~可憐! やっぱり師匠は浮気していた!?~

 盗賊ギルドを飛び出して、あたしは学園都市をトコトコと走って移動した。

 別に走る必要なんて無いけど、師匠に早く会いたいので走っちゃう。早く師匠を見つけて、褒めてもらうんだ。


「おぉ~」


 真夜中だっていうのに、学園都市は明るい。

 大きな道には魔石を利用した明かりが等間隔で付いているっていうのもあるけど、それ以上に街の中心が明るいっていうのがある。

 学園校舎からは明かりがビカビカついてて、近づけば近づくほど明るくなっていった。しかも時々、ピカーってめちゃくちゃ明るく光ってて、なんか魔法が発動してるのか、それとも何か爆発しているのか、分かんないけどとにかく光ってる。

 ちょっと怖い。

 あそこにサチもいるのかと思うと、なんていうか、凄いね……としか言いようが無い気がしてきた。

 う~ん、サチってば変な子だったけど、あそこまで変かって言われると違う気がするけど、やっぱりサチもあれぐらいに変になっちゃうんだろうか、って思うとなっちゃいそうな気がするので、なんとも言えないなぁ。


「んお?」


 なんて思いながら学園校舎の入口にたどりつくと、あたしは足を止めた。

 そこには一件の屋台があって……


「おぉ!」


 じゅわわわわ~、と何かとてつもなく美味しそうな音が聞こえる。

 この音は『からあげ』だ!

 真夜中にからあげの屋台がある!


「なんて悪魔的!」


 と言いつつ、あたしは屋台に吸い込まれてしまった。うん。だって美味しそうなんだもん。

 音が。

 音だけで、美味しい。

 油であげている音だけでよだれが出てきちゃう!


「あれ? ここって昼間の『新料理研究会』じゃなかったっけ……」


 位置的に同じだし、看板もそのままだ。

 でも、からあげって新料理?

 もしかして、あげてるのは全然別の肉とか?


「いらっしゃい、お嬢ちゃん。こんな真夜中にからあげなんて食べると太っちゃうよ」

「あ、店員さんが言うんだ、それ……」


 売る側が言っちゃいけないセリフ!

 って思ったんだけど、店員さんは堂々と笑ってる。


「真夜中にからあげが食べたい。その欲求は恐ろしい。太ってしまうのは確実だ。だが、しかし! その魅力に勝てないっていうのが人間だからね。いやいや人間だけとは限らない。粗食で有名なエルフだって、真夜中にたっぷりの油でカラっと揚げた美味しい美味しいお肉を食べたいことだってあるさ! というわけで、我ら『新料理研究会』の貴重な資金源が、この『真夜中のからあげ屋さん』なのさ」


 店員さんは笑った。

 悪魔的な笑顔で笑った。


「なるほど~。一個ください」


 ここまで来て食べない、という選択肢は無い。

 無いよね?

 いいよね!

 ちょっとくらい食べても太らないし、明日がんばって運動したら大丈夫だもん!

 というわけで、あたしはからあげを買いました。


「んふ~、美味しい」


 揚げたてのからあげ。

 表面はカリっとしてて、熱々だった!

 ちょっぴりしょっぱい味がして、中の鶏肉がほどよく噛み応えがあって、肉汁がじゅわわわ~って溢れてきて、やけどしそうになるけど、美味しい!


「はふはふ……んっ。ごちそうさまです」

「お嬢ちゃん美味しそうに食べるねぇ。作ったこっちも嬉しいよ」

「えへへ。あ、そうだ」


 師匠は良く屋台で買い物をして情報収集してる。

 あたしもやってみよう。


「ちょっと人を探してるんですけど、旅人の格好をした人で――」


 あたしは師匠の特徴を伝えて聞いてみる。

 そういう意味では、師匠の旅人風って目立つのかもしれない。でも、印象はやっぱり旅人っていう感じだから、そういう意味では特徴がゼロっていう感じかな。少なくとも盗賊とはぜんぜん思えない。

 やっぱり師匠って凄いなぁ~。


「あぁ、その人だったら通ったよ。どこへ行ったかまでは分からないけど、夜に外から来る人は珍しいからね。覚えていたよ」

「おぉ~」


 有力情報だ!

 やっぱり師匠は学園に来てたみたい。


「ありがとうございます。からあげ、美味しかったのでまた買います!」

「太っちゃうから気を付けて」


 という新料理研究会の人に手を振って、あたしは学園校舎の中に入った。


「うわぁ」


 中に入ると、やっぱり明るくて昼間とぜんぜん変わらない。そこら中で人が話していたり、なにか物音がしてたり、やっぱり階段で寝ている人がいたり。

 わいわいがやがや、と騒がしくて、どこで何が起こっているのか把握するのも大変だ。


「師匠どころかサチを見つけるのも無理かも?」


 誰かに聞こうにも、みんな忙しそうに動き回っている。逆に止まっている人は寝ているか、なにかブツブツ言いながら斜め上を見上げていた。


「なにか見えるの?」


 と、あたしも同じ方向の斜め上を見上げても、何を見ているのか分からなかった。


「うわぁ……見えない何かを見ている……」


 とてもじゃないけど、声をかけられる雰囲気じゃなかった。


「う~ん……でも、師匠が行くところってサチのところか学園長のところだと思う」


 そう考えると、まずは学園長がいた校舎の中心に行ってみるのが良さそう。


「確か、真っ直ぐだったよね」


 道順っていうより、方向って言った方がいいかな。

 だって、昼間来た時には無かったはずの本棚が通路の真ん中に置かれていたり、あったはずの大きな棚っぽいのが無くなったりしてる。

 目印が無くなってた。

 むしろ、目印って思うのが間違いだったのかも。


「迷子になったら出られなくなっちゃいそう」


 なんて思いながら校舎の中心であるおっきな樹を目指して歩いていく。

 分かっているのは階段を使わないこと。できるだけ上下移動が無いように歩いて行った。


「あ、このあたりは分かる」


 段々と喧噪が聞こえなくなってきて、天井が低くうす暗い雰囲気になってきた。それと同時に寝ている生徒の姿がちらほらと増えてくる。

 外の光はまったく分かんないけど、それでも夜になると寝ている人が増えるのかも?


「あった。根っこだ」


 更に進んでいくと、大きな樹に根っこが地面を這っているのを発見した。

 あとは、この根っこに沿って進んでいけば絶対に中心地に辿り着けるはず。

 廊下は更に暗くなっていき、静かになっていく。段々と寝ている人とかも減っていく廊下を歩いていった。


「師匠、ししょう~、しっしょ~。どっこかな師匠~、ししょ~ぉ~」


 ひとまず学園長に会ってみて、師匠の情報を聞いてみよう。もしも学園長が師匠の行方を知らなかったら、サチのところだと思うので、サチの居場所を教えてもらえばいい。


「なんだ、簡単なことだったんだ」


 あたしはこげちゃったメモを取り出す。

 そういえば、ここには訓練とか修行とか、そういうことは一切書いて無くって『探せ』っていうだけ。

 それこそ本当に師匠は『かくれんぼ』がしたかっただけなのかもしれない。

 難しく考える必要なんて無かったんだ。

 選択肢は三つだけ。

 盗賊ギルドかサチか学園長か。


「らっくちん、らくちん」


 とりあえず師匠を見つけたら褒めてもらおう。

 頭なでてもらえるぞ~、やった~。

 と、考えながら学園長がいる大きな樹の根本に辿り着い――


「あっ」


 師匠がいた!

 あと、学園長もいる。

 やったぁ――と、あたしが思ったんだけど!

 で、でででで!

 でもでもでもでもぉ!?

 学園長が師匠のズボンを持ってる!?

 えええええええええ、って感じであたしは思わず言葉に詰まってしまった。

 ってことは、あの座ってる師匠は下半身が裸ってこと!?

 師匠の師匠が丸見えになっちゃってるってこと!?

 あれ?

 でも、なんか黒い……

 なにあれ?

 あっ!

 人じゃん!

 あれ、人じゃん!

 女の子じゃん!?

 師匠の下半身に、なんかちっちゃい女の子がしがみつくようにしてるんですけど!?

 これって!

 これってぇ!


「あぁ~! 師匠が浮気してるー!?」


 あたしは思わず。

 絶叫してしまうのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る