~可憐! 真っ白で使い勝手の良いアレ~
休憩中。
師匠は橋に仕掛けられていた落とし穴に、後から来る冒険者の人が落ちないよう、前のと同じ合図となるアイリス硬貨を置いていた。
コインがあればたぶん気付くはず。
それでも落ちちゃったのなら、それはもう本人の責任だと思うのでどうしようもない。
落とし穴に、『落とし穴』って書けたら楽なんだけど。
空中に文字なんか書けないので、仕方がないよね。
「そろそろ行けるか?」
師匠の言葉にレーちゃんパーティは立ち上がる。ほんのちょっぴり疲れてるのが分かるけど、それは体力的な疲れじゃなくて、精神的っぽい。
なにせ大量のスケルトンと一応は戦ったことになる。もしも真正面から戦っていたら、とんでもないことになってたと思うので、それを考えて精神的に疲れちゃったのも分かる気がした。
「大丈夫です」
あたしは立ち上がって、ふぅ~、と大きく息をついた。
暗くて見えにくい場所を進んで、罠を警戒したり魔物と戦ったりするのって、すごく疲れる。
改めて、冒険者って凄いんだなぁ~、なんて思った。
「ここの探索を終えたら、一度戻るか」
あたし達の様子を見た師匠はそう判断した。
「まだ大丈夫、は、引き返し時。ですわね」
冒険者に伝わる有名な言葉をルビーは言って、くすくすと笑う。
なにが面白いのか分からないけど。
でも、その言葉は本当なので引き返す判断をした師匠は間違ってないと思う。
なにより、外まで戻らなくても安全が確保できる遺跡なので、利用するほうがなんかお得な感じもするし。
「先頭は俺とルシェード殿が請け負うから、プルクラは殿を頼めるか」
「お任せください。立派に務めてみせますわ。不意打ちなど、不意打ってみせます!」
「そいつは凄い」
師匠は肩をすくめながら苦笑した。
ルビーなら、そんな不可能なことをできちゃいそうだから困る。
あたし達は罠に注意しながら壁に挟まれた通路に足を踏み入れた。
師匠曰く、
「ここまで大量にスケルトンが動き回っていたから、罠は全て発動してると考えていいだろう」
なるほど確かに、って思った。
それでも一応は罠に注意しながら通路を真っ直ぐに進んでいく。すると、左右に壁の無い場所があり、そこを覗くと部屋のような囲いになっていた。
「こういう感じで、疑似的な部屋を演出しているみたいだ」
壁の上を走り回った師匠は、おおよその作りを把握したみたい。
率先して先を歩いていく。
まずは左の部屋に入ると、そこには色々な品物が置かれていた。あたしが壁の上から覗いた部屋で、壺とかお皿とかが置いてある。
部屋の中に入ってそれらの品をしっかりと見てみた。
「うお、すげぇ!」
ドットくんが壺を見て声をあげた。シンプルで真っ白な、なんの模様も無い壺だけど、それはそれで凄い。だってホントに真っ白なんだもん。
綺麗な作り方をしてあって、混ざりっけが一切無いってことだ。
「なにか入ってないか?」
セルトくんに言われてドットくんが壺を振ってみる。カラ、となにやら音がしたのでドットくんは壺をひっくり返した。
中から出てきたのは――
「こ、これって金!?」
四角くて薄い板っていうか、タイルっていうか、なんかそんなのが出てきたんだけど……素材は金っぽい。金特有のキラキラした感じでたいまつの明かりを反射してる。
「ほ、ホントに!?」
レーちゃんパーティのみんなは次々に壺を持ち上げては振って、音がしたらひっくり返していった。
そこで見つかったのは四枚ほどの金のタイル。残念ながら全ての壺に入っている訳ではなかった。
それでもみんなの顔は笑顔。
疲れなんか一気に吹き飛んでしまったようで、楽しそうだった。
「ほれ。そういう時に死ぬ冒険者が一番多いぞ。気を引き締めろ」
「あ、はい!」
ノーマくんが慌てて返事をする。
他のみんなもパンパンとほっぺたを叩いて気を引き締めなおした。
金で喜んでいたレーちゃんパーティと違って、ルシェードさんは壺とかお皿とかに興味があるらしく、感心した様子でそれらを見ていた。
「これって凄いんですか?」
あたしが聞いてみるとルシェードさんは、えぇ、とうなづいた。
「非常に精巧な作りと言いますか……なにより白いんですよね」
「やっぱり、ここまで白いのって凄いんですね」
「はい、その通りです。白い壺やお皿は作れます。ですが、ここまで白い磁器となると現代のドワーフでも作れるかどうか」
ほへ~、とあたしはお皿を持ち上げて見てみる。
模様もなんにも無いシンプルなお皿。軽いわけでも重いわけでもないので、素材が特別なのかどうか、あたしにはぜんぜん分からなかった。
「是非、妻へのプレゼントとして持って帰りたいのですが……しかし、割れないようにするためには……う~ん……」
あ、プレゼント用に悩んでたんだ!?
しかも割れないように運ぶ方法って、難しそう……
「ルシェード殿、それは帰りにしてくれ。お皿を片手に戦う騎士など伝説に残ってしまうぞ。それに、まだまだ部屋は続く」
「おっと」
師匠に言われてルシェードさんはお皿をテーブルの上に戻す。ちょっと名残惜しそうというか、しっかりと自分の物としてチェックしてるっぽい。
あたし達はそのまま左方向の部屋へと進む。部屋と部屋は隣合っているようで、間に通路は無い。このまま部屋の中を移動しながら進んでいくような感じなのかな。
次の部屋も同じように壺とお皿のある部屋。こっちでも金のタイルが見つかった。その次の部屋も同じだったんだけど、次の部屋に繋がっている壁の切れ目は右側になっている。
つまり、奥方向へ進むことになった。
奥側に進んだ部屋も同じようなお皿と壺。やっぱり金のタイルが見つかって、いよいよレーちゃんパーティの目がぐるぐるとしてきた。
「こ、こここ、これ……え、これってホントに金なの?」
「分かんない……分かんないけど……重いよ?」
「え、金ってこんな簡単に取れるんだっけ?」
「分かんない。なんにも分かんない」
「あ、また有った……金って、なんだっけ?」
「もう何も分からない」
宝物を見つけすぎるっていうのも問題なのかなぁ。第一エリアの壁にあった大きな装飾の金はもう全ては奪われてる頃だと思うので、レーちゃん達にとっては小さいけど、とっても大きな収穫と言えた。
お金の価値って、良く分かんなくなるよね。
お肉の価値はぜんぜん変わんないけど!
なんてことを思った。
部屋は折り返すような形で元の通路に戻っていったので、今度は右側の部屋に入ってみる。
「こっちは……美術品でしょうか」
あたしにとってはお皿や壺よりも、もっと価値の分からない物が置いてあった。木で作られた何かを模したような物や、鳥の絵が掘られている木版。壁には絵画が飾られていて、この湖の風景が描かれているようだった。
「ん~……」
絵は上手いんだけど、やっぱり価値は分からない。
それは師匠も同じだったみたいで、あたし達は肩をすくめて顔を見合わせた。
盗賊に芸術は難しい。
レーちゃんパーティにもそれは同じだったみたいで、金で疲弊した心を癒すには足りてないみたい。
「プルクラは分かるの?」
「さっぱりですわ!」
あ、はい。
でもルビーが楽しそうなので、なによりです。なんかウキウキと部屋の中の物を見て、楽しそうに紅い瞳をキラキラとさせていた。
吸血鬼で魔王直属の四天王って思えないよねぇ~。
でも、魔王直属の四天王で領主で貴族みたいなくせに、芸術の価値が分かんないんだ。
「ルシェードさんは分かりますか?」
「芸術品は扱いが難しくてね。どんな物を作ったのか、より、誰が作ったのか、が重視されているような気がしています。ですので、これらの作品を誰が作ったのかを明らかにすると価値が上がるかもしれませんよ?」
ますます芸術品の価値が分からなくなっちゃう話だと思った。
「鑑定したところで無駄だろうな。きっと誰も知らない」
師匠は肩をすくめて苦笑してる。
遺跡が今まで知られてなかったくらいだ。きっと、この絵や彫刻をした人たちも、古代で有名だった人たちで、今の時代には名前も残ってない凄い人たちの作品なんだろうなぁ~。
なんて思いながら次の部屋へ行く。
左側の部屋とは違って、右側はこういう芸術品なので同じ物はひとつも無い。部屋に置いてある品物の数は少ないので、美術館みたいな雰囲気がある。
でも、あたし。
美術館なんて行ったことないけどね!
とりあえず、そんな感じで左右の部屋は使い方がハッキリと決められていて、全部で24の部屋があった。
それらを全て探索した後、ようやく反対側の空間に出る。
前の空間と同じような感じで、また奥へ向かう狭い一本の橋があるだけ。下を覗けば暗闇の向こうに水の音。
この仕切られた壁の部屋を中心として、対称になっているエリアなのかも?
「橋のチェックは明日にしとくか」
「はーい」
また同じような罠があると思うし、もうヘトヘトになったので集中力も無い。なにより、戦利品としていろいろ荷物が増えちゃったし。
主にルシェードさんの奥さんへのお土産だけど。
「すいません、持ってもらって」
「気にしないでくださいまし」
「盾役、やってもらってるから。そのお礼です」
あたしとルビーで、ルシェードさんのお土産のお皿を持って帰る。師匠とルシェードさんは壺を持って帰ってきた。
「割れないように持って帰るのは至難の技ですよ、ルシェード殿」
「細心の注意を払う必要がありますね」
いくつかのお皿は覚悟の上、なのかもしれない。
それにしても。
遺跡探索なのに、お宝じゃなくてお皿を持って帰るって。
なんか変なの~。
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