~流麗! 陽キャ吸血鬼、嫌われる~
昼食を食べ終わり、しっかりと休憩を取ったわたし達は。
赤毛と戦士と合流してどっこい村改め、エルリアント村の北側に広がる森の中へ移動しました。
「う~ん」
「な、なにか……?」
わたしは戦士ガイスをジ~っと見つめます。
「いえ、あまり特徴の無い御人と思いまして。武器は斧ですの?」
「特徴無い……」
がっくりと肩を落とすガイス。
身体付きはガッチリしてますし、身長は高いのですが。それといって装備に特徴があるわけでもありませんし、黒髪ですし、短髪ですし、どうにも印象が『戦士』だけ。
ちょっとボケ~っとしている柔和な印象がある程度で、赤毛と違って名前で呼ばないと誰か分からない。
別にこだわりがあるわけではありませんけど、どうにも人間種を名前ではなく特徴や見た目で呼ぼうとするのはわたしのクセなんでしょうか。
ハイ・エルフは良かったんですけどね。
唯一の種族にして、唯一の存在でありますので。
種族名を呼ぶだけで誰か分かるのですから、便利です。もとより名前を失っているので、他に呼びようもないんですけど。
「高身長? 筋肉? 斧使い? どうにもシックリきませんわね。ガイスと呼び捨てでもかまいませんか?」
「ルゥブルムさん、オレは? オレは?」
「あなたは赤毛でしょう」
あまり赤毛の人間種なんて見かけませんからね。特に冒険者は頭を守るために防具を装備そていることも多いので、赤毛の魔法使いっていう特徴は珍しいです。
「ちぇ~。もうちょっとルゥブルムさんにオレのことを知ってもらいたかったなぁ。この依頼が終わったら、いっしょにごはんとかどうです?」
「あら、いいですわね。フリルお嬢様もいっしょにどうですか?」
「わたくし?」
しっかりと周囲を警戒しながら歩いていたフリルお嬢様はいぶかしげな表情を浮かべました。
「遠慮しておきますわ。夕食はゆっくり静かに食べたいので」
「ですって、赤毛のチューズ」
わたしがそういうとガッカリするかと思いきや、なぜか赤毛は背中をゾクゾクと震わせて背筋を伸ばしていた。
なんですの、その反応。
ちょっと面白いですわね。
「どうしました、チューズ? 背中に雫でも落ちました?」
不意に冷たい雫が背中に落ちた時、思わず背中を反らしてしまうような、そんな反応でしたので。
「いや、ちょっと……」
チューズは背筋を伸ばしたりして背中を掻く。
ははーん、分かりました。
名前ですね。
「ちゅぅー~ず」
「ふひぃ!?」
わたしは赤毛の耳元でゆっくりと名前を呼んであげました。びくり、と彼は身体を揺すって驚き、わたしから距離を取るように逃げます。
「うふふ」
「な、なにするんですかルゥブルムさん」
「なんでもありませんわ。ほら、あまり離れるとゴブリン・アーチャーの矢が飛んできますわよ。こっちこっち」
わたしは赤毛の後ろに回り込むと、背中をツンツンと指で突っつきながらパーティのほうへ誘導しました。
あひ、とか、あへ、と情けない悲鳴をあげながらチューズはわたしから逃げるようにみんなの元へ合流。
「助けてガイス!」
「オレに助けを求めるんだ……」
なんだか情けない表情でガイスは飛び込んできた赤毛をしっかりと受け止めて抱っこしてしまう。
ガイスは背が高いですから、抱っこしてしまったチューズの背中をツンツンするには少々骨が折れます。
仕方がないのでガイスの脇腹をツンツンしましたが……
「あれ、無反応ですの?」
「まぁこれくらいなら、大丈夫です」
「じゃ、ここは?」
ガイスの後ろにまわって背中をつつつ~となぞってみる。
「問題ないッス」
「う~ん……じゃぁ、これだ」
ガイスにぎゅ~っと抱き着く。と、同時にガイスの悲鳴とチューズの悲鳴が森の木々の中に反射するように広がった。
ガイスくんの悲鳴はびっくりした悲鳴でしたが。
対してチューズくんの悲鳴は痛みから。
あらあら可哀想。なにせ驚いたガイスくんが抱っこしていたチューズくんを落としちゃったのですから。
「あいたたた……ヒドイなガイス」
「ご、ごめんよ」
ガイスはチューズに手を差し出して引っ張り起こしていた。
いいですわね、男同士の友情。
見ていて楽しいものがあります。
どちらの男の子もわたしに惚れたりしないでしょうか? そうすればひとりの女を取り合う男同士のマジなケンカが見れるやもしれません。
あぁ、そこにフリルお嬢様やメイドが参戦してくださったりしないでしょうか。
パーティが!
パーティが崩壊していく音がするぅ~ん。
「ちょっと、ルゥブルム」
「はひ」
「はひ、じゃありません。ちゃんと返事なさい」
「こほん、失礼しましたお嬢様。なんでしょうか?」
「邪魔をするなら帰ってくださいまし。戦闘前から疲れたりダメージを負ったり、騒がしくして魔物を呼び寄せたり、不意打ちを受けたりしたらどうするつもりですの?」
おっと。
フリルお嬢様は憤慨なさっている様子。
ここは素直に謝っておきましょう。
「申し訳ありませんフリルお嬢様。わたし、この中では新参者でしょう? ですのでスキンシップをはかって男の子と仲良くなろうと思いまして。冒険者パーティは仲良しでないといけませんので」
「む。それは確かに必要ですわね」
お嬢様は口に右手をあてるようにして考えました。
可愛い仕草ですわね。
今度、マネしましょう。
「てっとりばやく仲良くなる方法もあるんですけどね」
「あら、ではそれをやれば良いではありませんか。どんな方法ですの?」
「裸の付き合い、という言葉があります。いっしょにお風呂に入って背中をあらいっこすれば、どんな種族であろうとも、たとえ魔物種であろうとも仲良しになれますわ」
お互いに武器を持つことなく、無防備な裸という弱点を見せあっても平気な関係。
それこそ理想ですわ。
全人類種と全魔物種は今すぐ裸になって生きるべきです。
うへへ。
そうすれば師匠さんの裸がいつでも堪能できますよね。
もちろん、わたしの裸も師匠さんに堪能してもらえます。
こういうのを一石二鳥と言うんですよね。
わたし、博識。
知恵のサピエンチェです。
「な、なななな、なにをいってますの、あなあなあなた」
ナイスなアイデアと思いましたが、フリルお嬢様は真っ赤になられて口をパクパクと魚のように動かしました。
「穴あなた、とはまた意味深……」
「違います! う、うぅ~!」
真っ赤になったお嬢様はメイドの後ろに隠れてしまいました。
可愛らしい反応ですけど、これはもうわたしには出来ない反応なのでマネできませんわね、残念。
ですが、目が節穴の殿方には通用するかもしれませんので覚えておきましょう。
ウブな女の子はモテますので。
「ルゥブルムさま、お戯れはそれくらいにしてください」
「あなたとも仲良くなりたいと思っていますわよ、メイドさん。どうです、いっしょにお風呂は?」
「お嬢様の許可があれば可能です。私個人の意見はノーですが」
「そうですか」
「そうですね」
じ~、とメイドがわたしの目を見てくる。
ふ~ん、強いですわね。
「もう!」
と、そんなわたしの隣でパルが声をあげた。
「うわ、びっくりした。いつの間に戻ってらしたの?」
「さっき戻ってきたよ。ルビーはちょっとうるさい。みんなに迷惑をかけちゃダメでしょ。師匠に言いつけるんだからね」
「そ、それは卑怯ですわパル。やめてくださいまし」
「じゃ、みんなに謝って」
「全裸土下座ですわね」
「いや、脱がなくていいから」
さっそくホットパンツのホックを外したわたしにパルが呆れるように注意した。赤毛と斧戦士の視線がホックに集中しているのが分かって、めちゃくちゃ楽しいんですけど……ここまでのようですわね。
ひとまずおふざけモードは終わりにして。
ここからは本気の冒険者モードで参りましょう。
まずはここまでの非礼を謝らないといけません。
「調子に乗ってしまいました。皆さま、申し訳ありま――」
「フリルさま、あっちにちょっと怪しい跡があったよ。あと周囲に魔物の気配はいまのところ無いっぽいから、大丈夫っぽい」
「曖昧ですわね、ちゃんと調べたんですの?」
「うっ、ごめんねフリルさま。わたし、まだまだ未熟なので。断言できるレベルでの魔物探索はまだできないです」
「そんなことないぜパルヴァス。フリルお嬢、信頼できる情報と捉えて大丈夫ですよ。なぁ、ガイス?」
「あぁ、パルヴァスのおかげでオレたち生きてるようなもんだから」
「ふ~ん。ふたりが信頼するのであればわたくしも信用しますわ。では、その痕跡とやらに案内してもらえます?」
「うん! ありがとチューズ、ガイス」
「へへ」
「今度はオレたちが恩返ししないと」
「えへへ~、ありがとう」
と、四人は謝るわたしを無視して進んで行ってしまいました。
わたしの隣に残ったのはメイドだけでした。
「……メイドは優しいんですのね。お嬢様を守らなくていいんですの?」
「いえ、お嬢様の大切なパーティですので、ルゥブルムさまもお守りする必要があります。優先順位は下がりますが、いま危ないのはルゥブルムさまですので」
「そう。――好き!」
「お断りします」
抱き着こうとしましたが避けられてしまいました。
ふ~ん。
やっぱり普通のメイドではありませんわね。
好き、ではなく『隙』を狙った感じで抱き着きに行ったのですが……それを避けられました。
なかなかの実力。
メイド服の上から簡易的なポイントアーマーを装備しているだけで武器も持っていない。ふわりと広がるロングスカートは足首まですっぽりと隠している。
不自然なほど見えていないことを考えれば……暗器使い、でしょうか。
もしくは、そのまま素手で戦う『闘士』という線もありますわね。
「ふふ」
「なにを笑っているのですか、ルゥブルムさま。さ、早く行きませんと置いていかれますわよ」
「そうですわね。わたし、あなたにも興味が出てきましたわ。やっぱり本気でいっしょにお風呂に入りませんか?」
「申し上げたはずですよ。お嬢様が命令してくだされば入ります、と」
「では、精一杯お嬢様の信頼を勝ち取りましょうか」
「頑張ってくださいませ」
メイドは深々と頭を下げました。
どうにも思うところはありますが……メイドにも思うところがあるのでしょう。この場合は、お互いの目的が合致した、といって良いのでしょうか。ともかく頑張りましょう。
パーティのみんなに追いつくと、メイドはフリルお嬢様にちょっと怒られてしました。そこは申し訳ないですが、仕方がありません。
一応、そこそこ打ち解けているフリをしているお嬢様ですが。
未だに警戒心のようなものを感じます。
もしかすると、誰にも心を開いていないのやもしれません。メイドにすら、と付け加えるのは少々うがった見方をし過ぎでしょうか。
上辺だけの付き合い。
それもまた、冒険者らしいといえばらしいのですが。
それでも多少は信頼をして頂かないといけません。
今、わたしの信頼度を数字にすると、お嬢様のレベルと同じ5ぐらいですかね。もしくは、わたしのレベルと同じ1かもしれません。
もちろん最高値は99です。
わたしが師匠さんを信頼する数字は99どころか100ですけどね。いえ、もう千や万では言い表せないくらいの数字です。
なにせ、師匠さんは勇者の仲間、でしたので。
魔王さまを裏切るつもりはもちろんでしたが……まさかここまで具体的に裏切ることになるなんて夢にも思っていませんでしたわ。
ふふふ。
まさかまさかの人生です。
人ではないので『吸血鬼生』とでも言いましょうか。
「超楽しいですわね、フリルお嬢様」
「なんですの、その言葉遣い。きちんとなさいませ」
「わたしはニセモノですから。これくらいが丁度いいのですわ」
「……そう」
おや。
なにか触れてはいけない部分に触れそうになった感じですわね。
ニセモノ……ですか。
ふ~ん。
「これこれ、これなんだけどさ」
先頭を歩くパルが足を止めました。指し示すのは一本の木。森の中に生えている、わりと普通の木ですが……これがどうしたのでしょう?
「これってマニューサピスの痕跡でいいのかな?」
「?」
パルの言葉に、みんなは一斉に首を横に傾げました。
わたしだけでなくフリルお嬢様もメイドも、男の子たちも首を右側へ傾ける。
痕跡も何も……まったく何も無くて分からないんですが?
「え、ここ、ここ。これ見てよ」
「はぁ……」
パルの示す場所をフリルお嬢様を先頭に近づいて見てみる。黒に近い茶色の幹に、木の皮がある程度で……ホントに分からないんですが?
「パルヴァス、説明してくださる?」
「へ? あ、はい、分かりましたフリルさま。えっとですね、蜂って六本足じゃないですか。で、おっきな蜂がここにこう抱き着くように止まりました」
パルは両手を広げて説明する。
「すると、縦に並んで足で止まった跡が三つ、木の幹に着きますよね。それがここに、ほら。あるじゃないですか」
「どれ……? あ、確かにありますわね」
「ホントだ。え、これどうやって見つけたんだパルヴァス……こわっ」
ほんのわずか。
少しだけ木の幹といいますか木の皮が削れているというか、めくれていると言いますか。それが縦に三つならんで、左右に合計六か所ありました。
なにをどうやればこんな木々の中でこの痕跡を見つけられますの?
赤毛の言うとおり、ちょっと怖いんですが。
「あ、なんかぶーんって音がしてなんか飛んでいったから。たぶんこの木だったかなぁ、って思って。でも後ろでルビーが騒いでたから気になって、見逃しちゃった。もしかしたらおっきいカブトムシかクワガタかもしれないし」
なぜか皆さんの視線がわたしに突き刺さりました。
いつもなら注目されて嬉しいのですが。
今日の視線は、なぜか痛いですわ。
「やはり全裸土下座すべきですか?」
「しなくていいですので、今後は静かにお願いします」
「はい」
あぁ!
お嬢様の!
お嬢様の信頼度が下がってしまいました!
1か5はあったはずなのに、いまゼロになりましたわ!
わたし、詳しいので。
なにせ魔王領で支配者をやってまして、いろいろ部下もたくさんいましたし、領地の魔物種や人間種とも友好な関係を築いていましたので、心の機微というものが分かります。
たぶん!
「う、うぅ~、パルぅ」
「ほら、落ち込まない落ち込まない。フリルさま、そんなに怒ってないよ」
「怒ってくださったほうがマシですわ」
「そうなの? ねぇねぇ、やっぱりルビーってマゾなの?」
「イジめるのも好きですが、イジメられるのも好きですわ。放置プレイにも興味あります」
「無敵じゃん」
「はい」
なんだこいつ、っていう目をしたパルに頭を撫でられました。
師匠さんと違ってヘタクソでした。
あとでたっぷり師匠さんになでなでしてもらうことにしましょう。
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