~卑劣! イチャイチャするのは誰のため?~

 ジックス街から始まったルーキー行方不明事件。

 果ては学園都市まで来ることになったが、予想よりも簡単に終わらせることができた。

 思った以上にイークエスが簡単に口を割ったのが功を奏したのだろう。加えて、裏切る様子もなく、素直にアジトへ案内したこともある。

 予想と予感では、それなりに抵抗すると思っていた。このままでは人生は終わりを迎えてしまうのだ。そう考えると最後の悪あがきをする可能性は非常に高い。

 それに加えて、突然のイークエスの訪問にアジトに潜伏していた犯人たちが怪しく思うはず。

 こういった状況を想定して、暗号やハンドサインなどで危険を伝えて、俺たちを迎撃してくると考えていたが……


「簡単だったな」

「はい、スピード解決です。ホントに簡単な仕事でしたね師匠」


 パルの言うとおり、スピード解決に至った。


「はっはっは。ゲラゲラエルフが渋ったわけだ。これで報酬がもらえるとは、なかなか美味しい仕事なのは間違いない」

「師匠のおかげです」

「いやいや、パルの存在も大きいぞ。かわいい上に優秀だとは、俺も運が良い」

「えへへ~」


 俺はパルの頭を撫でてやる。

 いま、俺たちは盗賊ギルドへ戻る途中だ。

 盗賊ギルドのマスターにして実働担当であるイアとタバコの新フレーバーを製作していた有翼種の盗賊少女……あぁ~、名前を本気で聞いてなかったよな。とりあえず仮称・タバ子にアジトを任せて、俺とパルはひとまずギルドへ戻って報告することになった。

 もちろんイークエスの箱を持って。

 中にはイークエスはもちろん、新しく捕らえた犯人を入れてある。

 まぁ、逃げられないとは思うが万一ということもある。監視の行き届いた盗賊ギルド内に置いておくのが一番だ。

 人質や犯人を移送するには、これほど便利なアイテムは無い。

 味方に使えないっていうのが唯一の欠点かなぁ。使ってもいいんだが、必ず全裸になってしまうので、なんというか、状況が限られてきてしまう。

 さてさて。

 アジトでひと悶着している間に時間は夕方を過ぎて夜になっていた。

 しかし、そこは学園都市らしく街中に明かりは煌々としている。ドワーフの街にあったトンネルの中で見た光る鉱石を使用しているのか、はたまた別の技術だろうか。等間隔で並ぶ街灯が街の中を照らしている。

 特に街の中心にある学園校舎はひときわ明るく、どう見ても夜に休むような雰囲気は無い。


「ねぇ師匠。学園の生徒はいつ寝てるんですか?」

「知らん。眠りたい時に寝て、食べたい時に食べる。それ意外を全て研究や勉強に当ててるのが『生徒』『学生』という生き物だ。朝も昼も夜も、関係なくあいつらは生きている」


 苦笑しつつ俺はパルに説明してやる。


「睡眠欲よりも知識欲が勝るらしい。人間の本能よりも強い欲望っていうのは、なんていうか恐ろしいものだが……ここでは逆に常識になってしまっているな。何人かは寝ているのではなく気絶してるんじゃないか」

「ほへ~。あ、それだったら、生徒はどうやってお金をもらってるんですか? 働かないとお金ってもらえませんよね」

「俺も詳しくは知らないが、研究でお金をもらえることもあるんじゃないか? あと、聞くところによると学生は無料で食べられる食堂があるとか無いとか。残念ながら部外者だから学園長は場所を教えてくれなかったけど。サチといっしょなら食べられるんじゃないかな。今度、校舎を探検してみたらどうだ?」

「いいんですか?」

「しらばく滞在するつもりだからな」


 俺は肩をすくめながらそう言った。

 本来の予定でもあるけど、サチとちゃんとお別れしていないのも事実だ。あんな適当な別れ方では、ちょっと後悔するかもしれない。

 パルじゃなくて、俺が。


「もちろんパルの訓練は続けるぞ。日々是修行也(ひびこれしゅぎょうなり)、と言うからな。なんなら盗賊ギルドか冒険者ギルドで仕事を受けてもいいし」

「あれ、所属してる街の外でも受けていいんですか?」


 もちろんだ、と俺はうなづく。


「冒険者ギルドは問題ない。まぁパーティで受ける仕事がほとんどだから、単独行動の依頼はあまり無いかもしれないけど。盗賊ギルドに関しては少々どころか、かなり面倒な話になってくるが、すでに面通しは澄んでるからな。裏切るつもりもない、一時的な働き手として見てくれるだろうから、学園都市に関しては問題ないだろう」


 情報の横流しとかしないだろう、という人格の見極めは合格しているはず。

 俺はともかく、パルは大丈夫のはずだ。


「あ、じゃぁ王都で働くのは無理ってことですか?」

「ん~、あの赤い髪をした巨乳……あの人に頼めば大丈夫かもしれないぞ。俺はごめんだが」「んひひ。師匠、ロリコンですもんね」

「巨乳なんて恐ろしいだけだ。パルぐらいが一番だよ」

「ぺったんこですよ?」

「是非もなし。議論の余地なく、それが最高峰だ。贅沢を言うのなら、ほんの少し、わずかばかり膨らみが欲しい」

「どうぞ!」

「なにがだ!?」


 見ればパルは両手を広げていた。

 抱きしめてくれ、という合図だろうけど……さすがに往来のど真ん中だ。変態ばかりの学園都市ではあるが、それでもロリコンとは禁忌的な存在である。

 もっとキワドイ性癖をしているヤツらがゴロゴロとしているので、ロリコンなんて普通だろ? みたいなスタンスではあるが……

 それはそれとして白い目で見られるのは間違いないのでわざわざオープンにしない方が身のためだ。


「むぅ、師匠のケチ。じゃぁ、今晩抱いてください」

「すまないが先約済みだ。タバ子と約束したのでな」

「あ、浮気するつもりですか師匠。あたしがいるのにぃ」

「バレないようにするから許してくれ」

「ん~、どうしよっかなぁ~」


 と、パルは悩むフリをする。

 口元に人差し指を当てて、ちょっと上目遣い。

 うむ。

 かわいい。


「あ、決めました! それじゃぁ師匠。美味しい物をごちそうしてくれたら浮気しても許してあげます」

「食べるの好きだなぁ、パル。太らないでくれよ、美少女が台無しだ」

「そこは盗賊が台無しって言ってくださいよ」

「いや、おまえの価値は美少女にある」

「えー、ひどい! やっぱり浮気はダメですぅ!」

「残念だったな、もう遅い。太った美少女を相手にするんだったら、俺は痩せた巨乳を選ぶ」

「なんだとぅ!」


 パルが追いかけてきたので、俺は慌てて逃げた。

 もちろん、イークエスの箱はできるだけ揺らさないように。

 さてさて。

 パルは意識してないようだけど、さっきの会話は箱の中にも充分届いているだろう。パルに惚れていたイークエスとしては聞きたくないセリフの応酬だったに違いない。

 これもひとつの罰だと思うが良い。

 パルたちのパーティメンバーは無事だったが、他の冒険者パーティの少年は確実に死んでいる。今日アジトで見つけた少女も無事ではあったけれど、心のダメージは計り知れない。

 加えて、殺されてしまった少女もいる。

 だからこそ、イークエスにはのうのうと生きていられたら困る。命の保証をされたようだが、人生の保証はされていない。

 こいつがどこまで生きるつもりかは知らないが。

 少なくとも生きていることが苦痛と思えるところまでは追い込まれてもらわないと。

 先に神さまの元に旅立った少年少女に申し訳が立たない。

 いつか許されると思っているのなら、大間違いだ。

 いつか終わると思っているのなら、勘違いもはなはだしい。

 イークエス。

 すでにドンローラというファミリーネームを失ったイークエス。

 おまえには――

 まだまだ失ってもらわないといけない物が、たくさんある。


「ふん」


 俺はパルからは見えないように、鼻を鳴らした。

 卑劣と罵られてもかまわない。

 だから勇者パーティから追放されるんだ、と言われても問題はない。

 俺は盗賊だ。

 卑劣な男なんだ。

 だから、容赦はしない。

 そう思いながら、盗賊ギルドへの道を――


「待てぇ、師匠ぉ!」

「はははは、捕まえられたらマジで抱いてやるよ」

「マジっすか、師匠!?」

「マジマジ。ま、今のおまえにゃ無理だけどな」

「隙ありぃ!」

「いや、どこにも隙なんて無かったけど!?」


 と、愛すべき弟子とイチャイチャしながら、戻るのだった。

 ごめん。

 めっちゃ楽しい。

 イークエスとか関係なく、めちゃくちゃ楽しい。

 あぁ。

 ずっとこのしあわせが続けばいいのに。

 と、思う俺だった。

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