~可憐! 通りすがりの遭遇戦~

 乗り合い馬車には停車してもらって。

 あたしと師匠とサチは道に沿って進んでいった。

 もちろん先頭は師匠で、うしろからあたしとサチが並んで移動する。

 師匠は小走りで移動していて、凄く軽やかだ。まるで羽が移動しているみたいな雰囲気を感じる。

 あたしよりも体重が重いはずなんだけどなぁ。

 やっぱり凄い。


「あたしも」


 同じようにできるだけ師匠のマネをしてみて走ってみる。

 トーントーントーン、って感じ?

 でも――


「うぅ、難しい……」


 走り方をマネすると、どうしても歩幅が大きくなって身体がブレる。ジャンプするみたいになっちゃう感じ。

 あと、めちゃくちゃ体力を使う気がする!

 ぜったいすぐ疲れちゃう走り方だ。

 だからといって、歩幅を狭くして移動すると今度は重た~くなる感じ。ドタドタドタって足音がしそうな気がする。

 ブーツのおかげで足音が消えてるだけで、普通のブーツだったらダメダメだよね、きっと。


「……その中間はできないの?」


 そんなあたしを後ろから見てたサチに言われた。

 中間か。

 飛ぶようにでもなくて、ドタドタと重い走り方でもない、え~っと普通?

 それってもう普通の走り方?

 でも違うはず!

 え~っと――


「こ、こう?」


 やってみたけど――


「……なんでスキップ?」

「うぅ」


 なんかこんがらがっちゃって、スキップになっちゃった……

 師匠に追いつくには、ぜんぜんダメっぽい。

 まだまだあの背中が遠いなぁ~。


「見えてるのに」


 なんて思いつつ、あきらめて普通に走る。

 うん。

 今はバランスの修行中なんだ。身体の芯がブレないようにするのが一番で、軽やかに走るのはまた今度にしよう。


「ふふ」


 ちらりとあたしを振り返った師匠が笑った。

 注意はされてないってことは、これで合ってるってことだ。

 よし、頑張るぞー!


「戦闘準備。パルとサチは手前を。あとは俺がやる」


 師匠はそう言って加速した。

 はっや!

 ぜったい追いつけない速度で、尚且つ、あたしよりも低く構えて師匠が走っていく。

 地を這うような走り方だ。

 あっという間に魔物の群れに飛び込んでいくと、さっそく一匹倒しちゃった。

 だから魔物たちの注意が完全に師匠に向いちゃってる。

 今なら隙だらけだ!


「魔物、確認! ボルグだと思う。レベル3」

「……了解!」


 ボルグ。

 人型の毛むくじゃらな大きな体で、鋭い牙が口からはみ出してる魔物だ。力が強く、武器を使う魔物であり、防具を付けていることもあるとか。

 ゴブリンやフッドと同じく群れで行動する魔物で好戦的。逃げることをせず、死ぬまで戦うのが特徴だって魔物辞典に書いてあった。

 つまり、追い払うことは出来ないし、全滅させるまで戦う必要がある。

 ボルグのレベルは3だ。

 ってことは、あたしとサチだけじゃ勝てない。

 だって、まだレベル1だったし。

 でもでも!

 師匠が任せたっていうんだから、任されるしかない!


「援護お願い」

「……うん!」


 ずざざ、とサチはブレーキをかけて魔法陣を展開させる。

 神さまの奇跡を代行する神官魔法――


「インペトス!」


 攻撃力アップの魔法をかけてくれた。

 身体に力がみなぎってくる。

 サチと神さま、ありがとう!


「やあああああああ!」


 あたしはそのまま腰のシャイン・ダガーを抜いてボルグに突撃した。

 最初に師匠が群れの中に突っ込んでくれたおかげでボルグの群れは混乱していた。さらに、縦横無尽に動き回る師匠を警戒するように集団が輪になってくる。

 その一番手前の武器を何も持っていないボルグの背中に向かって、あたしはシャイン・ダガーを斬りつけた。

 手応えあり!

 でも、一撃で倒せるダメージじゃない。


「ッガ!?」


 と悲鳴をあげたボルグは背中から血しぶきをあげながら腕を振り回しつつこっちに振り返った。


「おっと」


 あたしはその腕に当たらないようにバックステップ。

 ちゃんと避ける。

 それにしても――


「シャイン・ダガーって、すごい威力だ……」


 実践で使うのは、実は初めてのシャイン・ダガー。練習では何度も使ってたし、手にはすっかり馴染んでいるけど、魔物を斬ったのは初めて。

 キラキラ輝いている刀身は、苦も無くボルグの背中を切り裂いた。

 残念ながら致命傷とはいかなかったみたいだけど。

 それでもかなりのダメージは与えられたようで、ボルグは瀕死の様相に見えた。


「シェレリータス!」


 と、サチが二つ目の支援魔法を使ってくれた。

 速度アップの魔法だ。

 あたしとサチじゃ本来はボルグに敵わない。

 だからこそ温存や様子見じゃなく、大盤振る舞いだ。


「ありがと! これなら――」


 あたしはダッシュで一気にボルグに肉薄した。

 それを狙って、ボルグが振り上げた拳を叩きつけるように振り下ろしてくる。

 でも――!


「ふっ」


 見える!

 あたしは更に一歩踏み込むように――

 師匠みたいに地面を這うように走り込み、ボルグの腕を避けた!

 そして、まるで覆いかぶさるようになった魔物の懐で、左足で地面を蹴る。


「うりゃあああああっ!」


 気合い一閃!

 あたしはボルグの懐から飛び出すように、シャイン・ダガーで首を切り裂きながらジャンプした。


「ガッ――」


 という断末魔をあげてボルグが倒れる。


「よっ……とと」


 バッタリ倒れたボルグの背中に、あたしは着地した。バッサリと入った背中の傷と首の傷。もがく暇もなく、ボルグは絶命して霧散してしまった。


「やった! 師匠、倒せました!」

「やるじゃないかパル、サチ! よし、もう一匹任せた!」


 にひ。

 師匠の予想を越えられた!

 嬉しいし、追加で倒せって言われた!

 それも嬉しい!


「はい!」


 と、あたしが返事をする間に師匠は大きな盾を持つボルグと槍を持つボルグを、ただの投げナイフで倒してる。

 ん~っ!

 師匠、カッコいい!

 できれば応援しながら見ていたいけど、師匠に倒せって言われたから、もうちょっと頑張ろう。


「よし、あいつだ」


 一番近くにいたボルグに標的をしぼる。

 大きな剣を持っていて、師匠を警戒するように剣を構えていた。

 あたしなんて目に入ってないって感じ。

 まぁ、当たり前だけど。

 あたしなんて気にしてたら、一瞬で師匠に倒されちゃうし。というか、あたしを半分オトリに使ってるよね、師匠。


「サチ、目標あいつ!」

「……了解」


 あたしは一旦サチの元まで下がって、目標を伝えた。

 攻撃と速度アップの効果はまだ切れていない。

 なので、少しだけ大回りに移動して、剣ボルグの背後を取った。


「ふっ」


 と短く呼吸をして、一瞬で距離を詰める。

 今ならバックスタブを取れる!

 と、少しだけジャンプして――シャイン・ダガーを振り下ろした。


「ギャゥ!?」

「浅いっ。失敗しちゃった!」


 角度が悪く、刀身の入りが甘かった感じ。シャイン・ダガーの軌跡が白く残るので、確認に便利だけど、失敗した痕も残るのって、ちょっと恥ずかしい!


「フガー!」


 首を斬られたボルグは怒り心頭って感じで剣を振り上げる。


「うわ、こわっ!?」


 ただでさえ大きいのに剣を振り上げられたら迫力は倍以上だ。

 でも――!


「ボガートよりは大丈夫!」


 あたしはしっかりと剣先を見極めて、後ろに下がって避ける。ドガーン、と剣は地面を叩いて大きく跳ね返った。

 やっぱり凄い迫力……ちょっと怖い……


「セレリタス・ディセンディッド」


 そんな剣ボルグにサチのデバフ魔法が起動した。

 速度ダウンの魔法だ。


「グッ!?」


 と、自分の身体の重さに不満な声をあげるボルグ。


「やああああ!」


 でも、そこがチャンスだ。

 あたしは素早くボルグにステップインすると、脇腹を斬りつつ後方へ駆け抜けた。


「グガ!?」


 短く悲鳴をあげるボルグの声が聞こえた。


「ぐぎぎ!」


 で、そこで思いっきりブレーキ!

 転びそうになるのを全力でこらえて――飛びかかるように剣ボルグの背後にシャイン・ダガーを突き刺した。

 師匠の見よう見まね!


「無理やりバックスタブだぁ!」

「ギゲェ――!?」


 断末魔の悲鳴をあげるボルグ。

 背中にシャイン・ダガーが刺さったままボルグが倒れた。その上にあたしも、もつれるようにいっしょに倒れる。


「あいたっ!?」


 うぅ、なかなかカッコつかないなぁ。

 転んだままだと危ないので、あたしはゴロゴロと転がって場所を移動して、距離を取る。


「ほっ!」


 と、素早く立ち上がった頃には――


「……お疲れ様、パルヴァス」


 もう師匠が全部倒した後だった。

 周囲には倒れたボルグの群れ。そのほとんどが喉を抑えるようにして倒れていたり、首に手を添えていたりする。

 師匠の攻撃は、的確に弱点だけを狙ってるんだ……すごいな。


「ふはぁ……」


 あたしはぺたんとお尻をついて、息を吐いた。

 シャイン・ダガーと魔物の石を残して、ボルグが消失する。サチと協力して、格上のボルグを二体、倒せたんだ。

 緊張したし、怖かった。

 でも!

 師匠に言われた魔物は倒すことができた!


「えへへ。ありがと、サチ」

「……どうしたしまして」


 あたしの隣にサチが座って、あたしの身体をペタペタと触る。

 これは、いつもサチがやってくれるチェックだ。

 最初は何してるんだろう、って思ってビックリしたけど。

 魔物によっては毒を使ってくるヤツもいるので、ちょっとの傷が後から致命傷になる、なんて話もあるらしく、戦闘後の怪我チェックは大切なんだって。


「ふみゅ。脇腹はくすぐったいよぅ」

「……じゃぁ、バンザイして」

「ばんざーい」


 と手をあげたら思いっきりサチに脇腹を触られた。


「あひゃひゃ、やめ、ひゃめてよ、サチ! あははははは!」

「……ふふ。問題ないみたいね~。……ほら、ここも」

「あはは! こしょばいこしょばい、太もも止めて! あはははは!」


 そんな感じでサチとジャレてたら魔物の石を拾い終わった師匠がやってきた。


「なにしてんだ、おまえら。戦闘以上に体力使ってどうすんだよ」

「ぜぇぜぇ……だ、だってサチが……ぜぇ、ぜぇ」

「……ふぅふぅ。……つい」

「ほどほどにな」


 師匠は肩をすくめた。

 でも、その後にあたしのそばにしゃがんで、頭を撫でてくれる。


「よくやったパル。なかなか強くなってるじゃないか」

「えへへ~。でも師匠はもっともっと強いですよね。あたしもそれぐらい強くなれますか?」

「もちろん。だが、あせるな。そして強さを手に入れても油断はするな。おまえはあくまで盗賊なんだから」

「分かってます」

「うむ。サチも素晴らしい援護だったぞ。パルを助けてくれてありがとうな」

「……いえ。ありがとうございます」


 サチは少しだけ嬉しそうにうなづいた。

 誰だって、褒めてもらえたら嬉しいもんね。


「よし、馬車に戻るか」

「は~い」

「……はい」


 魔物に遭遇したけど、無事に退治することができました。

 学園都市まで、もうちょっと。

 訓練もがんばっていきましょう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る