~流麗! イケメンなほど信用されない職業~
パルに借りたお金を返済する。
その目的は達成しましたが、訓練という名目でわたしとパルは冒険者ごっこを続けることになりました。
師匠さん曰く、
「パルはまだまだ経験が足りない。練習で出来ても本番で出来ないっていうのは良くある話だ。今はスキルよりも戦闘経験を積む時期だな。そんでもってルビー。おまえは論外だ」
わたし、論外でした。
「当たれば死ぬ。それくらいの気持ちで戦ってくれ。実際、吸血鬼じゃなかったら死んでただろ」
「死んでたよね、アレ」
わたし、死んでたみたいです。
「パルもそう思うだろ? とりあえず、避けるか防御するクセを付けないと怪しくて連れていけない。それとも『不死身のルビー』とでも名乗るか? わらわの名はルゥブルム・イノセンティア、人呼んで不死身のルビーじゃ。と、言ってくれ」
「わらわの名は……いえ、師匠さん。それはダサいですわ」
「あははは!」
パルが爆笑してましたし、皇族言葉がどうのこうのという話ではありませんわ。
「というわけで戦闘訓練をしてくれ」
「分かりました。師匠さんに買ってもらった服やパルにお金を借りてまで買った防具が汚されるのは本意ではありませんので、避けたり防御したり、なんかそういうの練習します」
と、答えたら師匠さんは微妙な顔をしていました。
なんでしょう?
問題あったのでしょうか?
「なんかそういうの頑張ろうね、ルビー」
「えぇ」
というわけで、冒険者ごっこは継続しつつ戦闘訓練をすることになりました。
時間が合えばサチもいっしょに。
ということで冒険者ギルドに三人で訪れた時の話ですが――
「お、おい、見ろよあの子ら」
ようやく朝の依頼が掲示される時間帯に間に合ったので、わいわいガヤガヤと先輩冒険者たちで溢れる冒険者ギルド。
午後のけだるさとは打って変わって、活気のある雰囲気です。そんな中、訪れたわたし達を見て、冒険者たちは一斉にざわめいた。
「黒髪の美少女は戦士か。すげぇ美人なのに武器がハンマーとは珍しいな。おいおい、金髪のポニーテールのかわいい子は盗賊だぞ。ただでさえ女盗賊って少ないのに美少女って欲張りセットかよ。それに神官服の眼鏡の子も地味ながら平均点は越えてるぜ? ど、どうするよ? おい? 誘う? 誘っちゃう?」
なんて声があちこちから聞こえてきました。
パルも可愛いと思ってましたが、サチも充分に可愛いんですのね。以前は眼鏡で伏し目がちなのであまり分かりませんでしたが、ナー神の心配もなくなったので前向きになったおかげで可愛くなったのでしょうか。
まぁ、それになにより――
人間種の評価でわたしが褒められるのも嬉しいものです。
なにせ魔王領では魔物ばかりでしたので。
オークやゾンビに褒められても喜んでいいのかどうか微妙でしょ? 美意識というか、美醜の判断って人型のソレであってますの?
という感じでしたので。
「ふふん……あら?」
ざわざわと注目を集めていると、ひとつのパーティが近づいてきた。男ばかりのパーティみたいで、全身鎧――いわゆるフルプレートの銀ピカ男が兜を小脇に抱えながら話しかけてくる。
そこそこレベルの高いパーティでしょうか。
装備品は立派ですが……綺麗過ぎるのが気になるところ。
顔立ちは非常に整っていて、人間種で言うところの『ハンサム』もしくは『イケメン』というやつでしょうか。
村娘なら一目で、町娘なら挨拶だけで、貴族ならば会話するだけで、王族ならば一夜を共にするだけで恋に堕ちてしまいそうな、甘い顔立ちですわ。
「初めまして、お嬢さん」
「はじめまして、お兄さん」
敵対する意思は無かったので、素直に挨拶を返す。女ばかりのパーティだと揶揄しに来たわけではなさそうですわね。
「お嬢さんたちは冒険者ですか?」
「えぇ、そうですわ」
わたしはギルドから支給された小さなプレートを見せる。もちろんレベルは1のまま。だってまだ依頼をひとつも受けてないんですもの。
「ルゥブルム・イノセンティアです。どうぞお見知りおきを」
「もしや、あなたはどこかの貴族のご令嬢であったりするのですか?」
観察眼も優れているようですわね。
「ふふ、秘密にしておきますわ。まさか女の過去を知りたいだなんて、騎士の風上には置けませんわよ?」
「おっと、これは失礼」
彼は器用に、指まで覆っている手甲で頭をかいてみせる。
優雅ですわね。
「それで何の用件ですの?」
「実はお嬢さん方を一目見て、是非とも我がパーティに誘いたいと思いまして」
イケメン騎士の後ろに控えているのは……戦士のようですわね。いえ、どちらかというと騎士に近いようで、大きな盾を持っているみたい。
ゴリゴリの押せ押せパーティなんでしょうか? それを考えれば中衛であるパルと貴重な回復役である神官のサチを望むのは分からなくもない。
でも、その割りには装備品が綺麗なのが気になるところです……
ルーキーという雰囲気でもないし、なんだかチグハグですわね。
「ふ~ん。あなたのお名前は?」
「これは名乗り遅れて失礼しました。僕はルクセンティア家の五男、クルス・ルクセンティアです。騎士の家系で幼い頃から訓練を積んでおり、腕前には自信がありますよ。どうでしょう、僕たちと共にパーティを組んで頂けないでしょうか?」
騎士の家系で五男。
家を継げないので冒険者、とは悲しい人生でもありますね。
装備品が良いのは、騎士家を名乗る上での見栄のようなもの。後ろに控える戦士たちが騎士に偏った装備は、この青年を守るためなんでしょう。
合点がいきましたわ。
「分かりました。別にわたしはかまいませんが、仲間の意見も――あら?」
振り返ってパルとサチを見たところ。
「ダメ」
「……ぜったいダメ」
ふたりは全力で首を横に振っていました。
なんでしょう?
騎士に恨みでもあるんでしょうか?
「あなた達、わたしのパーティメンバーに何かしました?」
「いえ、とんでもない! き、君たち何か覚えはあるかい?」
青年と後ろに控えるお供のふたりも、ぶんぶんぶん、と全力で首を横に振る。
「なんにしても、縁が無かった、ということですわ。申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。お詫びと言ってはなんですが――」
わたしはワザとらしく青年の手を取り、瞳を閉じる。
「クルスさまにナー神のご加護がありますように」
と、祈っておいた。
ふふふ。
ぜったいに信仰の対象にならない騎士の青年ですが、多少の刷り込みはできたでしょう。感謝しなさい、ナー神。布教してあげましたわよ。
「……ナーさま、まだ寝てる」
ちくしょう!
そんなだから! そんなだから! あぁーもう!
「ありがとう。君は、その神さまの信徒なのかい?」
「つい先日、天罰を下されましたので点数を稼いでおこうと目論見ましたが、たったいま失敗したことを告げられてしまい、非常に怒っていますわ」
「え?」
「いえ、なんでもありません。おほほほほほほ」
笑ってごまかす。
便利な言葉ですわよね。
「ま、まぁ、残念だよ。気が変わったらいつでも声をかけてくれ」
「分かりました。気が向いたらお食事でも」
「えぇ、是非」
と言って、騎士青年は背筋を伸ばして頭を下げて、踵を返して行ってしまった。
「よろしかったんですの? そこそこ役に立つ前衛の皆さまでしたのに。強い魔物と戦えば経験も程よく積めましたし、美味しい料理をごちそうしてくれそうでしたわよ? あと、無垢な感じもありましたから、信仰も稼げたかもしれません」
「騎士はダメ」
「……うん。ダメ」
パルとサチの意思は固いようですわね。
ホントになにかあったのでしょう。
まぁ、ズルをしていきなり強い魔物を倒すよりも、ゴブリン退治と薬草摘みから始めるのが冒険者の醍醐味というやつでしょうか。
下水掃除と大ネズミ退治やジャイアントな昆虫を退治する仕事はやりたくありませんが。
「騎士のぼっちゃんでもダメだったのなら、俺たちなんか無理だなぁ。ミジメになるだけだし、誘うのはやめておこうぜ」
「おまえ行って来いよ」
「俺は熟女が好きなんだ。ロリコンじゃない」
「でも可愛いよな。仲間になって、危険を乗り越えるウチに信頼感が生まれ、それがいつの間にか恋心に変わってる。あこがれるぅー!」
「ロマンチストだな。じゃぁ誘ってこいよ」
「いや、無理。レベルが高すぎる」
「だよな~。相応ってもんがある。あ~、ちょっと娼館に行きたくなってきた。今夜、付き合えよ」
「久しぶりに行くか」
なんて会話が周囲で繰り広げられているようで。
騎士青年を断ったおかげで、わずらわしい勧誘が無くなったみたいですわ。
そういう意味では、感謝しないといけないのかもしれない。
「あ、ルビー。いい依頼があるよ」
「どんな依頼ですの?」
「サーベルボアの狩猟」
「却下ですわ!」
というわけで、用事が何も無い数日は、こうしてサチを誘ったりして冒険者ごっこを楽しみました。
程よく練習ができたのではないでしょうか。
「防御ってこうですの?」
「そもそもハンマーで防御するより、避けたほうがいいんじゃない?」
「でもそれを考えると、攻撃ができませんわ。振り下ろしたあと、隙だらけになりますもの」
「……ルビー、戦闘に向いてない」
「吸血鬼ですのに!?」
わたし、戦闘向いてないみたいです。
師匠さんが言ったように、ちゃんと練習とか修行が必要みたい。
褒めてもらえるのは、まだまだ先のようですわ。
がっかり~。
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