~可憐! 女風呂全開全裸バトル!~
お姉さんを蹴った反動で犯人少女は掴まれていた腕を振りほどき、泡の中に着地する。でも、すぐ姿が見えなくなった。
小さな身体を活かして泡の中に隠れたんだ。
体躯に似合わない攻撃力っていうのかな。
お姉さんも虚を突かれた感じで驚いてる。
「くっ!」
赤毛お姉さんはすぐに着地したあたりに腕を突っ込むけど空振り。泡の中で何も掴めなかったみたいで、泡が周囲に吹き飛ぶだけだった。
騒然となる泡風呂の中のお客さんたち。まるで逃げるようにみんなが壁沿いに移動した。
出口に殺到しなかったのは、サチのせい……っていうかおかげかもしれない。
魔法を使用する魔力の光りが泡の奥から溢れてた。
魔法陣が展開されてるはずなんだけど、足元が泡のせいで見えない。乱反射する魔力光が不気味にも神々しくもあり、お客さん達は出口に来るのをためらった。
「インペトス!」
サチが使ったのは攻撃力アップの魔法。
対象はあたし。
防御よりも攻撃を優先した理由は理解できた。だって、あたし達はみんな全裸で装備品もゼロ。武器を持っていないのなら、攻撃力を上げたほうがぜったいに有利だ!
でも――
「どうする!?」
あたしは叫ぶように自問自答した。
犯人の黄色髪の少女は泡の中に隠れて見えない。移動しているのか、それとも停止しているのかも判断できなかった。
「出口を動くなよ、嬢ちゃんたち!」
「は、はい!」
赤毛お姉さんの言葉にあたしはうなづく。
ここさえ死守すれば、犯人少女はぜったいに逃げられないのは確かだ。
あたしは腰を落として、低めに構える。念のため、魔力糸を顕現させて腕に巻き付けておいた。
まだまだ細くて丈夫なのは無理なので、太くてもいいから頑丈さだけを強化した魔力糸を顕現させる。
師匠が言っていた。
「武器は多い方が良い。この場合の武器っていうのは、なにも物理的な武器じゃない。女の涙は武器っていうだろ? それとは別にして、何も無いのならば何かを持て。足元の小石でもいいし、砂でもいい。それすらも無いのなら魔力糸でも構わない。首を締めるくらいには使えるだろ?」
って師匠の言葉に習って、魔力糸を用意した。
でもでも――
何に使えるかは、今のあたしにはサッパリ分からない!
「ッ――動いた!」
シンと静まった泡風呂の中。
泡が一筋の動きを見せる。
「くっ!」
お姉さんの動きを避けるように動いたそれは、犯人少女が身を屈めたまま走っている証拠だ。
速い!
お湯が張ってある床を物ともせず、ましてやそのお湯を跳ねさせることなく犯人少女が泡の中を走っていた。
足元の不利を物ともしない速度で、あたしに向かってくる。
どうする!?
止められる!?
見えてもいない相手を止めることができる!?
「せめて――!」
相手の姿を確認できれば――!
泡を消す方法なんて、知らない。
でもでも。
泡を弾き飛ばす方法なら、知ってる!
「おおおおおおっ!」
あたしは思いっきり右ひざを上げる。胸に着くくらいに上げて、サチに付与してもらった攻撃力アップの魔法を意識した。
そして、師匠が見せたあの一歩を思い出す。
イークエスに捕まった時、師匠はイークエスへの攻撃を停止する時に思いっきり地面を踏みしめた。
その勢いは凄くって、洞窟全体を揺らすほどの衝撃だったのを覚えている。天井からパラパラと石が落ちてくるくらいに。
あの衝撃だったら、周囲の泡くらいは吹っ飛ばせるはず。
たぶん師匠だったらこの部屋全部の泡を弾き飛ばせると思うけど。
あたしに出来るのは、もっともっと小規模で――
「うりゃあぁ!」
せめて!
手の届く範囲ぐらい!
思いっきり足を踏み下ろし、足首あたりまであるお湯を弾き飛ばした。
パーン! と、あたしを中心に跳ね上がるお湯の飛沫。それは泡を吹き飛ばし、一瞬の何も無い空間を作り出す。
「ッ!?」
「いた!」
その空間に、黄色い髪が見えた。と、同時に突っ込んでくるのが分かる。
虚を突いたってヤツだ。
チャンス!
あたしは犯人を捕まえようと手を伸ばすけど――
「んぎゃ!?」
思いっきり頭を踏まれた。
痛い。
避けられるどころか、踏み台にされてしまった。そのままの勢いで犯人少女があたしでジャンプしたので、思いっきりお湯の中に叩きつけられた。
でも!
「なっ!?」
あたしだって成長してるんだ!
魔力糸を犯人少女の足首に巻き付けておいた。
ギリギリだったけど、成功したよ!
「逃がすか!」
泡の中に倒れながらも思いっきり魔力糸を引っ張って犯人が出口から出ないように、なんとか止めることができた。
「よくやった、ちっこい方!」
赤毛お姉さんの声が聞こえる。
成功したっぽい。
でも、あたしの身体はすぐに浮いた。っていうか、引っ張って投げ飛ばされる感じで泡から身体が出る。
「うぇ~!?」
チラリと見えたのは黄色少女が足を振り上げている様子。足首に巻いた魔力糸を逆に利用された感じで、あたしは身体ごと宙に投げ出された。
それは赤毛お姉さんが迫る方向で、あたしはお姉さんにキャッチされる。
「ちっ!?」
「ごめんなさい!?」
赤毛お姉さんの動きが止まってしまった。
その間に逃げ出そうとする犯人だが――
「セレリタス・ディセンディッド!」
サチの妨害魔法が発動した。犯人があたしを蹴り投げてお姉さんの動きを止めるために動きを止めた。その隙を狙ったサチのデバフ魔法!
速度ダウンの魔法だ!
これで犯人の動きが遅くなるはず。
「クソがっ!」
舌打ちと共に犯人は出口を守るサチに攻撃を定めた。
「させるもんか!」
それを赤毛お姉さんが阻止するように腕を振るう。
いや、その動きは良く知ってる。
スローイングだ。
お姉さんは魔力糸の先に重りのような物を付けて、犯人へと投げつけた。それは犯人の腕を弾き飛ばし、そのまま少女の腕に絡みついた。
魔力糸を自在に操るスキルも凄いけど――
「そんなのどこに持ってたの!?」
「おぼえときな、ちっちゃいお嬢ちゃん。女ってのは大きくなれば、暗器の隠し場所が増えるのさ」
隠し場所……?
あぁ、なるほど!
巨乳!
「ず~る~い!」
ずるいけど、すごい!
あと、どうしてこんなにも目立つ巨乳なお姉さんが、この仕事に選ばれたのかも理解できた。
お風呂の中に武器を持ち込めるからだ!
いいなぁ!
「あたしも巨乳になりた――あ、でも師匠に嫌われちゃう……」
これは悩みどころ……
「そらよ!」
赤毛お姉さんは魔力糸を引っ張り、犯人少女をサチから遠ざける。そのまま投げ飛ばす勢いで腕を振り上げるが、犯人少女の身体は浮かなかった。
それどころか――
「ふん!」
と、犯人少女は手刀で赤毛お姉さんとあたしの魔力糸を切断する。
お姉さんのはどうか知らないけど、あたしは魔力糸を丈夫に顕現したはず。あたしの体重なんかは楽に支えられるほどの頑丈さはあるんだけど……
それを簡単に切断されてしまった。
「貴様ら、無事に済むとは思うなよ」
その声は――
容姿に似合わないほどの野太い声。
まるで、男のような声が少女から聞こえてきた。
そして犯人は逃げるのではなく、また泡の中に姿を隠す。
「こいつはどうやら……」
「ただのスリじゃなさそう……」
あたしとお姉さんは、ギンギンに感じるその殺気に。
ごくり、と生唾を嚥下させるのだった。
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