~卑劣! 乙女の危機を救う者~

 アルゲー・ギギの薬。

 どうやら怪しい薬によってアルゲー・ギギは大金を得ているらしく、その犠牲者と言うべきか、自業自得な人間というべきか微妙なところではあるが……それでもパーロナ国の貴族にも、その危険な薬物を買う者がいるらしい。

 気分が上がる、というか回復するという意味ではスタミナ・ポーションも同じような効果があるかとは思うが、恐らくそれ以上なんだろうな。

 快楽を伴うという効果もある。

 学園都市の盗賊ギルドで蔓延していたタバコの煙。あれみたいに、植物の葉を乾燥させて煙という形にして吸引する薬物は知っているが。どうにもタバコ自体が苦手だったので、体験したことはないし、体験してみる気は一切なかった。

 そもそも依存度が高いらしく、冒険者としては手を出している余裕がない。なにせ、冒険の途中で吸いたくなってしまったら困るし、なによりにおいに敏感なモンスターもいるわけで。

 盗賊の俺が独特のにおいを発していたら、特定されてしまう可能性だってある。

 それ以上に、勇者パーティの一員だったころは死と隣り合わせだった。ちょっとでも勘が鈍るようなことはしたくなかった。

 というわけで、薬物には手を出していない。

 ヒマな貴族さま御用達、というアイテムだろうな。

 そもそも一般領民に手が出せる値段でも無さそうだし。

 どういう勘違いをされたのか分からないが、フリュールお嬢様がその薬物求めたとしても、まぁ不思議ではない。

 そういう意味合いから『やっちまいました案件』に繋がったのだろう。


「……ん?」


 ため息をついているフリュールお嬢様に苦笑していると、天井から何かが落ちてきた。それは水の雫のような感じではなく、まるで空から加速するように俺の背後へ素早く落ちてくる。

 ちらりと足元を覗けば――

 影から黒いネズミが顔を出した。

 ルビーの眷属で、黒い姿をしており瞳だけが紅い。真っ黒な姿なので紅い瞳だけが浮いているようにも見えた。

 周囲を見渡すと誰も気づいていないらしく、こちらに視線は向いていない。

 改めてネズミに視線を戻すと――

 ネズミはじわりと俺に影に溶けるように広がり、また別の形へと変化した。


「――っ」


 それはツノが生えた仮面。

 ディスペクトゥスとして活動する際、俺が装備していた仮面だ。

 袖口に忍ばせていた針に魔力糸を通し、そのまま仮面の目の部分に向けて針を爪で弾くように投擲する。もちろん硬い床に針など刺さらないので、そのまま地面を滑るように仮面の縁から出た。

 そのまま針に通していた魔力糸の先端を無理やり曲げて硬質化。この技術はなかなか習得が難しいので、まだパルには教えていない。

 フックのように魔力糸の先端が仮面に引っかかるようにして、手首を素早く返すように引っ張る。

 くん、という手応えのもと、仮面を跳ね上げた。

 俺はそれを後ろ手にキャッチする。

 次いで――


「フリュールお嬢様。少しよろしいでしょうか」

「は、はい。なんですか?」

「イヒト領主と奥様、ルーシュカさまの護衛を少しの間だけ頼めないでしょうか」

「は、はぁ……え?」

「なにかあったのかね」


 イヒト領主の言葉に俺は首を横に振る。


「ちょっとした野暮用です。すぐに戻るので」


 それだけを告げて俺は一礼する。

 くるり、と反転するように出入口へと向かうと人混みを縫うようにして全力で歩き移動。決して不自然にならないように、それでいて素早く。

 不自然にならない程度のギリギリの速さで歩く。

 もちろん貴族さまにはぶつからないように。こんなところでぶつかって無駄な因縁を作ってる場合じゃないんでね。

 だが、しかし――

 特定の人物にはワザとぶつかった。


「おっと。これは失礼。急いでいたもので」

「あぁ、問題ないよ」


 護衛と思われる人物。執事服の一部が不自然に膨らんでいた。つまり、俺が求めている物がそこにある可能性が高かったわけで――

 盗賊スキル『ぬすむ』。

 いわゆるスリ。

 とてもじゃないが勇者パーティのメンバーが使って良いスキルじゃない。


「申し訳ない」


 護衛と思われる男の懐から、ポーション瓶を盗んだ。必要になるかもしれないと思ったので、仕方がない。

 その護衛の男だけでなく、なんとなく謝罪の言葉は勇者や精霊女王ラビアンにも向いていた気がする。

 勇者パーティを追放されて当然か。


「……」


 必要なかったら後でちゃんと返します。

 と、誓いつつ出入口の扉へと到着した。


「外に出たいのだが」

「はい」


 いちいち悪目立ちする扉だ。

 もちろん誰が出ていくのか周囲に報せているという目的があるのだろう。いつの間にやら人が消えていた、ということがないように。

 大げさに開く扉から外へ出ると、素早く周囲を確認。

 なにやら騎士やメイドが慌ただしく騒いでいた。それらの人物が俺へと視線を向けてくるが、無関係と判断してか、すぐに外される。


「……」


 なんだ?

 どうにもキナ臭いことが起こっているらしい。それも個人的な問題ではなく、お城に関連することだろうか。

 とりあえず移動しながら後ろ手に持っていた仮面を装着した。

 ルビーがわざわざ仮面を寄越したのだ。ぜったいにその意味はある。


『師匠さん』

「ルビーか」


 仮面を装着すると声が聞こえてきた。そういやそんな便利な機能があったな。忘れがちになってしまう。

 ルビーには眷属化という方法で遠方から俺を操れるわけで。それでなくとも影の中に入ったりして、そうそう離れた状態で連絡を取り合う必要性はあまり無かった。

 しかし今回みたいにルビーが人間のフリをしている時には便利な機能かもしれない。


『パルの援護をお願いします』

「どういうことだ?」

『地下のヤギの部屋へ』

「分かった。ルビーは大丈夫なのか?」


 俺に視線が通ってないのを確認して城の中を走り始める。援護、というぐらいなのでそれなりにピンチなのかもしれん。

 地下への入口はパルから報告を聞いているので分かった。アルゲー・ギギが拠点としているのはその一番奥の部屋、だったか。

 地下通路には動物の彫刻が施されている部屋の扉が並んでいるらしい。

 そこにパルがいるのか、それとも別の何かがあるのか。

 とにかく地下へと向かおう。

 で、ルビーは大丈夫なのか、という俺の質問に対しての答えは――


『あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ』


 という謎の返事だった。

 うん。

 きっと大丈夫なので放っておこう。

 城の通路を全力で走る、なんていう経験は今まで一度も無かったので貴重な体験だった。何人かが怪訝な表情を俺に向けたが、今は世間体ではなく地下へ向かうのを最優先しよう。

 地下へと続く階段を発見すると、俺は躊躇なく飛び降りた。踊り場に転がるように着地すると、そのまま地下通路へ向かって再びジャンプする。

 同じように受け身を取るように着地して、再加速。真っ直ぐに続く地下通路を全力で走った。

 作業場や倉庫と思われる区画を通り過ぎると、途端に雰囲気が変わる。

 どうやらここが『接待』の場所らしい。

 走りながら扉の彫刻を調べる。

 子犬、子猫、と思われる比較的小さな動物から、猿や大型犬、なんか凛々しい顔をした大人の猫まで、段々と動物の体格が大きくなっていく。

 それに伴って部屋の大きさも広くなっていっているみたいで、動物の大きさと部屋の大きさが連動しているようだ。

 となれば――

 ヤギの部屋は中盤当たりと考えるの妥当か。

 長く伸びる地下通路を駆け抜けて行き――開いている扉を発見した。ヤギの部屋かどうか、確認する前にそこに飛び込む。

 なるほど。

 理解した。

 これは――ここは、レッサーデーモンの根城。

 死体や衣服、倒れている者。血のにおい。不穏な気配。それら全てを一瞬で把握しつつ、状況を確認した。

 あぁ。

 急いで良かった。

 そこには――

 気丈にも小さな針一本で。

 震える手で、戦いを挑む少女がいた。

 およそ戦闘経験なんかあるはずもない、とても綺麗な指で。そんな指が真っ白になるまで小さな針を握りしめて。

 少女は『敵』へ挑んでいたのだ。

 その後ろには。

 愛すべき弟子がうずくまっている。汗が浮かんでいるが、血色は悪くない。致命傷ではない。だが、ダメージは負った。動けない程度にはやられている。

 余裕はあるが、時間は無い。

 オーケー。

 全て把握した。


「ぎゃぎゃぎゃ」


 レッサーデーモンが笑い声をあげる。勝利を高らかに決定するように、凶悪に突き出した三本の指の、凶爪を振り下ろした。

 俺は執事服の背中に仕込んでいた投げナイフを取り出し、少女の前に躍り出る。


「君の勇気に敬意を評する」


 もしも俺が戦士だったら。

 これぐらいの攻撃は余裕で受け止められただろう。

 だが、残念なことに俺は盗賊だ。

 他人を守って防御をするのは、なかなか骨が折れる。たかが『小さな悪魔』の一撃すら、受け止めるのは難儀だった。

 だが、やれない理由はない。いいや、ここでそれをやらないでいつやるっていうんだ。

 だってよぉ。

 俺の可愛い可愛い弟子がピンチなんだぜ? たぶん爪にやられたんだろうさ。大方、防御が間に合わず、ギリギリで避け損なったんだろうな。

 まったく無茶をする。

 こんなことならゲラゲラエルフにもっと早く注文しとくんだった。

 ただでさえ防御力が薄い盗賊だ。

 ドレスなんか着ていたら防御はゼロに等しい。

 だから、俺が悪い。

 俺の判断ミスが招いたことだ。

 加えて。

 そんなパルを守ってくれる美少女を前にして、下がるなんて出来るわけがない。

 残念だったなぁ、レッサーデーモンさんよぉ。

 俺も『男の子』なんでねぇ!

 かわいい女の子の前では、カッコ付けたいんだよ!


「ふっ!」


 気合いを込めてレッサーデーモンの腹を蹴飛ばす。どこが小さい悪魔だ。俺よりデカイ身体をしておいて、メイド服なんて着てんじゃねーよ、気持ち悪い。


「×××!」

「ここは人間種の支配領だ。共通語を喋れモンスターめ」


 恨み事を言っているのは分かるが、理解はしてやらん。飛び掛かってくるレッサーデーモンを下から真上へと蹴り上げた。


「ゲハッ」

「悲鳴だけは共通だな!」


 墜落したレッサーデーモンを踏みつけようとしたが、ヤツは素早く後ろへと跳ねるように下がった。

 距離を取ってくれたおかげで部屋の中を改めて確認する。

 死体が一体に、倒れている初老の男がひとり。食べかけの足が二本転がっていた。やはりここを根城にしていたようだな。

 服も大量に放置されていて真新しい血で汚れた物もあった。

 メイド服を着ているところから鑑みるに、レッサーデーモンはメイドに化けて人間を拉致していたのだろう。

 貴族パーティの忙しい時期だ。黙って消えるメイドがいてもおかしくはないし、逆に新人のメイドが大量に雇われていてもおかしくない。

 いつの間にかいなくなるメイドがいて、普段見かけない顔のメイドが歩いていても誰も気にしない。

 まったくもって運と間が悪かった話だ。

 逆に言うと、レッサーデーモンにとっては運と間が恐ろしいほどに合致して良かったとも言える。


「キキ、ギャギャギャ」


 なにがおかしいのか笑う悪魔。

 ボコボコと身体が奇妙に動いたかと思うと、みるみる小さくなっていき――メイドの姿となった。

 なるほど、悪魔め。

 同じ種族の弱い姿を取れば、攻撃を躊躇すると本当に刷り込まれているのだろう。

 だが――


「マヌケ」


 俺は容赦なく投げナイフを投擲した。


「化けるんだったら、可愛い少女を選んでおくんだったなバケモノめ。12歳以上はババァだ!」


 どう見ても30を越えている女の姿になったところで、俺が躊躇すると思ったか。むしろ攻撃力が増すというもの。一切容赦なくナイフを投げられたぞ、マジで。


「クヒッ」


 メイドの首にナイフが刺さる。奇妙な声をあげて30女はレッサーデーモンの声でたたらを踏むように後ろへと下がった。


「ふっ」


 短い呼気を吐き、俺は追撃する。

 首に刺さったナイフを更に押し込むように、手のひらでナイフの柄を殴りつけた。

 げびゃ、という声と共に血が吐き出される。

 そんなもんを浴びたくないので退避。

 みるみる元の姿に戻ったレッサーデーモンはメイド服を破り捨てるように掴んで捨てると、俺に向かって投げつけてきた。

 それを避けつつ踏み込むように近づくと――

 レッサーデーモンは待っていたかのように爪が振り下ろされた。


「ふん」


 攻撃方法はそれしか無いらしい。まったくもって陳腐なモンスターだ。

 俺は振り下ろされる手に向かって投げナイフを突き出し、刺し貫いたところで爪を避ける。自らナイフを押し付ける勢いでレッサーデーモンは手を振りぬいた。

 手のひらを突き抜ける刃。

 それを確認している悪魔の隙をつき、背後へとまわる。

 盗賊スキル『影走り』。

 加えて、盗賊の代名詞『バックスタブ』!

 隙だらけとなった背中に遠慮なく手持ちのナイフを全て刺していった。


「ガアアアアアああああ!?」


 悲鳴をあげるレッサーデーモン。

 背中の痛みにのけぞるような態勢を取ったヤツの膝を、俺は後ろから蹴りぬいた。強制的に膝を曲げさせ、床にひざまづかせる。


「トドメだ」


 膝が付いたところで後ろから喉に刺さっているナイフの柄を握った。

 そのままナイフを横にスライドさせるように強引に引き抜き、首裏の延髄に差し込む。悲鳴をあげる前に思いっきり回し蹴りを叩き込んだ。


「グァ」


 短い悲鳴をあげつつレッサーデーモンは倒れる。

 背中から倒れたことで、自らの体重で全てのナイフが致命傷に至る勢いでレッサーデーモンの肉体に沈んでいった。

 油断はしない。

 まだ起き上がってくる可能性があるので、少しばかり警戒しつつ観察していたが――


「よし」


 レッサーデーモンは絶命し、魔物の石を残して消えていくのを確認すると俺は息を吐いた。

 ふぅ。

 危ない危ない。

 転がっている初老の男を人質にされたり、俺を無視してパルや女の子を狙われたら厄介だったが、上手く倒せて良かった。

 こういう場合は短気で決着をつけないと厄介なことになる。隠し持っていたナイフを全て使ってしまったが、正解だったようだ。

 なかなかレッサーデーモンは強いな。

 レベルいくつだ?

 50くらいはある気がする。

 おっと。

 それよりもだ。


「大丈夫か?」


 安全を確認したところで針を持っていた少女にそう声をかけると――


「パ、パルヴァスが、パルヴァスちゃんが死んじゃう!」


 少女は綺麗な金髪を振り乱すように振り返ると、床にうずくまっているパルを気づかうように肩に手を置いた。

 パルの血色は悪くない。

 無事なのは確実だが、それでも俺は急いでポーションを取り出しつつパルの横に座った。


「パル、俺だ」

「師匠……ごめ、んなさい」

「謝るのは俺のほうだ。傷を見せろ」

「は、はい」


 パルが身体を起こすと、真っ白なドレスが血だらけになっているのが分かった。胸から腹にかけて血がにじむように付いていて、ドレスは引っかいたような傷で破れていた。


「ひぃ!?」


 美少女が悲鳴をあげる。

 まぁ、血まみれになっていたら悲鳴をあげるのも無理はないよな。


「ドレスを脱がすぞ。ポーションを使う」

「はい……あ、でも」

「なんだ?」

「優しくしてください」

「……余裕あるな、おい」

「間違えた。痛くしないでください」

「やっぱ余裕あるじゃねーか、まったく」


 上半身はズタズタになっているドレスだが、スカートは無事ではある。しかし、どう考えても修繕不可能な状態だったので、治療優先でナイフで切らせてもらった。

 ドレスの前部分を完全に開いてしまうが血でべったりと張り付いていた。

 血の勢いは止まっているが、胸からお腹にかけて縦に切り裂かれている。むしろ余裕があるほうが不思議なのだが……恐らくマニューサピスの毒が上手い具合に切れていないのだろう。

 麻痺が痛み止めの効果を発揮しているのかもしれない。

 まぁ、逆に言うと、マニューサピスの毒が完全に抜けきっていないので体の反応が悪く、攻撃に当たってしまった、という可能性もあるが。


「き、傷がこんなに……!」

「この程度なら大丈夫。ちゃんと傷も残らないで治るよ」


 そこまで深い傷ではなく、すでに血も止まりかけている。この程度ならポーションを使えば綺麗に傷も消えるはずだ。

 盗んできたポーションに加えてパルのツールボックスからも小瓶に入れられたポーションを取り出して、ゆっくり染み込ませるようにパルの傷にかけていった。


「あだ、あいだだだだだだ!?」

「我慢しろ」

「うぅ~。痛くしないでって言ったのにぃ。師匠の下手くそ」

「……今すぐもっと痛いことをしてやろうか?」

「はい!」

「嬉しそうにしてんじゃねーよ」


 パシン、と頭を叩いておいた。

 そうこうしている内にポーションの効果でパルの傷がふさがっていく。やはりそこまで深い傷ではなかったようだ。

 ゆっくりと傷が消えていき、綺麗な胸とお腹になった。


「おぉ~。まだ痛いけど治ってる」

「貧乳で良かったな。巨乳だったらハイ・ポーションでも治せるか微妙だったぞ、たぶん」

「あはは。師匠も好きなおっぱいの大きさだし、あたしって運がいい! 師匠、今なら触りたい放題ですよ」

「痛むからやめとけ、マジで」

「え、ホントに?」


 パルは自分の胸を下から持ち上げるように揉むと――


「ひぎゃあああ!?」


 痛かったらしく、悲鳴をあげた。

 そりゃそうだ。

 さっきまで切り裂かれていたんだからなぁ。まだ痛むに決まっている。あと毒も段々と消えていくし、なんならポーションでちょっとは解毒されたんじゃないか?


「うぅ、痛い~。師匠、なでなでしてください」

「嫌だ。というかおまえ、この子のいる前でそんな……」


 もうどう考えてもそういう関係にしか見えないと思うので、せっかくパルを助けようとしてくれたこの美少女にとんでもない誤解を与え――


「な、なにをしてるんだ……?」


 美少女はごそごそと自分の服をいじっていた。というか、どうにもドレスの胸元を緩めようとしている感じがある。


「よ、よろしければ師匠さま。わたしの胸で良ければ、遠慮なくおさわりください」

「ベルちゃん!?」

「はい?」


 師匠さま?

 え?

 なに言ってんの、この子。


「パルヴァスちゃんと同じくらいですので。きっと師匠さまの好みに近いと思います」


 え?

 なんで?

 混乱してるの?

 あまりの恐怖におかしくなってしまったとか?


「さぁ、どうぞ!」


 というか、むしろ目をキラキラさせて喜んでる。

 痴女なの?

 えっちな子なの?

 うわぁ!?

 ホントに脱いだ!

 えぇ~……

 めちゃくちゃ綺麗な形ですね、色も可愛らしくて綺麗です。この光景を深く心に刻み込みましたので、向こう十年はオカズに困らな――

 いや、待て待て!

 待て待て待て待て待て!


「というか君、もしかして末っ子のお姫――」

「いました! こちらです!」


 と、その時。

 なにやらバタバタと声がして扉の前には騎士たちが集まってきた。どうやら全員が同じ騎士団のようで、珍しいことに女性ばかりだった。

 そんな騎士は雪崩れ込むように部屋の中に入ってくると――


「こいつが誘拐犯か!」

「今まさにベルさまを襲っています!」

「この外道がぁ!」

「えぇ!?」


 いや。

 まぁ、そうでしょうね。

 そうなりますよね。

 言い訳もできないでしょうね。

 だって、パルがほぼ全裸ですし、この美少女さまも胸を見せてましたものね。

 レッサーデーモンは消えてなくなって石になってますものね。

 一方、俺はというと――

 怪しい黒いオーガの仮面で顔を隠してますものね。

 ね。

 ね。

 ね。

 というわけで――


「待たんか貴様ぁ!」

「違う違う! 誤解だ! 話を聞いてくれ!」

「師匠さま!」

「師匠~!」


 俺は女性騎士団に追いかけまわされるのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る