~愚息! 僕は何をやっても許される素晴らしい選ばれた人間~
退屈だ。
父上に強制的に連れてこられたパーロナ国の王都。その別宅の狭い部屋で、やることもないのでダラダラとするしかなかった。
「本でも読んでおけ。いずれ役に立つ」
どこか遊びに行きたいと父上に言うと、まったく相手をしてくれない。読んでおけ、と言われたのはつまらなさそうなタイトルの本ばかり。
まったくもって読む気にもなれなかった。
共通語で書かれた文字がズラリと並ぶ父上の書庫。もちろんそこには英雄譚なんかあるわけもないし、絵本はおろか、挿絵すらも存在しない本ばかりだ。
庶民にとっては、この一冊だけで一生を暮らせるだけの価値がある、と言われても。僕には何の価値もない。
将来役に立つんじゃなくて、今すぐ僕の役に立って欲しい。
「ふわ~ぁ~」
大あくびをしたのはこれで何度目だろうか。
もう昼寝と夜に寝るのを繰り返し過ぎたせいで、ぜんぜんまったく眠たくもないんだけど、あくびだけはちゃんと出る。
「ぼっちゃん、情けない姿ですよ」
あくびのせいで涙目になった僕は、そんな小言を漏らすお世話係をにらみつけた。
「退屈だ、じい。どうしてメイドを連れてこれなかったんだ?」
馬車の荷台にはメイドのひとりかふたり、押し込める余裕くらいあっただろう。じいが禁止したので連れてくることが出来なかった。
「いろいろお客様がおいでになります。あのメイドたちではデファルス家の品位が疑われてしまいますので」
チッ、と舌打ちをすると、じいが咎めるような目で僕を見た。
「ヒマだ。ヒマだヒマだヒマだヒマだ! あ~ぁ~あ~ぁ~! じい。なにかメイドの代わりになるような物はないのか?」
「ありません」
「……はぁ~」
今度は舌打ちではなくため息が出た。
あぁ~ぁ~、なんにもやることがない上に出歩くのも禁止だなんて。どうして父上は僕を連れてきたんだろうか。
僕より兄さま達を連れてきたほうがよっぽどイイと思うんだけど。
いいよなぁ~、兄さま達は。もうすっかりと大人として扱ってもらっている。リュード兄さまは剣の訓練も始めているっていうのに、僕にはいっさい剣を触らせてくれない。
「危ないぞ、ラオ。怪我をしては大変だ」
そう言ってリュード兄さんは僕が剣に近づけないようにしっかりと保管している。武器庫には見張りの衛視が付いているし、父上の命令だからか、僕が命令をしても聞いてもらえない。
ちょっとくらい持たせてくれたっていいのに。
そう思ったので剣の代わりに木の棒で剣の訓練をしていたら窓ガラスを割ってしまった。メイドのせいにしようとしたけれど、残念ながら失敗した。今回連れてこられたのは、その罰だったのかもしれない。
こんなことなら木の棒ではなくメイドで遊んでたほうがマシだったなぁ~。
「ラディオス」
突然父上が部屋にやってきて、僕は寝ころんでいたソファから顔をあげた。
「はい。どうしました、父上」
「いっしょに来い。挨拶に行くぞ」
「いいんですか!?」
僕は喜び勇んで支度をじいに頼んだ。
どこへ行くかは聞いていないけど、とりあえずお出かけ用に準備してもらった服に着替えさせてもらい、新しい靴に履き替える。
その時、足の指が少しだけ靴に引っかかったので、罰としてメイドをひざまずかせた。
「おい」
「失礼しました、ラディオスさま――!」
頭をさげるメイドの頭を踏んづける。
「良かったな、新しい靴で。そっちの靴はピカピカに磨いておけよ」
「はい……!」
ぐりぐりぐり、と足を動かしてメイドがちゃんと反省しているのかを確かめた。うんうん、ちゃんと反省しているようで反発するような動きはない。
よろしい。
粗相をしたメイドは放っておいて、僕は父上の馬車に乗り込んだ。僕の後にはじいが乗り込んで馬車は出発する。
中には父上に仕える執事とメイドがいたので、メイドの膝の上に座った。そのままメイドの胸に持たれるように頭を付ける。
どんな椅子よりも高級な柔らかさだ。
ドワーフにはぜったいに作れない椅子だな。はっはっは。
「おまえはメイドが好きだな、ラディオス」
「おもしろいですから」
「そうか」
ふん、と父上は鼻で笑った。
あぁ~ぁ、分かってないなぁ父上。
これだから大人はダメなんだ。そこらへんの店で売っているオモチャなど、決まった遊び方で決まった反応しかない、すでに終わった物だ。
本だってそう。
何度読んだって内容と結末は変わらない。英雄は悪を倒すし、お姫様は助けられる。たまには英雄が敗北し、お姫様が無残にも犯されてしまう内容に変わってもいいのに。
それに比べて現実のメイドは違う。
日によって反応は変わっていくのだ。反抗的だったのが、やがて従順さを見せるし、人によってもその内容が違う。獣耳種のメイドのしっぽを引っ張ることもできるし、ハーフリングのメイドは力も弱いので簡単にねじ伏せられた。
泣いて謝るメイドの鼻を引っ張るのは面白いし、水をかけて裸にして、水浸しになっている廊下を掃除させるのも面白い。
ウサギタイプの獣耳種のメイドの耳を引っ張った時、ちぎれるちぎれると大騒ぎしていたのは愉快だった。
それでいてお金をやると喜ぶし、何も無かったと納得するのだから分かりやすいものだ。
銀貨を落として、口で拾え、と命令すると犬のように顔を地面にこすりつけて拾ってみせるのは最高だったし、ありがとう、と銀貨を回収すると絶望した表情を見せてくれるのは最高だった。
同じことをやってもメイドによってぜんぜん違う反応をみせる。
メイドは最高のオモチャだよ。
「父上のメイドも僕に仕えるようにしてくれたらいいのに。これも綺麗でおっぱいが大きいから、面白そうだ」
頭の後ろでぽよぽよと大きな胸の弾力を楽しむ。
「おまえも12になる頃には分かると思っていたが。ふむ……」
「成人はまだですよ、父上。冬です」
「分かっておる。息子の誕生日を忘れる父親がどこの世界にいるんだ」
「では誕生日プレゼントに父上のメイドをください」
「……考えておく」
父上はそういって馬車の窓から外を見た。
つられて僕も窓から街の様子を見るけど、庶民たちがウロウロしているだけで面白い物などどこにも無い。
屋台では見たこともない物が売っていたりするけど、庶民の食べる物だろうから、あまり美味しくなさそうだ。
肉を串に刺して焼いているだけなんて、どこが美味しいのだろうか?
濃厚なソースがかかってこそ、肉は美味しいに決まっている。
「もうすぐ到着するぞ、ラディオス。普通に座っておけ」
「? 分かりました」
父上に言われてメイドの膝から降りる。そのまま隣に座ると、メイドが少し息を吐いた。
あれは残念がっているに違いない。
僕は気に入ったメイドをとことん相手してあげている。
たっぷりと遊んであげて、お金もたくさん渡しているから満足してるメイドが多い。本人が笑顔で言っているのだから間違いないだろう。
父上のメイドも、僕が膝に座ってもらって喜んでるはずだ。あとでもっと気持ちよくさせてあげよう。
これでもメイドを相手にいろいろと実験をしてきてるからな。
女なんて分かりやすくて単純だ。
少し触ってやるだけで顔を赤くして、気持ちいいです、と喜ぶ。
ふっふっふ。
この胸の大きなメイドは触りがいがありそうだ。
「着いたぞ」
馬車が大通りから屋敷の中に入って行くのが分かった。窓から見える屋敷は――小さい。なんだここ? 庶民の家か?
あぁ、もしかしたら商人かもしれないな。
父上が何か新しい物でも買うのかもしれない。僕を連れてきたってことは、新しいオモチャ屋か? メイドが売ってる店だったらいいのに。
なにをしても壊れないメイドって売ってないのかな~。
「いらっしゃいませ、ジャルキース・ディファロスさま」
馬車の扉が開き、屋敷の使用人だと思う男が頭を下げた。
その後ろにはメイドの姿もあるけど……メイド服はあまり質の良い物じゃないみたいだな。デザインは普通な感じ。もっとオリジナルのメイド服だったら面白いのに。
僕と父上、それからじい達は馬車から降りて使用人の男に案内される。メイドは丁寧に頭を下げて挨拶しただけで付いてこなかった。
屋敷の中は……やっぱり小さかった。やっぱり商人が住んでいる家か? と思ったので父上に聞いてみた。
「……ここはジックス領の領主、イヒト氏の屋敷だ」
答えようかどうしようか迷ってから父上は答えた。行き先も伝えてなかったから、僕にはあまり聞かれたくなかったんだろうか?
良く分からないな。
それにしても――
「領主なのに、どうしてこんなに小さな屋敷なんですか?」
「それを見極めるためにも来た」
んん?
どういうことなんだろう?
良く分からないけど、とりあえず大人のやってることはツマんないから気にしなくていいや。
なんにしても、暇つぶしには丁度いいし、ソファでゴロゴロしているよりはマシだろうから。
「やぁ、よくお出でくださいましたデファルス殿」
しばらく待って、部屋に入ってきたのは父上と同じくらいの年齢の男だった。この人が領主なんだ。なんていうか、普通だな。威厳の無い感じ。
「こちら、息子のラディオスです。挨拶を」
「あ、初めましてイヒトさま。ラディオス・デファルスです」
僕はしっかりと頭を下げて挨拶をする。
後ろでじいが満足そうにうなづいていることだろう。これくらいなら僕にだって出来る。というよりも、これくらい出来ないと貴族として笑われてしまうからな。
「ふむ。よろしく頼むよラディオスくん」
「はい」
任せておください、という感じでうなづいておくけど。いったい何を頼まれているのか良く分からない。まぁ、そのあたりは全部父上や兄さまがやってくれるし、末っ子の僕が気にすることではない。
その後、メイドが持ってきたジュースを飲んだりしながら父上とイヒト・ジックスの話を聞いたりしてたけど、意味が分かんなくて段々と眠くなってきた。
「ふわ~ぁ~」
なので、また大あくびが出てしまう。
「ははは。大人の話は退屈だったかな? 良かったら自由に屋敷の中で遊んでおいで」
「いいのですか?」
僕は父上を見上げる。
「お世話になります」
父上はイヒト・ジックスに頭を下げた。
つまり、許可が出たってことだ。
僕はそのまま部屋から出ると後ろからじいが付いてきているのに気付いて振り返った。
「じいは付いてこなくていいのに」
「よそ様の屋敷ですからな。粗相をしないように」
「チッ」
自然と出てしまった舌打ち。
僕はそのまま屋敷の中を歩くと、前を歩くメイドを発見した。
なんだか痩せていて、みすぼらしいメイドだった。
まるで物乞いをしている愚かな庶民に、そのままメイド服を着せただけのような雰囲気がある。
「おい」
「は、はい?」
僕に呼び止められてメイドはびくりと肩を震わせて振り向いた。
「あ、お客様ですね。な、なにか御用でしょうか?」
びくびくとした態度に下手な作り笑い。
分かった。
こいつ、奴隷ってヤツだな?
奴隷の姿で置いておくには不快だから、メイド服を着せているのだろう。なるほど、頭がいいなイヒト・ジックスは。
誕生日プレゼントはメイドよりも女奴隷のほうがいいかもしれない。
メイド服を着させて、好きに扱っていいことにしよう。
「拾え」
素晴らしいアイデアを思いついたキッカケなので、この奴隷メイドにはお金をやることにした。ポケットから出した銀貨を床に落とす。
「え?」
「拾え」
「は、はぁ……?」
メイドは床にしゃがむと銀貨を拾って、僕に手渡してきた。
「なにをやっているんだ。そんな汚れた銀貨を俺に返そうっていうのか?」
「え? え?」
「その銀貨は汚れている。しっかりと拭け」
「わ、分かりました」
メイドはポケットからハンカチを取り出そうとしたが、俺はそれを静止させた。
「拭くのはメイド服でのスカートでだ。しっかりと持ち上げて、俺の目の前で綺麗に汚れを拭きとるんだ」
「で、でも、それじゃぁ、あの……」
「あ? お客様の命令は聞けないってのか?」
「い、いえ! ふ、ふかさせていただきます……」
メイドはおどおどしながらもスカートを両手で持ち上げるようにして、銀貨を挟んだ。もちろん下着が丸見えになる。
「そのままだ。しっかりと拭けよ」
「は、はい」
僕はニヤニヤとメイドの様子を見る。
みずぼらしいメイドだが、ちゃんと下着ははいているんだな。てっきり何もはいていないかと思ったが、普通の白いぱんつをはいていた。
「ふーん、布は安っぽいな」
ぱんつに指をかけ引っ張ってみる。
「ひぃ!?」
メイドが悲鳴をあげて下がってしまった。
「おい、誰が動いていいって言った? 罰を与える。ここで服を脱――」
「ぼっちゃま」
「なんだ、じい。今いいところだ。邪魔をしないでくれ」
「そこまでです」
「チッ」
つまらん。
俺はメイドから銀貨を奪い取ると、ポケットにねじ込んだ。
あぁ~ぁ。
やっぱり何をしてもいい奴隷が欲しいなぁ~。
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