~卑劣! 事件の時系列と顛末を語ろう~

 今回の貴族パーティ事件。

 表向きにはレッサーデーモンが城内に侵入し、襲われたのがパーロナ国の末っ子姫、ヴェルス・パーロナさまだった。

 ということになりそう。

 たぶん。

 まぁ、いろいろと隠したがるのは貴族だけでなく王族もそうであり、なんというか極一部に至っては運が悪すぎる結果をもたらしていたわけで。

 かなり詳細な調査が入っているのは間違いないので、どういう結論に至って、誰がどのような処罰を受けるのか。

 立場上、俺は単なる平民なわけで。

 勇者の元パーティであろうとも単なる一般領民たる俺の耳に普通の情報が入るのは、それこそ何もかも終わった後だろう。

 もちろん、盗賊ギルドでお金を出せば、子細を知ることができる。

 世の中、人の口を塞ぐにはそれなりの方法しかないものだ。

 というわけで、他の人間が知り得ない子細をここで語っておく。

 なにせ、俺。

 いや、俺たち。

 パルとルビーを含めて、当事者中の当事者なので。

 なんとも運が悪いというか間が悪いというか、その全ての事象に俺たちが関係しているのだから仕方がない。

 むしろイヒト領主がなぜか関係していないっていう状況が、なんとも特殊過ぎる。まぁ、護衛が俺たちだったので無関係とは言い切れないし、ある部分では関係者とも言えるので……う~ん、ほんと特殊です。

 まぁまぁ。

 とにかく時系列を追って順に話そう。


「一番初めは――」


 今回の一連の事件。

 一番最初に起こっていたのはレッサーデーモンの出現だ。

 パルが調査したとおり、井戸の中にあった通路。王族が使用する目的で作られていた緊急避難用の隠し通路。そこに偶然にもレッサーデーモンが出現した。

 更に運の悪いことに、ひとりの男が顔を食べられてしまう。

 その後、レッサーデーモンはメイドを襲って地下にある『ヤギの部屋』を根城にした。他にもたくさん部屋が並んでいたのに、中途半端な中間あたりの部屋を選んだ。

 どうしてこの『ヤギの部屋』を選んだのか、その理由は分からない。

 ルビーに聞いてみると――


「レッサーデーモンの好みじゃないでしょうか。ヤギが可愛くみえたとか?」


 それなら猫のほうが可愛いのでは、と俺は思ったが……結局のところモンスターの考えなど理解できるはずが無いので、考えるだけ無駄だ。


「わたしの考えは全て師匠さんにバレてしまっておりますわ。好き好き大好き、超愛してる」

「はいはい」

「ちょっとぉ、流さないでくださいまし!」


 そんなレッサーデーモンの危険があったことは城内での噂にはなっていたし、死体の処理はきっちりされたのだが――なんとお城の偉い人に報告されていなかった。

 ここをズサンな管理体制、と批判するべきかどうかはちょっと迷ってしまう。

 というのも、最初に殺された男は貴族の従者であり、口がきけない者だったらしく、かなり適当な扱いを受けていたそうで。死のうがどうなろうが我関せず、というのがその貴族のスタンスだった。

 無口な男とレッサーデーモンが入れ替わった。

 なんとも皮肉な話ではあるが、その状況がかなり後々になって響いたことは間違いなく。

 王族に危害が加わった、ということでその貴族には何らかの処分が下るらしい。

 因果応報とはこのことだ。


「イヒト領主さまはイイ人だけど……なんかダジャレみたいになっちゃった……悪い貴族もいるんですね」


 パルの言葉に笑いつつ俺はうなづく。


「まぁ、パーロナ国は比較的安定したおだやかな国柄だからな。それこそ利権争いが未だに激しい国なんかは貴族も多種多様だ。絵に描いたような悪い貴族さまが、もしかしたらいるかもしれん」


 もっとも。

 絵本に出てくるようなあからさまに悪い貴族なんていないけど。

 基本的には善人を装っているのが貴族というもの。わざわざ分かりやすく非道な人間というものを見せたところで領民から反発されるのは必至。

 悪ぶってみせたところで得をする人物など冒険者くらいなものか。いや、冒険者であっても損ばかりで得になることはひとつもない。

 言ってしまえばチンピラなわけで。

 考えの足りないバカの証明、のようなものだ。

 まぁ、今回の事件。

 考えの足りないバカたちが引き起こしたとも言える。

 それがアルゲー・ギギの雇った護衛たちとラディオス・デファルスくん。


「まずはラディオス・デファルスくんについて語るが……」


 俺はちらりとパルを見た。


「ほえ?」

「いや、パルが何とも思っていないなら別にいいのだが」

「はぁ……」


 好意を向けられた相手に対して、こうも無感情とは。ちょっとは言葉を濁して説明しようかと思ったが、どストレートに語っても良いらしい。

 というわけで、原因のひとり。

 ラディオス・デファルス。

 彼は、いわゆる問題児であり、普段の言動は褒められるべきではなかった人物だ。もちろん教育という名目で指導はされていたものの、あまり効果はなく、まるで暴君のような振る舞いをしていたらしい。

 それを矯正すべく、ラディオスの父親が頼ったのがイヒト領主。

 軽く相談してみた結果、パル、もしくはルビーにラディオスが反応を示すだろう、ということでわざとラディオスと共に屋敷に訪れた。

 そして目論み通りラディオスはパルと出会い、これまた予想通りパルに一目惚れした。

 想定通り、というのが同じ男として同情をしてしまう要素でもある。

 どんだけバカにされてるんだ、ラディオスくん。


「そう聞かされると、なんか哀れですわね」

「言ってやるな」

「あたしの魅力が凄かったんですよ、きっと!」

「だったら相手してやれよ」

「やだ」


 あ、はい。

 俺も嫌ですけどね。浮気されたら泣いちゃう。


「ラディオスくんの父、ジャルキース・デファルスさまの目論みでは、息子はこっぴどくフラれるだろう、と。まったく自分が相手にされないことがある、地位とお金だけではどうにもならない。という経験を経て、多少はマトモになるだろうと思っていたが……」

「思ったよりもバカ息子の行動力が高かったわけですわね。そこは素晴らしい貴族ではありませんか。努力と熱意の結果です」

「だったらルビーがお相手してあげればいいじゃん」

「嫌ですわ。あれ、ぜったい血はマズイです」


 まぁ、俺でも分かる。なんか脂っぽそうな血の味がしそう。やっぱり太っているより健康的な人間のほうが血の味は良くなるみたいだな。

 というわけで、ラディオスくんはパルを手籠めにするために素性のよろしくない人間を雇って貴族パーティに挑んだ、と。

 ここで盗賊ギルドの人間を使ってくれれば良かったのだろうが……残念ながら冒険者を使ってしまったらしい。

 人選ミスが、これまたあとあと響いてくる。


「で、アルゲー・ギギのほうだが――」


 こっちは説明の必要もないくらいに分かりやすい。

 なにせ、俺が恨みを買っていたからだ。

 アルゲー・ギギが懇意にしている冒険者であり、学園都市にてケンカを売られたので適当に買ってやったらこの始末。

 逆恨みもいいところなのだが、アルゲー・ギギがパーロナ国の貴族会議に参加するということもあって、復讐の良い機会だと護衛として付いてきたようだ。

 パーロナ国の王都に到着してから、俺のことを嗅ぎまわっていたらしくジックス街の盗賊ギルドにも顔を出したそうだ。

 後にゲラゲラエルフことルクス・ヴィリディは語る。


「私のことを『やさぐれエルフ』と言ったヤツの末路など、決まっている。そろって地獄行きだ」


 ということらしい。

 仮に俺たちが敗北してあいつらに好き放題されていてもルクスが助けてくれたかもしれない。

 頼もしいな、ゲラゲラエルフ。

 あとやっぱり『やさぐれエルフ』って言ったらダメらしい。

 おぉ、こわいこわい。


「で、貴族会議と貴族パーティの当日だ」


 会議中は特に『敵』の動きは無い。

 その間にパルとお姫様が仲良しになり、いっしょに行動をしていた。


「ベルちゃんがお姫様とは気づきませんでした。まだ、そんな感じがしないし」

「パルよりも美人ですよね、末っ子姫は」


 おてんばというかお茶目というか。

 城の衛兵たちにも人気が高いお姫様らしいので、パルに自分の正体を隠して近づいた末っ子姫。まぁ、自国の姫様の顔と名前を知らないパルが悪いんだけど。

 運が悪いというか偶然とも言うべきか、この時にパルがドレスを汚してしまったことにより、お姫様のドレスを借りることになった。

 それをキッカケに、お姫様もまた似たようなドレスに着替えた。

 同じような金髪の長い髪で、一目で質の良いと分かる真っ白なドレスを着ていたふたり。前から確認すれば別人と分かるのだが、後ろから見たら身長もそれほど変わらずそっくりな状態だった。

 それを前提として、時系列順に起こった出来事を並べよう。


「まず最初は――」

「わたしですわね」


 パーティが始まり。

 ルビーがアルゲー・ギギの護衛である冒険者の男に誘われた。二人組のひとり、金髪のイケメンに誘われるままに会場を後にする。

 その後、闘士に腹を殴られて気絶した――フリをして、闘士によって地下へと運ばれた。


「運ばれている途中でメイドとすれ違ったのですが。いま思えば、それがレッサーデーモンだった可能性が高いですわね」

「というか、ルビーがその場で護衛のふたりを倒しちゃったら、ややこしい事にはならなかったんじゃないの?」

「それは――結果論です。はい。決して面白いからと捕まったのではなく、えーっと、そう、相手の正体をきっちりと見極めてやろうと、ワザと、ワザと捕まったのです。ここでアルゲー・ギギの護衛を倒してしまったら、なんかきっとたぶんもっと余計にややこしい事になっていたに違いありません!」


 吸血鬼が断言した。

 まぁ、そういうことにしておこう。

 次に起こったのはパルにラディオスくんが接近。パルにお酒を盛ることによって酩酊状態にし、介抱するフリをした。

 その際、パルは自らにマニューサピスの毒を打ち、酔っ払ったフリをする。その場で貴族を撃退してはイヒト領主に迷惑が掛かるかもしれないという配慮だった。


「あたし偉い」

「素晴らしい配慮だ」

「えへへ~。どうだ、ルビー」

「はいはい、素晴らしいですわ」


 そのままの状態ではあまりにも毒が効き過ぎているので、パルはトイレへ連れて行ってもらうことにする。

 そこへやってきたのがお姫様。

 普段なら上階のトイレを利用するのだが、今回はたまたま会場から一番近いトイレへ行ったらしい。

 その際、パルをトイレの前で待っていたラディオスくんと執事は追い払われている。

 というのも、お姫様の登場はサプライズ扱いだったので、誰の目にも触れないようにと配慮したそうだ。

 パルが個室にいた状態でお姫様はトイレに入り、そしてパルよりも早くトイレから出る。

 そこでひとつ問題が起こった。


「騎士が怪しいメイドを見かけた」


 恐らくルビーが見たメイドと同一だろう。お姫様を守る騎士がどうにも怪しいメイドを追いかけてしまった。

 それは昼間にレッサーデーモンの話を聞いてしまって、危険な存在が城内にいる、という情報を得てしまっており、優先度を間違えてしまったのだ。

 つまり、レッサーデーモンの存在は危うく、それを解決しないことにはお姫様にも危険が及ぶかもしれない。

 本来なら離れてはいけないはずのお姫様から目を離してしまった。

 追いかけたメイドは小柄で赤毛だったという。

 だが、すぐに赤毛のメイドを見失ってしまった。恐らく、姿を変えて他のメイドに混じるか、それとも澄ました顔ですれ違ったのか。

 レッサーデーモンにしてやられた、ということだ。

 かなり青い顔で俺にそう語ったのはマルカという末っ子姫専属の騎士だった。今すぐ殺してくれ、という空気と自殺防止に両脇を同僚にかためられており、更にはお姫様に付いてもらっていた。

 相当怒られたと同時に、相当反省しているようだ。

 なんか気の毒なほどだった。


「で、最大の事件が起こってしまう」


 トイレから出てきたのは、長い金髪で質の良い真っ白なドレスを着た少女。

 それをパルだと思ったふたりの人物は、顔を確認する前に拘束して袋を頭から被せてしまう。

 末っ子姫だと知らずに。


「パルがトイレでモタモタしていたからでは?」

「え、あたしが悪いの!?」

「はい。毒まで使う必要なかったのではないでしょうか」

「え、えぇ~!? し、師匠~」

「……なんとも言えん。そういう意味ではパルに遊撃しろ、と命令した俺も悪い。大人しく護衛に徹しろ、と命令してればこんな事にはならなかった可能性もある。この際だ。事件に関係する全員が、ほんのちょっとずつ、なにかを間違えてしまった。ということで手打ちにするしかないんじゃないかな」


 俺が命令しなければ。ルビーが遊ばなければ。パルが毒を使わなければ。アルゲー・ギギの護衛とラディオスくんに雇われた者がしっかりと確認していれば。お姫様が上階のトイレを使っていれば。騎士が目を離さなければ。もっと大勢の護衛を従えていれば。俺が恨みを買わなければ。

 数々の『ほんの少しの間違い』が重なっていった結果だ。

 もっと言ってしまえば、パーロナ国王がサプライズで娘の誕生日会などしなければ。と、言ってしまえるが、これを主張すると俺の首が胴体とサヨナラしてしまう可能性もあるので黙っている。


「ともかくお姫様は誘拐されて地下へと運ばれて行った。で、更なる事件が重なる」


 不意打ちを受けた。

 どうやらレッサーデーモンが地下へと戻ってきて、隙だらけの男たちを襲った。ふたりは即死だったらしい。

 運が良かったのがお姫様が生きて捕らえられたこと。どういう気まぐれなのかは分からないが、レッサーデーモンはお姫様を殺すつもりもなく捕らえたようだ。


「死んでる人間より生きてる人間のほうが美味しいからでは?」


 ルビーがそういうのなら、そうなのかもしれない。

 鮮度というやつだろうか。

 だからこそレッサーデーモンは死んだ男たちから食べ始めた。


「その間にトイレから出たパルは、ラディオスくんに地下へと運ばれてくる」

「あ、はい。大丈夫です。お尻を触られただけですから」

「……」

「師匠さん、怖い顔をしていますわよ」

「おっと」


 むにむにとほっぺたをマッサージして表情を柔らかくしておく。

 色々とやらかしはしたがラディオスくんは貴族。貴族は貴族。敵対したらロクなことにならないのは、今回の事件が良い例だ。

 お尻くらい大丈夫。

 うん。


「あたしがラディオスくんに襲われそうになってる間に、執事さんが襲われてたんだよね」


 そのとおり、と俺はうなづいた。

 どう感知したのか、部屋の前で見張りをしていた執事の存在に気づいたレッサーデーモン。再び地下通路に出て執事に襲い掛かった。餌は豊富なほうがいい、という判断だったのかもしれない。今夜は大盤振る舞いだ、とレッサーデーモンはほくそ笑んでいただろう。

 幸いなことに爪を使わずに襲われた執事は命に関わる怪我を負うことはなかった。しかし、大怪我は大怪我。治療に専念して欲しいものだ。


「そこからは、まぁ、知ってのとおり」


 ルビーの機転によってパルが駆けつけ、なんとか善戦したものの切り裂かれてしまう。で、俺が助けに入って、無事にレッサーデーモンを倒した。


「その裏で、わたしはアルゲー・ギギの雇った冒険者と死闘を繰り広げておりました。わたしは必死でヤツのパンチとキックを避けるのが精一杯。そこでひらめきました。薬品を使って頭をおかしくすれば勝てるのでは? さっそく実行し、見事に薬物を男の口に放り込めたのですが、異常に暴れ狂った男を止めるのは至難の業。椅子で殴りつけて大人しくさせようと思ったのですが、椅子を破壊する勢いで殴りつけても平気な様子。これはいよいよピンチ。ルビー、ピンチ。ですがここでいよいよ相手が狂ってしまったのでしょうか。自分で自分の体を傷めつけ始めたのです。それで、あのような形に」


 嘘っぽいルビーの話に、俺とパルはハイハイとうなづいた。

 闘士は確かに生きてたのだが……ちょっと言葉では言い表せないような状態というか『形』になっていた。

 あれ、死んだほうがマシだったのでは?

 そんな気がする。

 まぁ、アルゲー・ギギに関する重要な人物なので死なないように保護はされているが……全てが終わったあとは処刑されるだろうな。

 薬物で頭はおかしくなっているが、時折正気に戻っている。

 むしろ、正気に戻ったせいで自分の現状を理解し、発狂してしまう。というのを繰り返しているのかもしれない。やっぱり死んでいたほうが良かったのでは?


「以上が今回の事件の流れだ。なにか質問はあるか?」

「はい」


 パルが手をあげた。


「はい、パルパル」

「師匠はいつ牢屋から出られますか」

「……」


 いい質問だ。

 とてもいい質問だ。

 というのも、あの事件の後。

 お姫様を誘拐した犯人に間違えられた俺は見事に牢屋に入れられてしまった。いや、ホント、事件を解決した張本人だとお姫様は言ってくれていたんだが――その状況が悪かった。

 だって半裸だもん。

 むしろ誘拐じゃなくてお姫様の裸を見た罪で牢屋に入れられている気がする。


「なにしとんじゃ、おぬし」


 とは、牢屋に入れられた俺を見に来た王様の言葉である。

 ……はい。

 そりゃ自国から勇者が誕生しているなら、その仲間の顔も把握しておられるのは当然でして。というか勇者といっしょに会ったこともある王様だったし、顔は覚えてもらえていて光栄なのですが、できれば忘れていて欲しかったです。


「ちょっとは反省しておれ」


 と、自分の娘可愛さに俺を牢屋にぶち込んで、いろいろと見せしめにした悪い王様でもある。

 うぅ。


「早くなんとかしてくれってお姫様に伝えてくれ、パルパル」

「そんな簡単にベルちゃんに会えるわけないじゃないですか、師匠」


 だよなぁ。

 というか、まだベルちゃんって言ってるの?


「ベルちゃんと呼んでください、ってベルちゃんに言われたから」

「会ってるじゃん!」

「うひひ」


 うわーん。

 俺の弟子が、悪い子になってるぅ。


「牢屋に囚われている師匠さんも悪くありませんわね。あの、できればこう半裸になって鎖で繋がれているのが理想なんですが。師匠さん、もうちょっと暴れてみません? 鎖で拘束されません?」

「なにレベル高いこと言ってるんだルビー」


 はぁ。


「ところで、そこにいっぱい食料があるんですが……なんなんですの?」


 俺の牢屋の中には、数々の食料品が置いてあった。まぁ、良く見れば食料だけでなく着る物や温かい毛布などなど、牢屋とは思えないほど豊かな状況でもある。

 なんなら本まであるくらいだ。

 これのどこが牢屋なんだ、というくらいの充実っぷりだった。


「いや、実は末っ子姫を助けてくれたお礼だ、と衛兵が訪ねてきては差し入れをくれるんだ。もう食べきれないっていうのにもらってくれと言われるのでな。あぁ、この毛布とかはその末っ子姫に頂いた物だ。イイ子だよな」

「むぅ。師匠、浮気しないでよ」

「牢屋に入れられた者とどうやってお姫様が浮気するんだよ」

「ロマンスを感じますわよ。実らない恋ほど、乙女は燃え上がりますので」

「そうだそうだー」


 パルは本気で、ルビーは面白がってそう言うのだが……

 うーん。

 末っ子姫さま。

 俺のことを『師匠さま』と呼んできたりして、その、ちょっとやっぱり、好意を向けられているっていうのは分かるので、その……たいへん危険です。

 襲われた恐怖と恋愛のドキドキを勘違いしているのではないだろうか。

 そう思いたい。

 まぁいいや。

 牢屋を出れば、もう二度と会うこともないだろうし。勘違いした恋心など、すぐに消え去るだろう。


「で、イヒト領主は何て言ってる?」

「笑ってた」


 ちくしょう!

 というわけで、俺が解放されたのはその日の夕方でした。

 お姫様がだいぶ頑張ってくれたみたいです。

 ありがとう、お姫様。

 好き。


「あぁ! いま師匠が確実に浮気した気がする」

「えぇ。わたしにも分かりました。これは、今夜はいっしょにお風呂の刑がよろしいかと」

「賛成! ベルちゃんの裸を上書きしてやる!」


 う。

 耐えられるだろうか。

 いや、耐えねばならぬ!

 イエス・ロリ、ノー・タッチの原則は守らなければならない!

 遠い彼の地で頑張ってる勇者よ。

 俺!

 俺、頑張るからね!

 応援しててください、よろしくお願いします。

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