~可憐! 騙され密室に連れ込まれた少女たちの運命~
小屋に近づいてみてみれば、それは廃屋なんかじゃないことが分かった。
遠目にはボロボロに見えたんだけど、ちゃんと近くで見れば壊れている場所とか穴が開いてるとかもなくて、普通の木造の小屋だ。
でもやっぱりボロボロに見えるのはなんでなんだろ?
木の色が悪いのかな?
「どうしたんだい、お嬢ちゃん」
あたしが不思議に思って小屋を見ていたのでおじさんが声をかけてきた。
「ねぇ、おじさん。この木ってどこの木?」
「ん? その辺に生えてる普通の木だよ。あぁ、色が違うから気になったのかな。えらいね、お嬢ちゃん」
そう言っておじさんは頭を撫でてくれた。
んっ。やっぱり師匠の撫で方と違うんだなぁ~って思った。
おじさんは頭を撫でたあと、あたしの背中に手を添える。
もう少し前に進んで良く見てごらん、ってことかな?
「海からは潮風って言ってな。なんでも風化させちまう風が吹いてくるんだよ。その風から小屋を守るために特殊な色を塗ってるんだ。これも学園で開発されたものだが、色が悪いのと匂いがキツくてな。しばらく時間を置けば匂いは消えて問題ないけど、あんまり使われてないんだ」
おじさんが前に進めって示したのは、においを嗅いでみろってことだったのか。
あたしは小屋に近づいてクンクンと鼻で息をしてみたけど……キツいにおいとか、ぜんぜん感じなかった。
「においはぜんぜんしないけど、そんな失敗もあるんだねぇ」
失敗だらけだよ、とおじさんは笑う。
「さ、お嬢ちゃん達。中を見せてあげるよ」
そう言っておじさんは入口のドアをガタガタとスライドさせた。
ちょっと引っかかる感じで重そうな扉だ。これが風化の影響なのかもしれない。もしかしたら砂の上に立っているので歪んじゃってるのかも?
「……」
ん~、なんか違和感。
なんだろう。
おじさんの筋肉モリモリな腕で、ちょっと重そうに開いたドア。ホントに子ども達が開けて中で遊んだりするかな?
「……お邪魔します」
あ、サチが入って行っちゃった。
うーん、まぁ、大丈夫かな。
「お邪魔しま~す」
小屋の中には、漁師さんが使う道具がいっぱい置いてあった。倉庫みたいに使われているみたいで、網とかモリとか、なんか海で浮いてそうなヤツとか、竿とか。
あんまり使われていない道具もあるみたいで、錆びちゃってるのもある。頻繁に利用されているわけではない感じの、生ぬるい空気を感じた。
それこそ、廃屋とかに近い感じがする。
床には砂がたくさん積もってるし、やっぱり朽ちたイメージがあった。
「……ここで子どもが何してるのかな。……秘密基地?」
「秘密基地? なにそれ!?」
サチの言った言葉にあたしは思わず叫んで聞いちゃった。
「……子どもだけで作る自分たちの砦かしら。……自分たちだけの大人は入っちゃダメな、ごっこ遊びよ」
「ほへ~。楽しいの?」
「……男の子は、楽しいんじゃない?」
なるほど。
でも、男の子の考えることは良く分かんないなぁ。
ガイスとかチューズに聞いたら教えてくれるかな? でも、なんとなく楽しそうに話す気がする。だって冒険者になるくらいだし。
そんな風にあたしが元パーティメンバーのことを考えると――
ガタン! って音がして、入口のドアが閉められた。
「え?」
一気に暗くなる室内に、驚くサチの声。
それと同時に、おじさんの笑い声が聞こえた。
「ひひひっ、これでもう逃げられないよ。かわいいお嬢ちゃん達ぃ」
ガチャンと何か金属が噛み合うような音が聞こえた。
たぶん、この音って……
「鍵?」
どうして内側に鍵があるの!?
普通、外側に鍵があるんじゃないの!?
「そうだよ、金髪のお嬢ちゃん。名前はなんていうのかな?」
暗くなった室内に慣れて、おじさんの顔が見えるようになった。
ニヤニヤとした顔。
まるで今からとびっきり楽しいことが待ってる。
そう信じて疑っていない、ゲスな表情だった。
「あたしの名前はパルヴァスだよ。で、おじさん。どうして鍵を閉めたのさ? というか、なんで内側に鍵があるの?」
「そんなものは聞かれなくても分かってるだろぉ。こういう時の為さ。ふひ、ひひひ。小さい頃、教えてもらわなかったのかい? 知らない大人に付いていってはダメだって。ひひひひひゃはははは」
あたしは肩をすくめた。
なぁ~んだ。
やっぱりそうなんだ。
重そうに扉を開けるからおかしいと思ったんだよねぇ~。ちょっと信じて損しちゃった。まったくまったくぅ。
「残念。あたし孤児だったし、教えてくれる大人はいなかったよ。しかも孤児院から出て行って路地裏で生きてたから。あたしには誰も、親切にしてくれなったよ。むしろ大人なんて信じられないもん」
肩をすくめて、あたしはそう語る。
「随分余裕なんだねぇ、パルヴァスちゃん。そっちの眼鏡の娘は驚いているのに。路地裏で生きてたっていうのは本当のようだね。大人からごはんをもらってたのかなぁ?」
「そんな優しい世界だったら、良かったのにね」
誰も汚くて不気味な子どもに餌なんてあげるものか。野良猫のほうが、まだ美しくて綺麗でかわいい。
猫は裏切っても愛されるけど、子どもは裏切れば殺される。
世界は人間よりも、猫に優しい。
路地裏っていうのは、そういうルールで動いている。
「そうかいそうかい。じゃぁ、おじさんの言う事を聞いてくれたら無事に帰してあげるから。だから、大人しくしようね」
おじさんは自分の筋肉を見せつけるように上着を脱いだ。
服に隠れていた部分でさえも、分厚い筋肉がある。生半可な攻撃じゃ通用しそうになかった。
「逃げられるなんて思わないことだよ、パルヴァスちゃん。ほら、おじさんは力が強いからね。君を叩いたりしたら、すぐに骨が折れちゃって動けなくなっちゃうから。だから大人しくおじさんの言う事を聞こっか。ね?」
確かに攻撃力は高そうなおじさんだ。
一発でも殴られちゃうと、たぶんあたしなんかじゃ動けなくなっちゃうと思う。
「分かった。なにをしたらいいの?」
「そうだねぇ。ひひひ、まずはぱんつを見たいなぁ。おじさん、かわいい子のぱんつが大好きなんだよ。ひひ、見せてくれたら可愛い可愛いって撫でてあげるよ」
おぉ~。
師匠、この人ホンモノです!
ホンモノのロリコンです!
しかも、実際に手を出しちゃうタイプ!
世間一般に嫌われるタイプのロリコンですよ、師匠!
ホントにいるんだなぁ、こんな人。内側から鍵をかけられるようにしているし、用意周到な感じ。きっちり計画を練っている気がする。
やっぱり、こんな人に比べたら師匠ってば優しい。
あたしが傷つかないように、ちゃんとあたしのことを思ってくれてるんだ。
うん!
あたし絶対にルビーには負けない!
大人になっちゃう前に、ぜったいに師匠と愛し合ってみせる!
と、改めて師匠にラブを誓ったところで。
このおじさんを何とかしなきゃ。
よし、まずは女の子なら誰でも使えるスキルを試してみよう。
そう!
スキル『色仕掛け』だ!
「分かった。ちゃんと見せるから酷いことしないでねおじさん」
「ぐふ。もちろんだとも」
「ありがとうおじさん。でも、あたし――」
あたしはホットパンツの前部分に付いてるボタンを外す。
ぴらり、と外れるように前部分が開き、そこから見えるのは……あたしの肌。
そう、実は師匠にぱんつを買ってもらったけど、もったいなくて履けないでいるのだった!
あはは!
「おほっ。パルヴァスちゃんノーパンだなんて、なんてえっち――」
おじさんがあたしのおへその下に夢中になった瞬間、あたしは一気に床を蹴った。
ブーツちゃん、ぜったい滑らないでね! って祈りはナーさまが叶えてくれたのか、それとも成長するブーツの実力か。
おじさんの脇を駆け抜けて壁を蹴り、背中へと取りつくと同時に魔力糸を顕現させる。
まったく意識しなくて顕現させた魔力糸は、あいかわらず毛糸みたいで太い。でも、これならば充分に締められるよね。
おじさんの首を!
「大人しくしろぉ!」
「ぐっ、う、ぐ、がぁ!」
おじさんが暴れるようにあたしに手を伸ばしてくる。
だけど――
「……えいっ!」
その前にサチの一撃がおじさんの股間に炸裂した。
おまたに足を振り上げたみたい。
さすが神官でも冒険者をやっていただけはある。長距離を歩けるくらいには、サチの足も鍛えられているので、女の子の弱弱しいキックじゃない。
ちゃんと、威力のある一撃だった。
「ぴぎゅ」
っていう変な声をあげて……おじさんは泡を吹いて倒れた。
「うわ……死んじゃった?」
おじさんは白目をむいてぴくぴく震えてる。一応、締めていた魔力糸を緩めてみたけど、意識を失っているのは本当のようだ。
「……たぶん大丈夫。もうちょっと蹴っとく?」
「うん。念のために蹴っとこう」
あたしとサチは、もう一回づつおじさんのあそこを思いっきり蹴っておいた。よし、これでしばらく大丈夫なはず。たぶん。
顔色が青を通り越して土色になったけど……まぁ、生きてるし大丈夫だよね。たぶん。
「このロープ、借りていいかな」
「……あんまり使ってないみたいだからいいんじゃない?」
「師匠直伝、盗賊式捕縛術! ぐるぐる巻き!」
びくびく泡を吹きながら震えてるおじさんをロープでぐるぐる巻きにしておいた。
ごめんなさい。
縄抜けの訓練はしたけど、縛るほうの訓練はまだです。
「……ちゃんと習っておこうよ、パルヴァス」
「はい」
今度、師匠に習ってルビーを縛ってやろう! うん! ナイスアイデア!
「……師匠さんって、やっぱりスゴイんだね」
「あ、うん。なんでもできるし、なんでも知ってるし。強いし、完璧だよ!」
「……そうじゃなくって。ロリコンでも我慢してるってことで」
「あ、そっち?」
でもやっぱり師匠ってスゴイことには違いはない。
すごいロリコン。すばらしいロリコン。
あたしの大好きなロリコン師匠。
っていうと、ぜったい怒られるので言わないようにしよう。
「とりあえずこのおじさん、捕まえてもらおう。自警団とかあったっけ?」
「……分かんない」
このままにしておくわけにもいかないし、あたしとサチはふたりでロープを引っ張っておじさんを引きずって大通りまで戻ってきた。
「うわ、どうしたんだい?」
と、そこで通りがかったおばちゃんに事情を話して、あっという間におじさんは連れていかれた。
「大丈夫だったかい、お嬢ちゃん。悪い男もいたものねぇ」
怖かったねぇ、とおばちゃんはあたし達を抱きしめてくれた。
「はい、大丈夫です。ところでおばちゃん、この辺で子ども達が遊んでる場所ってある?」
「それなら、あっちに子ども公園っていう場所があるよ。海の見える綺麗な公園でねぇ。人気があるよ……って、どうしたんだいお嬢ちゃん。そっちの神官の子も」
あたしとサチはがっくりと膝を付いた。
ちょっと、自分たちの運の悪さっていうか、人の見る目の無さっていうか。
なんかそういうのを感じた。
もしかしたらナーさま、見てくれてないのかもしれない。神さまたちのゴタゴタみたいなのがちゃんと解決したら、どうかサチだけでもちゃんと見守ってください。
それはともかく。
師匠からのクエストは無事にクリアできたのでした!
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