~卑劣! 美少女にも二種類ありハーレムで勇者に勝利する盗賊~
学園校舎の外は、一日として同じ風景は無い。
それと同じく、校舎の中もまた訪れるたびに違う様相をみせる――はずなのだが、今日はなんとなく雰囲気が違った。
いや、もちろん雰囲気というのは毎日違うのも風景と同じなのだが。一貫しているのは、毎日がお祭り騒ぎ、という点だった。どこかで爆発は起きてるし、どこかで魔法が発動しているし、どこかでは謎の光が放たれている。
そんな騒がしいはずの日常が、今日はなんとなく大人しい。
あくまで普段と比べて、の話だが。
「静かだな」
「静かですわね」
「「うわっ!?」」
いつの間にか俺の影から出てきていたルビーに、俺とパルはびっくりする。
「急に出てくるなよ、びっくりするじゃないか」
「では、ゆっくりねっとりずぶずぶと音を立てながら出てきましょうか、師匠さん?」
なぜか赤くなった頬に手をそえて、照れながら言うルビー。
なにを意識させるつもりだ、この吸血鬼は。
「……いや、人目に付かないように速く出てきてくれて、どうもありがとう」
「どういたしまして」
ごもっともな話。
というやつだろうか。
そう言われれば、そうだよな、と答えるしかない。
ねっちょりずぶずぶと俺の影からルビーが出てきてみろ。恐れられるのはルビーではなく、俺の方だ。
どう見ても俺が謎の黒い少女を従える邪悪なる召喚士、みたいに見えてしまう。
ルビーには素早く出てきてくれたほうが、なにかと疑われなくて済むのはごもっともな話だ。ずっと影の中にいろ、とも言えないし。ある程度の自由を保障しないと、俺のことを嫌いになられるかもしれないので。
う~ん……嫌だなぁ、この考え方。なんか俺、めっちゃ嫌な男に思われない? 傲慢すぎない? 大丈夫? モテる男は辛いなぁ~って言ってみたかったけど、言えるような状況じゃないのが悲しい。
「大丈夫なの、ルビー? 一応、太陽の光があるよ?」
パルの言葉に吸血鬼は、問題ありません、と笑う。
「少々気持ち悪いだけで直接浴びなければ問題ないです。間違って外に出たとしても、全身が燃える程度ですから」
燃える程度で済むんだ……
「ずっと太陽の下にいたら、どれくらいで死ぬの?」
「試したことがないので分かりませんが、そう長くありませんよ。呼吸三回分、というところでしょうか。身体の中まで燃えたら、きっとおしまいです」
「なるほど。それでルビーを倒せるのか」
ふっふっふ、とパルが悪い顔をしてみせた。おまえの弱点を知ったぞ、という挑発なんだろうけど、俺にはルビーを日の下で三呼吸させる自信なんて無い。
「もっと簡単な方法がありますよ、パル」
「なになに?」
「心臓に杭を打ち付けてください。それだけで死にます」
「それ、誰だって死ぬよ!?」
パルのツッコミは、まぁ的確であり、また的外れでもある微妙なラインだった。
なにせ、吸血鬼の伝説といえば魔物の中でも超有名であり、ほとんどの攻撃が効かないというもの。
それにも関わらず、杭だけはしっかりと刺さる、というのだから、巧妙であり光明でもあるのだが……
簡単に杭を打ち込めるのなら苦労は無い。
なにせ、杭というのは武器ではなく、あくまで道具。ハンマーといっしょに使わなければ、刺さる物も刺さらない。
弱点とは言い切れない弱点だ。
太陽の光にさらす方が、よっぽど簡単だと言える。
「それで、師匠さん。今日は校舎の中が静かな気がしますが、なにかあったのでしょうか?」
「そうなんですか、師匠?」
ふたりの少女が可愛く俺を見上げてくる。
最高だな!
という感情はひとまず置いておいて……
「静か、といっても賑やかなのはいつもどおりだ。ひとつ違うのは、喧噪の種類だな。学園の日常をお祭りとするならば、今日の祭りは前夜祭的な雰囲気を感じる」
祭りの前の日。
どこかワクワクとしたものを内に秘めたまま、フワフワした気分で準備を着々と進めているような空気感があった。
「もちろん俺の感覚だけどな。ルビーの方が学園歴は長いんじゃないのかい?」
「ここに来たのはそこまで前ではありません。ほんの数週間、わたしが先に来ていただけです」
「そうなんだ。ねぇねぇ、ルビーは学園で何してたの?」
パルの質問にルビーは、あっけらかんと答える。
「遊んでました」
「……なにして?」
「話を聞いたり、散歩したり。どこかで爆発があれば見に行ったりしました。美味しそうなにおいがしてきたら、そちらへ向かったり。光は避けて、ずっと学園の中にいました。夜になると樹の根本に行き、ハイ・エルフとお話したりお茶したりしてたわ」
「そうなんだ。楽しそう」
「えぇ、楽しかったわ」
お気楽な学園生活、というか、ほとんど学園長と変わらない生活をしていたようだ。
学園長もまた、退屈になれば学園の中を動き回っており、仕事ができたり夜になったりすると、あの樹木の根本に戻ってくる。
そんな生活を永遠に繰り返しているはずだ。
「それで師匠。学園には何しに来たんですか?」
「サチの様子を見ておこうと思ってな。手伝えることがあれば、協力できるかもしれない」
「おぉ~、サチ元気かな。会うの楽しみです! えっと、『ミーニャ神秘研究会』でしたよね。そのミーニャっていう人を探せばいいんですよね?」
「そうだ。というわけでミッションだ。パル、おまえだけの力でサチに辿りつけ。よーい、スタート」
「え、わ、は、はい!」
なぜか慌ててパルは駆けだした。
別に走る必要ないのだが、俺がスタートと言うと同時に、手をパンと叩いたので、急げ、という合図に思えたらしい。
「サチ、というのはどなたでしょうか師匠さん?」
パルを見失わないように後ろを追いかけながらルビーにサチのことを説明する。
それにはジックス街の盗賊ギルドで請け負った仕事から説明しないといけないので、少々の時間を要した。
その間にパルはさっそく聞き込みを開始したようだ。
「あ、お兄さんお兄さん。ミーニャ神秘研究会ってどこですか?」
「ミーニャの教室なら上の方だよ。ふぅむ、それよりお嬢ちゃん可愛いね。今度、絵画研究会のモデルをやってくれないかい? 報酬ならはずむよ?」
「時間があればいいですよ。ララ・スペークラさんのモデルもやったことがあるので、バッチリです!」
「え? は? え、あの……ララ・スペークラって、あのララ・スペークラ? え? は?」
「あ、急いでるので行きますね。情報ありがとうございます!」
生徒が混乱している間にパルは素早く移動した。
やるなぁ……相手の理解の範疇をギリギリ超えるような情報を与えて混乱させ、その間に行方をくらませる。相手が正気に戻った時には、すでに姿は見えない。
面と向かってモデルを断るよりも、よっぽど賢いやり方だ。
素晴らしい。
「むぅ、気に入りませんわ」
「どうした、ルビー」
パルを追いかけている最中、ルビーは頬をふくらませた。
「さっきの絵画研究会の男。わたしには声をかけませんでした。パルよりわたしのほうがきっと美人ですのに」
「好みが違ったんじゃないのか? 美少女にもふたつ存在する。かわいい系と美人系だ。パルはかわいい系だが、ルビーは美人系だろ。趣味が違ったんだよ」
「なるほど。魔物には無い知見です」
魔物の美的感覚は、やっぱり人間種とは違うんだろうなぁ。
そういう意味ではルビーは容姿で得をしたことが無さそうだ。
「ふむ。ではルビー。わらわは美人じゃからのぅ、かっかっか。と言ってくれ」
「え、あ、はい……わらわは美人じゃからのぅ、かっかっか」
よし!
と、俺は思わず拳を握りしめた。
「もう、なにをやらせるんですか師匠さん!」
「はっはっは」
「ところで師匠さんの好みは美人系ですか? かわいい系ですか?」
「そこが難しい問題だ。かわいい系の素晴らしさは無垢にある。少女特有の幼さが見え隠れする中での可愛さは、どうやっても触れたりしてはいけないものだ。禁忌に等しい。触れてはならないものだからこそ、汚してはいけないものだからこそ、欲しくなってしまう。そういう良さだ。対して美人系は矛盾に満ちているんだ。年齢にそぐわない整った顔立ち。それはすなわち大人の女である証明のようなもの。しかし、そこにはやはり年齢特有の無邪気さも内包している。これを矛盾と呼ばずになんと呼ぼうか。有り得ない情報をふたつ内包している美人系美少女とは、すなわちこの世の奇跡といっても過言ではない。そのふたつを両天秤にかけたところで天秤は静止するはずもなく、永遠にシーソーのように動き続けるだけだろう。もしもそのふたつに優劣を作れたと主張する男があらわれても、聞く耳は持てない。なぜなら、それはそいつの趣味趣向であって、理論的に論理的に優劣を付けられたわけではない。あくまでそれは個人の話であって、この世の真実ではないのだ。ただし、ロリ巨乳。これだけは許されない。それは最早説明するまでもないだろう――」
「あ、はい」
俺は一生懸命に良さを語ったのに、一言で返されてしまった。
悲しい。
これが理解されない物を語る時の悲しさってやつなのかな。
ちょっとだけ学園長の気持ちが分かった気がする。
ララ・スペークラと語り合いたい。ロリの良さについて、パルとルビーを見ながらお酒を飲みつつ美味しいおつまみを食べながら語り合いたい。うぅ。
「師匠、分かりましたよ。あれ、なんで師匠落ち込んでるの?」
「さぁ、わたしにはサッパリ分かりません。質問が悪かったのでしょうか?」
「なにを聞いたの、ルビー?」
「わたしとパル、どっちが好きか師匠さんに聞きました」
「そんな最後の手段、もう使っちゃったの!?」
「はい、使いました」
「そ、それで師匠はなんと?」
「どっちも好き、という答えなのでしょう。なのでわたしは答えました。あ、はい。と」
「師匠ってばハーレム好きなんだ」
「そのようですね。これからも美少女を増やしていきます?」
「やだ!」
なぜか知らないが、俺はハーレムを作っても許される立場になったらしい。いや、なってないか。
こういうのは勇者が魔王を倒したあとに発生する『どの国のお姫様と結婚するんだ問題』だと思っていたけど……
「なんで俺が?」
光の精霊女王ラビアンさまの祝福って、こういうこと!?
だったら、俺じゃなくてあいつにも与えて欲しい。
きっと今頃、賢者と神官に挟まれて悩んでいるぜ、あいつ……
「ふむ」
そういう意味では、勇者と俺は似たような立場、と言い切れなくもない。ふたりの女性に言い寄られていると言えば、状況は同じだし。
「ふっ」
その点だけで言えば、俺が勝ってる。確実に勝ってる。
はっはっは!
ざまぁないなぁ、勇者ぁ!
こっちはめちゃくちゃ可愛い金髪ポニテ幼女と黒髪ロング吸血鬼幼女だ!
そっちはババァとよろしくしてろ!
はーっはっはっはっは……うぅ――
「うわ、どうしたんですか師匠!?」
「いきなり膝をついて、どこか悪いのですか師匠さん!?」
俺は、なんだか物凄く勇者に申し訳なくなって。
思い切り膝から崩れ落ちるのだった。
ごめんね、俺の幼馴染にして親友たる勇者よ。
おまえにいろいろと押し付けて、本当に申し訳ない気分でいっぱいです。逃げちゃってごめんなさい。むざむざ簡単にパーティから追放されてごめんなさい。
いつか必ず恩返しするからな!
それまで童貞を死守してろよ!
賢者と神官なんかに負けんじゃねーぞ!
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