~流麗! 馬車の中でイチャイチャ~
眷属に乗って馬車を止めた位置まで戻ると――
「ふへぇ~」
パルは倒れ込むように馬車に乗り込みました。
心無しか、大人しく待っていたスレイプニルが苦笑しているようでもあります。
「馬よりは頭いいのか」
そんなスレイプニルを見て師匠さんは言いましたが、わたしは首を傾げました。
確かに言われた場所まで進んでくれますし、待っていろ、と命令すればこの場で待機をしてくれます。
でも、それだけで頭が良いとは言えるでしょうか?
だったら、言う事を聞いてくれない者はスレイプニル以下ということになってしまいます。
「お馬さんも、頭がいいではありませんか」
「なるほど。比べるなっていう話か」
肩をすくめてから師匠さんは馬車に乗り込む。
確かにスレイプニルは頭がいい。大人しくて、命令を聞いてくれます。ですが、どこか幽鬼的というか、面白味に欠けるような気がするんですよねぇ。
「なんでなんでしょう?」
わたしはスレイプニルの鼻を撫でてあげる。
お馬さんだったら、くすぐったそうに表情の変化を見せてくれるのですけど、スレイプニルはそのままな感じ。
もちろん触ってることは分かっているし、わたしが主人っていうことも認識しているのですけど。どうにも、お堅くて融通の効かないメイドを相手にしている気分ですわ。
「ウチまで送ってくださいな」
コクン、とうなづいてくれる程度には意思疎通は出来ているので、良しとしましょう。
わたしが馬車に乗るのを待ってスレイプニルは動き出しました。
「うへぇ~、疲れたよぉ~」
座席に座った身体を前へズラすようにしてパルは泣き言をつぶやく。
あぁ~ぁ~、足も開いてしまってからに。乙女として、そのだらしない格好はダメですわよ、パル。
まぁ、注意しませんけど。
「ウォーター・ゴーレムより疲れたか?」
師匠さんはそんなパルを見て、苦笑しながら聞いた。
ちなみに馬車の中は向かい合うように座席があって、師匠さんはひとりで座ってる。向かい合う形で、わたしとパルが座っていました。
師匠さんから見れば、足をがば~っと開いてダラけているパルの姿が真正面。ちょっぴり視線を下げたあとは、馬車の窓から外を見るようにしていらっしゃいます。
さすが師匠さん。
紳士ですわね。
「ウォーター・ゴーレムは必死だったから疲れは感じなかったけど。でも、今回のは何かこう、作業っぽかった。逃げるのを追いかけまわしたり、たくさん倒さないといけなかったし」
「確かに、今回の戦闘とは言えなかったかもしれないな」
師匠さんは肩をすくめる。
「師匠はぜんぜん疲れてませんよね? うぅ~、体力の差?」
「確かにそれもあるが。無駄な動きを削ぎ落として、行動の取捨選択を的確にし、判断を素早く下す。それが出来るようになると力の使い方が違ってくるぞ。体力にも余裕が生まれる」
「む、難しそうです……」
ですわね、とわたしも隣でうなづきました。
師匠さんから見れば、わたしなんて無駄な動きの塊でしょう。
でも。
「わたしは無駄を愛していますので、いまのパルも大好きですよ?」
「慰めになってない」
「あら、残念」
肩をすくめたわたしを見て師匠さんは苦笑しました。
「長期戦闘は滅多に無いが……体力づくりも考えたほうがいいかもしれんな。帰ったら走り込みをしてみるか」
「うへぇ~」
投擲訓練、不意打ち訓練、スキル訓練、気配消しに魔力糸訓練、と続いて体力づくりの走り込み。
それだけでパルの一日の行動が終わってしまいそうですわね。
「しばらくは冒険者の仕事はお休みかしら」
「レベルあがんなーい」
いつまでたってもレベル1。
まぁ、それはそれで面白いので、良し、としましょう。
なにせ、わたしとパルでサイキョーのレベル1冒険者ですので。周囲がアッと驚く実力を見せるのはちょっと楽しいですしね。
フリルお嬢様も、わたし達を普通のレベル1だと思ってあなどってらっしゃったわけで。
素直に認識をあらためる器量の大きさを見せてもらえて、わたしは満足です。
さてさて。
そんな風に馬車の中で雑談をしていると――
「あら」
トンと、わたしの肩にもたれてくるパル。
急な可愛げを見せて、どうして欲しいんでしょうかこの愛い娘は。と、思ったのですが違いました。
「う……むにゅ……」
どうやら本当に疲れ切ってしまっていて、眠ってしまったようです。
「支配者さまの肩を借りるなんて、百万年早いですわ」
というわけで、パルを起こさないようにそっと座席に寝かせてあげました。馬車の一定間隔でゴトゴトと揺れるのが眠気を誘うとも聞いたことありますし、仕方がないですね~、まったく。
そっと足も持ち上げて座席の上に乗せると、縮こまるような形で眠りにおちました。
ほんと、小さな体で元気に動き回る小娘ですこと。
「我が領地の危機を救う手助けをして頂き、感謝いたしますわ」
祝福のキスをしてさしあげたいところですけど、起こしてしまっては台無しです。代わりに影の中から布を作り出して、パルにかけてあげました。
真っ黒というか、漆黒の布ですし、温かみは皆無かもしれませんが。無いよりかはマシでしょう。
「なんでも作れるんだな」
「大神ナーが入り込んだおかげでしょうか。コツを掴んだ感じですわ」
わたしは手のひらの上に小さな人型を顕現してみせる。背中に羽を生やして、髪の毛を長く伸ばせば……妖精ができあがった。
「見事なものだ。売れそうだな、これ」
「貴族に売りつけて、情報収集など出来ますが」
影で作った物に意識を飛ばせば、話くらいは聞けそうです。大神ナーの神殿に置かれてる御神体とか、サチがどんなお世話をしているのか、知ろうと思えば知れますわよ。
やりませんけど。
なんか、ちょっと、怖いので。
「なにそれ怖い」
師匠さんの正直な感想に、わたしはくすくすと笑った。
「安心してください。やりませんわ」
なにせ。
大きな蜂と戦った際、水を分裂させて全てを制御しようとした時のようになってしまう可能性もありますので。
なによりその間はわたし自身が集中して動けない状態になってしまうので退屈極まりないのです。
パシャン、と弾けるように手のひらの上の妖精さんを眷属解除をして消滅させると、わたしは師匠さんの隣に座りました。
「ねぇねぇ師匠さん」
「なんだ?」
「最近はパルばっかりかまってらっしゃったので、わたしもかまって欲しいです」
「そうだったか?」
そうですよ、とわたしはくちびるを尖らせました。
「分かっておりますよ、わたしだって。パルは本物で、わたしはニセモノですから」
わたしはあくまでもロリババァですので。
本物のロリにはなれません。
「ですけど、わたしのことだって、少しはかまってくださってもいいじゃないですか」
「まぁ、そりゃそうなんだけど……ルビーは大人だから、我慢してくれるだろ」
「その我慢にも限界があるのです」
というわけで、わたしは師匠さんの腕にしがみ付きました。
「おいおい」
「あんまり声を出すとパルが起きてしまいますわ、エラント」
「お、おう」
うふふ。
いつもは呼ばない名前を、ここぞという時に呼んであげると効果は抜群ですわよね。早速、ちょっぴりドギマギしている師匠さんを見れました。
なので、胸を押し当てる感じでもうちょっと腕にしがみ付きますが……
「?」
効果はいまいちのようだ。
そうでした。
わたしもぺったんこでしたわ!
直接触ってもらえれば柔らかいことは分かるんですけど、さすがに服の上からでは効果が薄れてしまうのも仕方がない。
ぐぬぬ。
こうなったら奥の手ですわ。
アプローチを初めて最初の一歩か二歩目にかけての状態なんですけど、もう奥の手です。切り札はとっておいても使いどころが無ければ意味がないので!
「エラント、お願いがあります」
「な、なんだ……?」
ごくり、と師匠さんは緊張するように応えました。
あらあら、かわいらしい。
何かを期待されるような、それでいて困ってしまうような。
そんな表情で、師匠さんはわたしを見ました。
「血を飲ませてくださいます?」
さてさて、師匠さんはいったい何をお願いされると思ったのでしょうか?
えっちなことを想像してたんじゃないですかぁ~?
うふふ。
「なんだ、そんなことか。いいぞ」
ちょっぴりの安堵と、ちょっぴりのがっかり感が混ざった表情で、師匠さんは許可をくださいました。
あはは、やっぱりかわいい。
「では、失礼しますね」
わたしは立ち上がって、師匠さんの前へと立ちました。そのまま両手を師匠さんの胸に当てると、またがるようにして師匠さんの膝の上へと座る。
「お、おいおい……」
「良いではありませんか。誰も見ていませんもの」
パルは静かに寝息を立てていますし、スレイプニルは馬車の外で一生懸命に働いてくださっています。
ですので、わたしがスカートを持ち上げたところで、咎める者もアンドロちゃんに告げ口する者もいません。
もちろん、わたしの下着も師匠さんにしか見えていませんわ。
「んふふ~」
スカートをふわりと広げ、師匠さんの下半身を覆い隠すようにスカートを広げる。そのまま腰を降ろすと、ダイレクトに師匠さんの服の感覚が太ももに伝わってきました。
「あは」
薄い布一枚だけで、師匠さんに触れるのは――ゾクゾクしますわね。
わたしはそのままぎゅ~っと師匠さんに抱き着きました。
「あ、あの、ル、ルビーさん?」
「どうしました、エラント」
「このままでは……その……ヤバい」
「なにがでしょう?」
わたしはキュっと太ももで師匠さんの腰を締め付けて、下腹部を少し動かす。
申し訳ありません師匠さん。
ちょっと座り心地が悪いので、位置を調整させていただきますわね。
え~っと、こっちかしら。
それともこっちがいいかしら~?
「おや? おやおやおや?」
「……」
「なにか硬い物がありますわね。なんでしょうこれは。わたしのお股に当たっていますわ」
「……」
「もう、師匠さんったら。投げナイフをこんな所にも仕込んでいるんですのね。危ないですわよ、まったく」
「あぁ~……す、すまない。武器はいくらでもあるほうが、ほら、いいだろ?」
「女の子を抱いている時は、もっと優しい武器のほうがいいですわ」
「そ、そうだな。今度から、そうするよ」
「はい。でも、今はこのままで」
「うぅ」
照れちゃって。
かわいいエラントくんを見れて、わたしは大満足です。
「かぷ」
「んぐっ……」
「ちゅぅ、ちゅぅ、ちう……れろれろ……んふふ」
「ちょ、ルビー……あまり、動かないでくれ……ま、マズイことになる……」
「エラントちゃんの血は不味くありませんわ。綺麗で甘くて、とっても美味しいですわよ」
「いや、そうじゃなくて……」
「どういうことでしょう? うりうり」
「あわわわわわ」
師匠さんが本気でダメだというまで。
たっぷりと堪能させて頂きました。
あ、もちろん血ですよ?
吸い過ぎると、師匠さんが死んじゃいますので。
んふふ~。
ちょっぴりドキドキな、馬車の中の出来事でした。
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