~卑劣! スキルより経験値~
ゴーレム。
魔物に分類されているが、そのほとんどが魔王の手下ではなく古代の置き土産とも言えた。
言い方を変えると、神さまの手下、とも言える。
なにせ、旧神話時代や神話時代は神さまが地上にいた時代の話と言われている。そんな神さまたちが作った遺跡を守るのがゴーレム。
遥か古代から存在しており、現在も稼働している物が多い。
分類的には――言ってしまえば『罠』だろうか。
というのも、ゴーレムがいる場所は古代遺跡や洞窟が多く、ゴーレムは何らかの場所を守っていることがほとんどだ。
その全ては『守護』という目的がある。
研究者によれば、ゴーレムは神代、もしくは旧神代における神々によって作り出されたマジックアイテムの一種。
本来ならばアーティファクトと言っても良い物体ではあるのだが、いかんせん、こちらが近づくと襲い掛かってくるものであり、そこにはお宝が眠っていることが多いので、人類の敵として認知されてしまっている。
残念ながら、複製したり操ったり命令を書き換えたり停止する技術は見つかっていない。
なので、魔物に分類されてしまっている状態だ。しっかりと魔物辞典に載ってしまっている。
「ロックゴーレムか……」
岩肌と同化するように鎮座しているのはロックゴーレムだった。
ゴーレムの中でも下から数えて二番目の強さ。
つまり、ゴーレムの中では弱い類ではある。
だがしかし、例え最弱のマッドゴーレムであっても、厄介なのはその耐久性だ。泥で作られたマッドゴーレムでさえ攻撃が通りにくいタフさがある。
いま、目の前にいるロックゴーレム。
岩を素材として作られたゴーレムなので、言ってしまえば岩を斬れる武器、もしくは魔法やスキルが必要不可欠だ。
まぁ、普通に考えて岩を斬る剣など相当な代物でしかない訳で。
ロックゴーレムの強さは、子どもにだって理解できるだろう。
「シャイン・ダガーをパルに譲ったのは早計だったか」
しかし――
「……果たして本物か?」
という疑問が、俺の中でロックゴーレムの厄介さを上回る思考として先行した。
この岩壁の先にパルの反応がある。
それは間違いない。
もしパルが聖骸布を装備せずに外していたら、反応は消失しているはずだ。
でも、ハッキリと反応がある。
ついでに殺されてもいないのが分かる。
だから、この先に――ロックゴーレムを越えた先にパルがいる。
「カモフラージュか」
ニセモノを利用して、人払いの役目を担っている。
「そう考えられるが……出来が良すぎるよな」
何度かロックゴーレムは見たことあるのだが、その性質は硬さに加えて周囲の雰囲気に溶け込むことでもある。
暗い洞窟の中では転がっている岩と区別が付かないこともあったし、岩壁だと思っていたそれ自体がゴーレムだったこともあった。
その土地に合わせて造られたからこそ、見分けが難しくなる。
ロックゴーレムの利点がそれだ。
言ってしまえば、神々の技術でもある。
「それを、おいそれと模倣できるものなのかどうか……」
怪しい。
怪しいが、これ以上ないほどに精巧でもある。
しかし、都合が良すぎるのも真実だ。
盗賊スキル『みやぶる』を使っても――あれが本物のロックゴーレムかニセモノかの区別は付かない。
「いや」
そうではない。
冷静になれ。
見るべきはロックゴーレムではなく、その周囲だ。
もしもアレが本物だとするならば、人間の痕跡などあるはずがない。ましてやゴーレムを制御することなど、あの学園都市の研究者ですら成し遂げていない偉業でもある。
それがこんなところで達成されているだろうか?
この技術を秘匿しておくには、まったくもって釣り合っていない。
たかが冒険者のルーキーを拉致するだけに使用するより、たかが少女を誘拐して娼館で働かせるより、その技術を発表して巨万の富を得た方が、よっぽど好き放題できる。
世の中、金さえあれば割りと何だって出来るものだ。
それが若い女の命であろうと、尊厳であろうと。
壊したいのであれば、壊せる。
名誉でさえ、お金で買える。
なんなら貴族にだって成り上がることも可能だろう。
それが、お金っていうものの価値になってしまっていた。
「……」
俺は頭を振る。
パルの尊厳が破壊されない内に、彼女を守らないといけない。
俺の盗賊スキルはロックゴーレムを本物だと告げているが、俺の経験値があれはニセモノだと直感している。
「……信じるべきは、スキルよりも経験だろ」
一歩踏み出し――
二歩、踏み出した。
そして三歩目と同時に覚悟を決めてダッシュした。
果たしてロックゴーレムは――動かない。
岩肌に背をつける。
やはりニセモノだった。
「ふぅ……」
俺は、大きく息を吐いて安堵する。
本物だったら、今頃は戦闘の真っ最中だ。破壊する術はひとつだけ持っているが、そう簡単に倒せる訳でもなく、その間に犯人たちにバレてしまうだろう。
「実際のところ、これはなんだ?」
足音を殺し、ロックゴーレムに近づく。素人目にはただの岩だが、玄人目にはロックゴーレムに見える物。
その実態は……
「水、いや煙――か?」
触れようとしたが、触れられない。水のような抵抗感もなく、まるで煙を触ろうとしているような感覚に陥った。
だからといって手で触れた部分がボヤける訳でもなく、手は素通りしていく。
「幻が見えているようなものか」
魔法かそれともマジックアイテムか。
「もしくはアーティファクトか……」
答えを探っておきたいが、今はパルを救出するのが先だ。
てさぐりでロックゴーレムの中を触ると、岩肌に切れ目があるのが分かった。おそらく洞窟になっているに違いない。
ほんのちょっとの勇気を出して俺はロックゴーレムの中に入る。
重なってしまうと、真っ暗な闇だったがすぐに抜け出せた。
ちょっとした神秘体験にも思えるが、あまり気分の良いものではない。
どうせなら可愛い少女と重なりたいものだ。
「……」
ゴーレムを抜けた先は、やはり洞窟になっていた。
亀裂のように狭く上に高い通路には、ポツンと燭台がひとつ有り、小さなたいまつがちょろちょろと明かりを照らしていた。
そこに見えるのは三つの扉。
左側にふたつ、右側にひとつ。
洞窟をそのまま利用したような形になっており、扉は木材をつなぎ合わせただけの簡易的なものだ。
洞窟の雰囲気にしては比較的新しく見える。
盗賊スキル『忍び足』で足音を殺し、スキル『隠者』で気配と息を殺す。
透明人間のように通路を進み、最初に扉の前まで来た。
やはり扉は後から付けられた上に、適当な造りをしており、斜めになってしまっている。
扉というよりは『仕切り』のようなイメージで使われているのだろう。
「――」
俺は扉に耳を当てた。
盗賊スキル『兎の耳』。いわゆる聞き耳のスキルだ。
中からはひとりの男の気配がする。息遣いは荒く、ギシギシと椅子か何かが軋むような音が聞こえてきた。
真夜中だというのに眠ってはいないようだ。
しかし、パルの気配はこの場所ではここではなく、洞窟の奥から感じる。
早く助けてやりたいのだが……入口付近の男をスルーするより、さっさと殺してしまうか拘束しておいた方が安全か。
なにより、不意打ちされるより、こちらが不意打ちする方が良い。
頭の中でカウントダウンする。
3、2、1……
ゼロと同時に――
「ふっ」
俺は扉を蹴り開け、中に突撃した。
男の位置は把握している。
扉から入り右奥に位置している男を目掛け、俺は一足飛びで距離を詰めた。
「なっ――!?」
俺の姿を見た男は驚きの声をあげるが、それ以上速く俺は男の喉をつぶすように右手で掌底打ちを繰り出す。
「かはっ!?」
喉を潰されると同時に壁に背中を打ち付けた男が前のめりに倒れるが、俺はそのまま男の喉を締めるように抑えつけた。
衝撃で喉を潰されたのと同時に、壁と俺の手に挟まれては、もがく暇も無いだろう。
泡を吹きながら男はぎょろりと目をまわし、そのまま気を失った。
ただし、そんな男の姿を見て俺も驚く。
「……最悪のタイミングだ」
男は下半身を露出させており、そこには白い神官服をまとわせていた。べっとりと嫌な液体がそこに付いており、まぁ、その、つまり、絶賛ソロプレイの最中……というか、フィニッシュ的なタイミングだったわけだ。
そりゃぁ抵抗も出来ないよな。
仕方がない仕方がない。
「おっと、パルの服もあるのか……これはまだ無事だな。セーフセーフ」
上着とホットパンツはあったが、ブーツは見当たらない。成長する防具に気付かれた可能性もあるので、別に保管されているかもしれないな。
パル専用になっているので売れるかどうかは怪しいが。
ともあれ――
「まずはひとり」
パルの衣服を回収しつつ、俺はそうつぶやいた。
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