~卑劣! 領主からの使い~
結局、パルといっしょにお風呂には入った。適当に身体を洗ってもらったので、パルの身体も適当に洗ってやった。
たった一日でやせ細った身体が太るわけもなく、まぁ見るも無残な状態だ。そこに悲壮な感想は思い浮かぶが、性的な感想は逆に引っ込んでしまう。
いわゆる『萎える』というやつだ。
それでも少女は少女。
数日……いや、数週間後は危ないかもしれない。
ので。
こうやって普通にお風呂に入れるのは、今のうちだけの特典かなぁ。
「そう思う」
「くかー」
お風呂の気持ち良さに加え、ベッドのふかふかを味わってしまえば、もう睡魔には勝てる訳もなく。
パルは眠りの国に旅立っていった。
さすがに二日連続ベッドを占有される訳にもいかないので、俺は領土奪還の侵攻をした。
ベッドの真ん中に寝るパルを少しだけ端っこに寄せる。
「おやすみ」
返事は無かった。
苦笑しつつ、俺も夢の国に旅立ち――
翌朝。
「ん?」
コツン、と軽く触れる程度に扉が叩かれた。なんだ、と身を起こし気配を探るが……すでに感じれるモノは無い。
気持ちよさそうに寝ているパルを確認しつつ、部屋の入り口を見ると……
「ふむ」
ドアの隙間から一枚の紙片が差し込まれていた。
罠感知……は、必要ないか。折りたたまれてもいないし、魔法や呪いが込められる特別製の紙でもない。
ごく普通の一般的な紙だ。
それを拾いあげると、メモのように走り書きがされていた。
「領主……だけか」
紙に書かれた文字は共通語で『領主』とだけ。どちらが裏か表か分からないが、それだけしか書かれていない。念のためににおいも確認するが、暗号的な意味での香水などは使われている様子もなかった。
まぁ、領主が呼んでいる、ということだろう。
わざわざ盗賊ギルドを通したのは……
「使いを出す人材がいないのか、はたまた関係性を見られたく無いからか」
どちらかというと、後者だろうか。
こんな状況で、領主の館に不審な人間が頻繁に出入りするのは、あまりよろしくない。
盗賊という立場でもそうであるし、貴族という立場でもそう考えられる。
だが、領主の館に人が少なかったのも確かだ。わざわざ俺を呼び出せる人材の余裕が無かったとも考えられる。
もしかしたら両方の意味が含まれているかもしれない。
人材の余裕はなくとも、今や予算はたっぷりある。本来は使わない用途に盗賊ギルドを使ったとしても不思議ではない。
「パル、起きろ。朝だ。ついでに仕事だ」
「ん……? ん~~~~。おはようございます、師匠。仕事ってなんですか?」
布団から出ず、パルは目を閉じたまま俺に聞いた。
二日目にして気づいたらしい。
ふかふかベッドと布団の中の温もりという素晴らしさに。
「領主の館に行くぞ」
だが、その誘惑には勝ってもらわないと困る。
「……はい」
わかりました~、ともにゅもにゅ答えたパルは、ようやく言語が頭の中に届いたように布団を跳ねのけた。
「領主さま!?」
「おう。失礼の無いように、綺麗にしておけよ」
「は、ははは、はい!」
慌てて跳び起きたパルに苦笑しつつ、俺も身支度を整えるのだだった。
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