~可憐! 白は聖なる色であり、神聖さと清廉さを表す~
お店から出たあたしと師匠は、振り返ったルビーの姿を見て声をあげた。
「お~」
「かわいい」
なんとなく拍手。重くなったあたしの手は、なんとなく金属の板をぶつけるイメージだったけど、ガンガンガンって鳴るんじゃなくて、パチパチパチだった。
当たり前か。
あくまで、あたしの手だもんね。
「軽戦士と盗賊の中間、といった感じか。それにしては肌の露出面積が多いから、戦士の側面が強くなっている気がするなぁ。う~む……」
なにか思うところでもあるのか、師匠はルビーの装備を見て考えてるみたい。
あたしとしては、なんか肌が白くて戦士としては頼りないイメージ。
そういう意味では、ガイスって頼り甲斐があったよね。程よく日焼けした体で、筋肉があって、背が高かった。
持ってる武器も大きな斧。
ガイスが装備してた防具は軽戦士用なのかもしれないけど、雰囲気は重戦士だった。鍛えられた筋肉が鎧みたいなイメージかなぁ。
今ごろ、なにをしてるんだろうな、ガイスとチューズ。
新しい装備で新しい仲間と頑張ってるといいけど。
「それでは、ここからはわたしとパルでお買い物を続けますね。師匠さんはどうぞ、宿に戻ってお休みになられてください」
あれ?
あたしとルビーだけでお買い物続けるの?
なんか特別な用事でもあったっけ?
「ん? まぁ別にかまわないが……大丈夫か? まだマグが完全に問題無いとは言い切れない状態だし、付いていた方が良さそうな気がするが」
師匠はちょっと心配そう。
「その時はその時です。ご安心ください、師匠さん。それとも、あまり魔王直属の四天王を舐めないでください、と言うべきでしょうか」
「確かに」
と、師匠は肩をすくめた。
ルビーって確かにめちゃくちゃ強いけど、あんまり魔物っていう感じというか、四天王? なんか偉い人って感じでもない。
魔物の世界では、みんな平等な感じなのかなぁ。
貴族とか王様みたいな感じとは、ぜんぜん違うのかも?
「パルは大丈夫か」
「ま、まだ大丈夫です。たぶん」
ジリジリと体力が削られていってる気がするけど、まだ耐えられる。と、思う。走るのは無理かもしれないけど、歩く程度だったらそれなりに慣れてきた。明日になったら、走れる気がする。たぶん。
「いいか、パル。無理はするな。冒険者に伝わる良い言葉がある。まだ行ける、そう思った時が帰り時。限界が来てからじゃ遅いから、適度にマグを外せよ」
外す……
「あぁ!」
ポン、とあたしは手を打った。
「おまえ、装備を外せることを忘れていたな……」
「あはは。なんていうか、こう、呪いのアイテムみたいに思ってました」
もう二度と外せないから頑張らないと、と思ってたけど。
そう言えば普通に外せるんでした。
あはは。
「わたしの場合、外せば死にますので。それはそれで呪いのアイテムっぽさがありますよね。あはは」
いや、そっちは笑えないよルビー……
「あら。冗談ですのに」
「いやジョークにもなってねーよ」
師匠のツッコミにルビーは首を傾げていた。もしかして、魔物の間では笑えるのかもしれない。
文化の違いって怖いなぁ。
言葉はいっしょなのに。
「とりあえず安全に気を付けますので、パルとふたりで行ってきますわ」
「分かった。ふたりとも気を付けるんだぞ」
「「はーい」」
ルビーといっしょに返事をして、ルビーがあたしの背中を押しながら前へと進む。ちらりと振り返れば、師匠はちょっと心配そうにこっちを見てた。
「師匠は心配性だなぁ」
「うふふ。愛されている証拠です」
なんて笑いながらルビーと進んでいったけど、見えなくなるまで師匠はこっちを見てた。
「師匠さんは心配性ですわね……」
「愛されてる証拠というよりも、単純に信頼されてないだけのような気がする……」
ふたりでちょっと落ち込んだ。
まぁ、人類で初めて作り出したマジックアイテムの初めて使っている日なので。どっちかっていうと、あたし達よりマグの信頼度が低いのかもしれない。
そう思っておいた方が、師匠がイイ人に思えてくるはず。
うんうん。
「それで、なにを買いに行くの?」
「とりあえず、この胸当ての下に付ける下着と服を。あと、肌の露出も多いので太ももも隠したいです。えぇ、そしてなにより、ぱんつを。白いぱんつを買いましょう。師匠さん好みの白いぱんつを買いたいと思います」
「あ、それが目的でしょ」
「うふふ」
まぁいいけど~、とあたしは笑って、女性用の服屋さんを探した。
一軒目のお店で買ったのは、黒の上着。
腰のあたりが編み上げになっているようなデザインで、革製品。ちょっと防御力が高そうに見える。でも、冒険者用じゃないんだなぁ~。
「これでお腹まで隠れましたわ。似合います?」
「似合う似合う。でも下着はいいの?」
「ほとんどぺったんこですから。必要ありませんでしょ?」
「まぁ、確かに」
揺れないし。なんかそのうち痛くなるって聞いたことがあるんだけど、まだ痛くないので、ブラはいらないかなぁ。
「お客様、それでしたらこちらを試されてはいかがでしょうか?」
そんなあたし達の会話を聞いていたのか、女性の店員さんが一枚の薄い生地のインナーをおススメしてくれた。
「あ、これは良いものですわ」
試しに試着してみたルビー。
肌にぴっちりと吸い付くような黒インナーで、ノースリーブの簡素な物。肌着よりは丈夫そうで、首まで覆うのは日光に弱いルビーにはピッタリだ。
そしてなによりルビーに似合ってると思う。
黒い軽戦士。
胸当てだけが白銀色なので、それがアクセントになってていい感じでかっこいい。
「ありがとうございます。合計で13アルジェンティです」
「あ……」
お会計でルビーが口を丸くした。
「どうしたの?」
「そういえばわたし、お金持ってません」
「ええええええー!?」
もちろん店員のお姉さんも驚いていた。
そりゃそうだよぅ~。お金を持たずに買い物に来る人なんていないもん。しかも、こんな堂々と試着までして!
「もぅ、しっかりしてよルビー。あたしが代わりに払うよ……っていうか、あたし代わりに払えるんだ!」
路地裏で生ごみを漁って生きていたあたしが、他人のお買い物にお金を払えるなんて。
なんか、凄い。
あたし成長したなぁ~。
ありがとう、師匠。
あたし、立派に生きてます!
なんて思いました。
「んふふ~」
「どうしてお金を貸した側が嬉しいそうなんです?」
「いいからいいから~。次、いってみよ~」
次のお店で買ったのは黒いタイツ。
着々と全身が真っ黒になっていくルビー。
「これで太ももも隠れました。黒に黒を重ねて黒くなっていきますが……最後は白です。さぁ、行きますわよ、パル!」
「おー!」
というわけで、女性用の下着屋さんで、ルビーの白いぱんつも買いました。
あたしが!
あたしのお金でルビーのぱんつを買いました!
「あれ、でもなんかおかしくない?」
「え!? に、似合ってませんか?」
ホットパンツと黒タイツに下には魅惑の白が待っている。
それは確かに美しい。
「そうじゃなくって……えっと、あたしのお金で買ったら意味がないんじゃないかなって思ってさ」
なんていうか、この白いぱんつはルビーが師匠に見せたくって買ったものだから、あくまで自分の力で買わないと意味が無いっていうのか、なんか、こう、違う気がした。
「えぇ、分かっています。ですので、お金を稼ぎたいと思っていますわ。ちょうど、自分の力がどうなっているのか本当の意味でも知りたいですし」
今のルビーは、もしかしたらあたしよりも弱いのかもしれない。
ということはつまり――
「冒険者をやるってこと?」
「えぇ、その通りです。パル、わたしとパーティを組んでくれません?」
「いいよ! やるやる! サチも呼んで、三人で冒険しよう!」
女の子だけのパーティ結成。
ちょっと楽しみだな~。
「でしたら、わたしも髪を結わないといけませんわね。パル、リボン代もください」
「……別にいいけど。ルビーって浪費が多いかも?」
「え!? そ、そうですの?」
「あたしは別にいいけど。男の人は気にするみたいだから、師匠にはポコポコお願いしないほうがいいかも? 気を付けたほうがいいよ」
「分かりました。貴重な意見、ありがとうございます。やはり自分でお金を稼ぐのは重要ですわね。頑張ってお金を稼ぎましょう」
どういたしまして、とあたしは笑った。
なんにしても、気が付けば体の重さは忘れてたくらいには。
ルビーといっしょのお買い物は、楽しかったです!
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