~可憐! VS・ウォーターゴーレム~ 3
ウォーター・ゴーレムの行動は、だいたい3つ。
超水鉄砲と水壁、そして水を集めて邪魔してきたり攻撃してきたり。今もあたしとルビーが走るのを邪魔してくるみたいに、水がちゃぷんと足元で微妙に動いてる。
足を床に付ける瞬間に、後ろから前から、水が流れてバランスを崩しにかかってきた。たぶんきっと、成長するブーツが無かったら転んでると思う。
「んぐ」
あたしは歩幅をできるだけ狭めて走る。
ルビーは逆に、とーん、と飛ぶように走っていた。あれじゃ転びそうだけど、良く見れば着地しているところをランダムにする感じで、水流を避けてるっぽい。
能力がかなり落ちているといっても、さすが魔王直属の四天王。
戦うことに関しては、ちゃんと『知恵のサピエンチェ』なのかもしれない。
「いくよ、ルビー!」
「よろしくてよ!」
ウォーター・ゴーレムの予備動作。腕を引いたのを見てあたしはルビーに声をかけた。
腕を突き出してくると同時に超水鉄砲が飛んでくる。
でも、それって言ってしまえばナイフの投擲と同じだ。先端さえ避けちゃえば、あとはずっと見えてる攻撃。槍の刺突のほうが分かりやすいかな。
とにかく、先っぽさえ良ければ後は怖くない。
あたしは左に、ルビーは右側に避けた。でも、薙ぎ払うように水ゴーレムが超水鉄砲を射出してる腕を動かす。
狙いは――あたしでもルビーでもなく、後ろ。
師匠だ!
「させない」
あたしは投げナイフを投擲する。
すぐさま人差し指と中指を立てて――マグを発動させた。
対象はナイフじゃなくて、ウォーター・ゴーレムの腕!
「アクティヴァーテ!」
師匠に向いていく水ゴーレムの腕が、ぐにゃん、と下へ向く。まるで溶けるみたいに腕が落ちていったけど……すぐに元に戻った。
「よし」
効いてないけど、効果はある!
そんな感じ。
でも、完全な隙は作れていなかった。超水鉄砲をキャンセルできるけど、すぐに腕は元に戻ってるし。この程度じゃダメだ。
もうちょっと何かと組み合わせて使わないと、師匠が攻撃するヒマを作り出せない。せめて、師匠に背中を向けるくらいのことをしないと。
「――ゴーレムに前とか後ろとか、あるの?」
なんか無さそう……
どっちかっていうと、あのウォーター・ゴーレムの中に浮いてる丸い物が目の役割を果たしてるような気がする。
視線があるわけじゃないけど。
でも、なんとなく丸い物から視線に似たような感覚をおぼえる。
「なにをぶつくさ言ってますの。突撃しますので、援護を!」
「あ、はーい」
あたしはルビーを援護するために投げナイフを投擲する。回収するために魔力糸を通したヤツを投げておいて、水壁を誘発。その間にルビーを近づきやすくした。
「ん?」
でもなんで、さっきみたいに水を集めてだぱーってあたし達を追い払わないんだろう? あれをやったらいちいち迎撃しないでいいと思うんだけど。
あんまり連発できないから?
でも水なんか無限ってくらいにあるし、まだまだゴーレムの魔力が尽きる様子もない。いや、魔力で動いてるのかどうかなんて分かんないけど。
でも、あの丸いヤツが本体で、それで水を動かしてるっていうのは間違ってないと思うから魔力で動かしているはず。
「ひあ~」
あ。なんか情けない声を出してルビーが水に沈んだ。沈んだっていうよりも、水が盛り上がって飲み込まれたって感じ。
そのままルビーは超水鉄砲に打たれて、師匠のところまでゴロゴロと押し流された。
「ふぅ。盾が無ければお腹に穴が開いていたかもしれませんね」
折れ曲がったルシェードさんの盾。
それで攻撃を防いだみたいだけど、体が水で浮いている状態だったら吹っ飛ばされてしまうのも仕方がない。
ガクガクとおびえるレーちゃん達にルビーはにっこりと健全アピールをした。
あたしまで後ろに下がっちゃうと、また水で押し流されたりして一ヶ所に集められたりして、上から一撃で叩き潰されるかもしれない。
なので、あたしはちょこちょこと水の上を走り回った。
ゴーレムに狙われつつ、距離は詰めないで、ぐるりと回る感じ。
エリアの中央からは祭壇に登るための階段があるので、上手くその物陰に隠れれば――
「え?」
足元の水が、波が引いていくように少なくなる。それと共に、エリア奥から高波のように水が押し寄せてきた。
「ええー!?」
そんなに階段の陰に隠れるのが悪いのかよぅ!
あたしは急いで階段から逃げて、そのついでにゴーレムに投げナイフを投擲する。手で余裕で止められた。握られてないけど勢いを阻害されて、顔に当たる時には勢いは無くなってる。魔力糸を引っ張って、それを回収しながらあたしは反対側へと逃げた。
ざっぱーん、と高波が崩れたけど、バランスを崩すほどの威力は無い。良かった、なんとか逃げられたみたい。
「今度は下がりませんわよ」
あたしと入れ替わるようにルビーが戻ってきて、前衛を頑張ってくれる。
でも、同じパターンを繰り返すだけで、なかなかウォーター・ゴーレムに致命的な隙を作れなかった。
「どうすれば……」
ごめんなさい、師匠。
と、あたしは少しだけ師匠を見る。
師匠は状況をジっと観察していた。隙を伺っているんだろうけど、それだけじゃなくて、もっともっと全体的なところに視線を動かしてした。
視線。
視線か。
ウォーター・ゴーレムの前とか後ろも気になるけど、視線っていうのも気になる。たぶん、あの丸い部分で『視てる』んだと思うけど。
「あ」
階段の陰に入るのをイヤがったのは、見えなくなるのをイヤがったから?
「もう一度……」
あたしは前衛をルビーに任せて、大回りするように走った。エリアの壁側を通るようなイメージでゴーレムの背後に回り込む。
「あれ?」
今度は、階段の横まで来ることができた。壁に寄り添っているとゴーレムに視線は通らない。つまり、ゴーレムからもあたしが見えていないはず。
足元には妨害するように水の流れは発生しているんだけど、さっきの高波みたいな直接的な妨害は無かった。
「んんん?」
ウォーター・ゴーレムの行動基準が良く分からない。
でも、階段の陰に隠れられたのはチャンスだ。
あたしはそのまま階段の側面にぴったりと寄り添うようにしてゴーレムへと近づいていく。このまま射線が通らないように階段を利用してゴーレムに近距離攻撃を――
「あれっ!?」
そう思った矢先、またしても後ろから高波がやってきた。
なにそのズレたタイミング!
どういうことぉ!?
「あわわわわ――こんのぉ!」
またしても逃げなきゃいけなかったので、高波に巻き込まれちゃう前にルビーの後ろまで下がった。
「なにしてますの、援護してくださいまし!」
「いろいろ考えてるの!」
「考えるより手を動かせと、以前アンドロが怒ってましたわよ!」
「大変だね、アンドロさん!」
「そっち!?」
「なにが!?」
結局、高波に押し戻される感じでルビーとあたしはざっぱーんと崩れる高波から逃げるために下がるしかなかった。
「まだまだいきますわよー!」
それでもルビーは少し楽しそうに盾をかまえながら突っ込んでいく。
「ちょ、ちょっとぉ! 作戦とか考えないとぉ!」
「お任せしますわー!」
やっぱり知恵のサピエンチェじゃなくて、アホのサピエンチェだ、まったくもう!
ルビーを援護しつつ、じりじり進んでは一気に押し返されたりを繰り返す。
何かさっきの階段の陰に隠れたりするのがヒントな気がするんだけどぉ……ん~、そこからどう繋げたらいいのか、いいアイデアが浮かばない。
「――サティス!」
「は、はい! なんですか師匠!」
びくぅ、と肩を揺らしつつ、ルビーの援護をしながら、水鉄砲を避けつつ、あたしは師匠に返事をした。
遊んでないでちゃんとやれ、なんて怒られるかと思ったけど――
「階段だ!」
それだけを、師匠は叫ぶように言った。
つまりそれって――
師匠からのアドバイスだ!
「階段?」
階段は確かに物陰になって、ウォーター・ゴーレムの射線から逃げられるし、角度によっては隠れられる。
でも、それはやった。
だから、そうじゃない。
え~っと、ということは……さっき奥のほうで階段に近づいたけど無視されてて、ゴーレムに近づいた時に押し流されるように高波が来た。
それはゴーレムに近づいたから、押し流されたんじゃなくて――
「階段の低い位置に近づいたからだ!」
分かった!
ウォーター・ゴーレムはあたし達に敵対しているけど、ぜんぜんその場から動いていない。なにより、ゴーレムは遺跡を侵入者から守る罠というか装置みたいなものだから。
ウォーター・ゴーレムののいる場所は階段の前。
そう。
つまり!
階段の前から、一歩も動いていない!
「ルビー!」
「名前まちがってましてよ!」
「いいからいいから。あたしを階段まで吹っ飛ばして!」
「了解ですわ。泣いても謝りませんわよ!」
あたしは一旦距離を取る。
パシャパシャと水を跳ねさせながら下がると、ふぅ、と息を整えた。
そして一気にルビーへ向かって走り始める。足元で水の流れが変わった。それを避けるように大股になったり小股にしながら加速していく。
「うりゃあああ!」
ランダムに、跳ねるように。
ルビーの走り方をマネして、足元の水流を避けながら加速していく。
「行くよ!」
「いつでも!」
あたしと同じくルビーも強引に前へ進んでいてくれた。
だからゴーレムの狙いがルビーに集中してる。
オトリのオトリ。
ウォーター・ゴーレムの狙いが完全にルビーになってる。
「今ですわ!」
ウォータ・ゴーレムが腕を引いた。
超水鉄砲が飛んでくる寸前で、あたしは思いっきり床を蹴って、ルビーへ向かって飛んだ。
ルビーは折れ曲がった盾を前にではなく、頭の上にかまえて、少しだけしゃがんでくれる。
その盾の上を目掛けて、あたしはジャンプした。
「おりゃぁ!」
ルビーを踏んずけるように。
あたしは盾を足場にして、思いっきりジャンプした!
「ッ!?」
そのすぐ下で、ルビーが超水鉄砲をまともにくらって、吹き飛ばされたのが分かった。お腹に穴が空いてそうだけど、今はそれを心配してる場合じゃない。
ウォーター・ゴーレムの真上を通り過ぎる。たぶんだけど、ジャンプのタイミングに合わせてルビーが下から突き上げるように押してくれた。
ありがとう、ルビー。
カタキは師匠が取ってくれるからね!
あたしは、くるん、と一回転して――
「ほっ!」
階段に着地した。
そのまま階段を二段、三弾と登って勢いを殺しながら振り返る。
どんなもんだい!
さぁ!
目論見通り――!
ウォーター・ゴーレムは、こちらへ向かって――
「え?」
あたしは見上げた。
たったひとりのあたしに向かって、ウォーター・ゴーレムは手のひらを広げるようにして、大きく大きく水を集めていた。
「し、師匠!」
みんなを叩き潰した攻撃よりは小さい。
でも――
でも、避けるには不可能な大きさ。
前へ行っても、後ろへ下がっても、左右へ逃げても。
どう考えても間に合わない。
「あ」
チャージ時間が短く、もう振り下ろされてる。
師匠は――
間に合う。
間に合うけど、あたしへの攻撃は止まらない!
「アクティヴァーテ」
師匠の姿が消えた。
転移の腕輪で、師匠はウォーター・ゴーレムの背後に転移する。
それはきっと、この世界で誰よりも速くて上手い、完璧なバックスタブ。
「――完璧強奪(ペルフェクトス・ラピーナム)」
凄い。
言葉にする時間がなくて、あたしは心の中で師匠を称賛した。
世界で一番美しい不意打ち。
世界で一番正しい不意打ち。
世界で一番素早い不意打ち。
転移が完了した師匠の右手には、すでにウォーター・ゴーレムの中に浮いていた丸い物があった。
ゴーレムを構成している核。
それを失ったウォーター・ゴーレムはバケツの水をひっくり返したように、形を失う。
でも。
あたしへの攻撃はすでに開始していた。
だから、叩きつけるような水の壁は。
あたしに向かって、落ちてくる。
まるで高いところから水に飛び降りるように。
あたしを叩き潰そうと。
落ちてくる。
「――!」
転移からの流れるような技を見届けながら、あたしは階段を蹴った。
師匠が勝ったのに。
勝ってくれたのに!
あたしが死んじゃったら意味がない!
「うりゃああ!」
あたしを叩き潰そうとしたゴーレムの水手は、形が崩れる。でも、落下してくる勢いは止まらない。だから、あたしは逆に飛び上がって落ちてくる平面の水に足を向けた。
お願い成長するブーツちゃん!
そう祈りを込めながら、高所から飛び込むように。
あたしは水に向かって足から入水した。
一本の線になるみたいに、あたしはできるだけ体の面積を少なくして、落ちてくる水の中に足から突っ込んだ。
「ッ!?」
衝撃で全身がしびれる。足の先から顔から腕まで、痛さの衝撃が一瞬にしてせり上がって行った。
バシャン、という遠退くような水の音が聞こえた瞬間に、なにも聞こえなくなった。水には一旦じゃなくて、地面に叩きつけられちゃったんじゃないかって思う。
痛い!
めちゃくちゃ痛い!
何が起こったのか分からない。
でも!
「んぐっ!」
痛いってことは、あたし生きてる!
目を開けば、まだ空中だった。バランスを崩しちゃってるから、慌てて体を制御して、階段の上に着地した。
「~~~~~! い、ぃぃぃぃいいったぁぃ……うぅ~、ぐううぅぅぅぅ……!」
着地したはいいけど、全身をビンタされたように痛い。
痛い。
痛い痛いい~た~い。
痛いよぉ~、師匠ぉ~。
「だ、大丈夫かパル……ぶっつけ本番の技だったので少し遅れた……」
師匠はあたしを見て、ちょっと驚いた顔をしてたんだけど……無事だったのを確認してホっと胸を撫でおろしてる。
「い、痛いよぅ~、たすけて師匠~ぉ~、うぅ~……ひえ!?」
あたしは師匠の後ろを見て、驚いた声をあげた。
「し、しししし、師匠、後ろ後ろ!」
「ん? あぁ」
師匠の手には、まだウォーター・ゴーレムの丸いのがあって。それが怪しく光って、周囲の水が再び体を作ろうとウネウネ動いている。
まるでスライムのようで、不気味で気持ち悪い。
でも師匠は余裕だった。
「トドメだ、サティス」
「あたしぃ!?」
師匠がぽーんと丸いのを投げたので、あたしは慌ててシャイン・ダガーを抜いて、切りつけた。スパっと綺麗にまっぷたつにできたのは、偶然です。
危なかったぁ……
これ、失敗して水の中に落としたら、ぜったい復活するパターンだよね。
やめてよぉ。
怖いよぅ。
「師匠~ぉ~」
「あはは、すまんすまん。でも、よくやった。痛かっただろ」
師匠はポーションの瓶を差し出した。
あたしはそれをじ~っと見て……
「全身が痛いので、師匠が付けてください」
「え?」
「腕とか太ももとか、ぜんぶビリビリ痛いので。師匠がポーションぬってください」
「わ、分かった」
というわけで、あたしは階段にちょこんと座って、師匠にぺったぺったと全身をケアしてもらいました。
「んふふ~」
「ふ、太ももの内側もか……?」
「もちろんです!」
「お、おう……」
「ひゃう」
「あ、ごめん。痛かったか?」
「ちょっとこしょばかったので……えへへ……」
「う、うん……じゃぁ、もうちょっと――」
「なにをイチャイチャしていますのー!? このわたしをもうちょっとねぎらっても良くありませんか!?」
復活したルビーが師匠に後ろから抱き着いた。師匠は完全に油断してたみたいで、そのままふたりでゴロゴロと階段を落ちていき、びちょーんと水の中に落ちる。
「大丈夫ですか、師匠」
「冷えて、ちょうどイイ」
なにが?
「わたしの愛の炎は冷えませんわ!」
なに言ってんの、この吸血鬼?
ふふん。
ルビーがなにを言っても無駄だもん。
師匠はあたしの太ももに夢中だったので!
今回の勝者は、あたしだ!
「ふっふっふー」
それはともかく。
あたし達はウォーター・ゴーレムに勝利したのでした!
やったね!
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