~可憐! 悪を裁く条件と美味しいお肉~

 盗賊ギルドに戻ってイークエスをギルドマスターのイウスさんとシニスさんに預けた。


「「この男の処分は、決定次第連絡します」」


 そう声をそろえて、ふたりにイークエスの箱を預かってもらった。

 ふたりでひとつの箱を持ってたけど……なんだか逆に不安定になってる気がして、見てる方が怖い。

 落としたらそれだけでイークエスは死んじゃうかもしれない。

 って、思ったけど――それならそれで、ということなのかもしれない。

 あたしはイークエスに騙されたけど。

 仲間だと思ってたけど。

 あたしのことを好きだって思われてたみたいだけど。


「あんまり、なんとも思わないなぁ」

「どうしたパル?」


 つぶやいてしまった声に師匠が反応してくれた。


「イークエスのことです。仲間だったのに、あんまり思うこともなくって。あたしって酷い人間なのかなぁ~って」

「ふむ」


 師匠は考えるように腕を組んだ。


「難しい話だな。俺もさっき人を殺してしまった。同族殺しだ。本来は罪を背負うべき行いではある。でも、あまり心は傷んでないよ」

「師匠は悪くないですよ。だって、酷いことをしてた人たちじゃないですか!」


 女の人にいっぱい好き放題していたし、娼婦にしてお金をタダで稼いでいた。

 そんな人は殺されたって文句言えないし、殺した人を責めるのは神さまだって間違ってると思う。

 悪いことをすれば悪い結果になる。

 それを止めさせるために悪いことをするのは――それは悪いことに当てはまらないと思う。

 だってそうじゃないと魔物だって倒すことはできない。

 誰も悪い人を止められなくなっちゃう。

 だから。

 最初に悪いことをした人が悪い。


「そうだな。だったら、そんなヤツらの親玉だったイークエスは、同情されなくて当たり前じゃないか?」


 師匠はそう言って、あたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「仲間じゃなかったんだよ、あいつは。そんでもって、おまえのことが好きだったんじゃない。おまえの外側が好きだっただけ。顔に惚れていただけだ。中身は関係なかった。そこにあったのは好意ではなく性欲だ。本当にパルのことが好きだったら、おまえを誘拐したりするか? おまえを悲しませたりするか?」

「……そっか」


 でも、あたしの身体はちんちくりんだ。

 おっぱいも大きくないし、おしりも小さい。めっちゃ痩せてるせいで、腰のくびれはあるけれど、ぜんぜんスタイルがいいとは言えない。

 そんなあたしのことが好きだったっていうことは――


「イークエスもロリコンだったってことですか?」

「……そう言われれば、否定できんなぁ。なにせ冒険者はルーキーばっかり狙ってたし。狙い目だったとはいえ、ちょっと片寄り過ぎてるよなぁ」


 うわぁ、と師匠は顔をしかめた。

 同族嫌悪っていうのにおちいっているのかもしれない。

 ちょっと可愛い。

 んふふ。

 でも、師匠もロリコンだけど、イークエスたちとの差ってなんだろう?

 どうしてイークエスには何の感情もわかないのに。

 師匠だと、なんだか別な感じに思えるのは、どうしてなんだろうなぁ~。

 師匠があたしのことを好きだって言ってくれると、なんかこうドキドキしてくる。

 だから、あたしは師匠のことが好きだって思えた。

 師匠がロリコンでも。

 あたしは師匠が好きだけど……

 やっぱりあたしを助けてくれたから、その恩みたいに感じてるのかもしれない。師匠にだったら、あたしは何をされてもたぶん受け入れるし、嬉しく思うはず。

 でも。

 師匠はロリコンだけど、優しいから。

 ぜったい、あたしに酷いことをしないって分かってるから。

 だからかなぁ。

 それが師匠とイークエスの違いなのかもしれない。

 良く分かんないけど。


「とりあえず宿を取ってごはんにするか。普通の宿でいいか?」

「はーい。師匠といっしょに部屋がいいです」

「まぁサチとも別れたし、同じ部屋でいいか」

「やった!」


 というわけで、師匠といっしょに盗賊ギルドから一番近い宿屋に部屋を取った。

 ちなみに宿屋の名前は『ルール宿屋』。

 なにか特別な規則でもあるのかな、と思ったけど……ルールさんっていう店主の名前だった。

 ちょっと残念。

 部屋で師匠といっしょに装備点検と装備品の手入れをしてから夕飯を食べに外に出る。

 装備点検と手入れは戦闘後には必ずやっておいた方がいい、とは師匠の言葉。

 もちろん、状況に応じて、だけど。

 不具合が無い、ということを確かめておくのも重要なことだって。


「もう真っ暗ですね」


 宿で装備点検し終わって、外に出たらもうすっかり夜だった。

 空には星がいっぱいあるはずなんだけど……学園都市は明るいせいか、いつもより星の数が少なく思える。

 不思議だなぁ。

 夜って、森でもなければそこまで暗いとは思ったことがなかったけど。

 こうして明るい街にいると、今まで経験してきた『夜』がちゃんと真っ暗だったんだなぁ、って思えた。

 でもでも!

 これくらいの暗さだったら、あたしにも盗賊スキル『夜目』が使えるかもしれない。


「遅くなったなぁ。なにを食べたい?」


 きょろきょろと夜目の訓練をしていると、師匠が笑いながら聞いてきた。


「肉!」


 あたしは間髪入れず言いました。

 肉。

 肉が食べたいです!


「よし、肉屋だ。肉屋を探せ!」

「はい、師匠!」


 というわけで、あたしと師匠はキョロキョロとしながら街中を歩き、そのあたりを歩いていた学生に話を聞いて、お肉が美味しいと評判のお店で夕飯を食べた。

 あたしは美味しい美味しいハンバーグセット!

 なんか粗挽き? で、ゴロゴロのお肉で作られたハンバーグなのかステーキの塊なのか、そんな良く分かんない物だった。ソースは甘辛い感じで濃くて、とっても美味しかったです!

 お肉が美味しいと、付け合わせのにんじんとかマッシュポテトとかも美味しいよね。

 そんなハンバーグにあま~いコーンスープが付いていて、なんだっけこのパンみたいなやつ。それが、ちょっと柔らかくなってるけど、まだカリカリの部分が残ってて、そんな状態で食べるのがすっごく美味しかった!

 師匠はローストビーフって言って、なんか薄く切ったお肉とサラダ、それとパン。サラダには生ハムが乗ってて、師匠はパンの上に生ハムとサラダを乗せて食べてた。

 ローストビーフって美味しそうだけど――


「師匠、それ美味しいんですか? もっと分厚い方がいいのに」


 もっと分厚く切れば、食べ応えがあっていいのに。


「分厚いと噛み切れないんじゃないのか? ほれ、あーん」

「あーん」


 一枚、師匠がくれたのであたしはもにゅもにゅとローストビーフを噛む。


「あ、ほんとだ。なんかこう、なんていうんですか、これ。美味しいけど口の中で無くならないです」

「きっとその分厚さがベストなんだろうさ。ちょっと俺にもハンバーグちょうだい」

「いいですよ、あーん」

「あーん……ふむ、美味いなぁ」

「えへへ~」

「なんでパルが嬉しそうなんだ」

「なんでもないですよぅ」


 師匠と、なんていうか仲良しっぽくて嬉しかっただけ。

 それを言っちゃうと、なんか次からやってくれなさそうな気がしたので、あたしはナイショにしておく。

 とりあえず美味しい美味しいお肉を食べ終えて、あたしと師匠は宿屋に戻った。


「ふはぁ、やわらかいベッドだ~」

「あ~ぁ~、女の子が股を開いてベッドに寝ころぶなんてハシタない。ちゃんと風呂に入って来いよ。俺は行ってくるからなぁ」

「はーい」


 と、師匠に手を振る。

 いっしょにお風呂に入りたかったけど、残念ながら共同のお風呂しかなかった。もっと良い宿屋だったら、いっしょに入れたかな~。

 とかなんとか考えているうちに、あたしはそのまま眠ってしまった。

 だってベッドが柔らかいし、布団がちょっとヒンヤリしてて気持ちいいんだもん。

 ウトウトしてて――


「ん~……んっ、あ、寝ちゃってました……あれ?」


 ハッと気が付いた時には、時間は随分と過ぎてしまっていた。

 でも――

 ベッドの上にはあたしだけ。占領するように、手も足も広げて眠ってしまっていた。

 もしかして師匠は床の上?

 たいへんだ、とあたしは身体を起こしたけど――


「あれ……師匠がいない」


 床には誰もいなかった。

 それどころか部屋の中には誰の気配もない。

 師匠の姿はどこにもなかった。

 あれれ?

 なにかあったのかなぁ……?


「あっ」


 と、ベッド横に備えてあったテーブルに一枚のメモが残っているのに気付く。

 なんだろう、と思って読んでみると――


「えぇ!?」


 と、あたしは驚いた声をあげてしまうのだった。

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