~流麗! 未成年の飲酒はやめましょう~

「お、覚えてやがれ!」


 悪態をつきながら逃げるように冒険者ギルドを出ていく人間たち。

 師匠さんにケンカを売ったのは良かったですが、彼我の差も把握できていない愚か者でしたので、逃げていく様子もブザマですわね。

 あの冒険者の仲間の方に執拗に話しかけられた気もしますが――

 師匠さんの活躍を見るため、いえいえ、視るため、観るため、視姦るために、一生懸命でしたので。

 なにを言っていたのか聞いてませんでしたわ。

 もちろん師匠さんの講義も聞いてましたので、尚の事。雑音よりもレベルが低かったのでしょう。耳に入れる価値も無かったと思います。


「外側へ弾く。一度で身につけるのは難しそうですわね。パル、ちょっと殴ってきてください」

「はーい」


 軽く実践練習――と、思ったらこの小娘!

 本気で!

 殴ってきて――あいたぁ!?

 最初と二撃目は弾けましたが、三手目のパンチがおもいっきり鼻頭に当たりました。


「て、手加減してくださいまし……」


 わたしが吸血鬼でなかったらブザマに鼻血を出してしまうところでしてよ!


「あはは、当たってやんの」

「ムカ。攻守入れ替えですわ。いきますわよ!」

「え、ちょ、ぶへぇ!?」


 二撃目を思い切り叩き込めたので、良し、としましょう。

 パルのブザマな悲鳴も聞けたことですし、満足ですわ。


「……ケンカしちゃダメじゃないパル。回復してあげるから、こっち向いて」

「あう」


 サチは両手でパルの顔をはさみ、じ~っと見る。

 相変わらずサチは女の子が好きなようですわね。大神ナーの器である影人形も、どんなことをして遊ぶつもりでしょうか。

 そういえば、大神ナーが宿ることによって影人形が精密化しましたが……いったいどこまで神の姿を模倣したのでしょうか?

 依り代として降臨した時には服もありませんでしたので裸でしたので細部まで見えたのですが……果たして内臓や内部はどうなっているのでしょう?

 というか、神という種族にも排泄器官って意味あるんでしょうか?

 あと子宮とか?

 でも、女神にはちゃんと胸がありますから下のほうもちゃんと、そうなってたりする?

 気になりましたので、回復魔法を使うサチの背後にそっと回り込み、背負っているナーさまの抜け殻のスカートをぺろっとめくる。

 ちなみに下着は作りませんでしたので、そのままおしりが見えました。

 ついでにもっと下から覗き込んでみると……


「見た目は人間種と同じですわね。師匠さんも見ます?」


 ギョっとした表情で師匠さんは視線をそらした。他にもチラチラと冒険者の男性たちが見てましたが、一斉に目をそらす。

 男の子って分かりやすいですわね。

 ふふ、可愛らしいウブな反応も嫌いではないですわ。


「え、遠慮しておく。ところで、あいつらには手を出さなくていいからな」

「ん?」

「いや、ルビーのことだから始末するんじゃないかと思ったのだが……」


 あいつらって何のことかと思いましたが。

 先ほど師匠さんにケンカを売った冒険者たちのことですか、なるほど。


「考えもしませんでした。師匠さんが命令するのなら、やぶさかでもありませんが。冒険者というものは、あれくらいが普通なのでは?」

「それもそうか。つまらんことを言ったな」


 悪かったな、と師匠さんは頭を撫でてくださいました。

 ふふ。

 イイ子にしていると師匠さんに好かれます。

 こんな簡単なことで師匠さんに頭を撫でてもらえるなんて、人間領での生き方はなんて素晴らしいものなのでしょうか。

 魔王さまを裏切って良かった!


「よし、用件も済んだし帰るか」

「あ、ラークスくんのところへ行ってもいいでしょうか。アンブレランス、望み通りに壊しましたので報告したいのですが」

「言葉にすると物凄く悪いことをした気がするなぁ……」


 師匠さんは苦笑しましたが、事実なので仕方がありません。壊さないように使うのではなく、壊してしまうくらいに遠慮なく使ってくれ、という感じだったのでしょう。

 鼻血も出ていないのに回復魔法で癒してもらったパルと、神さまの抜け殻をおんぶした過保護なサチといっしょに冒険者ギルドを出て、そのままラークスくんの実家であるお店に行きました。

 そろそろ日が沈む時間帯。

 まだお店が開いているか心配でしたが、どうやら営業しているようです。


「こんばんは。ラークスくんはいますか?」


 そう声をかけると、奥から返事があってラークスくんが出てくる。なにか作業中だったのでしょうか、手と顔が黒く汚れていました。


「こんばんはルビーお姉ちゃん――わっぷ」

「顔が汚れています。拭いてあげますので、ジっとしてください」

「そ、そんな、お姉ちゃんの服で、拭くなんて、あわわわ」


 手持ちの布なんてありませんので、ラークスくんを抱きしめる形で拭いてあげる。

 ちなみにスライムの粘液がかかってしまって、溶けてしまわないようにお酒でびちょびちょに洗ったりしましたので、どちらにしろ洗濯するつもりでした。

 なので、ラークスくんの汚れを拭くくらい、問題ありませんわ。


「はい、綺麗になりました」


 可愛い顔が見えました、という言葉は飲み込んでおきましょう。

 ラークス少年は、その言葉でイジメられていましたので。


「あうぅ」


 ラークスくんは、ちょっと内股になって前屈みになって顔を赤らめていました。

 うふふ、可愛いですわね。

 きっと照れてしまって、わたしの顔を見れないのでしょう。


「はい、ラークスくんの望み通りに壊してきましたわ」

「あ、わぁ、ありがとうございます!」


 照れていた顔はどこへやら。

 キラキラと輝く瞳でラークスくんはアンブレランスを受け取った。そういえば、こっちで勝手にアンブレランスって名付けてしまっていますが、いいのでしょうか?


「あ、なるほど。こうなって……うん、やっぱり骨組みは弱いですね。曲がってしまうと開くことが不可能になっていく、と。あ、でも芯は曲がらず真っ直ぐなままなので実用に耐えられたのが嬉しいです。なるほどなるほど~」


 さっそくとラークスくんはアンブレランスの壊れた場所を見ていく。

 自分の作った武器がボロボロになっているのに嬉しそうなのは、ちょっと理解できない部分でもありますが。

 これが男の浪漫というものなのでしょうか?

 それとも、職人気質と言われるものなのかもしれません。


「逆に、壊れた部分に問題があるということか。壊れていない部分はそのままに、壊れたところを改良していけば改善されると」


 師匠さんの言葉にラークスくんは、はい、とうなづく。


「でも、やっぱり開くギミックは難しそうですね。どうしても骨組みが弱くなってしまう。もっと単純な形にしないと」

「素早く開くことも重要だ。変幻自在とは速度を伴ってこそ、だぞ」

「なるほど勉強になります。強度を保ちつつ、速度も優先するとなると……むしろギミックは邪魔かもしれませんね」

「そうだな。器用貧乏という言葉もある。どちらかに特化させたほうがいいかもしれん」

「そうですね。いっそのこと切り捨てるのも案かと」


 あらら。

 師匠さんとラークスくんの話が盛り上がり始めたようです。

 でも、男同士の会話に割って入るのは野暮というもの。ここはおとなしく待っていることにしましょう。


「あ、そういえばパル。ワインは残ってます?」

「残ってるよ。どうするの?」

「捨てるのももったいないので、飲みませんか? ちょっとした祝勝会です」


 パルのバックパックからワインの瓶を取り出して、コルクを開ける。ワインの香りを確かめてみましたが……良し悪しは分かりませんね。

 サチの冒険者セットからコップを取り出して、そこにトクトクとワインを注いでいく。紫色に近い赤の液体は、透明な色をしていますので血には程遠いですわね。


「では、乾杯」

「かんぱーい」

「……かんぱい」


 コップをぐいっと傾けるパルですが、すぐに舌を出して顔をしかめました。


「うへぇ、やっぱりシブいぃ」

「……これがお酒」


 サチはそこまで嫌そうではない様子。

 でも、あまり美味しいとは感じていないみたいですね。


「ふたりともお子様ですわねぇ……んっ。ん~、まぁワインの味がしますわ」

「ルビーってお酒とか飲んでたの? これって美味しい?」

「いえ、お酒より血のほうが好きでしたので。赤ワインより赤い血のほうが美味しいです。ワインの味と言われても、良く分かりませんわ」


 男性の血液と女性の血液の違いなら語られるでしょうけど。

 赤ワインと白ワインの違いとか、高級品と安物の違いはちょっと分かりませんわね。


「なんだ、お姫様っぽかったからワインとか詳しそうなのに。ん、んっ……うへぇ、何回飲んでもシブい……ひっく。あれ?」


 しゃっくりが出たパルを見て、わたしとサチは笑いました。


「……パル、そんな分かりやすい酔っ払い方ある?」

「しゃっくりって本当に出るんですね」


 パルも、自分がしゃっくりしているのをケラケラと笑った。


「あはは。あ、サチも顔が、もう赤くなってるよ。ん、ん、ぅ、でもやっぱりシブい……あはは、あははは、酔ってる酔ってる」

「……ほんと? あ、うん。顔が熱い気がする。んっんっ、ふぅ……でも、ワインは美味しくない」


 アレでしょうか。

 なみなみとコップに注いだからか……ふたりの酔い方が早いですわ。安物ということもあって、薄いと思ってましたが。

 まぁ、でもこんなものでしょうか。


「すまんすまん、話が盛り上がって……って、うわぁ!?」

「すいません、みなさん……って、えぇ!?」


 師匠さんとラークスくんが戻ってきた頃には、パルもサチもすっかり出来上がってしまいました。


「ナーさま、ナーさまも飲ませてあげよう」

「……いけるかしら。あ、入っていく。すごい。いくらでもワインが入って行く……どうなってるの、ナーさまの体」

「あはは、あははははは!」

「……ナーさま、おしっこしないでくださいね。……あ、でも綺麗な水が出そう。飲める?」

「飲める飲める! あたし飲むぅ」

「……じゃあ、パルのは私が飲むわ」

「あーい!」


 なんでしょう……

 やってしまいました感が強い……


「ごめんなさい、師匠さん、ラークスくん。このふたりはわたしが始末しておきますので。お店を汚すわけにもいきませんので、今すぐ連れ帰りますわね」

「お、おう」

「あ、はい」


 ともあれ。

 ラークスくんの依頼『新作武器をぶっ壊そう』は、ちゃんと完遂することができました。

 楽しかったです!

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