~可憐! ちゃんと成長しているよ~

 貴族のお屋敷が並ぶエリアまで戻ってきたあたし達は、周囲の冒険者の人たちから情報を求められた。

 でも、そこは盗賊。

 無料で情報を渡すことなんてしない。


「次のエリアの情報が欲しいんですよね? んふふ~、もちろん分かってますよね~?」


 あたしは、にやにやと笑いながら冒険者の男の人に言った。


「分かってる分かってる。これだろ?」


 冒険者の人があたしの手にお金を置く。


「……」

「なんだなんだ、これじゃぁ足りないっていうのかよ?」

「違う」

「え?」

「お金じゃなくて、食べ物が欲しい!」

「は?」


 後ろで師匠がガックリと肩を落としたのが分かった。


「じゃ、じゃあ魚でどうだ? 獲れたての新鮮だぜ」

「やった!」


 というわけで、夕飯はみんなでお魚料理を食べました。

 単純に塩で焼いただけなんだけど、とっても美味しい。やっぱり獲れたてっていうのが美味しさに影響するのかなぁ~。

 頭の先からしっぽまで全部食べてたらレーちゃんに驚かれた。


「美味しいのに……」

「骨とか危ないんじゃないの?」

「噛み砕けば食べられるよ」

「え~……」


 その後はルビーとレーちゃんとでいっしょに水浴びをした。

 男の子たちに見られないように、と簡易的なテントみたいなのが建てられてた。女性専用になってて、水の上に柱を立てて布をかぶせただけの簡易的なもの。

 それでも中は結構広くて、三人で入っても余裕があった。

 しかもランタンでぼんやりと明かりが照らされてて、なんだか幻想的。

 とっても楽しいテント風呂って感じ。

 ちなみに男の人は、そこらへんで裸になって水浴びしてた。平気で裸になってたりするので、ちょっと恥ずかしい気がする。

 師匠のは見たいけど。

 でも、ノーマくん達のを見ちゃうと、なんだかちょっと悪い気がしちゃう。

 この差ってなんでだろう?


「普段の冒険中はどうしてますの?」


 いつもこうやって水の中にテントが建てられるわけではない。なので、ルビーは疑問になったのかレーちゃんに聞いた。


「一応隠しながら体を拭いてる程度。男の子の裸は見慣れちゃった」

「あら一方的ですのね。不公平ですので、機会があればみんなで水浴びしてみてはいかがでしょうか? 盛り上がりますよ」

「どこがよ!」

「一部分が」

「きゃー!」


 ルビーが余計なことを言うものだからレーちゃんが悲鳴をあげた。

 で、そんな悲鳴をレーちゃんがあげるものだから、慌てた感じでノーマくんがテントの外までやってきた。


「大丈夫、レーちゃん!?」

「ノーマくん!? は、入っちゃダメ!」

「でも!」

「なんでもないから! 覗いたら覗き返すんだからね!」


 それ、仕返しになってるの?

 あたしだったら、めっちゃ嬉しいけど?

 師匠に見てもらいたいし。

 ん~。

 師匠ってば、えっちなくせに紳士ぶるんだから、あんまり見てくれないだろうけど。でもチラチラと視線を向けてくる。

 あたしが師匠の視線に気付かないわけがない。

 師匠ってば、それでも見てくるし。つまり、バレバレなのを覚悟で見てくる。

 師匠のえっち~。

 でも、なんとなく嬉しい。

 うん。

 今度水浴びする時は、師匠といっしょがいいな~。


「それ、ご褒美なのでは?」


 あたしが余計なことを考えていると、ルビーも同じことを思っていたのかレーちゃんに言った。

 で、レーちゃんはまた悲鳴をあげる。


「どうした!? 大丈夫か!?」

「なんだなんだ、なにかあったのか!?」

「いま女の子の悲鳴があったが、何かあったのか!?」


 と、ぞくぞくと男の人たちが集まってきたので大変なことになった。

 今後、レーちゃんにえっちな話をするのは時と場所と場合をちゃんと考えてからにしたいと思います。

 で、翌朝。

 ほくほく顔のルシェードさんと合流した。


「おはようございます、ルシェードさん。なんかいいことあったんですか?」

「おはようございます、サティスさん。昨日遺跡から持ち帰ったお皿と壺ですが、部下が丁寧に運んでくれることになりまして。何枚か割れる覚悟だったのですが、全て妻に届けることができそうです」


 あの真っ白なお皿にどれくらいの価値があるのか分からないけど。

 ルシェードさんが嬉しそうなので、きっとルシェードさんの奥さんも喜んでくれるに違いない。

 湖の遺跡・夏のお皿祭り開催!

 なんか、そんな感じがした。


「よし、行くぞ」

「はーい」


 今日こそ罠に掛からないように攻略してやる!

 そんな風に気合いを入れて、出発した。

 まずは昨日の仕切られた部屋まで戻る。

 あたし達の後ろにはぞろぞろと冒険者の人たちが続いた。

 安全を確保したっていうのもあるんだけど、レーちゃんパーティが手に入れた金のタイルが大きい。ちゃんとドワーフの冒険者に鑑定してもらって、本物の金だというのが分かった。

 全ての部屋の探索は終えてるんだけど、まだ残っているかもしれない。なにより、部屋に置いてあった絵画や大きな彫刻品などの芸術品はそのままなので、価値があるかどうかは分かんないけど、狙ってみるのも悪くないのかもしれない。

 ズルイけど、でも一手遅れてるから金のタイルは手に入ってない。でも、もしも何か貴重なモノが残ってたり、隠し部屋があったりしたら、そっちが有利。

 なんだか微妙な駆け引きっぽい。

 遺跡の攻略って難しいな~。


「スケルトンは……いないな」


 昨日、全て倒してはいるけれど。でもまた発生している可能性はある。周囲が闇で人間の気配が無いっていう条件はバッチリ整ってるし。

 警戒しながら部屋の中を巡っていき、昨日と同じところまで戻ってきた。

 目の前には狭い橋が一本だけある。

 手前にあったのと同じような石で出来たアーチ状の橋だった。


「サティス、頼めるか?」

「はい!」


 前と同じように、あたしの体とベルトにロープを結び付けて、あたしの魔力糸を師匠に持ってもらう。


「行ってきます」

「気を付けろよ」


 はい、とうなづいてからあたしは橋を進んでいった。

 前の橋と同じような感じで、ゆっくりと警戒しながら進んでいく。足元、頭上、それらを確認しながら、一歩、一歩、と確実に進んでいった。

 ある程度進んでから左右を確認する。

 相変わらず暗くて、壁があるのかどうかも分からない。橋の下にはそれなりの水量が流れているのか、ドドドドド、という音が聞こえてきた。

 ふぅ、と一息ついてから再び進み始める。


「……おう」


 で、中央あたりまで来た時。

 あたしは半眼になって橋を見つめた。

 いや、どっちかっていうと、橋を作った古代人を見下す感じ。

 まただ。

 また、黒いブロックがふたつ。間を空けるようにして、二か所だけ石が真っ黒になっていた。


「ふ~ん」


 性懲りもなく同じ罠ってわけね。

 はいはいはい、知ってます。

 黒と黒の間は魔法で作られた幻影で、橋の下に落ちちゃうんでしょ?

 そんな同じ罠に二回も引っかかるものか。


「とでも言うと思ったかぁ!」


 あたしは反対側の指から魔力糸を顕現し、足元まで垂らす。それを黒いブロックの上に落とすと――波紋を立てるように魔力糸が黒いブロックの中に沈んでいった。

 あっはっはっは!

 バカめ!


「意地悪なヤツ!」


 ふぅ、ふぅ、ふしゅる~……!

 と、あたしは鼻息を荒くしているのを落ち着かせた。

 もう遺跡を作って罠を仕掛けた人の底意地の悪さは知ってるもん。こんな罠には引っかからないので、現代の盗賊見習いを舐めないで欲しい。

 というわけで、黒いブロック部分を避けて、その先に魔力糸を置いてみる。こっちはすり抜けないのを確認してから、ぴょんとジャンプして着地した。


「んふふ~」


 よしよし、問題ない。

 で、次に黒いブロックに魔力糸を垂らすと……


「あれ?」


 沈まない。

 あたしはおっかなびっくりと足を伸ばし、ちょんちょんコツコツと黒いブロックが大丈夫なのか確かめてから上へ乗った。

 もちろん落ちない。

 で、その先の橋に魔力糸を垂らすと――


「ほんと、意地悪……!」


 橋の中に魔力糸が沈んでいった。

 最後の最後まで性格が悪いなぁ、もう!

 黒いブロックの先がどこまで沈むか分からないので、投げナイフに魔力糸を通して少し離れたところまで投げる。

 カラン、と落ちたところからこっちにたぐり寄せていき……


「お」


 ぽちゃり、と投げナイフが橋の中に沈んだ。

 落ちた場所を覚えておいて、もう一度投げナイフを投げ、その位置まで魔力糸をたぐり寄せる。これで目安ができた。


「幅は前の橋と同じくらいかな」


 ジャンプで充分に飛び越えられる幅。

 目印にした投げナイフを飛び越す勢いでジャンプして、あたしは無事に落とし穴を飛び越えた。


「ふぅ~」


 とりあえず落とし穴は回避。無事に落とし穴の罠を攻略できた!

 だけど、まだまだ安心はできない。

 次は目印とかそういうのが無い状態であるかもしれない。

 あたしは投げナイフをもうひとつ用意して、投げては引きずり寄せていく、っていうのを繰り返していき、落とし穴が無いのを確認していった。


「つ、渡れたぁ……」


 結局、それ以上の罠は無かった。

 でも無事に橋を渡り切ったので周囲を確認する。

 見える範囲では何も無く、少し進んだ先に真っ白な道が見えた。上のエリアと同じような通路みたい。

 それ以上は進まないとランタンの光が届かないので、ひとりでは危険だ。

 なので、あたしは橋を戻ってみんなと合流した。


「ただいま戻りました」

「なんか叫んでたけど、大丈夫だったのか?」

「うっ」


 ついテンションが上がってしまって。というのは隠しておいて、あたしはみんなに落とし穴の場所を説明した。

 とりあえず投げナイフを目印に置いてるので大丈夫。


「よし、気を付けて渡るんだぞ」

「はーい」


 あたしが先頭になって、みんなを案内する。最初の黒いブロックは危険、次の黒いブロックは安全で、その先は投げナイフの位置まで危険。

 そんな感じで説明しつつ、ジャンプして見せて、無事に渡った。

 やっぱりルシェードさんは甲冑を脱がないと危ないかもしれないので、一番最後になる。師匠に守ってもらえて、ちょっとうらやましい。

 無事に橋を渡り切った後、ルシェードさんが甲冑を装備するのをみんなで手伝った。


「お手数をおかけします」


 ルシェードさんがしっかりと装備確認をしてから、師匠とあたしとノーマくんを先頭にして白い通路を進んでいく。

 通路以外は岩肌が剥き出しでデコボコな地面だった。でも、通路はびっくりするくらいに綺麗で、真っ白。


「綺麗過ぎるな」


 師匠はしゃがんで通路を触ってる。人間はおろか魔物すらもいないのに、通路を触っても指には汚れも何も付かなかった。


「埃どころか、塵ひとつ落ちてませんわね」


 ルビーが真似して触ってる。

 あたしもしゃがんで触ってみたけど、ひんやりとしてて気持ちいい。ぺっとりとほっぺたをくっ付けながらお昼寝したい。そんな感じがした。

 上のエリアの水とかも、すっごく綺麗だった。というより、もともと湖の水も凄い透明で綺麗だったので、もしかしてお掃除の神さまとか?


「師匠、お掃除の神さまっています?」

「なるほど、掃除の神か。俺は聞いたことないが……ルシェード殿は?」

「聞いたことありませんね。ですが、掃除は一般的な行為。それを司る神さまがいないはずがありません。なので、もしかすると……」

「信仰の少ない小神か」


 あ~、そっか。

 毎日美味しい物を食べたりするのには感謝したり、ありがとう~って思ったりするけど。

 掃除って自分でやらなくちゃ終わらないもんね。

 貴族の人もメイドさんがやってくれるから、メイドさんに感謝はしても掃除を司る神さまには感謝しないかも。

 でも、そういう意味だとメイドを司る神さまっていうのもいるのかも。

 メイド神。

 なんかメイド長って感じで強そう!


「この通路自体が罠なんじゃないのか、と思ったが。大丈夫そうだな」

「どういう意味ですか、師匠?」

「あまりに綺麗だからなぁ。通路に乗り続けると『消される』んじゃないかと――」


 師匠がそう言った瞬間、レーちゃんパーティのみんなが通路から飛び降りた。


「そんな心配しなくて大丈夫だ。今すぐ消されるんだったら、とっくに消えてるよ」

「お、驚かさないでくださいよぅ」


 ドットくんが胸を撫でおろしながら言った。セルトくんも同じ気分だったのか、こくこく、とうなづきながら息を吐いてる。

 レーちゃんは苦笑してたけど、しっかりと通路から降りてるので苦笑してごまかしてる感じ。 その点、ノーマくんはビビることなく師匠の横に立ち続けてる。

 湖で底なし沼の罠に引っかかってる時に比べたら、確実にレベルアップしてる。

 いいなぁ。

 あたしも頑張らないと!


「進むぞ。通路の上しか罠を調べてないので、岩肌のほうが危ないかもしれないからな」


 師匠がそういったので、うひゃぅ、とみんなは通路の上へ戻ってきた。


「あははは!」


 それが面白かったのであたしは思わず笑っちゃう。

 ……みんなに涙目で睨まれちゃった。

 ごめんなさい。

 それはともかく、綺麗で真っ白な通路を進んでいく。

 進むに連れて左右の岩肌が近くなっていって、狭い通路になった。ふたり分くらいしか並んで歩けないほど。

 でも、すぐに終わりが見えてくる。


「扉か」


 そこにあったのは――


「うわぁ、凄い」

「綺麗ですわ」


 キラキラと輝く、大きくて綺麗な扉だった。

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