~流麗! バーサス・勇者パーティ×戦士~

 警戒する勇者パーティ。

 その視線が、一心にわたしから反れたのはパルが素早く戦闘態勢を取ったからでしょう。

 もちろん眷属化してありますので、わたしが動かしたのですが。

 いきなり襲い掛かってくるかと警戒した勇者パーティの横っ面を叩くようにして、わたしは戦士サマを殴りつけました。

 盗賊らしい不意打ちとでも申しましょうか。パルに警戒していた分、ほんのわずかに反応が遅れてました。

 手加減はしてありますが、速さはそれなりに出したつもりです。しかし、戦士サマは見事にバトルアックスで防御をなさいました。

 お見事。

 さすが勇者パーティの前衛を担っているだけあります。

 ただし、窓ガラスを突き破ってお外に吹っ飛んでいきましたが。

 安心してください。

 そちらは崖ではありませんので。


「では、後は頼みましたよサティス」


 そう声をかけて、影で神官サマと賢者サマを波のように飲み込みつつ、戦士サマとは反対側の外へ向かって押し流してさしあげました。

 分断成功です。

 パルに神官サマと賢者サマを追わせるのと同時に、わたしは戦士サマを追うように外へと飛び出し、着地する。

 恐らく、お城の反対側ではパルでは降り立っている頃でしょう。

 ここでパルの眷属化を解除しておきます。

 勇者サマをお城に残したまま、ハッキリと左右にパーティを分断できることができました。

 以上、師匠さんの作戦終了です。

 あとは煮るなり焼くなり、好きにしていいそうです。まぁ、いわゆる時間稼ぎなのですけどね。

 師匠さんが勇者サマと決着をつけるまでの間。

 わたし達の目的は、勇者パーティを足止めすること。

 もちろん、わたしに課せられたのは、足止め以上でしょう。戦闘不能程度にはしておかないと、あとあと邪魔になりますからね。

 加えて。

 さっさと戦士サマを倒して、パルの援護にいかなければなりません。

 今回の作戦では、パルが一番負担を強いられているといっても過言ではありません。師匠さんの過度な期待というよりは――どうにも恨みがこもっているというか、当て付けというか。

 そんな空気を感じます。

 師匠さんも人の子、というわけですか。

 ふふ。

 可愛らしい。

 あとでたっぷり、楽しませて頂きましょう。


「うふふ」


 にっこりと笑いながら。

 わたしは戦士サマの前へと立ちました。

 まるで悪役みたいですわ――って、わたしは魔物種でしたわね。もともと悪役でした。でも魔物が悪役と決められているわけではないので、それも変な話な気がしますけど。

 吸血鬼の絵本って、吸血鬼が主役ですから。悪役ではないのでは?

 なんて思いつつ、戦士サマが立ち上がり神妙な顔でわたしを見ました。

 くすんだ赤色の全身を覆う鎧は歴戦の証でしょう。

 身長は高く、わたしが見上げてしまうくらい。鎧の下は筋骨隆々であることを示すかのように太い手足をしています。

 まさに四角、というべき顔は快活と言わんばかり。ご婦人からモテそうな雰囲気はありますが、子どもからは怖がられそうです。

 髪は兜で隠れて見えないのですが、きっと黒い短髪でしょう。

 まさに絵に描いたような屈強な戦士。

 そんな印象を持たせる男でした。


「どういうことだ?」


 開口一番。

 戦士サマがそう言いました。


「はて、なんのことでしょう? 質問の意味が分かりませんわ」


 神妙な顔に少しばかり怒りが滲みましたわね。

 戦士サマは激情家なのでしょうか。


「騙したのか?」

「ですから、質問の意味が分かりません。ちゃんと相手に伝わるように質問してくださいまし。残念ながらわたし、読心術のスキルは持っていませんわ」

「……ふぅ」


 戦士サマは落ち着くように息を吐くと、巨大な戦斧であるバトルアックスの柄をドンと地面に突き刺すように置きました。


「すまねぇ。状況が状況なだけに焦って礼を欠いちまった」

「些細なことですわ。水に流してしまいましょう」


 流水は吸血鬼の弱点。

 なんて話もありますからね。


「ありがたい。で、吸血鬼の姫さんよ。オレたちを保護してくれるって話、ありゃ嘘なのか?」

「嘘ではなく、ホントですわ。乱暴のアスオエィローとの約束があります。アスオエィローは勇者サマとの一騎打ちをお望みですので、他の有象無象に殺されるわけにはいきません。ですので、我が領地では『勇者』を保護します」


 ワザとらしく、勇者だけを強調しました。

 嘘にはほんのちょっぴり真実を混ぜればいい。でしたよね、師匠さん。


「なるほど」


 戦士サマは大きくため息をつく。

 ふふ、信じてる信じてる。

 勇者だけが無事であれば、他のパーティがどうなろうが知ったことではない。みたいなニュアンスを伝えてみましたが大成功です。


「オレも大事な約束があってな。こんなところで終われねぇな」

「ふ~ん。誰とどんな約束がありますの? わたしで良ければ相談に乗ってさしあげらるかと思いますが」

「大きなお世話だ」


 戦士サマはバトルアックスを片手で持ち上げると、ぐるん、と回すようにして肩に担いだ。

 人間とは思えないほどの力。

 さすが勇者パーティの前衛を務めているだけはあります。

 わたしは影の中からアンブレランスを二本、取り出しました。短い方を右手に、長い方を左手に装備しつつ、スカートをちょこんと持ち上げた。

 片足で、膝をちょこんと曲げつつカーテシーで挨拶をする。


「改めまして。魔王直属の四天王、知恵のサピエンチェと申します。どうぞ短い付き合いになるかと思いますが、よろしくお願いします」


 わたしの挨拶に対して、戦士サマは拳を握り自らの鎧の胸の当たりに叩きつけた。

 ガシン、と金属のぶつかる鈍い音。


「戦士ヴェラトル。長く付き合うつもりはこっちもねぇな」

「あら、生意気――」


 なんて答えている内に戦士サマがその巨大な戦斧を振り下ろしてきた。大きな体と重い武器のくせに、速い。

 わたしは二本のアンブレランスをクロスさせるようにして防御しました。

 ですが――

 その威力は凄まじく、わたしは耐えられましたけど地面が耐えられませんでした。岩肌が破壊されるように足元が割れ、思わずバランスを崩しそうになってしまう。

 師匠さんのアドバイス通り、外に出て正解でしたわ。

 こんな人間種とお城の中で戦ってごらんなさい。

 あとでアンドロちゃんに大目玉です。いえ、アンドロちゃんは大目玉みたいなモンスターではありませんけどね。

 大目玉――ビッグアイとも呼ばれる目玉から細くて小さな体が付いたようなモンスターで、以前に陰気のアビエクトゥスが、かわいい~、って言ってたのを覚えています。

 あれのどこが可愛いのでしょうか?

 理解に及びませ――


「おらぁ!」


 戦闘と全然関係ないことを考えてたら戦士サマに追撃されました。バトルアックスでフルスイングされたような一撃を防御しましたが、わたしは大きく吹っ飛ばされる。

 おっとっと。

 これが全力攻撃でしょうか。

 師匠さんとは全く違う強さですわね。まぁ、どちらかというと戦士サマの強さが正統派なのであって、師匠さんのは邪道とも言うべき強さですけど。

 ずざざざ、と体が滑るのを足で止めると――戦士サマはちらりと視線をお城の二階へと向ける。

 ふふ、ダメです。

 勇者サマの元へは行けませんよ。

 というわけで、その視線の先へと先回りするように素早く移動し、驚いた戦士サマにアンブレランスを加減しつつ振り下ろしました。

 全力で攻撃すると、一気に折れ曲がってしまいますので。ただでさえ、先ほどの戦士サマの攻撃でちょっと危ない雰囲気を感じてますのに。

 簡単に壊してしまっては、ラークスくんの研究に役立てませんからねぇ。正当に使用して壊さないといけません。


「クソが!」

「お下品な言葉遣いですわ。お里が知れますわよ、戦士サマ」

「あいにく、オレも孤児なんでねぇ!」

「あ、ごめんなさい」


 思わず素で謝ってしまったけど、カカカと笑いながら戦士サマが戦斧を振り下ろしてきた。それをきっちり長アンブレランスの側面に沿わせるようにしてパリィ。がら空きになった胸へと短アンブレランスで突いた。

 派手に吹き飛ぶ戦士サマですが、きっちり後ろへ下がってダメージを抑えていらっしゃる。

 なかなかの戦闘経験値ですわね。


「ふむふむ」


 長アンブレランスに傷は付きましたが、壊れてはいないようです。バサリ、と開く機構は無事でした。

 そのままくるくると柄をまわしつつ、肩で支えるような感じで戦士サマに向かって歩く。


「ふぅ~」


 戦士サマは大きく息を吐く。

 なにやら力を溜めているような感じ。魔力ではありませんが、吐く息に気迫が込められていますね。


「おおおおおおおお!」


 まさに雄叫び。

 それと共に大きく踏み出した一歩は地面の岩肌を砕きながらわたしに向かって巨体を一直線に飛来させた。

 体を大きく一回転させ、最高速と最大限の攻撃。

 ほぼ捨て身のようなその攻撃を避けるには容易い。

 ですが――

 あえてパリィに挑戦してこそ、醍醐味というもの!


「――いま!」


 振り下ろされる戦斧に向けて短アンブレランスを突き出す。がちり、と刃がぶつかったところでアンブレランスを開く――が、しかし。

 開くスピードより戦斧が振り下ろされる速度が速く、まったく間に合いませんでした。

 パリィ失敗。

 なるほど、最高速では当然ながらギミックの速度も要求されますわよね。

 そりゃそうだ、という結果を得ながらも、わたしは少しばかり体の位置を動かす。ドレスを切り裂くようにバトルアックスが振り下ろされ、地面たる岩肌に巨大な大穴を開けるようにぶち当たる。

 岩肌めくれあがり、地面に大穴をあけた。


「おおおお! りゃああ!」


 あら、まさかの連撃。

 もう一回転しながら連続で振り下ろされる戦斧はさすがにパリィする余裕がないので、短アンブレランスを横に向けるように防御した。

 バギャァ、と粉砕するように破壊された短アンブレランス。機構はおろか、アンブレランスの芯までもが破壊されてしまった。

 その破壊された瞬間の――わずかな時間で戦士サマの隙を突き、胸を押し出すようにして吹っ飛ばした。殴るのではなく、思い切り押し出すイメージ。


「ぐはぁ!?」


 それなりのダメージになってしまうのは申し訳ない気分ですが、わたしを慌てさせた成果と思ってくだされば幸いです。

 もっとも。

 そんなことを伝えれば嫌味でしか無いですけどね。

 吹き飛んだ戦士サマを追いかけるように穴からジャンプして飛び出ると、戦士サマが着地を狙うように追撃してきました。

 あら、すごい。

 ダメージを物ともしていませんわね。

 避ける手立てもありませんし、パリィも無理。

 というわけで長アンブレランスで防御してみましたが、ガシャン、と曲がってしまいました。

 あぁ~ぁ。

 やはり重量級の攻撃を防御する目的には使えませんわね。

 いえいえ、普通のモンスターの攻撃では充分なんですよ? 相手が超一流なだけです。ラークスくんの腕とコンセプトが間違っているわけではないんです。

 しかし、戦う相手がことごとく悪いですわよね。ウォーター・ゴーレムに勇者パーティの戦士。どれも最強格ではありませんか。

 もっと普通に使う機会はないものかしら。

 冒険者ごっごをしないといけませんね~。フリルお嬢様といっしょに冒険がしたいですわ。


「へへ、武器が無くなっちまったなぁ!」


 振り下ろされる戦斧の刃を避けつつ、返事をする。


「実験中の武器ですので。良い戦果が得られましたわ」

「強がりを!」

「本音ですもの」


 高速で振り下ろされる戦斧。避けたところで豪風で吹き飛ばされそうな一撃は、まさに世界でもトップクラスの攻撃力を誇っておられます。

 しかも、なんというスマートな連撃なのでしょう。

 攻撃と攻撃の間が早く、さすがのわたしも避けるのが精一杯。まるで盗賊が短剣を振るが如し、です。

 反撃する隙なんてありませんわ~。


「――なんちゃって」


 戦斧は大きいですから、剣と違って叩く場所が大きい。つまり、避けるのでも、防御するのでもなく、ましてやパリィでもない、もうひとつの方法。

 妨害。

 顔に向かって振り下ろされてきたバトルアックスでの一撃を、コツンとドアをノックするように刃を横から叩く。

 それだけでわたしの体から反れて空を切る斧。

 まぁ、普通の人間でしたら危なくて出来ないので、これをアンブレランスで出来ればいいんですけどねぇ。

 なかなか状況が許さない。

 難しいところです。


「なっ!? ちくしょうが!」


 戦士サマは慌てるように縦振りではなく横振りに切り替えました。

 巧い。

 なるほど、これでは刃を叩きようがないです。上に反らしても下に反らしても、切断されるのが首かお腹か、の違いでしかありません。

 いえ、もちろんズバっと斬られても問題ないんですけどね。一応はマトモに戦っておこうかと思いまして。

 勇者パーティの戦士サマが持つ斧ですよ?

 何らかの祝福が施されていてもおかしくはないですし、万が一、光の精霊女王の力が宿っていてごらんなさい。

 わたし、燃えますから。

 精神的な意味ではなく、物理的な意味で。

 吸血鬼ですもの。

 試さなくても分かります。光属性の武器って、絶対わたしの弱点ですよね。パルの持ってるシャイン・ダガーとか、ほんと怖い。あの程度の刃でしたら、少し燃えるだけで済みますけど。

 でもこの戦斧で斬られたら真っ二つでしょ?

 で、そこで燃え上がったら、さすがのわたしも痛くて泣いちゃうと思いますので。


「おおおおお!」

「わっ、おっと、ひゃう、ととと」


 しゃがんだり飛んだり下がったり逃げたりしながら戦斧を避けました。

 しかし、凄い体力ですわね。

 これだけ重い武器を振り続ければすぐにバテてもおかしくないというのに。

 ホント、強いですわ。


「クソが! 真面目に戦いやがれ!」

「あら、バレてました?」

「当たり前だ!」


 大きく振られたバトルアックスを、大げさなほどに後退して避けると。戦士サマは再び戦斧の柄を地面に突き刺すようにして置いた。


「てめぇ、どういうつもりだ」

「てめぇではありません。知恵のサピエンチェです。プルクラ、と呼んで頂いてもかまいませんわよ、ヴェラトルさま」

「敵を愛称で呼ぶ気にはなんねぇよ。で、オレを殺すつもりじゃねぇのかよ、あんた」

「殺して欲しいのですか?」

「……こっちは死に物狂いだ。それをバカにされているようで不快でたまらん。クソほどムカついてくる。だからといって心を乱せば終わる。だからやり切れん」


 なるほど。

 戦士と名乗るだけはある。


「失礼しました。あなたは本物の『戦士』なのですね」

「おおともよ! オレは戦士ヴェラトルだ。騎士でもないし、剣士でもねぇ。戦闘狂じゃなく、狂戦士でもねぇ。強戦士サマよ!」


 ガンガン、と自分を鼓舞するように胸を叩く戦士サマ。


「来いよ吸血鬼。ぶっ殺してやる」

「分かりました。遠慮は無しです」


 そう答え、わたしはトンと地面を蹴りました。見上げるほどに高くジャンプし、戦士サマに向かって着地しました。


「――っ!?」


 もちろん迎撃しようと斧を振るかと思いますが、その斧には地面から伸びてきた手が動かせまい、と掴んでおります。

 それを引きちぎる頃にはわたしの足が迫っていますので、戦士サマは防御するので精一杯。

 斧を空に掲げるようにしてわたしの足場を作ってくださいました。

 そこにトンと軽く着地すると――戦斧に両手を付いて飛び降りるようにして戦士サマを蹴りつけました。

 悲鳴もなく飛んでいく戦士サマ。

 そこに追いつくと、上から踏みつけて地面へと落下。バウンドしたところを蹴り上げ、落ちてきたところを殴りつけました。

 地面をゴロゴロ転がって、ようやく息が吐けるになったのか――


「かは」


 という短い声が聞こえました。


「お見事です、戦士サマ。未だ武器を落とさないとは、戦士の鑑ですわ」


 巨大な戦斧を杖にして立ち上がる姿は、美しい。

 へこんだ鎧の跡とダメージは相当な物と思われますが、それでも立ち上がれるのは立派だと思います。

 普通の人間種ならば、今ので意識を失っても良いぐらいですが。

 やはり勇者パーティの一員。

 強い。


「申し訳ありません戦士サマ。実は今のも本気ではないのです」

「……分かる」


 へへ、と戦士サマは笑いました。


「本気の顔、してなかったからな……ちくしょう……」


 震える手と震える膝で。

 それでも戦士サマはバトルアックスを担ぐようにかまえました。


「ひとつ質問してもいいかしら?」

「……なんだ? 遺言なら残さねーぞ」

「簡単な質問です。勇者パーティには盗賊がいたそうですが……どうして追放してしまったのでしょう?」

「ああ……?」


 なんだその質問、というように戦士サマは表情を歪めた。

 バカにしているのではなく、笑顔。

 笑いながら戦士サマは言いました。


「あいつは弱いからな。守りながら戦ってたら……魔王領ではオレ達は一瞬にして終わる。足手まといだ。だから追放した」

「あなた達が守られてる。そうは思いませんでしたの?」

「……なんだ。知ってやがるのか」


 がははは、と戦士サマは豪快に笑いました。

 なんと気持ちの良い殿方なのでしょうか。

 快活男児とは、この戦士サマみたいな人間種に相応しい言葉です。


「あんたには分からんかもしれんが……みっともないだろ。勇者パーティが男女問題で瓦解するとか。今さらながら魔法無しで魔王領になんか行けないし、盗賊と魔法、どっちを捨てるかと言われれば盗賊になっちまった。ホント、バカだよなぁ」


 そう独白するように言って、それもまた否定するように戦士サマは首を横に振った。


「いや、もっと単純だ。それも言い訳に過ぎない」

「そうなんですの?」

「あぁ。単純に勇者の野郎が友達を死なせたくなかっただけだ。それを大げさに語って、理由を付けて、追放するように仕向けただけ」


 そうですか。

 そういうことですか。

 なるほど。

 師匠さんが勇者サマのために動いていたように。

 勇者サマも師匠さんを思っていた。

 似た者同士、というわけですね。


「……しあわせ者ですね。あなたも、盗賊も」


 どちらも信頼し、信用し、愛のある結果。

 そう思いました。

 もっとも――

 どちらにしても、言いたいことは残りますが。

 まったく。

 下手ですのねぇ、勇者サマ。

 思いやりの心が捻じれてますわ。

 ハッキリを仰られればいいのに。

 愛してるぜ、と。

 まぁ、男同士なので照れくさいと思いますけど、わたし的にはむしろオッケーです。師匠さんと勇者サマのラブラブなところを影となってパルといっしょに見守り続けたいと思います。


「知恵のサピエンチェ」

「なんでしょう、戦士ヴェラトル」

「最後の一撃だ。受けてくれ」

「承りました」


 ありがとよ、と。

 戦士は笑い。

 息を吐き。

 重々しい足取りでわたしの元まで来ると。

 その凶悪で重く、凄まじい威力を発揮するバトルアックスを剛腕にて振り下ろしました。


「おおおおおおおおおおおおお!」


 わたしはそれを片手で受け止め。

 敬意を込めて。

 かつて、わたしの大切な師匠さんを死に至らしめかけたあの本気の蹴りを。


「お見事でした」


 戦士ヴェラトルさまに。

 叩き込んだのでした。

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