~流麗! 魔物の群れを一掃しましょう~
どこかいつもと雰囲気の違う師匠さん。
それもそのはず。
この戦闘跡には勇者パーティの痕跡が残されているそうですので、気にならない訳がありません。
かつての仲間がどこでどうして、どうなったのか。
気にならない、とおっしゃるほうが嘘に聞こえます。
もっとも――
わたしは師匠さんがどうして勇者パーティから離脱しているのか。どうして別行動をしているのか。その詳しい理由を教えてもらっていません。
ですが、あまり良い理由ではなさそうです。
どんな愚鈍でお花畑の思考をしてても、想像にたやすい状況ですわよね。
もしも。
もしもこれが勇者という人物の策であれば――
それこそ荒唐無稽も良いところではあるし、師匠さんが裏で頑張っているのを姑息に最前線で待ち続けるちょっとひん曲がった根性は、是非とも叩き直したいと思う所存ではありますが。
ですが、それは無いでしょうね。
勇者というからには、それはそれは素晴らしい人物に違いありません。品行方正、聖人君子、
仲間思いでいらっしゃるに決まっています。
そんな人物が師匠さんをパーティから追放するとは、悪逆非道と申しますか、卑劣というか下劣にも劣る所業。
やはりそれは考えられませんので。
きっと深い深いなんらかの理由があったのでしょう。
なにより、師匠さんが裏からコソコソと支援する気マンマンですし。
パーティ追放を甘んじて受け入れたのか、それとも無理やり追い出されたのかは分かりませんが、未練タラタラなのは事実です。
まったくまったく――
「嫉妬してしまいますわ」
「なにが?」
隣で聞いていたのかパルがオオカミの上から聞いてきた。
上空から魔物の群れの痕跡をコウモリに追いかけてもらっていて、それを地上から追いかけている。わたしは自分の足で走ってますが、師匠さんとパルにはオオカミに乗ってもらって移動していました。
「師匠さんが乗っているオオカミさんのことです。わたしもいずれ上へ乗って欲しいと思いまして」
「ルビーの変態」
「はい」
「認めた!?」
嘘にはほんの少し真実を混ぜればいい。
わたしも、少しだけ盗賊に近づけているでしょうか。嘘を付くのが上手くなるというのは、ちょっと乙女としてどうかと思いますが。
それでも少女には必須のスキルかと思います。
殿方は、女の子の嘘を見抜けないといけませんが――
女の子は、男の子を騙せるくらいに嘘が上手でないといけません。
恋の駆け引き。
難しいところですわ。
「おっと。パルパル、おしゃべりはここまでです。舌を噛みますわよ」
「ほへ?」
「敵が見えました」
もちろん、今のわたし達からは見えませんが、上空にいるコウモリには見えていた。
この先にはちょっとした崖があり、わらわらと魔物たちが集まっている。大小、さまざまな魔物たちが一ヶ所に集中していた。
それらは魔王さまの呪いで発生した魔物。
無より顕現し、闇から出ずるマガイモノ。
つまりモンスターたち。
いったい何をしているのか分かりませんが、崖に面しているのならチャンスですわね。
「いきますわよー!」
わたしは走る速度をあげて、そのまま群れの最後尾にいた魔物を思いっきり殴りつけた。
パーン、という軽い何かが弾けたような音と共に魔物の破片が一直線に飛んでいく。それは後方にいた魔物たちを巻き込んで崖へと墜落していった。
深い谷底に落ちれば半端なモンスターであれば一撃死。
地面こそ、最強の武器だとどこかの書物に書いてありました。
さぁ。
さぁさぁさぁ!
「おーっほっほっほ! さぁさ、どこからでも掛かっておいでなさい!」
とりあえずモンスターたちの注意をわたしに引きつけておきまして……師匠さんやパルには自由に動いてもらいましょう。
わたしはワザと魔物の群れのど真ん中まで移動して、高笑いをあげる。
獲物がノコノコと現れた、とばかりに周囲のモンスターたちはわたし目掛けて襲いかかってきました。
「おまぬけさんですわね。何の策も無く突っ込んでくるなんて」
群れ、という括りではあるのですが、ある程度の種族の方向性があるようですわね。
スライムみたいな足の遅いモンスターはいませんが、だからといってデュラハンのような特殊な存在もいない。
どうやら二足歩行の魔物が多く、ゴブリンやコボルトが大半。ボガートやオーガの姿もありますが、ちょこちょこ人型以外のモンスターも混じっている様子。
どうして崖の近くをウロついているのかは分かりませんが、それを調べるためにも全滅させないことには始まりません。
「さぁさぁ、いくらでも相手になってあげますわ。ですが、逃げる者は許しません」
できるだけ目立つように、大暴れする。
人間領では太陽のせいで能力が制限されておりますが、魔王領でしたら昼間であっても問題なく全力が出せます。
飛び掛かってきたゴブリンを蹴り上げ、コボルトを殴り飛ばし、ボガートの剣を受け止め、オーガを投げ飛ばした。
そんな中で、モンスターでも小賢しい者がいるようです。
逃げようとするゴブリン。
いえ、ゴブリンらしいとも言えますが。
逃げられると厄介ですので影を伸ばして倒そうとしましたが……その背中にナイフが刺さり倒れるゴブリン。
おぉ、さすが師匠さんです。
倒れたゴブリンはきっちりパルがトドメを刺しているようですので、逃亡者はふたりに任せることにしますか。
さすがに一斉に逃げ出すことは無いと思いますので、できるだけゴブリンから先に倒すことにしましょう。
ボガードなんかは死ぬまで戦いますから後回しで充分。
トロールも足が遅いので、後回し。
コボルトちゃんは弱いのでさくっとやっつけて……なんでサハギンまでいますの? え、大丈夫? 突然変異で地上型に生まれ変わったとか? あ、弱い。良かった。普通のサハギンでした。
「ほい、ほい、ほい、っと」
ゴブリンを優先に殴って殴って殴って、殴り飛ばして、あいだあいだにこちらに向かってくるボガードを蹴り飛ばし、オーガは一撃でお腹に穴を空け、コボルトちゃんは優しく一瞬で絶命させてあげて、トロールは面倒なので崖に向かって投げ飛ばす。
「キリがありませんわね。段々と飽きてきましたわ……眷属召喚~」
久しぶりに好き放題に暴れられると思いましたが、単調な戦闘に飽きてきました。やっぱり人間領で冒険者という制限の上で戦っているほうがよっぽど楽しいです。
まぁ、魔王領でわたしに匹敵するくらいのモンスターが発生されても困りものですが。デュラハンの群れとか、いたら面白そうですけどシャレにはなりません。
数匹程度でしたら普通に対処できるものの、大量発生した場合はどうしても大規模な討伐計画を立てないといけませんし、領民たちが危険にさらされることになりますから、わたしが出ていくしかないのですけど。
さてさて弱いモンスターは眷属に任せて――あ、師匠さんやパルはその眷属という意味ではないですからね、間違えないでくださいまし――わたしは大物を仕留めることにしましょう。
群れの中に一匹だけ。
まるで他のモンスターに守られるようにしている鈍色の全身鎧。いえ、銀色というべき色だと思ったのですが、フリルお嬢様の本物の『銀色』を見たあとでは、まるでくすんだ鉄にも劣る色に見えます。
光を反射しない灰色の鎧に身を包んだ者――とも思われるが、実は中身は空っぽのモンスター。
カースアーマー。
さまよう鎧、ですわね。
いわゆるゴースト種に含まれますが、珍しいことに実体を持っているタイプ。厄介なのが普通に攻撃することが可能で触れることができるのですが、実はまったく効いていません。
魔法や属性攻撃でないと倒せないという事実に気付かないことには、永遠に戦い続けることになってしまう相手です。
まるで指揮官のように振る舞っている呪鎧が群れのリーダーのようですので、さっさと倒してしまいましょう。
「どいてコボルトちゃん! そいつ殺せない!」
カースアーマーまでの道を塞ぐコボルトちゃんをペシンペシンとビンタで倒しながら進むと周囲から一斉に魔物が飛び掛かってきた。
攻撃でも何でも無い捨て身の行動。
わたしの動きを封じるだけが狙いのようですが……この程度で止まると思ったら大間違いです。
わたしは影を鋭利なトゲにして、地面から突き上げました。無数のトゲが、まるで柱のように伸びあがり、飛び掛かってきた魔物たちを串刺しにしていく。
「わたし、串刺し公と呼ばれたことは一度も無いんですの。だって、あまり美しくないでしょ、この倒し方」
絵本でしたっけ?
それとも冒険譚でしたでしょうか。
串刺し公と呼ばれる吸血鬼が登場するお話があるのですが、わたし名前を聞いたことがあるくらいで、内容はまったく知りません。
串刺し公と呼ばれるくらいですから、きっと人々を串刺しにしていた吸血鬼のお話なんでしょう。実は串焼きが大好きな吸血鬼のお話の可能性は捨てきれませんし。
もっともっと本は読まないといけませんわね~。
魔王領では新しい本がちっとも手に入らないのですから、仕方がなかったのです。
でも。
これからは新しい実家がありますので、いくらでも読む機会があります。新しく作られた本も簡単にゲットすることができるでしょう。
んふふ。
あぁ~、楽しみ楽しみ。
「というわけで、ごきげんようカースアーマーさま。滅びる準備は整いましたかしら?」
「×××××!」
「あぁ、申し訳ありませんわ。ゴースト語はさっぱりですの。不勉強なわたしを笑いながら死んでいってください」
カースアーマーが剣を抜き、切りかかってくる。それを、ちょんと人差し指で受け止めてから、丁寧に鎧を蹴り上げた。
ドン、と空へ放り投げられるように飛ぶ灰色の鎧。スケルトンのように頭だけが離れたら消滅しないのでしょうか?
「実験してみましょう」
落ちてくるカースアーマーに向かって、足を振り上げる。ちょっぴりはしたないですが、スカートを持ち上げて、丁寧に兜だけを狙って蹴ってみました。
グシャリ、と金属がひしゃげるような音がして、兜だけが飛んで行って崖下に落ちていく。
ですが、カースアーマーは起き上がり、剣をかまえました。
「ふ~ん。やっぱり魔法か属性攻撃でないと倒せないんですのね」
では、試したかったことを試してみましょう。
「アクティヴァーテ」
マグ『常闇のヴェール』を使用してみる。
わたしのマグは師匠さんやパルのとは違って、常時発動タイプ。これで太陽の光を抑制しているのですが、本来は闇属性付与の魔法。
武器や防具に使うはずの魔法ですが、自分の体を武器ともする闘士という職業があるのですから、わたしもそのひとりと考えればイケるはず。
「おぉ~」
拳を握ってみれば、そこに薄く黒いオーラが顕現しました。
「見てください師匠さん! 闇の力ですわ~!」
遠くでゴブリンにナイフを投擲していた師匠さんにぶんぶんと両腕を振ってアピール。
「お、おう……良かったな」
「はい!」
師匠さんに褒めてもらいましたのでやる気アップです。
今なら魔王さまも倒せそうですわ~!
嘘ですけど!
「いきます。闇ぱーんち!」
なんか剣で切りかかってきましたが、遅い遅い。振り下ろされる前にカースアーマーの胴体部分を殴り飛ばしました。
「×××!?」
「ですからわたし、共通語以外はサッパリですの。ごめんあそばせ闇きーっく!」
転がりながら悲鳴らしきものをあげるカースアーマーに追いつき、そのまま思いっきり蹴っ飛ばしてさしあげました。
あわれ、呪われた鎧はベッコベコにへっこみ、そのまま消滅しながら崖の下へと落ちていきました。
「ふぅ~。リーダーを倒しました」
勝利!
ざっとこんなもんですわ。
「ルビー、うしろうしろ!」
「うしろ?」
パルの声が聞こえたので振り返りましたところ、思いっきりトロールが腕を振り下ろしている最中でした。
パルちゃん、助言が遅い。
いくらわたしでも、このタイミングでは避けられません。
「あっ」
というわけで、わたし。
無様に殴り飛ばされてしまいまして――
「あ~れ~?」
崖から落ちてしまいました。
う~ん、しっぱいしっぱい。絵に描いたような油断をしてしまいました。
ひゅ~ん、と崖から落ちて、びたーん、と地面に叩きつけらる。
「あいたぁ!?」
で、済むのは吸血鬼の特権ですわね。
「あいたたた……おや?」
周囲にはたくさん魔物の石が転がっていたのですが……何者かが動く気配がありました。
ふ~ん?
どうやらモンスターたちが集まっていた理由は、この崖下にありそうですわね。
その証明のように、崖部分には洞窟があり……その中に、何者かがいるようです。
「あんたは……」
そんな洞窟から警戒するように、何者かが姿を見せるのでした。
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