~可憐! VS・ウォーターゴーレム~ 2
ウォーター・ゴーレムを倒すには。
なんとか師匠が近づく隙を作らないといけない!
「行きますわよ!」
「うん!」
あたしとルビーは師匠より前に出て、ウォーター・ゴーレムに向かった。
「うりゃ!」
攻撃は通らないって分かってるけど、それでも隙を作るため。師匠を見習って、あらかじめ投げナイフに魔力糸を通しておいてから、ゴーレムに向かって投擲した。
ざぷん、と音がして水ゴーレムの前に壁が現れる。
あれ?
師匠にしか使ってなかった『水壁』をどうしてあたしなんかに? って思った瞬間に、その壁が波のようにあたしに向かってきた。
「わわわわ!?」
そんな使い方もできるなんて聞いてみない!
「卑怯だぁ!」
ってゴーレムに言っても仕方ないんだけど、言わずにはいられなかった。
とりあえず、思いっきり横っ飛びで体を投げ出すようにして壁波を避ける。でも、これをやっちゃうと床に水が張られてるせいで、溺れちゃうんだよね。
なんて嘆いてる場合じゃない。
ばしゃーん、と落ちた場所から地面を引っかいて泳ぐようにしてあたしは立ち上がる。その間にもルビーがあたしの前に立つようにして水ゴーレムに向かっていた。
「えーい!」
ルビーは、まだまだ水ゴーレムから遠い位置だっていうのに思いっきりジャンプする。なにやってんのって思ったら、あたしの時みたいに水壁があったらしく、それを思いっきりアンブレランスで上から叩いていた。
ばっしゃーん、と左右に崩れる水壁。
あれって壊せるんだ。
そんな発見はあったけど、その後に待っている攻撃が避けられなくなってしまう。水の中に飛び込んだみたいに足元が不安定になってしまっているルビーに対して、ウォーター・ゴーレムは引いていた腕を伸ばした。
超水鉄砲が無防備になっちゃってるルビーに向かって発射される!
「この程度、ラークスくんの武器は負けませんわ!」
ウォーター・ゴーレムの攻撃をルビーは予想してたみたい。
アンブレランスを、バッと花のように開いた。スケルトン・ドッグとの戦闘で花びらは一枚だけ欠けちゃってるけど、真っ直ぐに伸びてくる恐ろしい水鉄砲を真正面から受け止めた。
「わ、すごい!」
ぶしゃー! ってアンブレランスに当たった水が周囲に弾け飛ぶ。アンブレランスのコンセプトだった防ぐのではなく『弾く』が機能してる。
すごいよラークスくん!
ウォーター・ゴーレムの攻撃を見事に捌き切ってるよ!
「やったねプルクラ――あれ?」
派手に水しぶきをあげながら攻撃を受けていたルビー。水鉄砲の威力が収まったところで前を見ると、ルビーの姿がどこにもなかった。
「だ、大丈夫かい!?」
後ろで声がしたので振り返ったら、ルシェードさんに助け起こされてるズブ濡れのルビーの姿があった。
アンブレランス、ぶっ壊れてるし。骨組みだけになっちゃってる。
「なにやってんのプルクラ!」
「えほっ、えほっ。イケると思ったのですが。えほ、えほっ」
吸血鬼も水を飲んじゃったりしたら、咳き込むんだなぁ。
なんて思いました。
「あ、そんな場合じゃないや」
味方にツッコミを入れてる場合じゃない。
あたし達、ぜんぜん隙を作れてないんじゃない!?
って思ったけど、師匠はウォーター・ゴーレムに肉薄していた。ルビーが攻撃されている間に近づいたんだと思うけど、どっちかっていうとルビーが無事なのは師匠が攻撃を中断させてくれたおかげって気がする。
超水鉄砲にまともに当たったら、たぶん上半身と下半身がバイバイしそうだし。
「師匠に迷惑かけちゃってる」
助けられてるばかりじゃイヤだ。
あたしも師匠の役に立ちたい。
とりあえず、あたし達もまだまだ攻撃するぞってところを見せないと!
「うりゃああああああ!」
ワザとらしく声をあげて水ゴーレムに向かう。師匠の攻撃はあと一歩って感じで水に阻まれて届いていない。だからこそ、後ろから近づくように回り込みながら走る。
ゴーレムの攻撃は今までは遠距離だったけど、師匠が近づいたことによって近距離攻撃にかわってた。他のゴーレムと同じように太い腕で殴り掛かってきてる。
師匠はそれを避けつつ近づこうとするのだが、どうしても足元の水が波のように不安定になって、師匠の動きを阻害していた。
あと一歩。
それが近づけてない。
「くらえええ!」
大げさに派手に、あたしは投げナイフを投げる。同時にマグを起動させ投擲されたナイフの重量を増やした。
「もう一本!」
連続投擲。
一本目のナイフと同じ場所を狙って、ナイフを投擲する。二本目は魔力糸付き。連続の全力投擲で体のバランスが崩れちゃう。けど。なんとか体勢を整えて走り続けれた。
ありがとうブーツちゃん!
加重したナイフは、側面から水ゴーレムに迫るが、やっぱり水壁に阻害された。でも、水壁が少しだけ崩れた場所に二本目のナイフが刺さる。
当たった!
でも――威力が大幅に削られてしまって、ゴーレム本体まで届かない。
それでもあたしは、師匠を援護するために走りながら魔力糸を引っ張る。そのまま投げナイフを体の横でぶんぶん回しながらジャンプした。
「うりゃ!」
ちょっと高い位置から、半円を描くように魔力糸ナイフを振り下ろすように飛ばせば!
壁に阻害されないはず!
イメージはクサリ鎌。鎖の先に鎌を付けたあの変な武器。どういう目的で使うのか、攻撃方法がいまいち分からなかったけど、こういう風に上から攻撃するんだ。理解した。
大きく半円を描くように投げナイフは上からゴーレムへと迫る。あたしの目論見どおり、じゅぶん、という音を立てて水ゴーレムに突き刺さるが……
「あれ?」
ウォーター・ゴーレムはあたしの攻撃なんて、ぜんぜん気にせず師匠ばっかり相手していた。「なんで!?」
「あの丸い部分を狙わないといけないのでしょう」
あたしの横を通り過ぎながらルビーが言った。
ボロボロになったアンブレランスは、もう骨組みだけ。ただの金属の棒みたいになったそれをルビーは出現した水壁に刺突するように伸ばした。
「ん? あれ!?」
気付けば背後から集まってくる大量の水。
「ルビー、うしろうしろ!」
「はい?」
まるで波に押し流されるように、あたし達はゴーレム側へと引き寄せられた。
「わわわ」
「なんですの!?」
違う。
あたし達が流されたんじゃなくて、ゴーレムに周囲の水が集まってるんだ。
なので、ウォーター・ゴーレムに近ければ近いほど、水の量が増していく。エリア全体の水がゴーレムに集まってきていた。
「ふたりとも、距離を取れ――くっ!?」
師匠の指示で、あたしも下がろうとしたんだけど……すでに足が浮いちゃうくらいに水が集まってしまった。
泳ごうにもバランスが上手く取れない。
溺れないようにするのが精一杯だ。
そして、周囲から集まった水がウォーター・ゴーレムを中心にして、とっぷん、と跳ねたかと思うと……
今度は一気に周りを押し流すように大きな波となった。
「あわわわわわ」
「えー、これは無理ですわ」
「サティス、息を吸え!」
「は、はいー!」
ざっぱーん、と大きな波にあたし達は巻き込まれた。
足場なんてゴーレムの向こう側にある階段しか無かったので、どうしようもない。
波にさらわれてもみくちゃにされて。あたし達三人は、それぞれエリアの端っこまで流されてしまった。
「ぷはぁ! ……あ、あれぇ?」
波が引いて、なんとか立ち上がったあたしは大きく息を吐いた。
攻撃がモロに当たっちゃったのに、痛くもなんともない。
ただ単純に水で押し流されただけ?
なんて思ったらウォーター・ゴーレムが両手を広げた。
あ、なんかイヤな予感がする。
あれ、ぜったい両手から超水鉄砲を出し――
「ほら、やっぱりぃ!」
エリア全体に届くような一直線の水の攻撃が両手から射出された。しかも全方位に攻撃するためにウォーター・ゴーレムがぐるぐる回り始めた。
「ひぃぇぇ~」
ジャンプしたりしゃがんだり。
なんとか超水鉄砲を避ける。
あたしはゴーレムの攻撃を避けながら、ルシェードさんとレーちゃん達のいる所まで戻った。
「しゃがんで!」
ルシェードさんの指示であたしは頭を下げる。背後から水鉄砲が迫っていた。
みんなも身を屈めて、超水鉄砲を避けた。師匠も簡単に避けながら、ルビーはどこか楽しむように避けながら、ルシェードさん達がいる場所まで移動してくる。
「みんな無事か?」
「だ、だいじょうぶ……です……」
師匠の呼びかけに、ノーマくんは弱々しく返事をした。
怖いんだと思う。
あたしが平気なのは、もっと怖い目にあったことがあるから。魔王と比べたら、ウォーター・ゴーレムなんかぜんぜん怖くない。
あと、ルビーにも夜に訓練してもらってる。
あたし自身、どれだけ強くなってるかは分かんないけど。
でも。
心はちょっとだけ強くなってるのが分かった。
「無茶するなよ」
「はい」
師匠があたしの額に引っ付くように張り付いた前髪を左右に分けてくれる。師匠も頭から水をかぶったせいで、びちょびちょだった。
あたし達が元の場所まで戻ったので、仕切り直し、という感じでウォーター・ゴーレムは攻撃をやめた。
ゴーレムにも休憩が必要なのかな。
でも相談するには良いチャンス。
「厄介だ。まったく近づけん」
「ごめんなさい、師匠。役に立てませんでした」
気にするな、と師匠は頭を撫でてくれる。けど、ぐっしょりと濡れちゃってるので、あんまり気持ちよくない。うぅ。
「でもなんで止まったのでしょう? 魔力が尽きたのでしょうか?」
ゴーレムだって無限に動けるわけじゃないと思うけど……でもさすがに魔力切れとは思えなかった。
なにより、さっきのダブル超水鉄砲も威力も落ちてなかったし、その前の周囲の水を全部集めて押し流すのも、余裕のある感じだった。
「ん? ――警戒!」
師匠の言葉に慌てて水ゴーレムを見た。
片手をあげるゴーレム。
今までの水鉄砲とは違う動きだった。
なんだろう、と思ったら足元の水がゴーレム側へ流れていく。さっきの押し流された状況と似てるけど……こんな離れた場所だと意味は無いような――
「あ」
と、あたし達は視線をゴーレムから上へあげた。
片手をあげているウォーター・ゴーレムの手がみるみる大きくなっていく。すぐに手の形はなくなり、巨大でイビツな四角に近い形に広がっていった。
「ま、まずいまずいまずい!」
師匠が珍しく慌てている。
それもそのはず。
だって、盗賊ってば防御に関する装備なんて持ってないもん。攻撃されたら一撃で終わっちゃうような貧弱装備。むしろ速さを優先させるために、あえて防具を装備していない面もある。
だからこそ。
ぜったいに当たっちゃう物理攻撃なんて。
師匠の最大の弱点とも言えた。
もちろん、それは――
「……ぁ」
あたしも同じなんだけど。
「皆さん、私の足元へ!」
ルシェードさんが天井へ向かってタワーシールドをかまえた。
「レーちゃん!」
ノーマくんがレーちゃんの手を引っ張り、ルシェードさんへ向かって付き飛ばす。同じようにリーダーのセルトくんが、神官のコルセくんを付き飛ばすようにした。
「え、待っ――」
「うわぁ!」
レーちゃんの上にノーマくん、コルセくんの上にセルトくんが覆いかぶさるようにして、そのふたりを抱きしめるようにドットくんがみんなの一番上を請け負った。
まるでルシェードさんにすがり付くように。
レーちゃん達は、守りを固めた。
「パル!」
「ふあ」
師匠があたしを抱きしめるようにして、覆いかぶさった。
まるで押し倒されるみたいに。
抱きしめられるみたいに。
師匠が。
あたしの盾になってくれる。
でも。
「ヤダ!」
嬉しいけど、やだ。
もう、あんな思いをするのはイヤだ!
このままじゃ師匠が――!
また――!
「死なせませんわ」
そんな師匠の隣に、ルビーが立った。
少しでも盾になるようにと、ルビーがそばに立って、左上を広げる。
そして、右手のアンブレランスを突き上げるようにして先端を天井へ向けた。
骨組みだけで、なんの役にも立ちそうにないけど。
それでもルビーは、アンブレランスを敵の攻撃へ向かって突き上げた。
空が透けて見えている。
ゆらゆらと揺れていた光は、ウォーター・ゴーレムの水の手と重なって、より一層と複雑に光が反射した。
そう思ったのも一瞬だけ。
あとは、覚悟を決めるようにギュっと目を閉じた。
ッパーン!
聞こえたのは、物凄い衝撃音と体が押しつぶされそうになるほどの衝撃。男の子の悲鳴が聞こえ、ルシェードさんの悲鳴にも近い声が聞こえて――
あたしは師匠に抱きしめられるような形で地面へと押しつぶされた。
苦しい。
何も聞こえない。
全身が痛い。
でも。
でも、それはすぐに消える。
すぐに周囲の音が戻ってきて、体中のヒリヒリした傷みが消えて、感覚が戻ってきた。
ほとんどなくなっていた足元の水が戻ってきて、あたしの体はすぐに水没していく。
おぼれちゃう前に師匠が転がるようにしてあたしから退いてくれた。
と、思ったけど違った。
痛みに耐えられなくって、師匠は転がってるんだ。
「ぐ、くぅ……!」
それでも立ち上がった師匠を見て、さすがだって思った。すぐにポーションを飲んで回復する師匠。
「師匠~ぉ」
「生きてる。生きてるよ」
「あい、う、うぅ~」
良かった~。
師匠、無事だった!
「うわっぷ」
水が顔にかかって、あたしも慌てて立ち上がる。
周囲を見ると……悲惨だった。
ルシェードさんが意識を失ってる。近くには折れ曲がって『コ』の字になったタワーシールドが落ちていた。
セルトくんとドットくんも意識を失ってる。
ノーマくんは傷みに耐えかねてか、もだえるように転がっていた。
「ごめん、みんなごめん!」
「いま魔法で回復する」
みんなが窒息しないようにレーちゃんが意識を失ってるルシェードさんたちの顔を水からあげる。半泣きだった。でも、しっかりしてる。コルセくんも回復魔法を使ってくれている。
良かった。
みんな生きてる。
「ふふ、ふふふふふ」
そんな中でルビーは笑ってた。
倒れていた体を無理やりに立ち上がらせて、笑っていた。
指は変な形に曲がってるし、膝もおかしな方向に曲がってる。ここから見えないけど、もしかしたら顔もおかしくなっているのかもしれない。
でも、それはすぐに元に戻って行った。
ルビーが吸血鬼で良かった、なんて思ってしまう。
ルビーは折れ曲がったアンブレランスを拾おうとしてやめた。折れてしまって、すっかり短くなっている。
代わりに、ルシェードさんの落とした折れ曲がったタワーシールドを拾い上げた。
「ふん、どうということもありませんわ」
言葉と表情のわりに、ちょっと辛そうな声。
どっちかっていうと、師匠を傷つけられて怒ってるっぽい?
「大丈夫か、パル……」
「あ、はい! 大丈夫です!」
「なによりだ」
師匠は自嘲気味に笑って、オーガ種を模した黒仮面を外し、濡れた髪をかきあげた。それを見習って、あたしも黒仮面マスクを外して、投げ捨てた。
「ここからが本番ってことですわね」
ルビーも黒仮面を捨てる。
「いや、今までも全力だったが?」
「そうなんですの!?」
師匠の言葉にルビーはびっくりしてた。
ちょっと面白い。
「すまんが、もう一度。さっきと同じでいい。ヤツの隙を作ってくれ」
師匠はそう言って、右手を小指から順番に強く握りしめた。
そのまま右手を下げ、腰を落とす。
「俺の右手には、何がある?」
まるで語り掛けるように――師匠は左手首のマグを右腕に近づけた。
腕に装備した転移の腕輪が。
怪しくも、頼もしく――青く輝く。
「頼むぞ。パル、ルビー」
「はい!」
「了解ですわ!」
今度はふたりだけで。
あたしとルビーは、ウォーター・ゴーレムに突撃していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます