~卑劣! その日、運命に出会う~ 3
がっちりと俺たちは握手した。
同族嫌悪?
同属嫌悪?
そんなチャチな概念で俺たちの友情は破壊できない。いくら周囲から忌諱の目で見られようとも、犯罪者予備軍のような視線を送られても、否定できないものがある。
そう!
俺たちは一瞬で幼馴染よりも深い絆で結ばれたのだ。
ともすれば、前世からの付き合いかもしれない。
下手をすれば、異世界から同じ運命を背負って転生してきた仲なのかもしれない。
それほどに。
それほどまでに。
俺は、この仮面商人に深い縁を感じた。
なにより彼の視線が語っている。
イエス・ロリ。
ノー・タッチ。
俺にはパルがいて、彼にはシュユがいる。お互いに、抱こうと思えば抱ける立場ではあるのだが、彼の目が言っていた。
おまえはその娘に手を出していないだろう?
私もそうなのだ。
と、言っている。
間違いない。
俺の目も見て欲しい。
俺もパルには手を出してないんだ! いっしょにお風呂に入ったり、裸を見ちゃったり、キスしちゃったりしたけれど、それでも最後の一戦――じゃない、一線は越えてないぞ!
あ、信じて!
信じてください、我が心の親友よ!
イエェス・ロリィィィ!
ノゥ・タッッツィ!
その大原則を守っている俺たちは――
出会って五秒で即親友!
「ん?」
「ほう」
俺たちは同時に握っているお互いの手を見た。
なるほど。
これもまた興味深い――
「少し時間はありますか、旅人殿」
と、仮面商人が俺を誘ってきた。
友情の確かめ合い……というわけではないだろう。
「俺はエラントです、商人殿」
「これは失礼したエラント殿。私は恒河沙刹那と申します」
ゴウガシャ・セツナ。
なんとも仰々しい名前だが、確か義の倭の国ではファミリーネームが前に来るのだったか。ということは、商人殿の名前はセツナのほうになるはず。
「では場所を変えましょう、セツナ殿。こちらへ」
「かたじけない」
さて。
なにを思い、なにを感じたか。
初対面であるはずの俺に、なんの用事があるのやら。
その思惑は別として――どうやら縁を結んでおいたほうが良さそうな気がした。まぁ、根拠もなにもなく、単純に『勘』ではあるのだが。
こういう時、『女の勘』っていうものがうらやましくもある。
もっとも――
勇者を警護していた俺の気配遮断スキル『隠者』を、完膚無きまでに看破してみせた賢者と神官の『女の勘』ほど厄介なことは無かったが。
逆に男の勘、に良い話を聞いたことがない。女のソレより、よっぽど役に立たないんだろうなぁ。
「師匠、どこに行くんですか?」
後ろから付いてくるセツナ殿ご一行をちらりと見ながらパルが聞いてきた。やはりハーフ・ドラゴンのナユタがかなり目立つので、周囲からちらちらと視線が向けられる。
「チッ」
と、ナユタが舌打ちするのも無理はない。
逆に。
そういう奇異と忌諱の視線に慣れてしまっているパルは、むしろナユタを気に入っている節がある。
物珍しさ、とは違う感情なんだろうか?
女の子っていうのは、難しいなぁ。
いまいち、好みというか何を考えているのか、分からない。
「さっきの倉庫跡でいいだろう」
「あら。こういう時って、どこか食事しながら話すのではなくて?」
ルビーの言葉に、まぁ普通は、とだけ答えておく。
首を傾げながらもそれ以上は詮索してこないルビーに感謝しつつ、倉庫跡へ歩いていった。
「ねぇねぇ、ナユタさん」
港から出たあたりで、ようやくナユタへの視線が少なくなってくる。
そのタイミングでパルがナユタに話しかけた。
「ん? なんだよ、ちっこいの」
「あたしの名前はパルヴァスです。ナユタさんに登ってもいい?」
「なんでだ!?」
あ、分かった。
単純にデカい人に会ったのが嬉しいだけで、ハーフ・ドラゴンとか珍しい種族だとか、性格だとか、ぜんぜん関係ないな、これ。
「パル。あんまり迷惑――」
迷惑かけるなよ、と言おうと思って振り返ったら――
パルは、すでにナユタに肩車してもらっていた。
「な、なんだよ。こっち見てねぇでちゃんと案内しろ」
「あはは、師匠より遥かに高いですよ!」
なるほど。
俺のマブダチであるセツナ殿が仲間にしているだけはある。
小さい女の子に優しい大きな女性。
うん。
イイ!
とてもイイ!
語れば長くなるが、短くまとめると『イイ!』の一言になる。
「分かる」
しみじみと仮面の下でセツナ殿が瞳を閉じながら、その光景を噛みしめているのが分かった。
俺はにっかりと歯を見せて合図を送った。
セツナ殿もそれに答えて、キラリとまぶしいくらいに歯を光らせた。
カッコいい。
カッコいいよセツナ殿!
オーガをかたどったような、目元と額を隠す白い仮面。
それもカッコいい!
俺はもう一度セツナ殿とガッチリ握手したくなる誘惑に襲われたが、それをグッと我慢して、倉庫跡へ向かって歩いた。
子ども達の遊び場となっている場所だが、まだ子ども達が来る時間ではない。加えて、毎日いるわけではないので、人目を避ける場所としては丁度いいだろう。
やはり、孤児という存在はあまり良い目で見られていない。
それは、どうしようもない事実なんだろうな。
「ここならば問題がないでしょう」
「ふむ」
到着したセツナ殿は周囲を見渡す。
その間にパルはナユタにお礼を言って肩車から飛び降りた。その後ろには、相変わらず気配がマイナスに突入しそうなニンジャ娘のシュユが少し警戒するように周囲を見渡している。
「少しいいですか」
俺はそんなシュユに近づき、目線を合わせるために少しだけ屈んだ。
「な、なんでござるか?」
――ござる!?
マジでござるって言うんだ、すげぇ!
っていう感情を即座に殺しておいて、重要な質問をした。
「忍術は、俺たちでも使えるようになりますか?」
忍術。
それは盗賊の上位職とも言えるニンジャの使うスキルであり、聞くところによると義の倭の国に伝わる特殊魔法である『仙術』とスキルの組み合わせで使用できるようになるらしい。
つまり、忍術が使えるかどうかは仙術が使えるかどうか、という質問でもある。
どうにも魔力とは違う力を使っているようなので、こっちの大陸とはまったく違う魔法大系をしているらしい。
魔力はあっても魔法の才能が欠片もなかった俺でも、もしかしたら仙術を取得できるかもしれない。
もしも忍術が使えれば。
卑怯と言われた、盗賊スキルでは役立たずだった俺でも……忍術ならば勇者パーティとして――
「ちょっと、失礼するでござる」
シュユは俺の下腹部に手を当てた。
一瞬ギョっとしてしまう位置だけど、まぁ、ギリギリ大丈夫……いや、ごめん。ちょっと腰が引けてしまう。
「?」
「あ、いや、なんでもない」
ここは我慢して、頭の中で賢者と神官を顔を思い浮かべた。
……怒りがふつふつと湧き上がってきたので、この方法はちょっとあんまり取りたくない。
「申し訳ないエラント殿。残念ながらエラント殿には仙骨が無いでござる」
「センコツ?」
「仙術を司る『気』を生み出す器官でござるよ。これが無いといくら修行をしても仙術は使えないでござる」
「……なるほど。諦めるには充分な理由です。それって触って分かるものですか?」
「申し訳ない。倭人特有なのかもしれません。仙骨は、おへその下あたりを触ってみると分かるでござるよ。どうぞ」
そう言ってシュユが腰を突き出してくるが、俺は全力で遠慮しておいた。
ノー・タッチの原則は守ります!
「パル、代わりに頼んだ」
「は~い」
女の子同士なら、なにも問題はない。俺の代わりにパルに確かめてもらおう。ついでにパルが仙術を使えるかどうかも気になる。
「このあたりでござる」
「ここ? あ、ホントだ、なんかある。あたしは?」
「キモノが邪魔でござるな。少しズラしても良いでござるか?」
「いいよ~。はい、どうぞ触って触って。うひゃう!?」
「あぁ、あまり動かないで。あ、あ、申し訳ないでござる。えっと、このあたり?」
「ん、んぅぅ」
「ん~。無いでござるな……ぱるばす殿も仙術は使えないでござる」
「そっか~、残念。あ、パルって呼んでシュユちゃん」
「パルでござるか。では、シュユのこともシュユと呼んで欲しいでござる」
「分かった! よろしくねシュユ!」
「はい、よろしくでござるパル」
「えへへ~。あ、師匠~、あたしもニンジャになれないって。師匠? 師匠~!」
ハッ!
しまった。
美少女盗賊(ロリ)と美少女ニンジャ(ロリ)の下腹部の確かめ合いに、ついつい夢中になってしまった。
申し訳ないセツナ殿。
あなたの大切なシュユ殿をいかがわしい目で見てしまった。
と、思ったらセツナ殿も目で語ってきた。パルをそういう目で見てしまったらしいので、申し訳ない、と無言で訴えてきている。
たぶん。
「センコツは無かったか……残念だ」
上位職であるニンジャを目指す道は……残念ながら途絶えた。
「そちらの方は確認しなくても大丈夫でござるか?」
「ルゥブルム・イノセンティアですわ、シュユ」
「る、るぶるむ……む、難しい名前でござる」
「ではルビーとお呼びくださいませ。わたしは戦士ですので魔法も忍術も、使いませんわ。仙骨があろうと無かろうと無意味です。それに、わたしの下腹部を触っていいのは師匠さんだけです。申し訳ありません、シュユ」
「な、なな、なるほど。お二方はそういう関係でござるのか……うらやまし――」
「ちっがーう! ルビーが勝手に言ってるだけだよ、シュユ。師匠に一番に抱かれるのはあたしです、あーたーし! すぐに師匠を取ろうとするんだから、酷い女よね」
「は、はぁ……パ、パルも積極的でござるのなぁ。う、うらやまし……」
おいおい。
おいおいおい。
うらやましい話じゃないか、セツナ殿。
こんな美少女ニンジャにここまで好かれているとは、大した男のようだ。しかも、こんなに好かれているのが分かっているのに、手を出していないとは、きっと枕を血の涙で濡らしているに違いない。
やはり、俺の感じた友情は間違いではなかった。
セツナ・コウガシャ。
真の漢よ。
俺がしみじみとセツナ殿の素晴らしさを噛みしめていると、周辺の調査を終えたナユタが近づいてきた。
「問題ないぜ、旦那」
「ありがとう、ナユタ」
和やかな空気が、一瞬にしてピリピリと冷たくなった。
そして真一文字に引き締められた彼の口が、ゆっくりと開く。
「エラント殿。ひとつ聞きたいことがある」
そう、静かに告げてきたのだった。
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