~流麗! 完全完璧パーフェクトな冒険者パーティ~

 冒険者ギルド。

 それなりに大きな街には必ずあって、そこそこ大きな村にも出張所がある建物。残念ながら魔王領には存在しませんでした。当たり前ですけど。

 つまり、人間種にのみ存在する冒険者というお仕事。

 もともと冒険者とは未知の領域を旅し、開拓する好奇心旺盛な――それこそ、この学園都市にいる生徒のような人間を指していたらしい。

 そんな冒険者たちは、冒険に出るための資金を集めるために、雑用から野生動物の退治まで、さまざまな仕事を請け負っていた『なんでも屋』だった。

 今ではすっかりと、そのなんでも屋の側面のみになってしまっていて、なにより魔物退治がメインとなる仕事でもある。

 そう語るのはミーニャ教授でした。


「魔王さまを倒して魔物がゼロになってしまったら、冒険者はどうなるのでしょう?」


 気になったのでそう聞いてみると、


「仕事はゼロにはならないだろうね。危険な野生動物はいるし、夜道を安全に歩けるほど世界は優しくない。なにより、襲ってくるのは魔物だけじゃない。本当の意味での『盗賊』は人間なのだから」


 なるほど、とわたしは納得する。

 魔物同士でも仲が悪いと殺し合いに発展するし、人間同士が殺し合わない理由が無い。なにより人間は国と国が争う戦争があったという。

 魔王さまがいなくなり、魔物が退治し尽くされた後は……たぶんですけど、戦争が始まるのでしょうね。

 冒険者はそこで、傭兵と名前を変えるのかも。

 なんてことを考えている内に冒険者ギルドに到着した。時間的には早朝を過ぎ、お昼前といったところ。

 中はすっかり閑散として、怠惰な空気が漂っている。


「相変わらず、ゆるい」

「……ヒマなのかしらね」


 冒険者経験のあるパルとサチは中を見渡して感想を述べている。どうやら、他の冒険者ギルドとは違って、あまり活気の無いようですね。


「えっと、まずどうしたらいいんでしょう?」

「受付のカウンターで登録するんだっけ。ルビー、こっちこっち」

「はい、お願いしますわ」


 パルに手を引かれて入口正面のカウンターへと向かう。サチとミーニャ教授とクララスは入口の左手側にある長椅子に座って待つようだ。

 ミーニャ教授とクララスは冒険者になるつもりは無いみたい。

 あくまで付いてくるだけ、という感じでしょうか。


「おはようございます。新しく冒険者の登録をしたいのですけど、いいですか?」

「はい、おはようございます。あちらの方も全員ですか?」

「あ、いえ。ひとりです。あたしはもう登録してますので」


 パルはそう言って、ポケットから薄いプレートを取り出して受付に見せる。


「あ、他の街から移動してきたのですね。仕事をするにはこちらで確認する必要がありますので、プレートを少し預からせてもらってもよろしいでしょうか?」

「あ、え、そうなんだ。サチ~、プレート見せる必要があるんだって」

「……はーい」


 サチがトコトコと小走りでこっちに来る。


「では、確認しますね。その間に新規登録する人はこの用紙に記入をお願いします。あ、文字が書けないのであれば代筆しますので遠慮なく仰ってください」

「分かりました」


 わたしは用紙とインクペンを受け取り、登録用紙を検める。質の良い紙ですわね。さすが学園都市です。

 名前と希望する職業と、パーティに所属する場合はそのメンバーを書き込むみたいですけど……


「パル」

「なぁに? ルビーって文字が書けないの?」

「いえ、書けるんですが……綴りに自信がありません」

「あ、分かる。ルゥブルム・イノセンティアってどう書くんだろう?」

「……ただ確認するだけなので、そこまで気にする必要は無いと思う」


 悩むわたしとパルにサチはそう言うけれど。


「それは違うわ、サチ。この名前は師匠さんにもらった由緒正しい名前です。綴りを間違うなど言語道断ですわ」

「……はぁ」


 む。

 ちょっと前までマイナー神官だったくせに、このわたしを面倒くさい女と思いましたわね。いつかナー神もろとも泣かせてあげますので覚悟しておいてください。


「……ミーニャ先生」

「ん? なんだいなんだい、なにか問題でもあったのかな?」


 ハーフ・ハーフリングらしい仕草とでも言うべきでしょうか。

 ミーニャ教授はトコトコと小走りでこっちに来た。

 サチに似たのか、はたまたサチが似ているのか分かりませんが、似たもの師弟、と言えるかもしれません。ちなみに教授がこっちに来たものだから、クララスもいっしょに付いてきた。

 あっちでひとりで待つ心細さと居心地の悪さは、なんとなく理解できます。


「……ミーニャ先生は旧き言葉に詳しいでしょうか?」

「もちろん詳しいとも。旧き言葉は、すなわち神々が使っていた言葉。言ってしまえば古代語でもあるんだけど、その名残がいろいろと残っているからね。会話レベルは無理だけど、それなりに読めるし書けるよ」

「……では、代筆をお願いします」

「うん、任されよう」


 そう言って、ミーニャ教授はわたしの名前を丁寧に書いてくださいました。

 ミーニャ教授が役立たず?

 とんでもない。

 超重要な人物でしたわ!

 ミーニャ教授がいなければ、今ごろわたし達は全滅していました。冒険に出る前に、終わってしまうところを救われたのです。

 神。

 ミーニャ教授こそ、神。


「Rubrum・Innocentia……これがわたしの名前ですのね」


 それはともかくとして、わたしは名前欄に書かれた自分の名前をしっかりと見つめる。師匠さんがわたしにくださった最初のプレゼントと言っても過言ではないその名前。

 あぁ、ステキ。

 Rubrum・Innocentia。

 なんとステキな綴りなのでしょうか!

 もしも師匠さんとふたりで住む家を持てたのならば、壁に飾っておきたいほどステキな文字列です。


「ルビー、ルビー。はやく続きを書かないと」

「おっと」


 パルに言われて、わたしは丘にある白い大きなステキな家から戻ってきました。

 あとは自分で書けますので、難なく項目を埋めていきます。

 職業は、戦士にしておきました。はっきりと決まっていませんが……まぁ、前衛になることは間違いないので戦士でもいいでしょう。

 あとはパルとサチの名前を聞いて、パーティ結成が完了しました。

 それにしても偽名だらけのパーティですわね。どうせパルも偽名に決まってますし、サチも偽名です。

 まったくまったく。

 真名を名乗っているのはわたしだけとは、なんとも怪しいパーティですわ。


「なんかルビーが失礼なことを考えてる気がする」

「……私もなんとなくそう思った」


 パーティメンバーの声が聞こえてきましたが、真名を名乗れない人間たちの怨嗟の声でしょう。無視するのに限ります。

 以前、陰気のアビエクストゥスが言ってました。


「悪霊と会話しちゃダメだよ、サピエンチェ。心を乱されるからね」

「そうなんですか? でもアビエクトゥスは悪霊なのでは?」

「うん、悪霊だよ。だからアタシ以外の悪霊ってこと」


 そう。

 真名を名乗れぬかわいそうな悪霊たちが何か言っていても、耳を傾けてはいけません。四天王仲間の言う事はしっかりと聞かないといけませんよね。


「ルゥブルム・イノセンティアさん、こちらのプレートをお渡しします」


 登録作業が済み、受付が一枚のプレートを渡してきた。

 そこに刻印されていたのはわたしの名前と戦士であること。それと共にレベルが1であることを確認できる文字列がシンプルに刻印された数字で分かった。


「レベル1からスタートですのね。パルとサチはいくつですの?」

「1」

「……1」

「ぜんっぜんレベルが上がってないのですね」

「パルヴァスさんとサチアルドーティスさんは、資料によればレベル2になっても良いかもです。次に依頼を完了させた報告を頂ければ、レベルアップを認められるかも」


 わたし達の話を聞いていた受付が資料を見ながら話す。

 どうやらギルド内で共通した資料がいきわたっているようですが……それにしては正確で早い。なにか特別な魔法かアーティファクトを使っているのかも?


「その資料、見せて頂けます?」

「あ、申し訳ありません。これはギルド職員のみが見れる資料となってまして、冒険者の方には見せてはいけないというルールになっています」

「あら、そうなんですの。残念です」


 やはり、なにかしらの固有技術があるみたいですわね。情報の共有ができるアーティファクト……もしくは、なんらかの魔法があるのかもしれません。

 そういう意味では、このプレートが鍵である可能性もある。なんらかの装置にプレートを使用することで情報を引き出せるとか?

 まぁ、そんなことはどうでもいいですわね。


「さっそく依頼を受けましょう、パル。どうすればいいんですの?」

「あぁ、それなんだけどさルビー」


 パルはカウンター横にある掲示板を指差す。

 そこは何らかの掲示物を貼り出す場所であるのは分かるけれど、今は何も貼り出してなかった。


「依頼、なんにも残ってない」

「ひとつも?」


 カウンターの向こうで、受付もこっくんとうなづいた。


「ガッカリですわ……」


 せっかく朝から武器も調達できて張り切っていたというのに。

 わたしは肩と頭を地面に落とすんじゃないかってくらいに、がっくりと落とした。


「少しでもお金が稼ぎたいのであれば、魔物退治と薬草摘みをおススメしますよ?」


 そんなわたしに対して、受付がフォローのように声をかけてきた。


「魔物退治? そんな依頼があるんでしたら、早く言ってくださいまし」

「いえ、依頼じゃなくて、魔物の石です。魔物を退治した時に残る魔物の石を冒険者ギルドでは買い取っていますので、少しは足しになるかと。あと、薬草の類は学園都市では常に不足していますので、商業ギルドが買い取ってくださいますよ」

「なるほど。では、薬草摘みのついでに見つけた魔物を狩る、という指針はどうでしょう?」

「賛成!」

「……問題ありません」


 決定しました。


「あ、でも薬草って見分けがつきます? どこかで調べないと……」


 雑草との区別は難しそう、と思った時――


「それなら任せてください。薬草も食べられる野草も、料理食材です。商業ギルドから仕入れているので、見分けられますよ」


 あぁ、なんということでしょう!

 役立たずであった新料理研究会、クララスが。どうして付いてきてるのか良く分からなかった一般人が。

 わたしには輝いて見えました!


「完璧ですわ!」


 わたしの冒険者パーティ。

 前衛1、中衛1、後衛1、綴り1、薬草知識1。

 パーフェクトですわ!

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