~流麗! さぁ反逆の狼煙をあげましょう~
ドワーフの年齢って、あんまり見分けがつきませんよね?
なんていう質問は、ドワーフに良い顔をされないっていうのは魔王領時代から知っていたことです。
基本的にはずんぐりむっくりな低身長の種族なんだけど、男はヒゲがもっさりと生えることで男らしさの象徴というか、ドワーフらしさを誇示している感じでしょうか。
そのせいで子どもも大人もお爺さんも、みんな同じヒゲ男に見えてしまうので。ドワーフ族ではなく『おじいちゃん族』と言っても怒られないと思います。
反対に女性は低身長ながらも、体型にはバラつきがあるので、やっぱり年齢は分かりにくい。
ドワーフのおばあちゃんだけかしらね。
ハッキリとドワーフの年齢が分かるのは。
「あぁ、ドワーフのおばあちゃま。今日は天気がいいですね、気持ち悪い」
「まぁまぁ、領主さま。こんなおばあちゃんに声をかけてくださるなんて、今日は天国からのお迎えがある日かしらね。ふふふ」
「なにを言っているんですの、おばあちゃま。領民が長生きしてくれないと、わたしの評価が下がって魔王さまに怒られてしまいます。まだまだお元気そうじゃないですか。ドワーフの老婆は貴重ですからね。簡単に死ぬだなんて、ダメですよおばあちゃま」
「うふふ。それじゃぁ、もうちょっと長生きしようかしらね」
「はい。是非とも長生きして、ドワーフの少女たちを教育してあげてくださいな。おばあちゃま、昔は美人そうですもの。きっとモテモテでしたでしょ?」
「ふふ、聞きたいの領主さま?」
「是非!」
なんて会話を自分の領地でしたのを覚えている。
おばあちゃまのテクニック。
いつか師匠さんに使ってみたいですわ……
あの頃は、まだわたしが自分の領地に興味があって、各地をまわっていた頃かしら。なつかしい思い出だわ。
そんなドワーフのおばあちゃまとは違って、部屋に入ってきたドワーフたちの年齢は不明でした。
それでもなんとなく――あぁ、この下衆どもは若いんだなぁ、なんて感想を持ちましたが。
もちろん肉体的ではなく、精神的な話ですけれど。
「リンゴちゃん、紹介してくれよ」
ニヤニヤと笑って、ドワーフたちのリーダー格らしき男がラークス少年を見ずに、わたしを見ながら言う。
「リンゴ?」
だからこそ、わたしはトボけるような表情を浮かべて、首をひねった。
「この部屋にはしゃべるリンゴがあるんですの? それは稀有なリンゴですわね。是非ともおしゃべりしてみたいわ。どうして早く紹介してくださらなかったんですか、ラークスくん?」
わたしはワザとらしくラークスくんの名前を呼びながら聞いてみた。
「ああん? ラークスだと?」
もちろん聞いたこともない名前でしょうから、ドワーフがいぶかしむのも無理はありません。
でも、茶番であろうとも良い機会です。
少年がしっかり『ラークス』であることを印象付けてあげましょう。
「えぇ、そうですわ。わたしを案内してくれたラークスくんです。とても聡明で優しくてたくましい殿方ですわ」
「あ、いや、あの……」
わたしはラークスくんの後ろにまわって、肩に手を置きながら察しの悪いドワーフ先輩方に紹介してあげました。
一瞬、キョトンとした顔をしたドワーフたちですが、その後おかしそうにヒゲを揺らして笑った。
「ははははは! そいつはリンゴって名前だぜ、人間の姉ちゃん。ラークスなんて名前じゃなくて、かわいいかわいいリンゴちゃんだ。それにたくましいだって? 姉ちゃんと変わらない、いやいや、姉ちゃんよりも細っこい腕をしたリンゴちゃんのどこがたくましいってんだ」
ゲラゲラと笑うドワーフ。
あらまぁ、とても品の無い笑い方。
お里が知れる、というやつですわね。もしくは、親の顔が見てみたい、というやつかもしれませんが。
どちらにしろ、しつけが悪かったのがありありと表れているみたいね。
「あら、リンゴなんて名前より、ラークスのほうが可愛いのに。ねぇ、ラークスくん」
「ひゃう!?」
わたしは少年を後ろから抱きしめて挑発的な視線をドワーフたちに送った。
スキル『魅了』。
わたしの紅い瞳には力がある。常時発動してしまう『魅了の魔眼』とも言われているけれど、そこまで協力なものではない。
せいぜい、なんかステキ、と思わせる程度。
相手の意思を削いだり、集中力を奪ったりする程度の魅力しかない。魔王さまなんか、堂々とわたしの瞳を覗き込むくらいでした。褒めてくださいましたけど、魅了はまったく効きませんでしたので、ちょっと落ち込んだくらいです。
もっとも――
人間種には良く効くようですが。
「んぐ」
若くて青いくさいドワーフたちには効果テキメンだった。ごくり、と生唾を飲み込む音がこっちまで聞こえてきそうなほど、ドワーフたちのヒゲが上下に一度だけ大きく動く。
「あ、あの、る、るびーひゃん」
「あら?」
ドワーフに意識を向けていたので、無意識の内にラークスくんの身体を撫でまわしていた。
もしかして、生唾を飲んでた理由ってわたしの魅了の魔眼じゃなくて、こっち?
「ごめんなさい、ラークスくん。あなたのたくましい身体に夢中になっちゃった」
「ひゃ、ひゃぃ」
あらあら、すっかり可愛くなっちゃって……って本末転倒ですわね。ラークスくんの堂々としたところを見せなければならないのに、すっかりと前屈みになって縮こまるようになってしまったわ。
失敗しっぱい。
「は、はは、ははは。姉ちゃんはたくましい男が好きなのか?」
ドワーフリーダーがそう声をかけてきたので――
「えぇ、そうですわね」
と、嘘をついておいた。
わたしの好きな体型はマッチョでも細マッチョでも、ましてやガリガリでもおデブさんでもありません。
師匠さんです。
わたしの好きな体型は、師匠さんです。
はい。うん。好き。血も好きだけど、外見も好き。もちろん内面も。全部。好き。
師匠さんのすべてが好き。
えぇ、まぁ。
それはさておき――
「ラークスくんに将来性を感じました。真摯な姿勢に、わたし感銘を受けましたし。きっと将来、立派な鍛冶師になってくれるに違いありませんわ。なんなら、今すぐにでも」
そうですわね?、とわたしはラークスくんに話しかけるけれど……返事がありませんでした。あらら、そこまでプレッシャーになるようなことを言ったかしら?
ちょっと耳元でささやくように言っただけですのに。
パクパクと口を開けては閉めるを繰り返すラークスくん。耳まで真っ赤になって、照れているのかしらね。
「それなら姉ちゃん。オレたちの筋肉も見てってくれよ。なんなら触ってもいいぜ?」
そういってドワーフたちは下卑た笑いと共に腕を折り曲げて筋肉を見せつけるように力コブを作った。
どうだ、と言わんばかりに自慢しているようですが……
「それって、種族特性ですよね?」
「あぁ?」
「エルフの男性が高身長なのを自慢しているみたいに、ハーフリングが素早いのを自慢しているように、ドワーフが力持ちなのを自慢するのは、どうにも説得力がありませんわ」
「なんだと? ドワーフだからって簡単に腕力が上がると大間違いだぜ、姉ちゃん。穴ぐらで石を掘ってるだけのヤツらとはまったく違うんだが、素人には分からない話か?」
リーダードワーフの言葉に、はっはっは、と取り巻きたちが笑う。
う~ん、茶番臭が凄いですわ。
なんとも辟易としたものに感じてきましたので、ちょっとだけお仕置きしてあげましょう。、
「確かにわたし、ドワーフに関しては素人です。あまり深くお付き合いしたこともありませんし。では、こういうのはどうでしょう?」
「ああん?」
「分かりやすく、腕相撲で勝負、というのは」
わたしの提案にドワーフたちはまた笑い、ニヤニヤとわたしを見た。
「その細い腕でオレたちに勝てると思っているのか、姉ちゃん」
「いえいえ、そんなことありませんわ。これでも乙女ですもの。ハンデをもらうつもりでいました」
「ほう、どんなハンデでもいいぜ」
「それでは遠慮なく。わたしはラークスくんとふたりで勝負します。二対一の戦いでも、受けてくださいますわよね?」
ワザとらしく、こんな不利な勝負でも一度了承したのだから受けるわよね、みたいな挑発的な態度を取ってみる。
結果――
「ははははは! いいぜいいぜ、リンゴちゃんと姉ちゃんがどれだけ束になろうとも、オレの腕はまがりゃしねぇよ。そのかわり、オレたちが勝ったら姉ちゃんを好きにさせてもらうぜ」
「いいですわ。むしろわたしにとってもご褒美かもしれません」
「へへ。なるほど、『言い訳』が欲しかったのかい、姉ちゃん」
「さぁ?」
とぼける感じでわたしは肩をすくめる。
「さぁ、頑張りますわよラークスくん。いっしょにドワーフをやっつけましょう」
「……は、はい」
軽々とハンマーを持ち上げてみせたのを知っているだけに。
ラークスくんは複雑な表情を見せていた。
本当に勝てるのだろうか?
本当に大丈夫なんだろうか?
そんな表情ですけど。
あえて言いましょう。
「余裕ですわ」
ラークス少年にウィンクをして見せて、わたし達は腕相撲勝負を開始するのでした。
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