~流麗! ロリっ子には巨大な武器が良く似合う~

 冒険者になるためには、まず冒険者ギルドに行って登録して、依頼を受けないといけないみたいです。

 というわけでして。

 わたし達は無料の乗り合い馬車に乗って街の西側にあるギルドを目指して移動することにしました。


「まぁ、今から行ってもロクな依頼は残ってないと思うけど」

「……魔物退治とか、学園都市であるのかしら?」


 パルとサチはあまり期待していないようですが。

 それでも魔物はゼロではなく、少なくともゴブリン程度は湧いているはず。魔王さまの力によって、世界に呪いは蔓延していますので。

 光ある所には必ず闇があり、闇がある所には必ず魔物が生まれ落ちる。

 魔王領から遠く離れたこの地でも、その呪いは行き届いているはずですので、なにかしら依頼はあるでしょう。


「見た目、見た目ってなんでしょう? 美味しそうっていうのは、見た目ですか? 女は外見ではなく中身だって会長は言っていたはずなのに、どうして、どうして……」

「まぁまぁ新料理研究会ちゃん。女は中身なんていう男は、女に飢えてないからこそ言える言葉だよ。衣食足りて礼節を知る、なんて義の倭の国でも言うしね。愛せるものなら、このハーフ・ハーフリングの私も愛してみろって言うんだ。ところで、名前はなんて言うの? 新料理研究会ちゃんって呼んだらいい?」

「あ、ごめんなさい。クララスです。クララス・ハーベ」

「私は神秘学研究会の教授をやっているミーニャ。もし良かったら、料理を司る神さまのこと、いっしょにぶっ飛ばす研究をしない?」

「神に祈るのですね! ――え? ぶっ飛ばす?」


 ミーニャはともかくとして、クララスはどうして付いてきたのでしょうか。

 ちょっと分かりませんが、悩みを抱えて転がりまわるよりかは足を動かして気分をまぎらわせた方が良いことを、わたし自身が強く経験してますので。

 付いてこないで、と否定することはできませんよね。

 そんなクララスの料理に関する悩みと愚痴をアレコレと聞いている内に馬車は西側の端、冒険者ギルドの近くに停車した。

 わたしは馬車から降りると素早く周囲を確認する。


「師匠さんの気配は……ん~、見つかりませんわね。パル、分かります?」


 わたしの質問にパルはぶんぶんと首を横に振った。しかし、髪が重いのを忘れていたために体がぐわんと横にブレて、パルはフラフラと倒れる。


「痛い……」

「なにをやってますのよ」

「わ、ワザとよ、ワザと。こうやって倒れることによって師匠が心配になって油断するのを誘ったの」

「では、完全に失敗ですわね。もしくは、パルのことは心配じゃないみたいですよ師匠さんは」

「ぐぬぬ」


 パルの手を取って起こしてあげる。その間もサチは周囲を窺っていて、役立たずふたりは料理と神の関係について盛り上がっていた。


「サチはなにか見つけました?」

「……いえ。私も師匠さんを探してみましたけど、見つからなくて」

「あら。サチも師匠さんを狙ってますの?」

「ぜんぜん」


 サチにしては、返事がめちゃくちゃ早かったですわね。

 短い付き合いですが理解しました。

 サチは、本当に師匠さんのことを狙ってません。


「とりあえず冒険者ギルドか、ルビーの武器を買いに移動しよ~」


 パルに賛同し、みんなで冒険者ギルドへ向かって歩き出す。ぞろぞろと何人かで連なって歩くのは、領地の視察を思い出しますね。

 あの頃はわたしも頑張ってました。

 すぐに飽きましたけど。

 というか、部下の皆さまが良く働いてくれるのが悪かったのではないでしょうか。なんでもやってしまうからわたしの出番がこない。だからわたしがヒマ。そんな気がしてきました。

 なんて主出したり考えたりしている間にも、いろいろと冒険者専用のお店があり、武器や防具が並ぶ店があった。

 しかし、どちらかというとアイテムを扱う店が多いように感じる。武器や防具は、古来よりあまり形を変えることはありませんが、アイテムとなると別な様子。

 それもそのはず、この街は人類の最先端を進む学園都市。冒険者用の新アイテムを研究開発するのも、当たり前といえば当たり前。

 何に使用するのか見ただけでは良く分からないアイテムが、いくつもの店の店頭に飾られたりしていた。

 ただただ街を歩くだけでも飽きないなんて。

 なんて学園都市はステキな街なんでしょうか。


「ルビー、置いていくよ~」

「あぁ、ごめんなさい。つい楽しくて」

「……街を出る頃には夕方になりそう」

「ふむふむ。じゃぁ、野宿になるかもしれないね。夜の神と月の神に挨拶すると共に、野宿を司る神に話ができればいいね」

「キャンプ飯! キャンプ飯の開発をしろってことですね!」


 ……ホントに大丈夫かしら、このパーティ。

 特に後衛以下のふたりがお気楽過ぎて怖くなってきたんですけど……?


「あ、ルビー。このお店がいいんじゃない? ルーキー用多数って書いてあるよ」

「あら、ホントですわね」


 そろそろ冒険者ギルドが見えてくるという場所で、パルが見つけたお店。

 こじんまりとした感じで、あまり派手さは無い。店頭に飾ってあるのは軽装備の革鎧で、わたしが装備しているのとそう変わらないランクの防具。

 金額もお手頃ですわ。

 入口からちょっとだけ覗いてみると、武器も置いてあったのでわたし達は中に入って店内を眺めた。

 武器の類は壁に飾られるようにして並べられており、刃が綺麗に輝いている。埃ひとつ付いている様子はなく、きちんと手入れされているのが分かった。

 大きく幅広の剣から、一般的なロングソードやショートソード、ナイフ、と様々な剣と並んで槍や盾も並んでいる。

 それら飾られている品々は質の良い武器や防具のようで、お値段は銀貨100枚から。高い物ですと金貨一枚なんて物もあった。


「ルーキーには過ぎたる物ですわね」


 残念ながら、そんな武器を買うようなお金をパルに借りる訳にはいきませんので。もっともっと初心者向けの武器はどこでしょう?


「あら、ここにありましたか」


 棚の横に置かれた大きな壺。そこに剣を挿すようにして雑多に入れられていた。

 その中の一本を手に取り、鞘から抜いてみる。


「ロングソードですわね。う~ん……」


 飾り気もない武骨な剣。刃はありますが切るよりも叩くほうに重点が置かれたような分厚さ。


「頑丈さを売りにしたような剣ですわね」


 さすがに店内で振るわけにもいかないが、それでも一応はと構えてみましたけど。


「う~ん……しっくりきませんわ」


 上段、中段、下段と見よう見まねで剣を構えてみたけれど、今のわたしにとっては上手く触れそうになかった。というよりも、今まで武器を使って戦ったことがありませんので、なにが自分に合うのかサッパリでした。


「これはどう?」

「短剣ですか」


 パルが持ってきたのは、シンプルな短剣だった。これなら迷惑にならない程度に触れるので、一応は振ってみたけれど……


「これだと前衛の意味がないような?」

「確かに」

「……盾を持ってみるとか?」

「そうですわね。盾だけで戦う戦術もあるんでしたわよね。騎士、だったかしら?」


 剣主体ではなく、あくまで盾を利用した戦い方をしていたような気がする。全身をフルプレートで覆っていたので、防御の役割を果たすんでしょうね。

 それならできるかも――と、安物の盾を探して店の奥へ行くと……


「あ、ルビーお姉さん!」

「あら、ラークスくんではありませんか」


 そこでは新たに入荷した商品を並べるリンゴ少年ことラークス少年がいた。


「こんなところでどうしたのです? もしかして、勝負から逃げました?」


 ラークス少年は、いまドワーフたちとナー神のエンブレム作りを競っているはず。こんなお店で商品の仕出しをしているヒマは無いはずなのですが……


「ラークスくんが負けると、わたしはドワーフたちに好き放題されてしまうのですが。悲しいですが受け入れるしかなさそうですわね。ラークスくんも仲間に入ります? もちろん、わたしと同じ立場になってもらいますけど」

「ち、ちちち、違いますよぅ! ここは僕の家です。実家です! 家の手伝いをしてから学園に行くのが日課なんです。あ、諦めてません! ルビーお姉さんをあいつらなんかに――!」

「あぁ、そうでしたの。信用できず、うがった見方をしてしまいました。ごめんなさいね、ラークスくん」


 わたしはそう言ってラークス少年の頭を撫でる。

 ちょっと嬉しそう。

 照れが八割、嬉しさ二割というところでしょうか。


「あの、ルビーお姉さんはどうして店に? ここはあんまり強い武器とか売ってないですよ? せいぜい中級者くらいの武器です」

「初心者用の武器を探してまして。剣はあまり上手く使いこなせる気がしませんのよねぇ。なにか前衛用の武器で良い物はありませんか?」

「武器……えっと、ルビーお姉さんが使うんですか?」

「えぇ。ちょっと諸事情で弱くなってしまいまして。ほら」


 わたしは手を差し出してラークス少年と握手する。

 その手をぎゅ~っと思いっきり握ってみせるが……バキバキに指を砕くことはできず、ちょっと少年がびっくりする程度の握力しか無かった。


「ど、どうしたんですか!? なにかあったんですか!?」

「実は悪い吸血鬼に呪いをかけられてしまって。太陽の光を浴びると、力を失ってしまうのです。夜になると力は戻るのですが、日中は普通の女の子になってしまいまして」

「ねぇねぇ、サチ。ルビーが堂々と嘘を言ってるよ」

「……悪い吸血鬼」

「聞こえてますわよ、パル、サチ」


 えへへ、あはは、と役に立つほうのパーティメンバーは笑った。

 まったく。

 潤滑に会話を進めようとするわたしの苦労を何だと思っているのでしょう。これでもわたし、知恵のサピエンチェですのよ。

 これくらいの話術は出来るんです。うん。


「あ、あの、ルビーお姉さん……もしかしたら、なんですけど」

「はい?」

「ちょっと待っててください」


 そう言ってラークス少年は店の奥へ行ってしまったが……すぐに戻ってきた。


「これなんか、どうですか?」


 そして、ラークス少年が持ってきたのは……


「ハンマーですか」


 大きなハンマーでした。

 柄の長さは、それこそ少年の身長ほど長く、打撃部分であるヘッドも大きく広い。相当に使いこんでいるのか、木で作られた柄のグリップ部分は黒く変色しており、ヘッドも本来は真っ赤だったのだろうが、今ではくすんだ赤色と剥げた銀色と黒色が混じっている。


「はい! 僕がずっと使っていた物ですけど、どうでしょうか?」

「なるほど」


 わたしはラークス少年からハンマーを受け取ると、両手で構える。

 片手で持ち上げるのは、今の状態では不可能だけど……両手では問題なく扱えそうだ。


「これだと、当たれば勝てますわね」

「ルビーお姉さんは、その、あんまり剣とか槍とか似合わない気がして」

「確かに、小手先のテクニック、というのは苦手な気がします。えぇ、まずはこれで様子を見てみましょう。おいくらですの?」

「タダでいいです。もう使っていなかったお古なので、使ってみてください」

「分かりました。ですが、ひとつだけ」

「は、はい。なんですか?」

「もしも気に入った場合、わたし専用でちゃんとした武器に仕上げて頂けるかしら? あ、こういうオーダーは値段が高くなるんでしたっけ?」

「い、いえ! いえいえ、是非とも作らせてください! せ、専用の武器製作を指名されるのは職人にとって名誉なことですから! 僕からも是非、お願いします!」

「ふふ、分かりました。それにはまず、冒険を成功させないといけませんわね。頑張りますよ、パル、サチ」

「はーい」

「……はい」


 ミーニャとクララスには、声をかけなくていいでしょう。

 武器を司る神について語り、更には剣と包丁の差の話で盛り上がっている彼女たちの間に入り込む勇気は、今のわたしにはまだありませんので。

 ともかくとして。

 武器を調達できたので、冒険者ギルドに向かいましょう。

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