~可憐! ギルドに帰るまでが冒険です~
みんなの体力がある程度回復したら、ゴブリンたちが占拠していた小屋の中を探索した。
まだゴブリンが隠れてたり、逃げていたりしたら大変だ。一匹だけだったら狩人さんでも倒せると思うけど、子どもが襲われたりしたら怪我じゃ済まないもん。
だから、念入りに調べておく。
さっきはとんでもないミスをしちゃったので、あたしはホントのホントの本気でゴブリンが残っていないか探索した。
小屋の中とか、周囲の痕跡とか。小屋を中心にして、あたしはぐるりと大回りをする感じでゴブリンが残っていないか見てまわった。
「よし、大丈夫だな」
と、イークエスが結論を出した頃には、またヘトヘトに疲れてしまっていて、しばらく休憩が必要だった。
痕跡を探したり周囲を探索したりしながら歩くのって、ホント大変なんだね。
「うぅ。疲れた……えっと、ごめんね、みんな……」
「大丈夫。誰も死んでないから……と言いたいけど、二度とはゴメンだな」
イークエスはそう言って頭をポンポンと撫でてくれた。
「これが初めての依頼だったら死んでたな。でも、経験を積んだあとで良かったよ」
ガイスは肩をポンポン。
「オレは許さないから、あとでマッサージな!」
と、チューズは背中を叩いてきた。
「あいたー!?」
ばちーん、と手のひらで叩かれたので、痛かった。
あうあう。
「……次もがんばって」
最後にサチがチューズに叩かれたところを撫でてくれたので、あたしは顔をあげる。
「うぅ。ありがとう、サチ~」
「……はいはい」
抱きつこうとしたあたしの顔をサチは挟んで防御した。
あれー、仲良くなったと思ったんだけどなぁ~。
ミスしたからダメってことかも?
「……あとでね」
「後ならいいんだ」
「……みんな見てるし」
振り返ればガイスとチューズが慌てて顔をそらした。イークエスは初めからこっちを見てなかったっぽい。
「ほら、戻って報告するぞ。あと、少しだけ集落で休憩させてもらおう」
イークエスの言葉に、みんなで賛成って答えたあと、あたし達は集落に戻った。
拾い集めたゴブリンの石を見せて討伐の証ってことになるみたい。数の多さがなによりの証拠だよね。
あと、小屋がそこそこ荒らされてたりした様子を報告して、無事に依頼達成となった。
「すいませんが、少しだけ休憩させてもらってもいいですか?」
「えぇえぇ。どうぞどうぞ。なんなら一晩泊まっていってはどうです?」
「いえ、そこまでお世話になる訳にもいきませんので」
イークエスが断ったので、帰ることになった。
まぁ、そこまで疲れてるわけでもないし。近くの集落でゴブリン退治しただけなのに一泊して帰ってきた、なんて言われると、ちょっと恥ずかしいかも?
「休むのも重要だぞ」
「はーい」
宿屋兼食堂みたいなところでご飯を食べ終えたあと、自然とお昼寝タイムになった。
男の子たちが畑の近くでごろ寝して、サチは集落の中を散歩してるみたい。
あたしは――
「あ、こっちは美味しい! さっきの葉っぱは嘘でしょ、おじさん。ぜったい食べないよぅ」
「がっはっは! ありゃ土の下に出来る方を食べるイモだからな。葉っぱは苦くて喰えんだろ」
「もう! いじわる~」
「ほれ、こっちのトマトは喰い時だぞ」
「どれどれ~」
と、おじさんの畑でいろいろ食べさせてもらった。
ちなみにトマトは早かったのでめちゃくちゃ酸っぱかった……あのおじさんは本当に嘘ツキで意地悪だ。
もう二度と騙されないぞ……!
「おーい、そろそろ帰るぞパルヴァス~!」
そんな感じでおじさんとのんびりお話してると、イークエスたちがやってきた。
知らない間にそこそこ時間が経ってたみたい。
「あ、はーい! またね、おじさん。ばいばい~!」
「おう。いつでも来いよ嬢ちゃん。次も美味い葉っぱ喰わせてやるからな」
「ぜったい苦いヤツでしょ。ベーッだ」
おじさんに手を振って、それからあっかんべーして、あたしはパーティに合流した。
「……パルヴァスってすぐ仲良しになるのね」
サチに言われてあたしは、そうかな、と考えたけど……
「孤児だったから、かな。誰かとお話するのって楽しくて」
路地裏で生きてる頃は――
あたしに話しかけてくるヤツは敵だった。
甘い言葉でも、危険な言葉でも、どちらも変わらない。
あたしを利用しようとして声をかけてくる者ばかりだった。
だから、会話なんて出来なかった。
ひとり路地裏で、誰かと誰かが会話をしているのを聞いてるだけの毎日だった。
それは商人だったり、冒険者だったり、神官だったり、娼婦だったり。
いろいろな人たちが会話をしていたのを、あたしはひとりぼっちで聞いていた。
仁義を切る、っていうのを覚えられたのも、そのおかげ。
こうやって冒険者が出来るのも。
ホントは盗賊だってことも。
全部ぜーんぶ、その時のおかげだよ。
あと――
「普通にあたしのことを見てくれるっていうのも、嬉しいかも」
損得勘定なしで。
あ、損得感情だっけ?
どっちでもいいや。とにかく、得するのも損するのも関係なくあたしとお話してくれる関係っていうのが、嬉しい。
そこに下心とか、そういうのじゃなくて。
普通に、ひとりの人間として話してくれるのが、なんかちょっと嬉しかった。
そんな気がする。
「……ふ~ん。見た目に反して、パルヴァスも苦労してるのね」
「も?」
ってことはサチも苦労してきたってことかな?
そう思ったんだけど、サチは頭を横に振った。
「……わたしじゃなくて、信仰する神さま」
「あ、そっち。え、そっちなの? あ、神さまのことソッチとか言っちゃった、ごめんなさい。え、それよりも神さまも苦労ってするんだ」
「……してるみたい」
「そうなんだ。神さまも大変なんだな~」
でも良く考えたら、あたしってばサチの信仰する神さまに怒られたんだよね。
そりゃ、神さまも苦労するって聞いたらそうなのかも。
あんまり深く聞いたりしたら、ほっといて、って言ってた神さまにまた怒られそうなので、あたしはそれ以上サチに聞かなかった。
あと、あんまりおしゃべりしてたら帰り道の見張りがおろそかになっちゃう。
帰り道もあたしは先頭に立って、イークエスと並んで街道を歩いていく。
時間が中途半端なお昼過ぎだからかな。
行きと違って商人や馬車とはほとんどすれ違うことが無かった。
静かでノンキな帰り道。
しばらく何事もなくって、チューズなんかはあくびをしてる。
それでも、あたしは気を抜かないでしっかりと周囲を見張っていた。
だって。
めちゃくちゃダメなミスしちゃったし。
今日はこれ以上、失敗するわけにはいかないんだから!
ちゃんと盗賊の仕事をするぞー!
って、気合いを入れて先頭を歩いてた。
でも。
「なっ――!?」
頑張って魔物を見つけるぞ、って思ってたんだけど……
あたしより先にイークエスが絶句する声を放った。
なに?
って思って、あたしも素早く周囲を見渡す。
「――あっ」
近くの転がっている岩場から魔物が出てくるのが分かった。
それは、確実にあたし達を見ているらしく、こっちに走って向かってくる。
でも。
でもそれは――
「なんで!?」
悲鳴にも似た声が上がった。
チューズが叫んだんだ。
だって、理解できなかったから。
あんなのが、こんな街の近くにいるはずがない。
だって。
だってだって!
街道があるってことは人通りがあって魔物が発生しないんじゃないの!?
あんな。
あんな魔物がいるなんて――
「逃げろ!」
イークエスが叫んで、走り出す。
つられて、あたし達も走り出した。
魔物から逃げる。
それは別に恥ずかしいことじゃない。
勝てない相手から逃げるのは、当たり前の話なんだから。
でも。
それでも。
「どうして、どうしてこんなところにスレイプニルが!?」
幻獣スレイプニル。
青い炎をまとった八本足の馬。
真っ白で巨大な体躯で、泡を吹きながらこちらへと向かってくる。
有り得ない――
ありえないありえないありえないありえない!
レベル70以上の魔物が!
こんなところをウロウロしてるはずなんて無いのに!
「いいから逃げるんだ!」
イークエスが叫ぶようにあたしの疑問を掻き消した。
とにかく。
とにかく逃げなきゃ!
いまのあたし達じゃ、ぜったいに勝てない。
師匠だって、勝てるかどうか分からない。
そんな魔物が、背後から迫ってきていた。
「――た、たすけて、師匠」
あたしは祈るように、リボンにしてる聖骸布で師匠の位置を調べた。
光の精霊女王ラビアンさまが、あたしと師匠の位置関係を教えてくれる。
遠い。
遠かった。
果てしなく、遠い場所に――師匠の反応があった。
それは。
どこまでも絶望的な距離で。
間に合わない。
間に合うはずがない。
果てしなく遠い距離が、なんだか心まで遠く離れちゃってる気がして――
「師匠! ししょう、ししょう、ししょう!」
あたしは恥ずかしげもなく、そう叫んでしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます