対して賢者と神官は、ほとんど無傷という状態からルビーによって致命傷を負わされた。

 言ってしまえば、ふたりのダメージは勇者と戦士と比べて少なかったと言えるし、ダメージを負っている時間も短かった。

 その結果、勇者や戦士と比べて、より若返ってしまったということか。


「そ、それで何歳くらいに……まさか赤ん坊になったとか言わないだろうな」

「ご安心を。加えて、更にご安心くださいませ。師匠さんの好みから外れています」

「……つまり12歳以上か」


 俺は安堵の息を吐いた。

 良かった。

 今さら、あいつらにときめかなくて済んだ。

 12歳以下の少女たちは、全て可愛く美しい。俺がときめかない訳がないので、ギリギリセーフだ。

 運命の神さま、ありがとう。


「だいたい18歳くらいでしょうか。それくらいに思えますわ」

「なるほど。あいつらは俺より年上で、いまは……32歳くらいだったか? それが18歳まで若返ったとなると、相当だな」


 ほんのわずかな違いだけで、若返る年齢に結構な差がでた。

 それを考えると……俺が二歳程度の若返りって、かなりヤバイ状況だったんだな。というか、もしかして死んでたんじゃないのか?

 無理やりポーションや魔法で延命をし続けた結果、なんとか間に合った……と、それを加味しても2年は若返ったと考えると、相当ヤバイ薬品だな、時間遡行薬。

 今度、死体に使う案も学園長とミーニャ教授に伝えておこう。

 真なる『時間遡行薬』ならば、蘇生するはずだ。

 ……いや、マジか。

 そういえばそうだよな。若返ることばかりに気を取られていたが、時間を戻すとなれば寿命で死んだとしても生き返るよな……

 どうなんだろう?

 一度肉体から抜け出した魂が返ってくるのかどうか。肉体が若返るだけで、魂は戻らないような気もする。

 実験が必要だが、これこそ一番難しいかもしれない。

 まぁ、俺が心配することでもないか。

 学園長とミーニャ教授に任せるとしよう。

 ふぅ、と息を吐いたところでルビーが俺の膝の上に座ってきた。右側にパルで、左側にルビー。両手にロリとロリババァ状態となった。


「次はわたしがキスする番です」

「あっ! あたしもあたしも! 師匠ぉ~、もっとやって欲しいですぅ」

「パルはさっきしてもらったからよろしいでしょう?」

「えー、やだやだやだ! あたしももっとするのぉ」

「わがまま娘ですわね。分かりました。三人でいっしょにしましょう」


 おいおい。

 何を言い出すんだ、この吸血鬼……


「三人でキス? どうやるの?」


 パルも乗るんじゃありません。


「こう、舌を出して先端を触れあう感じで舐める……でしょうか?」

「なにそれ、めっちゃえっち。ルビーの変態」

「うふふ。これでも吸血鬼ですので」

「エロ吸血鬼」

「エロ吸血鬼」

「なんで師匠さんまで!?」


 とまぁ、なんかそんな感じで。

 勇者と戦士が寝ている隣で。

 俺たちはイチャイチャとキスをしていたのでした。

 エロ吸血鬼とエロ師匠とエロ弟子でした。

 勇者が寝ていてくれて、良かった。

 でも、めっちゃ興奮――あ、いや、ドキドキしました。

 はい。

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